インターネット上での著作権侵害は、フリーランスの個人クリエイターにとって特に深刻となり得る問題です。
その対策として、一般社団法人日本ネットクリエイター協会(JNCA)は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS/サートラス)の委託を受け、2025年(令和7年)1月14日(火)より「インターネット上の著作権侵害等への権利行使支援事業」を開始しました。
本記事では、この事業内容と著作権侵害の事例をわかりやすく紹介し、クリエイターはどのようにして自身の権利を守るべきか解説します。
Contents
「インターネット上の著作権侵害等への権利行使支援事業」とは?
事業の背景と目的
昨今、インターネット上では漫画やアニメ、ドラマ、映画、テレビ番組などの海賊版が溢れかえり、知的財産権、とりわけ著作権保護の必要性が叫ばれてきました。大企業であれば、いたちごっこになり得ることを覚悟のうえでも、今後の予防線や牽制という意味で、法的措置を取ることも可能でしょう。
しかし、フリーランスとなると、いくら著作権等を有していても、弁護士費用等の観点から、権利行使までなかなか辿りつけず、泣き寝入りとなってしまうことも少なくありません。しかし、そうした事態が積み重なっていくことは、結果として海賊版の助長にもつながっています。
そこで、2022年(令和4年)8月30日、文化庁は、インターネット上の海賊版による著作権侵害の相談窓口を開設し、インターネット上の著作権侵害の被害者に対する支援をしてきました。

とはいえ、当該相談窓口は、あくまで弁護士が取り得る対応策等のアドバイスを行うもので、実際の権利行使については、個々の被害者が弁護士に直接依頼を行い、弁護士費用を負担する必要があります。
つまり、法律事務所に問い合わせて、初回30分無料の法律相談を受けているのとあまり違いがありませんでした。
そこで、2025年1月に新事業「インターネット上の著作権侵害等への権利行使支援事業」がスタート。これは、実際に権利行使を弁護士に依頼する際の費用負担を軽減するための制度です。
詳しくは後ほど紹介しますが、この支援事業は、「インターネット上での著作権侵害等について権利行使をする際の弁護士費用」の大部分について、支援を受けられる可能性のある事業です。泣き寝入りしがちであったフリーランスのクリエイターにとって、非常に有用な事業と言えるでしょう。
実施団体
この支援事業は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)が、一般社団法人日本ネットクリエイター協会(JNCA)に委託し、文化庁が協力して行うものです。
SARTRASというのは、もともと教育機関が授業の過程で利用するために著作物を複製等する場合の補償金(著作権法第35条)の金額を決定し、補償金の請求等を行うための指定管理団体として文化庁から指定された団体です(著作権法第104条の11)。
SARTRASは、収受した補償金を、授業で利用された著作物の権利者に分配することになります。しかし、すべての著作物の利用を把握できるわけではない等の理由から、収受した補償金の一部を権利者全体の利益となる共有目的事業を実施することが著作権法上義務付けられています(著作権法第104条の15第1項)。
「インターネット上の著作権侵害等への権利行使支援事業」は、このような「共通目的事業」のひとつとして行われるものです。JNCAは、ネットを中心に活躍する、さまざまな分野のクリエイターのサポートを行うために設立された一般社団法人です。著作権トラブルの解決サポートも行っており、一定のノウハウがあるため委託先となっています。
※参照:SARTRAS 授業目的公衆送信補償金等管理協会
※参照:JNCA
支援内容/予算規模
支援の内容は、個人クリエイター等が著作権等の行使に際して支払うことを要する経費の負担であり(実施要綱第4条)、支援の上限は150万円(損害賠償請求の際の経費を含む場合は400万円)となります。
自己負担となるのは、最初に納める前払金1万1,000円(税込)と、上限を超える部分です。なお、損害賠償請求により経済的な利益を得られた場合には、その一部をJNCAに返還すべきとされます(実施要綱第13条)。
実際にかかる費用はケースバイケースですが、損害賠償請求における成功報酬で弁護士費用が高額化する可能性はあるものの、発信者情報開示請求、侵害行為の差止請求であれば、弁護士費用が150万円を超えることは稀です。支援を得られれば、費用のほとんどがカバーされるでしょう。
なお、「授業目的公衆送信補償金分配規程第9条に基づく公表事項(2024年度)」としてSARTRASが公表している内容によると、共通目的基金の総額は約9.4億円です。2024年度の助成総額(上記新事業について、SARTRASのWebサイトでは、2024年度共通目的事業・助成事業としては記載されていません)が約5.6億円であることからすれば、十分な財源があると考えられます。
インターネット上での著作権侵害とは?
