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事務所に所属しているのに個人事業主? 芸能人・タレントはどうして確定申告するの?【弁護士が解説】

事務所に所属しているのに個人事業主? 芸能人・タレントはどうして確定申告するの?【弁護士が解説】

例年3月が近くなると、さまざまなところで目にする、芸能人・タレントが「確定申告」について言及する姿。事務所に所属しているのに確定申告しなくてはいけない? 事務所がやってくれているんじゃないの? タレントは個人事業主なの? と、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、タレントと所属事務所の関係性について、いったいどのような契約形態となっているのか、法律的な観点から解説します。

タレントと事務所の契約形態は?

タレントが事務所に所属する際には、なんらかの契約を交わすことになります。法律的には、たとえ契約書を交わしていなくても、両当事者間の認識や契約の実態を踏まえて、なんらかの契約が成立していると評価されることになります。

契約の基本類型を定める民法に則って考えると、民法では売買や賃貸借等の13種類の契約類型が定められています。そのなかで、タレントと事務所との間で成立する契約については、その性質から見るに、「委任契約(準委任)」、「請負契約(業務委託)」、「雇用契約」のいずれかに分類されることになります。

ただ、これらのうち委任契約と請負契約(業務委託)に関して、タレントと事務所の間の契約について、そのいずれであるかを厳密に分類する意義は乏しいので、以下では、準委任契約と業務委託を同じものとして扱います。タレントと事務所の間の契約を大別すれば、「委任契約(準委任契約、業務委託契約)」か「雇用契約」のいずれかになると言えるでしょう。

専属マネジメント契約とは?

タレントと事務所との間で、一般的にもっとも多いとされるのが「専属マネジメント契約」というものです。専属マネジメント契約とは、その名称のとおり、タレントが事務所に専属し、マネジメントを事務所に行ってもらうものになります。

マネジメント業務には、タレントの売り出しなどの営業活動、テレビや映画などへの出演機会の獲得、タレントのスケジュール管理などが含まれ、これらすべてを所属事務所が担います。

マネジメント契約を結んだ場合、基本的にはタレントは事務所から指示されたとおりにテレビ・映画等への出演のみを行うことになります。みなさんの芸能人・タレントの働き方に対するイメージとしても、専属マネジメント契約の内容がもっとも近いものかもしれません。

専属マネジメント契約の場合、出演依頼を受けた場合の報酬等を契約で決めた一定割合にしたがって事務所とタレントで分配することになります。

タレントとしては、クライアントから得た報酬額に応じて、自身の手取りも増えるメリットがありますが、他方で、依頼がない場合には報酬を得られないデメリットもあります。この専属マネジメント契約は、上記の民法の分類で言えば、「委任契約(準委任契約、業務委託契約)」に分類されます。

エージェント契約とは?

また、専属マネジメント契約に類似するものとして、「エージェント契約」が挙げられます。エージェント契約とは、タレントが自ら営業活動を行い、仕事を得たときに、その業務の一部を事務所に委託できるというものです。

専属マネジメント契約との対比で言えば、タレントは事務所に「専属」するものではなく、自由に活動できるというメリットや、報酬の分配割合について専属マネジメント契約よりもタレントの取得割合を高くできるというメリットが挙げられます。

他方で、タレントが自ら営業活動をしなければならず、仕事獲得の機会が減るなどのデメリットもあります。このエージェント契約も、専属マネジメント契約と同様に民法上は「委任契約(準委任契約、業務委託契約)」に分類されます。

雇用契約とは?

そして、専属マネジメント契約、エージェント契約のほかに、事務所がタレントを雇用する形の雇用契約が交わされているケースもあります。雇用契約を結んだ場合、タレントは労働者となり、事務所(雇用主)の指揮監督のもとで、芸能活動を行うことになります。

タレントとしては、毎月一定額の給与が得られるというメリットがありますが、依頼が増えても給与が増えないなどのデメリットもあります。また、雇用契約の場合、タレントは労働者であり、労働基準法が適用されますので、時間外労働に対する割増賃金が請求できたり、有給休暇を取得できたりするといった点が、専属マネジメント契約等とは大きく異なります。

加えて、専属マネジメント契約等の場合には、基本的には契約期間を自由に設定できますし、両当事者いつでも契約を解約できますが、雇用契約の場合で、労働基準法の規制を受けますので、3年を超える期間を定める有期雇用を結ぶことはできません。また、3年以内の有期雇用契約の場合、契約期間1年が経過しなければタレントから契約解除できないなどの違いもあります。

事務所とタレントとの間の契約形態を上記のいずれにするかは、基本的には当事者間の話し合いで決められます。ただ、契約の名目を「専属マネジメント契約」とすれば、必ず専属マネジメント契約として判断されるというものではありません。

契約内容、実態を見て、雇用契約と同様であると判断されれば、専属マネジメント契約であっても、労働基準法に則って時間外手当・残業代を支払う必要があると判断されるケースもあります。

※参照:有期労働についての契約期間 | 阪神労働保険事務センター

事務所に所属しているタレントは会社員? 個人事業主?

