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モットーは「許す、忘れる、求めない」実演販売士レジェンド松下インタビュー

モットーは「許す、忘れる、求めない」実演販売士レジェンド松下インタビュー

1日の最高売上額は、なんと2億円! テレビショッピングで20年以上にわたり活躍し、今やバラエティー番組にも登場するレジェンド松下さんは、実演販売という業界を改革し続けてきた影の立役者でもあります。

商品を買うお客に対してもクライアントに対しても“相手の望みに応える”という、シンプルだからこそ難しいコンセプトを実践し続け、“許す、忘れる、求めない”というモットーに行き着いた松下さん。すべての失敗を自分の糧とし、学び続けるその姿勢から、フリーランサーとしての在るべき姿を探ります。

profile
レジェンド松下(レジェンドマツシタ)
神奈川県横浜市栄区出身。法政大学卒業後、実演販売を始める。実演販売をするだけでなく、商品開発やプロデュースも行い1,000商品以上のヒット商品を生み出す。店頭実演販売、テレビ通販、バラエティ番組出演と様々な分野で活躍する『実力No.1実演販売士』。
https://www.unkeys.co.jp/
https://twitter.com/unkeysjapan
https://www.instagram.com/unkeys2022/

商品のジャンルを横に広げながら、ノウハウを縦に積んでいく

実演販売士レジェンド松下

2022年に独立されて、ちょうど2年。現在は『株式会社あんきいず』の経営者でいらっしゃいますが、英字表記だと『UNKEYS』なので、社名は“鍵を外す”という意味の造語ですよね。

そもそもの由来は、実は、あだ名なんです。僕、小さい頃から「あんきい」って呼ばれているんですよ。

ええ!? ご本名と何の関係もなさそうなのに!

そう。だから本当に意味はないんです。3歳とか4歳くらいのときに、近所に住んでた先輩がつけた名前で、だから相手も6歳とか7歳ですね。でも、未だに親や兄弟から、今は妻からも「あんきい」って呼ばれているんですよ。なので、そこに“UN”と“KEYS”を当てて、“鍵を外す”という意味を持たせたんですね。僕、商品のネーミングでも、意味のない言葉に意味を持たせて、よく造語を作るんです。そうすると検索でも被らないじゃないですか。今回も同じですね。

そんな秘話があったとは(笑)。実演販売士としての活動は独立前も以降も変わらずやってらっしゃいますが、では、独立して一番変わったことって何でしょう?

会社にいると、当然ながら自社の商品を売ること、つまり、自分の会社の売り上げを最優先しなければいけないじゃないですか。それが、いろんな会社さんの利益のために動けるようになったことですね。他の会社さんの商品の売り上げのために、自分を使ってもらえるというのは、一番変わった部分かなと。会社員だと自社の利益が見込めない仕事はやれないけど、今は、面白そうだから利益は少なくてもやるとかっていう選択ができるので。

自分の意思で動けるというのは、組織に属さない働き方の最大のメリットですよね。つまり、株式会社あんきいずでは、自社の商品というものは作っていない……?

作ってないです。厳密に言うと、以前在籍していた実演販売の会社も販売元であって、実際の製造は別のメーカーや工場が請け負っていることが多かったですね。要は、他社が作った商品を仕入れて、いろんな会社に卸していた形。でも、今は僕自身が営業はしても、商品の仕入れはしていないんです。代わりに、いろんなメーカーさんと組んで商品を作ったり、各テレビ局のテレビショッピングで商品の実演をしたり、ハンズさんとかLOFTさん、ドン・キホーテさんとかの小売店に僕の出演する動画を置いてもらったりしている形ですね。中には「この商品を実演してください」と依頼されて出演するパターンもありますし、開発から携わるパターンと今は両方やっています。

実演販売士レジェンド松下

では、もしかして自分が良いと思っていない商品を売らなければいけないケースもあるんでしょうか? 

良くない商品だなと判断したら断る権利があるんで、もちろん無理にやらなくてもいいんですよ。ただ、売れなくて試行錯誤した経験が、次の商品に活かされたりもするんで、絶対に売れる商品だけをやっていてもダメなんですよね。いろんなジャンルの商品を経験する中で「この切り口で売れなかったから、次は、こうしたら売れるんじゃないか?」といろいろ考えて取り組んでいくことが大事。売れる/売れないって、商品の良い/悪いではなく、いかにお悩みを解決できるか?というところなので、商品のジャンルを横に広げながらノウハウを縦に積んでいくというのが、実演販売士の仕事なんです。

確かに、大多数の人には刺さらないけれど、ものすごくニッチで特定の人には受ける商品もあるでしょうし。

そうですね。例えば、 車輪がついていて真っ直ぐ線を書ける『直記ペン』という商品を、以前に出したことがあるんですよ。そこまで大きな需要がないのはなんとなくわかるじゃないですか(笑)。でも、これは面白いかもしれないと出してみたら、いろんな番組に取り上げてもらったり、文房具好きな人に刺さったりしたんですよね。結果、数字的には大きく売れなかったとしても、世間はこういう食いつき方をするんだっていう蓄積が得られたんです。ちなみに正式名称は『三代目 直記ペン』っていうんですけど、これも一緒に商品を作ったメーカーさんの社長が三代目で名前が「ナオキ」、あだ名が「チョッキ」だからなんですよ。だから、完全に身内ノリの売り上げ度外視で作っていたはずなのに、かなりいろんな媒体に取り上げてもらえて、思ったより売れました(笑)。

実利だけでなく、そうやって面白がる心って、すごく大事ですよね。しかし、今となっては商品開発から携わって、自分の納得のいくものだけを扱うことができていますが、実演販売士を始められたときは当然、商品を選ぶ余地もなかったはずでは?

