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インボイスは様子見でOK!? 大河内薫税理士&あんじゅ先生『フリーランス税本』インタビュー

インボイスは様子見でOK!? 大河内薫税理士&あんじゅ先生『フリーランス税本』インタビュー

2018年に発売され、累計27万8千部という異例の大ヒットを飛ばしている『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(通称『フリーランス税本』)。タイトルの通り、確定申告をはじめとする税金について、グレーゾーンの“ギリギリ”までぶっちゃけている本作の著者が、税理士の大河内薫さんと、マンガ家の“あんじゅ先生”こと若林杏樹さんです。

芸能人になりたかった税理士と脱サラした天才美少女漫画家による最強タッグは、なぜ、ここまでフリーランスの心をつかんだのか? その秘密と、フリーランサー共通の懸案であるインボイス制度の核心について、お二人に伺いました。

profile
大河内薫(オオコウチカオル)
税理士/株式会社ArtBiz代表取締役。愛知県名古屋市出身。日本大学芸術学部演劇学科卒業。コンサルティング会社や税理士法人での勤務を経て、2016年6月に株式会社ArtBizを設立。2017年2月に税理士として独立開業しArtBiz税理士事務所を設立した。YouTubeなどSNSでの発信のほか全国各地の学校で授業も実施するなど、「お金の教育を日本に根付かせる」ことを目標に活動する。
https://twitter.com/k_art_u
https://www.youtube.com/channel/UCs7rJz4WvRVd0-PbXKiBi2Q
profile
あんじゅ先生/若林杏樹(アンジュセンセイ/ワカバヤシアンジュ)
新卒で私立大学職員として入職。超ホワイトな職場で5年間働くも、長年の夢を叶えるために脱サラし、フリーのマンガ家に。全くの無名、ツテなしから、SNSを営業ツールとして駆使し、“昭和が生んだ天才美少女漫画家”として幅広く活躍中。初の著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』がベストセラーに。
https://twitter.com/wakanjyu321
https://anju-manju.com/

税理士とマンガ家、レアな経歴のふたりが出会った

若林杏樹(あんじゅ先生)

現在のお仕事につくまでのお二人の経歴を拝見すると、なかなかレアなルートを歩まれてきていますよね。例えば大河内さんは、日本大学芸術学部卒ということで、税理士としてはかなり珍しいのではないかと。

大河内 もともと僕、芸能人になりたかったんですよ。で、地元の名古屋から東京に出るために、とりあえず大学に行ったんですけど、まぁ、芸術学部に行ったからって芸能人になんて当然なれないじゃないですか。それで名古屋に帰るのか、東京に留まるのか考えたときに、せっかく東京にいるんだったら人より稼げる仕事をしたいと思って、最難関国家資格を取ろうと決めたんです。で、弁護士、司法書士、会計士、税理士のうち、どれにしようか?と考えたとき、働きながら取れそうなのが税理士しかなかったんですよ。正直、どんな仕事かあんまりよくわかってなかったですけど、人より3倍ぐらい勉強すれば取れるんじゃないかと。

結果、何年で税理士の資格は取れたんですか?

大河内 4年かな。平均9年と言われているところ、人の3倍やったおかげで、ずいぶん早く取れました(笑)。でも、今、当時に戻って「その4つのうちから、どれをやる?」って聞かれても、僕は税理士を選ぶでしょうね。というのも、税理士の持ってる知識って、誰もが必要とするものなんですよ。だからこそ、社会に一番貢献できると思って。社会の中で生きている以上、自分だけが良くても意味ないですし、次の世代のためにも頑張ろうかなと。こんな社会にしたのは僕らですからね。

素晴らしい心がけですね! 一方であんじゅ先生は、なんと大学職員から脱サラをして、当初はライターをされていたとか。

あんじゅ 最初はイラストとかの仕事をしたくて、ウェブの編集プロダクションに営業したんです。そしたら「今イラストの仕事は無いのでライターから始めれば?」と言われて、それにイラストを載っけたりしていたら、その記事がちょっと話題になって顔出しでメディアに出たりしてたんですよね。

そして、現在は“昭和が生んだ天才美少女漫画家”として幅広く活躍されていると。グラビアまで出されていると聞いて驚きました。

あんじゅ いや、もう、やっていたことが、こんなにもいろんな人に見てもらえることになるとは思ってなかったんですよ! なので、今さら「天才美少女漫画家なんですね」と言われても「はい」としか言えない(笑)。

若林杏樹(あんじゅ先生)

いやいや、素材が良くなければグラビアのお話も来ないですから。そんな異色なお二人が『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』で共著されることになった経緯から伺いたいのですが、そもそもどういった経緯で知り合われたんでしょう?

あんじゅ たしかDMでしたね。大河内さんからの。

大河内 当時、あんじゅ先生がTwitterでいろんなセミナーの実況をされていたんですよ。わざわざセミナーに来て話を聞きながら、その様子をリアルタイムでマンガにしてアップしていくっていう。

あんじゅ iPadを使って、その場でどんどんマンガを描いていくんですよ。要は、授業中に落書きしてる奴みたいな感じですね。落書きを全世界に発信してる。

自腹を切ってセミナーに参加してまで、なぜ、そんな活動をされていたんでしょう? マンガ家さんって比較的インドアな方が多いので、ちょっと意外です。

あんじゅ 私、マンガ家として憧れていたのが、倉田真由美さんとか西原理恵子さんとか、いろんなところに取材に行かれてレポマンガとかを描かれる方だったんですね。なので、その練習がてら北海道に行ってご飯食べに行ったときのレポマンガを描いたりしてたんです。それと同じ感じで、例えばインフルエンサーのゆうこすさんのセミナーとかに行って、その場で感じたことをマンガにして。登壇してた方々みんな「ツイートしてくれたら見ますよ」っておっしゃってたんで、じゃあ、やってみよう!と投稿してたんです。要は、みんながタグを付けて文字をツイートするところ、私はマンガでやったってことですね。それを自分では“実況マンガ”って呼んでるんですけど。