所属タレントが会社員なのか、個人事業主なのかは、基本的には契約形態により判断することになります。契約形態が、専属マネジメント契約、エージェント契約であれば個人事業主雇用契約であれば労働者(会社員)となります。

タレントなら確定申告しなくてはいけない? 契約形態で判断!

タレントが自ら確定申告をしなければならないかは、基本的に、契約形態により判断すべきとなります。雇用契約であれば、所得税についてはタレントへの給与から事務所が源泉徴収を行います。

事務所がタレントを給与所得者として年末調整等も行い、所得税を納付しているでしょうから、タレントが確定申告を行う必要はありません。なお、雇用契約の場合には、住民税についても事務所が特別徴収により給与から徴収し、納付していることが多いです。

ただし、雇用契約であっても、事務所が上記の源泉徴収・年末調整、納付を行ってくれていなかった場合には、自ら確定申告を行わなければならないケースもあります。まずは、事務所に給与所得者として処理してくれているかどうかを確認するようにしましょう。

他方で、専属マネジメント契約や、エージェント契約では、タレントが基本的には自ら確定申告を行う必要があります。なお、所得税に関して、依頼主や事務所が源泉徴収を行っているから、確定申告を行う必要がないと考える方もいるかもしれません。

しかし、専属マネジメント契約やエージェント契約の契約形態での源泉徴収は、業務受託者への報酬としてなされるものであり、端的に言えば各仕事についてそれぞれ行っているものにすぎません。したがって、源泉徴収されていない仕事の報酬については納税していないことになりますので、確定申告をしなければ、脱税と評価されてしまうリスクがあります。

タレントとしては、確定申告のなかで、年度ごとの収入(報酬)から必要経費を控除し、さらにその他の控除(青色専従者控除や配偶者控除)なども行って、課税対象額を算出し、その額に応じた税金を納付する必要があります。

なお、確定申告の結果として算定される納税額よりも、その年度の源泉徴収額が大きかった場合には、その差額を還付してもらえます。

他方で、専属マネジメント契約やエージェント契約の契約形態であっても、事務所がタレントを給与所得者として報酬(給与)の支払いを行い、源泉徴収も行い、処理し、事務所以外からの収入がなければ、当該タレントは改めて確定申告を行う必要はないと言えるでしょう。

タレントは労働基準法が適用されるのか

タレントに労働基準法が適用されるのか、労働基準法上の「労働者」に当たるのかについては、これまで何度も議論されてきており、裁判の争点となることも多々ありました。

この点に関して、労働省が発した通達(昭和63年7月30日付、基収355号、一般に「芸能タレント通達(光GENJI通達)」と言われます)において、労働者と判断すべきかどうかの目安が示されています。同通達では、以下の4要件をすべて満たす場合には労働基準法上の「労働者」に当たらないとされています。

  1. 当人の提供する歌唱,演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること
  2. 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと
  3. リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあつても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと
  4. 契約形態が雇用契約でないこと

上記の4要件のうち④は形式的なものであり、実務上は重要視されていませんが、その後の裁判例においても、上記①~④の要件をベースとして労働者かどうかを判断するものが多いです。

例えば、東京地裁平成6年9月8日判決(判例時報1536号61頁)の事例では、芸能プロダクション会社が所属タレントに対し、無断欠勤等に対する損害賠償を求めた事案で、同事案では1カ月20万円の出演料の支払いを受けていたことなどから、当該タレントは労働者に該当し、10年間という期間の定めのある芸能出演契約は労働基準法の有期雇用の期間制限(当時は1年、現行法では3年)に違反し、無効であると判断されました。