もちろん、そうです。最初に師匠のやり方を学んでから、2年くらいはずっとお店に立って、皮むき器とか大根おろし器とかを売ってました。実演販売士って、実はそんなに多くの商品は扱わないんですよ。1つの商品を10年、20年やったりする業界で、ただ、僕は2年間やってみて、これをずっと店頭でやり続けるのはしんどいなぁと感じたんですね。もっといろんな商品を扱いたい、いろんなメディアに出てみたいと考えて、実演販売の会社の社員になったんです。

最初はフリーランスの販売士というスタンスで仕事を始めて、固定給ではなく歩合制だったから、実は社員になったことで収入は下がったんですよ。でも、もともとテレビショッピングに出たくて入った業界だったので、まずは実演販売士という仕事を世間に認知してもらいたい。使ってもらいやすいようにしたいということで、社員になって販売士のマネージャーとかも始めたんです。

実演販売士=ブルーオーシャン

実演販売士レジェンド松下

テレビショッピングに出たくて……という話が出ましたけど、大学卒業の段階では、テレビ局関係が志望だったとか。当時は空前の就職氷河期だったので、かなり苦労されたでしょうね。

もともとテレビを作る人になりたくて、テレビ局や制作会社とかを受けまくったんですけど全部落ちました! 勉強も何もしてないくせに変な自信だけはある、すっからかんの男だったんで、きっと面接で見抜かれてたんでしょうね。それで崖っぷちになって、でも、テレビというものに関わりたくて、じゃあ出るほうになろうと考えたときに、まだ発展途上だったテレビショッピングが、いわゆるブルーオーシャンに見えたんですよ! 

当時のテレビショッピングといえば、ようやくジャパネットたかたさんが出始めた頃で、夜中に『テレコンワールド』とかの海外の番組が流れていたり、若干得体の知れないイメージがあったんですね。今、僕の妻になっている当時の彼女は大学の同級生だったんですけど、みんなが就職活動するなか、僕が実演販売やるって聞いて泣きましたもん(笑)。実演販売士の“売る力”だったり能力は高かったのに、仕事自体が認知されていなかったし、販売士を効果的に使う手段や方法が、その頃はまだなかったんです。

だから社員になって、実演販売士のイメージを改善し、ポジションを上げるための活動を始められたと。

そのために追求したのが、まずはプライドを捨てて、相手の利益を考えることだったんです。もともと実演販売って、1人の販売士が扱ってる商品も少ないから、自分の世界だけで完結させられるんですよ。俺はこの商品、このやり方で売れてるんだから、これでいい。これが俺の完璧な世界、芸術なんだ!ってなっちゃって、広がらない傾向があった。そこから、どんな商品でもやりますから使ってください!という姿勢に変えて、それまでケースバイケースだった販売士のギャランティも完全に一律にしたら、すごくお仕事が増えていったんです。

実演販売士レジェンド松下

従来は“店頭で売れる人が偉い”という価値観で、その人にしか売れないという状態がスゴい!と言われていたけれど、その人にしか売れない商品ってやっぱりダメなんですよ。入ってきたばかりの新人でも長くやってる販売士でも、同じように売れる商品をやるべきだと僕は思ったので、売り方もなるべく全員ができるような方法に変えました。販売士固有のテクニックだけで売るやり方だと、やっぱり限界があるので。

話術やパフォーマンスで魅了するのではなく、本当に良いものをニーズに沿った形で提供することで、実演販売という仕事自体の信用度も上がりますもんね。

それはそうだと思います。やっぱり主役は商品なんですよね。僕も、自分が人気者になりたい!と思いながらテレビに出始めたころって、そんなに商品が売れなかったんですよ。逆に“注目されたい”という意識を自分ではなく商品に向けたら、商品も売れるようになったし、自分にもスポットライトが当たるようになったんです。それは『月曜から夜ふかし』でマツコ(・デラックス)さんや村上(信五)さんと絡むようになってからも実感して、“俺のしゃべり、すごいだろ!”って我を出しているとダメだったんですね。僕が主役にならなくていい、商品やタレントさんが目立てばいいんだというスタンスになったら、逆に僕がフィーチャーされるようになったんですよ。

実演販売界を、まさに“改革”されたんですね。では、今はそういった経験を活かして、自社で後輩販売士の育成なんかも……。

それが、やっていないんですよ(苦笑)。募集のページは作っているし、応募も来るんですけど、教えることが自分に向いていないので取ってないんです。とりあえず今、自分がしゃべれるうちは1人でやってみて。ゆくゆくは……という感じですね。

そもそも販売士に一番重要なのって、手取り足取り教えることではなく、経験の場を与えてあげることなんです。そこで良い経験が積めると、どんどん勝手に成長していくんですよね。ビギナーズラックで1発目からホームランを打てることもあるけれど、そこから次の段階に行くには、経験の幅と蓄積が必要なので、とにかく“売り続ける”ことが必要なんです。

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