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何もできない人にも価値がある。レンタルなんもしない人 インタビュー

何もできない人にも価値がある。レンタルなんもしない人 インタビュー

「飲み食いと、ごく簡単なうけこたえ以外、なんもできかねます」という告知文で、2018年6月から始まったサービスレンタルなんもしない人。その斬新にして潜在的な需要を突いたサービスは一躍注目を集め、書籍の出版にテレビ出演、海外からの取材、果てはドラマ化とメディアを超えてセンセーションを巻き起こしました。

そんな彼が、今年初めにどうしてこうなったかというタイトルで、サービスを始めるキッカケになった自身の神秘体験をnoteで告白。今、改めて当時を振り返ったのは何故なのか? そして“何もない”人間が生きるための秘訣をうかがいました。

profile
レンタルなんもしない人
1983年生まれ。既婚、一男あり。理系大学院卒業後、数学の教材執筆や編集などの仕事をしつつ、コピーライターを目指すも方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。「働くことが向いていない」と判明した現在は「レンタルなんもしない人」のサービスに専従。
https://x.com/morimotoshoji
https://www.instagram.com/morimoto_shoji/

一番驚いたのは、バズったこと

レンタルなんもしない人

年明けに「どうしてこうなったか」というタイトルのnoteをあげられていて、改めて『レンタルなんもしない人』という活動を始めた経緯を書かれていましたよね。なぜ、今、改めて当時のことを振り返ってみようと?

縁のある知人とか友達が、年明けに「今年は何か書いていこうと思う」っていう宣言を、立て続けにしていたんですよ。昔から何千記事も書いているプロ奢ラレヤーさんが「書くためには、何でもいいからとにかく書き始めてみるしかない。書けないときは仕方ない」ってことを記事にしていたり、彼の経営してるバーでブログを担当しているウイスキー藤村さんが、個人のnoteで「今年は書いていく」というようなことを宣言されていたり。そういったことに感化されて、じゃあ、たまにしか更新していなかったnoteで書いてみようかと。

ただ『レンタルなんもしない人』の活動自体のことだったら、普段からSNSでも発信しているので、改めて長文で書こうとは思えなかったんです。それよりも、今の時点で自分でもよくわかっていなくてモヤモヤしているものを、振り返って書いていけば整理されて良いんじゃないかと。

そこで、活動を始めた2018年当初のご自身の状態と、活動を始めるキッカケになった体験について書かれたわけですね。自分と他者との境界が曖昧になって繋がっていくような感覚があった……という、ちょっとスピリチュアルな内容で、そのときに自分が『レンタルなんもしない人』の活動をしている映像が見えたとか(※)。

状態変化のような何か|レンタルなんもしない人 / 状態変化のような何か②|レンタルなんもしない人

そうですね。それが見えたとき「これ、絶対に面白いだろう! こんな面白いこと、なんで今まで誰もやってなかったんだろう!」って思ったんです。だから、誰かに始められる前に絶対に僕が最初にやりたい!って、まずはプロ奢ラレヤーさんを参考にTwitterのアイコン画像を整えたりとか、さっそく翌日から動き始めました。

当時はフリーランスのライターという立場だったんですけど、そんなにバリバリ働いていたわけでもなく、前にいた会社からたまに仕事をもらったり、コピーライターを目指していた時代のツテでカタログとかの広告媒体に執筆したりして食いつないでいたんですね。自分から動いて仕事を取ってくるような気概もなく、来たものを受けるだけだったから、めちゃくちゃ暇な時期とかもあって、ちょうど、そういう時期だったので新しく活動を始めることに支障はなかったんです。

すでに結婚もしていたので、一般的な同世代の妻子がいる男性と比べたときに「こんなことして大丈夫なのかな? 申し訳ないな」という気持ちも無くは無かったんですけど、むしろ奥さんは「いや、全然」という感じで。どちらかに依存するんじゃなく2人で頑張っていく形でしたし、そもそも好きなものや趣味とかが一致してるところから付き合い始めたので、お互い収入に関してはそんなに重要じゃなかったんです。

レンタルなんもしない人

なるほど。そして実際『レンタルなんもしない人』のサービスを始めてみて、一番驚いたことって結局のところ何でした?

