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フリーランス(下請事業者)はクライアント(親事業者)に下請代金を60日以内に支払ってもらうことができる【弁護士が下請法を解説】

フリーランス(下請事業者)はクライアント(親事業者)に下請代金を60日以内に支払ってもらうことができる【弁護士が下請法を解説】

※この記事は2021年2月時点での最新情報に更新されています。

フリーランスなら何度か耳にしたことがあるであろう「下請法」。下請法は、親事業者よりも取引上の立場の弱い下請事業者の利益を保護するために作られた法律です。つまり、フリーランスという働き方を選んだ人にとって、下請法の知識を持つことは自分の身を守ることにもつながります。

今回は、下請法の中でも〝クライアントからの代金の支払期日〟について、弁護士の細越さんに聞きました。

記事の概要
  • 親事業者は下請事業者に対して、成果物を受領した日から60日以内(2か月以内)に下請代金を支払わなければならない。
  • 支払いが遅延した(下請法違反)とみなされると、クライアント側には遅延損害金の支払い義務が生じたり、公正取引委員会から勧告がなされたりする。
  • 下請法が適用されるのは、原則として取引する親事業者の資本金が1千万円を超える場合。資本金1千万円以下の会社からの発注や、フリーランス同士の受発注取引に関しては、原則として下請法が適用されない。
  • 誰かに相談したい場合は公益財団法全国中小企業振興機関協会が全国に設置した「下請かけこみ寺」という機関が無料で相談に応じてくれることも。

ということになります。それでは、各項目の内容を詳しく見ていきましょう!

親事業者は下請事業者に、成果物の受領日から60日以内に下請代金を支払う義務がある

細越さん 下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)では、代金の支払期日について「親事業者(仕事を発注した側)は、下請事業者(仕事を受注した側)に対して、成果物を受領した日から60日以内に支払わなければならない」と定められています。この「60日以内」は、実務上「2か月以内」と読み替えて運用されています。

CST法律事務所 弁護士 細越善斉
CST法律事務所 弁護士 細越善斉さん

具体的に例をあげていただけると嬉しいです!

細越さん 例えばあるフリーランスのライターがメールでクライアントに原稿を納品する場合。ライターがメールで原稿を送信して、クライアントがそのメールを受け取った日が、クライアントが「成果物を受領した日」になります。

でも、クライアントが確認したのでその1週間後だったとしたら?

細越さん クライアントからの「受け取りました」という納品確認メールが1週間後に届いたとしても、成果物である原稿がメールでクライアントに届いた日が納品日とみなされます。

〆日(月末)を起算とするわけではないのですね。

細越さん はい、あくまでもクライアントが成果物を納品した日が、支払期日の起算日となるのが原則です。たとえば、クライアントが月末〆としている場合でも、納品日が8/1日だった場合、8/31ではなく8/1日を起算日として、60日以内に支払わなければならないことになります。

クライアントによっては、支払期日が月末〆の翌々月末支払いという会社もありますが、これはどうなんでしょう?

細越さん その場合ですと、ちょうど月末頃に納品した物はぎりぎりセーフとなりますが、それ以外については下請法に違反(支払期日が遅延)していると判断されます。

  • ✕ 2019年7月15日に納品→7月末締め9月29日支払い(60日を超過)
  • ◯ 2019年7月31日に納品→7月末締め9月29日支払い(2か月以内)

事前にクライアントから「当社は月末〆の翌々月末支払いです」と言われて、「わかりました」と返事をしていたら話は別ですか?

細越さん たとえ両者間で合意し契約書を交わしていても、下請法の支払期日を遵守しなければいけません。ですので、月末〆の翌々月末支払いの場合、実際の受領日から支払期日である60日(2か月)が経過すれば支払いが遅延したとみなされます。

支払いが遅延すると、クライアントには何かペナルティがあるんですか?

