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フリーランス・個人事業主が労働安全衛生法の適用対象に!労災はどう変わる?【社労士が解説】

フリーランス・個人事業主が労働安全衛生法の適用対象に!労災はどう変わる?【社労士が解説】

労働安全衛生法はこれまで、基本的に「労働契約(雇用契約)のある労働者」を対象にしてきましたが、2023年(令和5年)7月31日の厚生労働省の有識者会議(※)において、フリーランス・個人事業主についても一部が適用される方針が示されました。そこで今回は、労働安全衛生法とはどのような法律なのか、フリーランス・個人事業主が同法の適用対象となることでどんな変化があるのか解説していきます。

厚生労働省労働基準局 個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会(第13回)

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労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康の確保」「快適な職場環境の形成の促進」を目的とする法律です。そのために「労働災害防止のための危害防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進措置」等により、労働災害の防止に関する総合的計画的な対策を推進することとされています。

もともと、労働基準法の中には安全性に関する規定がおかれていました。しかし、1960年代以降の高度経済成長に伴う生産技術の高度化、生産設備等の大型化複雑化、危険・有害物の増加等の労働環境の変化によって労働災害の危険が増加し、災害にあう労働者が増加してきました。

こういった経緯から職場の安全性確立を考え、1972年に労働安全衛生法(安衛法)という独立した法律が設けられたのです。この法律のほか、細かな事項は多数の政令省令で定められ、生産技術や環境変化に応じて、頻繁に改正が行われています。

1960年代には労働災害による死亡者数は年間6,000人を超えていましたが、2021年には1,000人前後まで減少。安全性の確立に大きな成果を上げており、休業4日以上の死傷者数も著しく減少しています。

労働災害による死傷者数、死亡者数(1965年~2021年)

労働災害による死傷者数、死亡者数(1965年~2021年)
引用:労働政策研究・研修機構「労働災害による死傷者数、死亡者数」

フリーランスと労働安全衛生法を取り巻く現状は

労働安全衛生法は、基本的には雇用関係にある労働者の保護を対象としていますが、直接の雇用関係にない場合の規制も一部設けられています。

さらに、2021年5月のアスベスト被害の最高裁判決を受け、労働安全衛生法の一部規定の適用範囲を一人親方等フリーランス・個人事業主に拡大する動きが進んできました。今回の有識者会議の方針はこの道筋を一層明確にしたものです。

また、フリーランス等への安全衛生教育は万全に行われておらず、労災事故も多発しています。有識者会議の方針は、フリーランス等の労働安全衛生にも大きく寄与するでしょう。

労働安全衛生法の一部規定には、雇用関係以外の規制も含まれる

労働安全衛生法は基本的に、直接雇用関係がある労働者の保護を対象にしていますが、労働の現場では、複雑に入り組んだ生産・流通過程があり、さまざまな労働災害が起こりえます。

そのため、直接の雇用関係にかかる規制以外にも、いくつか規制が設けられており、たとえば、請負関係の元請業者・注文者・機械等の貸与者なども対象者とされています。

2021年5月のアスベスト訴訟最高裁判決が示したもの

2021年5月の建設アスベスト訴訟の最高裁判決では、労働安全衛生法のアスベスト規制の規定(同法第22条:原材料・粉じんその他による健康障害防止策)が、雇用関係にある労働者のみならず、同じ場所で働く人であれば一人親方等をも保護することを明らかにしました。

アスベスト(石綿)は熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で安価といった特性から、工場やビル住宅などの建材、自動車部品などさまざまな用途に使われてきました。

しかし、体内に入ると15年から30年以上の長い年月をかけて中皮腫(深刻な癌の一種)等、さまざまな病気を引き起こすことが判明。現在では「静かな時限爆弾」とまで呼ばれ、製造も使用も一切禁じられています。

最高裁判決では、労働者と同じ場所で就労する者は、労働者以外の者であっても同じ安全衛生水準が適応されるべきとして、アスベスト被害について一人親方等の個人事業者も国家賠償の対象になることを示しました。