まずは、バズったことですね(笑)。最初の告知からバズって、フォロワー数も何年も伸び続けて。自分の思いつきが、こんなに世界中の人たちに届くものなのか?という驚きは今でもありますし、たまに我に返って「何、これ?」ってなるときもあります。年明けのnoteも、そういう気持ちがあるからこそ、立ち返って書くことができたんでしょうね。

バズった理由を紐解くと、結局は、みんなが潜在的に求めていたサービスだからだと思うんです。それこそ「こんな面白いこと、なんで今まで誰もやってないんだろう?」とおっしゃってましたが、なぜ今まで誰もやらなかったんでしょう?

たぶん、みんな僕よりもデキる人たちだからでしょうね。「何もしたくない」とか「働きたくない」とか言いつつ要領が良くて、何かしらのスキルがあって、何だかんだ働き続けることができているんですよ。 でも、僕には本当にどれも無かった。

あと、自分は昔からお笑いだとか面白いことが好きで、学生時代は大喜利の界隈で割と活躍していた経験もあったから、自分は一会社員として人生を終えるわけがない!という予感もあったんです。自分の考えることは絶対に面白いという自信もあったし、奥さんにも「こんなに面白いのに 誰も知らないのもったいないわ」とか言われていて(笑)。

だから、普通は「何か面白いことがしたい」と思っても「自分は凡人だから」と割り切って地道に働く人が大半なんでしょうけど、自分は割り切れなかった。自分の面白さに未練があったんです。

“自分がやりたくないこと”の発見

レンタルなんもしない人

それなら、なぜ大学卒業後に普通に一般企業に就職してしまったんですか。

“問題を作る”ということに対して興味があって、そこで面白さを発揮できるような気がしたんですよね。あとは大喜利ばっかりやってる怠惰な学生だったから、塾講師のバイトの延長みたいな気持ちで入っちゃったんです。本当は任天堂とかゲームを作る会社に憧れがあったけど、そういった業界においてアピールできる経験が何もなかったので。

もちろん、その選択が今からすれば間違いだったのは確かなんですが、そこで改めて会社という組織についてだったり、問題を作るということにおいて自分の中のクリエイティビティは一部しか発揮できないということも学べたので“自分がやりたくないこと”の発見にはつながりましたね。

“やりたいこと”ではなく“やりたくないこと”なんですね。

もちろん「自分はこれが好き」「これをやりたい」って最初から出せたらいいんでしょうけど、それを最初から出すのも意外と難しいじゃないですか。だったら、まずは嫌いなものを消去していくことで、好きなことや向いていることを浮き掘りにしていく手段もあると思うんです。だから「自分はこれが嫌いだ」と示すことにブレーキをかけなくてもいいし、好きでも嫌いでも、とにかく直感的にサッと出てくるほうを出すべきなんだと思う。

レンタルなんもしない人

それも“なんもしない”というところに通じる気がします。考えることにコストを使わないというか。

そこは僕も意識しているところなんですよ。取材にせよテレビ出演にせよ、不安になったり緊張したりすると「こういうこと聞かれるんだろうか?」とかって準備しちゃうんですよね。でも、準備したら全然しゃべれないんですよ。事前に質問状みたいなものを送ってきたりする番組もあって、そういう場合もなかなか上手くいかない。聞かれたことに対して、その場でスッと出していくほうが上手く話せたり、自分も楽しいんですよね。

“なんもしない”が肝なんですから、何かを期待されて応えようとすると上手くいかない活動ですよね。ただ、もともと無料でやっていた活動を、今は1万円という対価を取るようになったことで、先方から期待されることが増えてしまうという弊害はありません?

