フリーランスや個人事業主は、原則として“事業主”と扱われ、業務ごとに取引先との間で委託契約や請負契約を結ぶという働き方です。会社員や派遣社員のように、労働基準法などによる“労働者”としての保護はありません。そのため、雇用主が労働者に対して負う「安全配慮義務」も、フリーランスなどの委託先に対しては負わないと考えるのが相当かと思われますが、判例などからもわかる通り、発注側である取引先に対し、受注側のフリーランスへの安全配慮義務を負うべきとするケースがあります。
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安全配慮義務とは?「契約関係にある当事者が負うべき義務」
安全配慮義務とは、端的には文字通りに「安全に配慮すべき義務」というものですが、この安全配慮義務は、もともと法律で定められていたものではありません。判例の積み重ねによって築きあげられた法理であり、主に契約関係にある当事者が負うべき義務のひとつとされています。
安全配慮義務が適用される典型例としては、労災事案が挙げられます。例えば、工場内の機械に整備不良があり、それが原因で工場に勤務する労働者が怪我をした場合で考えてみましょう。
この場合、雇用契約における使用者が、適切に機械を整備し「労働者が怪我をしないよう配慮すべき義務」を怠り、その結果、労働者が労災事故に遭ったとして、使用者は労働者に損害賠償すべきである、というような形で安全配慮義務の法理が適用されます。
安全配慮義務については、特に労働者と使用者との間で問題になることが多く、判例も多数あります。こうした判例の積み重ねにより、平成20年(2008年)の労働契約法施行において、同法第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」として安全配慮義務が明文化されました。
また、労働安全衛生法第3条1項でも「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」として、事業者(使用者)は、安全配慮義務を負うことについて定められています。
ただ、安全配慮義務の具体的な内容については社会の発展に伴い現在もなお変化・進化し続けているといえます。近年では、労働者の健康に配慮すべき義務や職場環境を整備する義務に加えて、メンタルヘルスなどの労働者の精神面へのケアや、パワハラ・セクハラといったハラスメント対策を講じるべき義務なども、安全配慮義務の内容に含まれるものとして考えられるようになってきました。
フリーランスは安全配慮義務が適用される?されない?
安全配慮義務の法理は、雇用契約のみに適用されるものではありません。判例上の表現としては、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として……相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められる」とされています。(※)
※参照:最高裁昭和50年2月25日判決・民集29-2-143
これを端的にいうと、なんらかの契約関係があれば、契約当事者は、相手方の信頼を裏切らないように配慮すべきであり、その配慮すべき義務のひとつとして安全配慮義務があるということです。
したがって、安全配慮義務は、雇用契約に限定されるものではなく、フリーランスが委託契約や請負契約などで業務を請け負った場合にも適用されます。発注者側が安全配慮義務を怠り、それにより受注者(フリーランス)が損害を被った場合には、契約上の責任追及として損害賠償の支払いを求めることも可能です。
③労働者に該当するか否か
※引用:確かめよう 労働条件 Q&A
働いている人であっても、個人事業主、会社の役員、請負契約や委任契約で働いている人など労基法上の労働者に該当しない人には、労基法の適用はありません。しかしながら、労働者に該当するか否かは実態判断とされており、契約の形式が請負や委任などとなっていても、実態的に労働関係が認められれば、労基法の適用がある労働者に該当します。労基法9では「この法律で「労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されており、労働者であるか否かは、基本的には、事業に「使用される者」であるか否か、その対償として「賃金」が支払われているか否かによって判断されます。しかし、現実的にはこの判断が難しい場合があり、その場合には、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断することが必要です。この基本的な判断基準は労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(S60・12・19)により整理されています。