※参照:労働基準判例検索-全情報

また、東京地裁平成28年7月7日判決(労働判例1148号69頁)の事例では、芸能マネジメント会社が、その専属タレントに対し、出演が予定されていたライブイベントに一方的な通告を持って出演せず、出演が予定されていた以後のイベントを欠演したことによる損害賠償を求めました。

しかし、当該タレントは、会社の指揮監督の下、時間的場所的拘束を受けつつ、業務内容について諾否の自由のないまま定められた労務を提供しており、また、その労務に対する対償として給与の支払いを受けていたことから、労働基準法上の労働者に当たり、当該タレントは有期雇用契約の退職の意思を表示しており、同日以後の出演義務を負わないとして、会社の請求を棄却しました。

これらの事例が示すように、労働基準法の適用があるか否かは、単に専属マネジメント契約か雇用契約かという契約の表題(契約形態)によって決まるわけではなく、その契約の内容によって、個別具体的に決まることになります。

契約を交わす際に留意すべきポイント

これから事務所に所属してタレント活動を行う予定がある方は、ここまでの内容を妻えて、以下の要素を考慮すべきです。

  • 専属か否か(他の事務所を介して、もしくは自らが直接に他の仕事を受けてもよいか)
  • 報酬(給与)が出来高制か、固定額制か
  • 事務所の指揮監督(時間的、場所的な拘束)をどの程度に受けるのか
  • 契約期間
  • 契約解約の方法、違約金の有無

専属マネジメント契約であれば、当該事務所以外の他の仕事が受けられなくなりますが、他方で、営業活動などのマネジメントの一切を事務所に任せることができるなどのメリットがあります。

エージェント契約は、他の事務所からの仕事も受けられますが、他方で営業活動を自身で行わなければならないなどのデメリットも少なくありません。

このほか、専属マネジメント契約やエージェント契約では、契約期間中の中途解約の場合には違約金が発生するなどの不利な条項が定められることもあります。雇用契約であれば、中途解約による違約金の定めは無効と判断されるケースが多いため注意が必要です。

専属マネジメント契約やエージェント契約では仕事がない限りは自由にできますが、雇用契約では、仕事がなくても会社の指揮監督下にあり出社する義務を負うことになります。また、専属マネジメント契約やエージェント契約では基本的には自ら確定申告を行う必要があり、雇用契約では基本的には事務所が処理してくれることになります。

このように、専属マネジメント契約やエージェント契約、雇用契約には、それぞれにメリットデメリットがあります。ご自身の働き方に照らして、その契約形態がもっとも合っているのかをよく検討するようにしましょう。

スポーツ選手は個人事業主? YouTuberやライバーは?

スポーツ選手が労働者に当たるかどうかも問題になることが多いですが、基本的には労働者には当たらないと考えられています。

例えば、プロ野球選手を例にすると、たしかに試合時間には球場にいなければならないという時間的、場所的な制約は受けます。しかし、練習するかしないかは個々の選手の判断次第。報酬も稼働時間に応じて定められるものではありませんので、基本的には労働者性は低いと考えられています。

また、競輪選手の場合には、労働者の通達により、賞金が労働の対価として支払われるものではないことなどを理由に、労働者には当たらないとされています(昭和25年4月24日・基収4080号)。

YouTuberの場合、個人で行っている場合には個人事業主ですが、運営会社に所属している場合には、タレントと同様に労働者かどうかが問題になります。ライブ配信アプリを使って配信を行うライバーも同様です。

これらについても、報酬が固定であるかどうかや、時間や場所などの業務に関して事務所の指揮監督下に置かれるかどうかなどの要素を基に、個別に判断されることになるでしょう。

ただ、実態としては、運営会社(事務所)に専属して、撮影・配信を行い、その出来高に応じて運営会社と利益を分配するという内容の契約が多いでしょうから、専属マネジメント契約に類似するものと考えられます。

まとめ

タレントが自ら確定申告を行う必要があるかどうかは、基本的には事務所との契約形態によって変わります。専属マネジメント契約やエージェント契約では、自ら確定申告を行う必要があるケースが多いでしょう。

他方で、雇用契約を結んでいる場合には、会社が給与所所得者への源泉徴収として納付手続きを行っているでしょうから、タレントが個人で確定申告を行う必要はありません。そして、労働基準法の適用がある労働者かどうかは、雇用契約という名目のみによって決まるわけではありませんので、自身の契約内容をよく検討しましょう。

これからタレント活動を行う方は、自身にとってどの契約形態が最適であるか、メリット、デメリットを考慮したうえでご検討ください。

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