いや、むしろ知名度が出てきたあとは、無料でやることで申し訳なさそうにされることが多かったんですよ。もちろん交通費やチケット代とかの経費はもらいますけど、それでも「こんな有名人を無料で呼びつけていいのか?」っていう罪悪感を持たれることもあって。そんな申し訳ないなら、じゃあ、1万円もらってあげますよ、みたいな。だから、今は1万円もらってちょうどいい感じですね。

無いものを諦めきって、あるものだけに集中する

レンタルなんもしない人

そういった“なんもしない”スタンスを人によっては“怠惰”と言うかもしれませんが、それに対して著書『〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと』では「赤ちゃんは何もしなくても、みんなに愛される。もう、そこに存在してるだけでいいのだから」と、いわゆる“存在給”の概念を紹介されていますよね。そのベースには、人間とは生まれながらに必要なものはすべて持っていて、欠けているものは何もないという思想なんじゃないかと思うんです。

そういった思想って、スピリチュアルな界隈ではしばしば提唱されていますよね。僕もフラフラしていた時期とか自分に何が向いているんだろう?と模索していた時期は、心屋仁之助さんの“存在給”の話を聞いたり、ニーチェだとかの哲学書だったり自己啓発本を読み漁っていたんですよ。なので、知らぬ間にそういった考え方を取り入れたんでしょうね。

「生まれてきた時点ですべてが備わっている」という思想も、冒頭に触れた自分の身体が溶けていくような感覚のときに、少し頭によぎったんです。その状態を冷静に分析して、自分に無いものだったりできないこと、スキルというものを完全に諦めたら、今、自分の中にあるものにしか意識が向かなくなったというか。無いものを諦めきって、あるものだけに集中することで「もう、これしかないんだから仕方ない」っていう気持ちになれた。要するに、自分に向いていることや天職、進むべき道を見つける近道になったんです。

人間すべてを持つことって不可能ですからね。その「無いものを諦めて、あるものだけに集中した」究極の成功例が『レンタルなんもしない人』なわけで。

一言に「諦める」と聞くとネガティブに感じるかもしれないけど、僕は「諦める」って良い言葉だと信じているんです。諦めることができたら、自分以外の世界中の人たちに対するリスペクトに繋がるじゃないですか。「自分は何もできない」って割り切れば嫉妬とかもなくなるし、他人頼みで生きていける。リスペクトできる人たちの中に身を投げ込んだら、絶対に楽しくなると思ったんですね。

レンタルなんもしない人

逆に諦められないと、いつまでも「自分もあんな風になりたいのに」っていう嫉妬心みたいなものに囚われてしまうじゃないですか。そこを割り切ったら人の力に頼る――いわゆる他力本願というものが全然大丈夫になって、申し訳ない気持ちもまったく無くなり、どんどん状況が好転していったんです。

最初の話に戻りますけど、そういった自分の精神状態をnoteに書くことで“再現性”を持たせたいところもあったんですね。僕だから『レンタルなんもしない人』ができたわけじゃなく、何もできない人にも価値があるんだということを伝えたかった。

その結果、第二の『レンタルなんもしない人』が生まれてほしいと?

いや、そういうことではないです。『レンタルなんもしない人』を再現してほしいんじゃなく、何もできないと思っている人が、自分にあるものを活かして何かを始めるということを再現してほしいんです。

でも、それで万が一『レンタルなんもしない人』の丸パクリみたいな人が現れて、そっちの方が話題になったら……嫉妬するかもしれない。

「悩み」はある意味、成長のチャンス

レンタルなんもしない人

いや、ポッと出の人がやっても上手くいきませんよ! 屋外での活動ならともかく、素性の知れない人を家に招き入れるのは、特に女性にとってハードルが高いですから。

でも、僕、活動を開始して1週間もしないうちに家に呼ばれましたよ。女性の漫画家さんに「1人でペン入れをするのが苦痛だから来てほしい」とか(笑)。そういった新しいもの好きで、リスクを考えずに躊躇なくお願いしてくれる、いわゆる“アーリーアダプター”の人たちの依頼が実績になって、それを繰り返すことで知名度も上がり、慎重派の人たちも依頼をしてくれるようになった……というプロセスがあったんですね。

そうして増えていった依頼の中で、例えば去年1年で一番驚いた案件って何でしょう?