著作権侵害の具体的な事例
インターネット上での著作権侵害の具体的な事例を紹介します。同様の被害に遭われた方は、権利行使支援事業の活用を検討してみてください。
- 自分が描いたキャラクターのイラストや自分が撮った写真が、第三者のSNSアイコンとして勝手に使われている
- 自分が書いた記事をコピペされ、SNSで公開された
- 自分が書いた論評とまったく同じ内容の論評が、名前だけ変えて、インターネット上で販売されている
- 自分が制作した漫画・アニメ・音楽が、海外サイト上で無断に公開されている
著作権侵害の法的効果
このような著作権侵害があった場合、被害者は、民事上は侵害行為等の著作権法(著作権法第112条)、損害賠償請求(著作権法第114条)、不当利得返還請求(民法第703条、第704条)、謝罪広告の掲載等の名誉回復のための措置(著作権法第115条)といった請求が可能です。
また、刑事上は侵害者が10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金という罰則が科せられ得ることになります(著作権法第119条)。
発信者がだれか特定できない場合は、いわゆる“プロ責法”(プロバイダ責任制限法/特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づき、コンテンツ・プロバイダー(XやFacebook、5ちゃんねるなどの媒体の運営会社)や接続プロバイダー(ドコモやソフトバングなどの通信事業者)に対して、発信者情報開示請求が可能なケースもあります。
※参照:総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)
※参照:TOP | プロバイダ責任制限法関連情報Webサイト
生成AIと著作権
また、昨今、生成AI(Generative artificial intelligence)を活用してビジネスが加速している状況ですが、生成AIを使った著作権侵害にも注意が必要です。
生成AIと著作権の関係については、文化庁が令和6年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」という取りまとめを行っており、これに沿って考えるのが良いでしょう。以下、取りまとめの概要を紹介します。
AI と著作権に関する考え方について ~ AI開発・学習段階
生成AIの問題は、さまざまな学習用データを元に学習用プログラムが組まれ、「学習済みモデル」(生成AI)が作成されるという「AI開発・学習段階」と、得られた「学習済みモデル」(生成AI)にデータ等を入力してAI生成物を出力する「生成・利用段階」とに分けて考える必要があります。
まず、「AI開発・学習段階」においては、学習用データに著作物が含まれる可能性があり、これが著作権侵害になるかが問題になりますが、著作権法第30条の4の導入により、原則として「情報解析」の用に供するものとして著作権侵害に当たらないこととされました。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
※著作権法
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
ただし、情報解析用としてのライセンス市場が成り立っている著作物の場合は、著作権者の利益を不当に害するものとして著作権侵害になり得ます(著作権法第30条の4柱書ただし書)。
AI と著作権に関する考え方について ~ 生成・利用段階
次に、「生成・利用段階」においては、作成された「学習済みモデル」(生成AI)に著作物を用いて入力・指示を行う場合(例えば、漫画のキャラクターの絵とともに「このキャラクターの笑った顔を描いて」と指示するなど)、前提として、著作物を「複製」したり「翻案」したりする作業が行われた場合、この作業が著作権侵害に当たるかが問題となります。
もっともこの場合も、上記の著作権法第30条の4が妥当し、原則として適法となると考えられています。ただし、生成AIへの入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で著作物を入力する行為は、著作権者の利益を不当に害するものとして著作権侵害になり得ます(著作権法第30条の4柱書ただし書)。
AI と著作権に関する考え方について ~ 学習済みモデル
さらに、「学習済みモデル」(生成AI)により生成されたAI生成物自体が著作権侵害を引き起こす可能性もあります。たとえば、「漫画AのキャラクターBの絵を描いて」と生成AIに指示して得られたキャラクターBの絵(AI生成物)をアップロードしたりその複製物を販売したりすることで、キャラクターBの著作権者に対する著作権侵害となるかが問題となります。
しかしながら、このような場合は、AIでなくとも生じる問題であり、人間が手描きでキャラクターBの絵を真似て書いた場合と同じ判断(いわゆる「類似性」・「依拠性」の判断)になります。
