フリーランスは「やりがい搾取」の対象!? 深井剛志弁護士×姫乃たま『地下アイドルの法律相談』対談(後編)

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書籍『地下アイドルの法律相談』(日本加除出版)の共著者である、深井剛志弁護士とライターの姫乃たまを迎えた対談を前・後編に分けて公開。

執筆の経緯や背景を聞いた前編に続き、後編では、地下アイドルの労働問題を浮き彫りにしながら、フリーランスとも共通する「やりがい搾取」について迫る。

profile
深井剛志
「困っている人、弱い立場にいる人の力になりたい」という想いから、弁護士を志す。“何よりも依頼者のことを考えた事件処理をすること”をモットーに、労働問題に強い旬報法律事務所で活躍。これまでにも地下アイドルの契約を巡る事件を数多く担当。また、地下アイドル関連の事件についての記事の執筆やラジオ出演等のメディア露出により、地下アイドル当事者から直接相談が舞い込むようになり、地下アイドル業界の問題に最も詳しい弁護士の一人。
https://twitter.com/TSUYOSHIFUKAI
profile
姫乃たま
1993年、東京都生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て、2019年にメジャー・デビュー。2015年、現役地下アイドルとして地下アイドルの生態をまとめた『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)を出版。以降、ライブ・イベントへの出演を中心に文筆業を営んでいる。音楽活動では作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『パノラマ街道まっしぐら』『僕とジョルジュ』、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集』(KADOKAWA)などがある。
https://twitter.com/Himeeeno
http://himenotama.com/

知りようがなかった「知識」

姫乃さん自身は事務所に所属したことは?

姫乃 ないです。ずっとフリーランスだったので自分で選べるだけいいんですけど、パワハラは……まぁ、そこそこありましたね。最初のころは「そんなんじゃどこでもやっていけないぞ」的なことはたまに言われました。

姫乃さんは『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)や『職業としての地下アイドル』(朝日選書)なんて著書もあるぐらいで、フィールドワークのように地下アイドルをやっていたわけですよね。

姫乃 アイドル業そのものというより、特殊な世界を翻訳して外の世界に伝えることが好きだったんですよね。
でも、これは(吉田)豪さんに言われたんですけど「小金井の事件()が起きてから視点が変わったよね」と。確かにそのあたりから、他の子たちに向ける目線が「観察する世界にいる面白い人たち」から「同じ世界で戦う仲間」みたいな感じになった気がします。
小金井の被害者は地下アイドルではなかったけど、同じようにライブハウスで歌っていたじゃないですか。そういう子が傷ついたことで、思っていたよりずっと自分が地下アイドルに愛情があったんだなって気づいたんですよ。
ちょうど自分が地下アイドルを卒業する時期とも重なって、みんなに何か手渡して去っていきたいなと思っていたタイミングにこの本のお話をいただいたので、慈愛に満ちたコラムが生まれました(笑)。先生の文章を読んで「現役のときに知りたかった」って思ったんですよ。こういうこと、誰も教えてくれなかったし。

※2016年、俳優やシンガー・ソングライターとして活動していた女性(当時20歳)にファンの男性がストーカー行為を繰り返し、東京都小金井市のライブハウスで殺人未遂事件を起こした。容疑者は14年6カ月の実刑で服役中。

深井 あぁ……そうですよね。

姫乃 教えてくれなかったっていうより、まわりも知らないし、大人もちゃんとしていないから、知りようがなかったんですよね。

本書の第1章に姫乃さんが書いていますが、アイドルという仕事の性質上、親にも相談しにくい場合が多そうですよね。

姫乃 そもそもアイドル活動自体を反対されているパターンもありますね。先生どうですか?

深井 さすがにトラブルが起こった後だと、親に相談した上で僕のところに来る人が多いですね。ただ、けっこう悪い状況になってしまってからというケースも多いんですよ。いちばん身近な相談相手は親だと思うんですが、最初の段階で相談しないで決めてしまったことで状況を悪くしてしまった人はいると思います。

そういう場合はどうアドバイスされるんですか?