細越さん 下請法に違反したとみなされ、クライアント側には遅延損害金の支払い義務が生じます。その他の制裁としては、下請法違反の事業者には公正取引委員会から勧告がなされますが、公正取引委員会のWebサイトで「下請法勧告一覧」のページがあり、勧告を受けた事実については公表されますので、それ自体、企業にとってはかなり大きなダメージといえるのではないでしょうか。

下請法の適用は原則として親事業者が資本金1千万円超の会社

フリーランスがフリーランスに発注する場合も、下請法が適用されますか?

細越さん 下請法の対象となる取引は、親事業者の資本金や出資の総額の規模と取引内容で定義されています。

具体的には、親事業者の資本金等が1千万円を超える場合の取引は、下請法の適用を受ける場合があります。つまり、資本金1千万円以下の比較的規模の小さい会社からの発注や、フリーランス同士の受発注に関しては、原則として下請法が適用されないということになります。

すべての取引に下請法が適用されるというわけではないのですね。

細越さん そもそも下請法というものは、親事業者と下請事業者のパワーバランスによって、立場の弱い下請事業者が不利益を被らないように、取引の公正化と受注者の利益保護という目的で制定された法律です 。つまり、小さい会社同士の取引の場合、どちらかが優越的な地位に立つわけではなく、パワーバランス的に対等な関係との前提で、わざわざ法律で守ってあげなくていいという考えなので、その場合は契約自由の原則に則って、両者が合意できる内容で契約を結んでください、というたてつけになっています。

クライアントが下請法に違反している場合は「下請かけこみ寺」や「ADR」を利用するという方法も

クライアントからの支払期日が下請法に違反していても、直接は言いづらいです。

細越さん 下請法を意識しているフリーランスの方は意外と少ないという印象を受けますが、多様な働き方が認められるようになっている時代ですので、フリーランスの方は是非とも知っておいたほうがいい法律だと思います。そして、下請法違反に対しては、本来であれば毅然と対応されることをお勧めします。しかし実際は、今後の取引のことを考え、フリーランス側から下請法違反を指摘したり、第三者に申告や相談することを躊躇することが多いようです。

それでも、勇気を持って誰かに相談したいときはどうすれば良いのでしょうか。

細越さん 誰かに相談したい場合は、中小企業庁の委託事業として公益財団法人 全国中小企業振興機関協会が全国に設置した「下請かけこみ寺」という機関が全国にあるので、そこに相談してみるといいと思います。基本的には下請事業者の下請取引上の悩みに、専門の相談員が無料で応じてくれますし、相談員が必要だと感じた場合、近くの弁護士に無料で相談を行うこともできます

無料!それは助かります。

細越さん さらに、第三者の関与により下請法違反を是正してもらうために、「ADR」を利用する方法もあります。「ADR」とは裁判外紛争解決手続というもので、弁護士などが調停人として間に入って、裁判ではなく話し合いでの解決を目指す手続きです。下請かけこみ寺では、この「ADR」にも対応してくれるので、本当に困ったときには利用してみるのもよいかもしれません。

下請法の知識を持ち、まず声をあげてみることが大事

細越さん 代金の支払期日に限らず、さまざまな角度から、親事業者よりも立場の弱い下請事業者の利益を保護する目的で制定されたのが下請法です。不当な扱いや紛争を避けるためにも、下請法の知識を持つことはとても大事だと思います。

はい、改めてそう思いました。

細越さん 親事業者に対しては、中小企業庁が毎年、書面調査を行い、その中でチェックリストが送られたりしていますので、親事業者の担当者は下請法についての知識は一定程度あると思います。そうであっても、現実には下請法を遵守していない企業は、公表されていないケースでも一定数あると思われます。

だからこそ、下請事業者側が知識を持って、違反をしている企業に対して声をあげることが大事なのではないでしょうか。多くの下請事業者が知識を持ち、権利を主張できる社会になれば、親事業者側も対応を変えざるを得ないのではないかと思います。

ありがとうございました!

取材・文/FREENANCE MAG編集部

profile
細越善斉
CST法律事務所・代表弁護士。大企業からベンチャー企業・フリーランスまで、幅広い業種の顧問弁護士の実績を有する。遺産相続と税務訴訟を中心に、民商事全般を取り扱う。https://cst-law.jp/
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