2023年4月から危険有害作業実施の際の事業主の義務が明確化

この最高裁判決を受け、法第22条の規定に係る各種の省令では、労働者と同じ場所で就労する者に対しては、労働者と同等の保護措置を講じることが事業者に義務付けられ、2023年4月から施行されています。

すなわち、危険有害な作業を行う事業者は、作業を請負わせる請負人(一人親方、下請事業者)に対しても、局所排気装置等の設備を稼働、特定作業方法が必要な作業について作業方法を周知する、労働者に保護具着用の義務がある作業については、請負人にも保護具使用の必要がある旨を周知すること、などが定められています。

※参考:厚生労働省 リーフレット事業者・一人親方の皆さまへ 〈23年4月施行〉

今回の有識者会議では、最高裁の考え方をさらに推進

上記の省令改正の検討の中で、法第22条以外の規定についても、同様の検討を行うべきであると提案されました。また、労働安全衛生法の対象でない個人事業者、中小企業事業主等にも業務上の災害が多く発生しています。そこで、これらの人の保護を図る必要があると指摘があり、今回の有識者会議の提言にいたりました。

厚生労働省の有識者会議では、次のような方向性が示されています。

  • 同じ作業場所で働く人について雇用関係にある労働者と同様の保護を求める。さらに、個人事業者が労働者とは異なる場所で就労する場合であっても、労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきであり、その実現のための対策を講じる

フリーランスへの労災防止等の教育は行き届いておらず・労災も多数発生

厚生労働省の調査によると、フリーランスの中で、有害物質についての教育を受けたことがない人が8~9 割、労災防止教育を受けたことがない人が8~9割を占めており、基本的な安全衛生の知識すら十分に周知されていないことが伺えます。さらに、調査対象者のうち、いままで労災体験があった人は2割弱もいることがわかっています。

※参照:フリーランスの業界団体における安全衛生対策と意識の実態把握のための調査研究(令和4年度)

フリーランス・個人事業主が適用対象に加わることでどう変わる?

今回の有識者会議の「報告書素案」では、労働安全衛生法のフリーランス等への適用について広範囲にわたり提言が行われました。労働安全衛生・労働災害防止は、業務を注文した事業主のみでなく、業務を受託したフリーランス等も注意すべきです。フリーランス等に義務付けられている内容があることにも注意しておきましょう。

報告書素案の主な内容

今回の有識者会議による「報告書素案」では、以下のような提言が行われており、個人事業主等に義務が課されているところもあります。新聞報道等では、その一部だけが示されているものも多いため、できれば、「これまでの議論の整理(報告書素案)」の項目だけでも一度ご覧になることをおすすめします。

特に「1.個人事業者等の業務上の災害の把握等」について、「引き続き検討すべき論点について(第12回検討会を踏まえた修正版)」では、図解を含めた詳しい説明が行われています。ここからは、「報告書素案」で押さえておくべきポイントについて紹介します。

1.個人事業者等の業務上の災害の把握等(労働基準監督署への報告等)

文章報告対象
死傷病4日以上の労働災害(現在の労災の報告対象と同じ)
報告者
被災者本人、注文者、災害発生場所管理事業者等
Point
  • 業務上の脳・心臓疾患及び精神障害は、個人事業者自身が労働基準監督署に報告できる。業種・職種別団体の支援も可能とする
  • 個人事業者等が一般消費者から住宅建築を元請として請負った場合など注文者等がいない場合は、個人事業者等が加入している業種・職種別団体から労働基準監督署への情報提供が行えるようにする
  • 国は、労働者死傷病報告と同様、個人事業者等による災害データを分析・公表する