また、AI生成物そのものが著作物として保護され得るかという問題もあり、場合によっては著作権法上の保護が及ぶことがあります。このような著作権であっても、インターネット上の著作権侵害があれば、支援事業の対象となり得ます。
生成AIを使った業務に従事するフリーランスの方は、自身が著作権侵害をしないように、あるいは、著作権者として保護され得るかを確認するために、以下の資料を参照すると良いでしょう。
(令和6年3月15日 文化審議会著作権分科会法制度小委員会)
申請資格/支援決定以後のフロー
支援決定の流れ
上記のような著作権侵害の被害に遭われた方、全員が支援を受けられるわけではありません。申請から支援決定までの流れを確認してみましょう。
申請資格
支援を受けられるのは、「相談窓口の担当弁護士より、著作権等の行使が認められうる蓋然性(※)があると認められた個人クリエイター等」のみ、とされています(インターネット上の著作権侵害等に対する個人クリエイター等による権利行使の支援実施要項第6条)。
※蓋然性(がいぜんせい):ある事柄が起こる確実性や、ある事柄が真実として認められる確実性の度合い。確からしさ。これを数量化したものが確率。(引用:goo国語辞書)
「著作権等の行使が認められうる蓋然性がある」についてですが、最終的に権利行使が裁判等で認められることが、確実とまでは言えなくても、問題ないでしょう。
個人クリエイターが著作権を有していることが客観的な資料からひとまず確認でき、インターネット上でその著作権が侵害されていることを看取できれば、「蓋然性がある」と十分認められると、思われます。
ここで言う「個人クリエイター等」とは、下記を指します。
著作権等を有する個人(日本国民又は日本国内に住所を有する者に限る。)、及び、当該個人と人的関係、資本関係等において密接な関係を有し、当該個人の著作権等を行使する権原を有するもの(著作権等管理事業者その他の著作権等の管理を業として行うもの、及び、自らの事業活動のために当該個人から著作物等に係る利用の許諾又は出版権の設定を受けて当該著作物を利用するものを除く。)として協会(※)が認める法人又は団体をいう。
※インターネット上の著作権侵害等に対する個人クリエイター等による権利行使の支援実施要項 第2条第2項
※協会=一般社団法人日本ネットクリエイター協会
また、「インターネット上の著作権侵害等」は、下記を指します。
日本国内で行われたものであるか否かにかかわらず、インターネット上等で著作物(イラスト、画像、テキスト、写真、音楽、動画、プログラム等)、実演、レコード、放送又は有線放送(著作権法(昭和45 年法律第48号)による保護の対象となるものに限り、以下「著作物等」という。)を、著作物等に係る権利(以下「著作権等」という。)を有する者の許諾を得ず、著作権等の侵害となる態様で利用することとする。
※インターネット上の著作権侵害等に対する個人クリエイター等による権利行使の支援実施要項 第2条第1項
日本国内で行われたものであるか否かにかかわらないため、海外サイトで行われている著作権侵害についても支援の対象となり得ます。
もっとも、支援の対象となる裁判手続きは、日本の裁判所における日本の法律に基づく手続きに限るとされているため(同第3条)、外国人が当該海外サイトを運営しているようなケースでは、最終的に支援を受けるのは難しいと考えられます。
インターネット上で著作権等を侵害されたフリーランス・個人事業主の方は、多くのケースでは「著作権等を有する個人」に当たり、申請資格があると考えられます。まずは相談窓口で相談をしてみるのが良いでしょう。なお、申請等の手続面でわからないことがあれば、担当弁護士からのサポートを受けることも可能です。
フリーランスクリエイターのための自衛手段
著作権を行使するためには、なんと言ってもまず、自身が著作権者であることを立証する必要があります。外部に公表等した後に著作権侵害があれば、著作権者であることの証明は難しくないでしょう。
一方、まだ公表等をしていない著作物の場合で、侵害者が自分こそが著作権者であると主張した場合は、元のデータのタイムスタンプや流出経路など客観的な資料をまとめておくことが自衛につながります。
また、チームでひとつの作品を作るような場合、だれが著作者であるかが不明確となる場合があります、事前に取決めをして、誰に著作権が帰属するのかを確定させておくのも自衛の手段のひとつとなるでしょう。
まとめ
SARTRAS及びJNCAによる「インターネット上の著作権侵害等への権利行使支援事業」は、インターネット上で著作権等を侵害された個人クリエイターにとって、弁護士費用の大部分を支援してもらえる可能性のある非常に有用なものです。インターネット上での著作権侵害等の被害に遭ったフリーランスの方は、ひとりで悩む前にまず、相談窓口で相談してみてください。
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