労基法は、働く人みんなに適用されるのですか。
フリーランスへの安全配慮義務違反が認められた判例
ここでは、フリーランスへの安全配慮義務違反が認められた裁判例をみていきましょう。
判例:アムールほか事件
フリーライターの女性がエステ会社から、ウェブサイトの運営やエステ体験記事の執筆等を委託されましたが、同女性は、エステ会社経営者から、体験施術の際に胸を触られたり、「性交渉をさせてくれたら食事に連れて行く」といわれたりするなどのセクハラ被害を受けました。
この事案で裁判所は、エステ会社は、フリーライターの女性に対して、その生命、身体等の安全を確保しつつ労務を提供することができるよう必要な配慮をすべき信義則上の義務を負っていたのに、これを怠ったとして、エステ経営者とエステ会社に対して、慰謝料150万円の支払いが命じられました。
本件のフリーライターの女性とエステ会社との間の契約形態は、雇用契約ではなく業務委託契約ですが、その当事者間の関係性について、フリーライターの女性は、エステ経営者の要求を下手に拒否すれば、エステ会社から報酬を支払ってもらえなくなる関係、つまりエステ会社が優越的な地位にあり、エステ経営者はその優越的な地位を濫用してセクハラを行ったものであり違法性があるとされました。
また、その契約内容を実質的に見れば、フリーライターの女性をエステ会社の指揮監督下で従事させるもので、雇用契約と類似の関係性があることから、エステ会社にはその女性が適切に業務を遂行できるように配慮すべき義務がある、端的にいえばエステ経営者がセクハラをしないように対策を講じるなど配慮すべき義務があるのにこれを怠ったとして、エステ会社の契約当事者としての債務不履行を認めたものです。(※)
※参照:東京地裁令和4年5月25日判決・労働判例1269号15頁
このように、安全配慮義務は雇用契約に限られたものではなく、受託者と発注者との関係性、業務の内容などを実質的に見て、発注者側に安全配慮義務を負うべきかどうかが判断されることになります。
フリーランスがパワハラ・セクハラに遭った場合はどうするべき?
フリーランスにおいては、発注・ 受注というパワーバランスから、どうしてもフリーランスが弱い立場となる場合が多いでしょう。発注者側は優越的な地位にあることにつけこんで、無理な要求をしてきたり、パワハラ・セクハラであると判断されるような悪質な言動をとってきたりすることが起こらないとも限りません。
フリーランスであっても、その業務内容によっては勤務時間と勤務場所の拘束を受けたりするなど、法的には雇用契約と同様の場合があります。そういった状況でパワハラ・セクハラに遭った場合には、労働基準監督署(※)に相談してみましょう。なお、厚生労働省が平成26年(2014年)に開設した、労働条件に関する情報発信を行うポータルサイト「確かめよう 労働条件」では、法令・制度の解説ほか、労働条件について手軽に学べるコンテンツやQ&A、「労働条件相談ほっとライン」といった相談機関の紹介なども掲載されています。
※参照:厚生労働省「全国労働基準監督署の所在案内」
また、発注者側が優越的な地位につけこんで理不尽な要求をしてくる場合には、独占禁止法や下請法に違反している可能性がありますので、公正取引委員会(※)の相談窓口に相談するというのもひとつの方法です。
※参照:公正取引委員会「相談・届出・申告の窓口」
パワハラ・セクハラは悪質なものであれば、強要罪や強制わいせつ罪などの刑事罰の対象になるものもあり、被害に遭った場合には警察に相談することもできます。
どこに相談してよいかわからない場合には、法律の専門家である弁護士に相談してみてください。弁護士に相談すれば、損害賠償などの民事上の対応のみならず、悪質な場合には警察に被害届を出すなどの刑事上の対応についてもアドバイスしてもらえます。パワハラ・セクハラにあった場合には一人で抱え込まずに弁護士などに相談するようにしましょう。全国各地の弁護士会では法律相談センターを設置しています。
まとめ
安全配慮義務は、雇用契約でのみ問題になるものではありません。業務委託や委任などのフリーランスの方々が業務を行ううえでも、発注者側には安全配慮義務を負うケースがあります。また、安全配慮義務の内容は社会の発展に応じて変化していきます。いままでは許容されていたものでも、今後は安全配慮義務違反と判断されるケースも出てくることでしょう。フリーランスの方でお悩みがある場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。
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