深井 現に悪い状況になってしまっている人にああすべきだった、こうすべきだったとは言えないので、今後どうするかということが中心になりますけど、弁護士が入って法律に基づいてきちっとやれば、まったく改善できないほどの状況になっていることはさすがにほとんどないので、そこは僕に任せてもらえればなと思います。

頼もしいですね!

姫乃 まじでありがたい。

深井 無茶をしてくる運営もいますが、「それはおかしい」とちゃんと法律に基づいて言えば解決はします。ただ、そこまで追い込まれないためにも、親にはちゃんと言っておいたほうがいいでしょうね。

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姫乃たま

やりたい仕事=ギャラが安くてもいい?

数ある労働問題の中でも地下アイドル特有の問題というと?

深井 世間から労働者と思われていない、労働者として扱われていないというところですね。そうするとどうしても長時間労働、低賃金が横行してしまう。そこがいちばん大きな問題だと思っています。
前にSNS上で「地下アイドルにも最低賃金ぐらいの給料は保障されるべきだ」と言った人がいたんですが、それに対して「地下アイドルは労働者じゃないのに、その主張はおかしい」という声が非常に多かったんです。「売れていないんだから、低賃金も長時間労働も当たり前」みたいな。長時間労働や低賃金、セクハラ、パワハラはダメという社会的コンセンサスはだんだん高まってきていると思うんですが、それがアイドルには適用されないんです。
ついこの間、労働問題に関するツイートがバズったんですが、それをもとに記事を書いたら(「コロナで解雇」だと言われたら、絶対に退職届を書いてはダメな理由)、「その通りだ」「よく言ってくれた」という好意的な意見がすごく多かったんですね。でも「地下アイドルにも休日を」「最低賃金レベルの保障を」と言った場合にもそういう声が上がるかというと……ちょっとわからないですね。
「アイドルって個人事業主でしょ? 労働者みたいに時間で給料をもらってるわけじゃないんだから」という声が多そうな気がします。

「やりたい仕事なんでしょ?」「売れていないんだからギャラが安くてもしょうがないよ」はフリーランスも言われがちです。

深井 自己責任論ですよね。僕は大嫌いですけど。

姫乃 「仕事はつらいもの」っていう思い込みがみんなどこかにあって、好きなことを仕事にしてる人はつらくないってイメージなんでしょうね。アイドルなんかまさにそうだし、そういう考えの人たちだけじゃなくて当事者もアイドル活動を趣味とか副業だと思っていて、「お給料を上げてほしい」っていう考えすらないっていうパターンが多いから。

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姫乃たま 深井剛志弁護士

「勉強になるから」「今後の成長のために」は地雷ワード

2年前の調査ですが、日本エンターテイナーライツ協会のサイトに載っている地下アイドルへのアンケートを見たんです。「事務所から不当だと思う扱いを受けたことがあるか」の問いに82%が「ある」と答えているのもなかなかですが、「月々の報酬」は92%が10万円未満、24%は無報酬というのが衝撃的でした。

深井 数万円が普通ですよ。

姫乃 わたしも『職業としての地下アイドル』にアンケート結果の平均収入「12.7万円」って書いたら「そんなにもらってるの?!!」って話題になりました。フリーランスのソロアイドルの方にも回答していただいたのですが、運営がいるグループの子に偏ってたらもっと低かったのかもしれません。

深井 この本の漫画で夢乃チカちゃんの初任給を1万5千円としましたが、デビューしたての地下アイドルはそんなもんです。「売れれば稼げる」という話の裏返しで「売れてないからギャラ安いんでしょ」と言われてしまって、「状況を改善しなきゃいけない」という声に結びつきにくいんです。

姫乃 やりがい搾取ですよ!