2.個人事業者等の危険有害作業に係る災害を防止するための対策

(1)個人事業者等自身による措置やその実行性を確保するための仕組み
Point
  • 個人事業主等に以下を義務付け、あるいは推奨
    • 個人事業主等が持ち込む特定の機械の定期自主検査の義務付け
    • 特定の危険有害業務について安全衛生講習・教育義務付け
    • 特殊健康診断等受診推奨
  • 注文者に対して上記の教育・健診への配慮を求める。作業統括者(建設工事の元方事業者・製造工場の事業者)にも教育・健診の実施状況把握を促す
  • 国は上記の受講や受診のための経費が適切に確保されるよう、注文者に対し周知広報等により、理解を促す
(2)注文者(発注者)による措置
Point
  • 無理な工期・納期設定や予定外の条件付与等、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮すること
  • 業者等との混在作業が行われる現場での労災防止の対象に個人事業主が含まれることを明確にする(たとえば建設業、製造業、造船業等だが、これに限るものではない)
(3)発注者以外の災害原因となるリスクを生み出す者等による措置
Point
  • 災害等のリスクは雇用された労働者に限らず、フリーランス等の個人事業者にも同様に及ぶ。機械や建物等の貸与者、プラットフォーマー等仕組みを提供する者に対しても、所定の措置を講ずる
(4)個人事業者等に作業の一部を請け負わせる事業者による対策
Point
  • 個人事業者等に対する「退避」や「立入禁止等」などの措置
  • 個人事業者等に対する「保護具」や「作業方法」の周知

3.個人事業者等の過重労働、メンタルヘルス、健康確保等の対策

(1)個人事業者等自身による健康管理
Point
  • 国が、個人事業者等に以下を促す
    • 定期健康診断の受診、体調管理、長時間就労防止、疲労蓄積度を計るアプリ等の使用で、疲労蓄積時に医師による面接指導、定期的なストレスチェック
  • 腰痛等の筋骨格系疾患等の防止(長時間の座り作業、運転作業、パソコン作業等)
  • 個人事業者等のヘルスリテラシーの向上
(2)個人事業者等に対して健康リスクを生み出す者等による措置
Point
  • 個人注文者、仕事を管理する者(プラットフォーマー含む。以下「注文者等」)に以下の配慮を求める
    • 就業時間が長時間にならないような期日設定
    • 長時間就労になった場合に個人事業主から求めがあったときに、意思の面接指導を受けられるように配慮
    • ※参考:以下に掲げるような特定のケースで働く個人事業者等を想定
      • 注文者等が1日に配送すべき荷物量を指定するなど、注文者等が、日々の業務量を具体的に管理・指定しているようなケース
      • 映画の撮影現場のように、個人事業者側で業務量や業務時間を自由にコントロールできないようなケース
      • 個人事業者等が、注文者等の事業場に常駐して、注文者等の労働者や他の個人事業者等と共同で一つのプロジェクトに従事するなど、個人事業者側で業務時間を自由にコントロールできないケース
  • メンタル不調予防策、パワーハラスメント防止対策
  • 健康診断の受診促進。一定の場合には請負契約に一般健診費用を安全衛生経費として盛り込むことが望ましいことをガイドライン等により示す
  • 就業場所が特定される場合に作業環境による健康障害等の防止

4 .個人事業者や小規模事業者に対する支援

Point
  • 業種・職種別団体等の活用等、各種情報の共有を行うこと
  • 適切な相談窓口を設置すること

フリーランスや個人事業主が対応すべきこと

上記のように、フリーランス等への労働安全衛生法の適用については、さまざまな検討を重ねたうえで、非常に広範な内容を含んでおり、特定の業種に限った問題ではありません。また、フリーランス自身にも自ら労働安全衛生の当事者としての行動が求められています

健康診断の受診等、自らの健康を守る行動が一番わかりやすい例です。安全衛生講習の受講等も重要な部分となるでしょう。

一方では、フリーランス等を保護するために、注文者や機械や建物などの貸与者、プラットフォーマー等仕組みを提供する者にも、広範な義務や配慮を求めています。フリーランスや個人事業主の方々は、自らを守るためにも関心を持っておく必要があるでしょう。

大規模な改正になりますので、まずは、ご自身が実際に携わる業種・業務に関係がありそうなところがどこか、確認してみてください。業種業界の団体に所属されている方であれば、団体からもさまざまな情報が提供されると思いますので、注意して見ておくことをおすすめします。

まとめ

働く人を守るための規制は、長い歴史の中で積み重ねられてきました。今回の有識者会議の提言では、置き去りにされがちであったフリーランス・個人事業主に、はっきりと光を当て「雇用関係の有無にかかわらず、同じ働く人として同様に取り扱われるべき」という考えが明確にされています。改正の動向を注視しておきましょう。

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