大河内 それを見て“面白い人がいる!”と思って、DMさせていただいたんです。で、お互いのアカウントをフォローしたら、今度は僕のセミナーにも来てくれて! 参加費5,000円くらいする、きっと興味もないだろうセミナーなのに、わざわざ自腹で来て、実況マンガを上げてくれたんです。

あんじゅ でも、仮想通貨の税金セミナーだったんで、一応聞いてみたい内容ではあったんですよ。ただ、実況なんかしてると、たぶん2、3割しか聞けてなくて(笑)。だから、一番面白いところをつまんで、マンガにしていくんです。聞かなきゃいけない内容は、みんながツイートしてる文字を追って把握してました。

大河内 いや、あれはすごいと思う。描くのが早くないとできないし、拡散力があるから登壇するほうからすると、すごくありがたいんですよね。それが2018年の初頭とかで、そこからセミナー資料の挿絵4コマとかを依頼するようになったんです。なので、サンクチュアリ出版さんから「税金の本を出しませんか?」とお話を頂いたときも、だったら絵を描くのはあんじゅ先生しかいないだろう!と。

ゼロから理解していくまでの過程をマンガにする

なるほど。税金の本という堅苦しくなりがちなジャンルなら、マンガを交えたほうがわかりやすいだろうという発想になりますよね。

あんじゅ いや、それが最初は挿絵の依頼だったんです。なのに1週間後に打ち合わせに行ったら、挿絵の予定が全編マンガに企画が変わってたんですよ! その1週間の間にいったい何があったのかは、私にもわからない(笑)。

大河内 良かれと思って編集さんが「マンガにしましょう」って言い出したんですよね。その前にもマンガでヒットを飛ばしてる方だったから、じゃあ、そうしましょうとなった瞬間、〆切がメチャクチャタイトになったんです。3カ月で挿絵を描くのと3カ月でマンガを描くのでは全然違いますから。

あんじゅ 締切がタイトなのに、私がギリギリまでサボってしまったので7割くらいはラストの10日間くらいで仕上げました。これを魔の10日間と呼んでます……。

いざ制作が始まって、どんな手順でマンガにしていったんでしょう?

あんじゅ 最初に大河内さんの授業みたいなものを編集さんと受けて、この本にどんな情報が必要か?を絞っていく会議みたいなものをしました。そこから編集さんが章立てして、章ごとに必要な情報を整理して。それを文章化したものを大河内さんがチェックして、OKになったものが大体のページ数と一緒に私に回ってくるんです。そこからネームを切ってマンガにしていく形ですね。

若林杏樹(あんじゅ先生)

ただ、その授業も全然理解できなくて、ほぼ寝てました(笑)。よく「難しいものを面白く描くのが得意だよね」って言われるんですけど、最初は本当にマジでわかってないんですよ。この本のプロローグにある通り、税務署から“重要”ってでっかく書かれた封書が届いて、開けてみたら市民税の請求書で、何がなんだかわからなかった。でも、そのゼロの状態から理解していくまでの過程を、包み隠さず描いているところが読者に刺さったんだと思うんです。

私、基本的に文章を読みながら漫画描くんですよ。全部読んで理解してから描き始めるんじゃなく、上から順に読んでいって“わかんない!”ってなったら、大河内さんに電話して、「いや、これは覚えなきゃダメなんだよ」とか「会計ソフトがやってくれるから大丈夫だよ」とか言われたことを、そのままマンガに入れ込む。そのへんが皆さんに「面白い」って言ってもらえるポイントなんじゃないかと。

なるほど。しかし、そうやって外部から得た情報を咀嚼し、表現していくにはストーリー漫画を描くのとは違う能力が必要ですから、そこはあんじゅ先生の行動力とコミュ力の高さが功を奏しているんだと思います。情報の受信力と創作の発信力のバランスがとても良い。

あんじゅ ありがとうございます。でも、それまでこんなにたくさんマンガを描いたこともなかったので、本当に奇跡的に出来上がった1冊なんですよ。当時は大河内さんもYouTubeチャンネルを開設していなかったですし、ツイッターのフォロワー数が二人合わせても1万5千ぐらいだったんで、出す前は「本当に読んでもらえるのかな?」みたいな会話もしてたくらい。

大河内 だって、結局は雑談なんですよ。僕らの雑談が本になっているだけなんですけど、たぶんマンガ家が主役になったというのが勝ちのポイントだと思います。専門知識をマンガで教える本って、大半は先生が主役なんですよね。先生が教えるスタイルで、その中で理解を助けるためにマンガを活用している。でも、この本の場合、税理士はマンガ家に聞かれたことに答えてるだけなんですよ。時には「よくわかんねえよ!」とかって否定されたり、「最悪だ!」とか言われたりして追い込まれているだけ。だから、どこまでいっても読者が主役になれるんですよ。その肝心のマンガが面白いっていうのは、もちろん大前提ですけど。

すべてはあんじゅ先生自身の“困りごと”が起点ですもんね。退職したら市民税の請求書が届いた! どうすればいいのかわからない!という。

大河内 そのへんはあんじゅ先生が入れてくださったもので、ギャグテイストで面白く描いてくださっているのは、さすがですよね。

あんじゅ 税金の本って、自分が知りたいところだけ読んで終わっちゃうことも多いみたいですけど、ストーリーっぽい感じで描いているのも良かったんでしょうね。読者さんから「全部読み切れました」という声も結構いただきました。

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