姫乃さんのコラムに「お客さんが喜んでくれたから」と満足してしまうアイドルの話がありますが、僕らにも似たようなことはあって、読んでくれた人に「面白い記事でした」と言われたら……。

姫乃 「書いてよかった~!」ってなりますよね。

そしてギャラのことをうっかり忘れてしまうという。

姫乃 これは全然インタビューとは関係ない話ですけど、安い仕事にかぎって面白いっていう問題もあって(笑)。

深井 受けるほうがそう思うのは仕方ないと思うんですけど、「安いけど面白い仕事だから受けてよ」みたいに言われると、ちょっとね。「勉強になるから」とか。

姫乃 「勉強になるから」は地雷ワードですよね。

深井 「今後の成長のために」とか(笑)。よくあります。

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深井剛志弁護士

自分らしく、気が合う人と仕事をしよう

地下アイドルとフリーランスに共通するもうひとつの問題は、相手が企業ということもあって、なかなか対等になりにくいんですよね。

深井 本来、契約当事者同士は対等のはずなんですが、それ以上の力関係がどうしてもありますよね。普通の労働者と雇用主の関係でもやっぱり力関係に差はあって、いかに労働基準法などで守られているとはいっても、それを知らない労働者もたくさんいて、知らない間に不利な書類にサインしてしまったり、不利な条件を無理やり飲まされたりということがあります。
まだまだ働くほうが立場が弱いんですよ。

どんな計算でそのギャラになっているかを知らされていないケースも多いんですよね。

深井 事務所に所属している子の場合には「このライブの出演料はいくらで、経費がいくらかかって、分配率はこれこれだから、あなたの取り分はいくらです」と説明を受けた例は、僕は見たことがありません。

姫乃 受けていたら深井先生のとこに来ないですよね(笑)。

深井 だからまずそこから明らかにさせるのが僕の仕事なんです。そうするとピンハネが露見するので。今、とあるアイドルの2年分の整理をやっているところなんですが、けっこうひどいですよ(笑)。

姫乃 わー、ドキドキする!

深井 フリーのアイドルはどうなんですかね。

姫乃 イベントは歩合の場合もありますけど、歩合でも固定でも必ず内訳とか金額は聞きますね。確定申告もあるので。

不当な搾取に遭わないための心がけを教えてください。

深井 細かい話では、本に書いた通り「契約書をちゃんと読む」ですね。大きな視点でいうと、どんな状況になっても必ず守ってくれる法律はあるし、守ってくれる機関もあるし、それこそ弁護士もいるので、「契約書にサインしちゃったから従うしかない」っていうようなことばっかりではありません。
判例とか行政解釈とか、なにかしら守ってくれるものは絶対にあるので、トラブルが起こっても自分で勝手に解釈してあきらめないで、誰かに相談してほしいですね。

ちなみにアイドルの相談を格安で受けたりは?

深井 明言はしていませんけど、基本的に1回目は無料にしようかなと思っています。

姫乃 あら~……優しい……。

深井 あとDMでの相談はだいたい無料ですね。「お支払いします」って言ってくれる人もいますけど「いやいや、いいですよ」と。

姫乃 DM受け付けてくれるのはありがたいですよ。DMとかLINEは気軽でメールはなぜか敷居が高いみたいな子もいると思うので。弁護士に相談するって本当にやばくなってるみたいなイメージがあるから、「こんなことで行っていいのかな」って思っちゃうかもしれないけど、気軽に相談に行ってほしいです。

深井 会ってみたらこんなですしね(笑)。門戸は開放しているつもりです。

姫乃 アイドルに限らずフリーランス全般ですけど、自分らしく、気が合う人と仕事をするのがいいんじゃないかと思います。結局、不当なことって無理をするから起きると思うんですよ。自分らしく仕事すれば、その人はその人しかいないわけだから、独特な需要が生まれる気がする。だから無理をしないで気の合う人と仕事してほしいです。

取材・文/高岡洋詞 撮影/須合知也

『地下アイドルの法律相談』特設サイト
日本加除出版株式会社 公式サイト

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