これまでめちゃくちゃたくさんの依頼があって「去年1年の依頼」みたいに記憶の整理ができないのでパッと出てこないんですが、時間が経つにつれて“驚き”という意味での楽しさは無くなっていってますね。ただ、僕はこう見えてポジティブな人間なので、何でも楽しいんですよ。自分に対して嫌なこととか苦痛を伴うことをされなければ、どういう状況でも楽しい。

例えば、今、この場で何も質問されなかったとしても「すごいセキュリティが厳重なところにいるなぁ」っていう状況が面白いし、目線を移せば「このペットボトルの水、珍しいな」とかって、楽しい発見がいろいろある。あとは僕、瞑想も好きなんで、本当に何もなかったら瞑想をすればいい。どう転んでも楽しくいられるというのも「自分は何もしないのが向いてるんじゃないか?」と思えた1つの理由なんです。

どんな状況でも楽しめるというのは、間違いなく『レンタルなんもしない人』という活動向きの特性ですよね。あとは感情移入しすぎないことも重要な気がします。想像ですが、どんなディープな話を聞かされても、自分のメンタルまで引きずられて落ち込んでしまうようなことは無いのでは?

うん、無いですね。逆に“引きずられる”という感覚が、まったくわからない。例えば、物理的・肉体的に痛い話を聞くと「イテテ!」ってなりますけど、精神的な面でそういうことは起きないので、どんな話を聞いても精神的なコストがかからないんです。だから話す側も気を遣ったり、罪悪感を持ったりすることなく話せるんでしょうね。

人の話を聞くって、感情移入できるタイプのほうが向いているように考えられがちですけれど、実は逆だと思うんです。ある意味ドライなほうが、メンタル面での負荷がかからない。

僕の場合、その理由のひとつに、スピリチュアルな物の考え方があって。魂というものの存在を仮定したときに、魂がこの世に肉体を持って生まれてくるのは、いろんな悩みや苦しみを経験することで魂のレベルを上げて、また、彼の世に帰っていくというサイクルを繰り返すためなんじゃないか?という考えなんですね。

なので、何かに悩んでいたとしても、それはその人にとってのこの世における試験問題であり、必要なことだから、逆に他人がむやみにアドバイスしたり解決すると成長の機会を奪うことになってしまう。その人自身が悩みを引き受けていくのは必然なので、その状態をネガティブなものだとは考えていないんですよ。

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よくわかります。苦しみは苦しみで、ある意味、成長のチャンスであるということですね。

そう。「悩みがないのが悩みなの」みたいに言ってる人に比べれば、全然有意義じゃないかと。

依頼をしてくる人たちも、根本的にはそれがわかっているんですよね。頼っているように見えて、実は自力でなんとか解決しようという気持ちだとか自立心が強い。例えば「部屋の掃除をする間、横にいてほしい」ってお金を払って依頼するくらいなら、清掃業者に頼んだほうが早いしクオリティも高いじゃないですか。

でも、そうしないのは、やっぱり自分でなんとかしたいっていう気持ちが根底にあるからなんですよね。例えば「イベントに同行してほしい」という依頼も、そのイベントに詳しい友達に連れて行かれるより、自分が主体的に楽しみたいという理由があったりする。独りで行くことも全然できるけど「独りだと周りに気を遣われてうっとうしいから」という人も多いんですよね。

あと、女性は独りでバーに行くとナンパされたり、社会的に独りで行動するのが難しい場面も多いじゃないですか。それもあってか依頼の男女比は圧倒的に女性が多いですね。

フリーランスという響きに引きずられないように

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ちなみに今の時点で、どれぐらい先まで依頼って入っているんですか?

かなり特殊なケースですが、一番先だと……30年後ですかね。

30年!?

今、お勤めしてる方が、退職式に同行してほしいと。退職式のときに周りをあっと言わせる計画を立てているので、それに付き合ってほしいそうです。

ただ、通常の依頼は1カ月弱くらいですね。それ以上先だと「もうちょっと近くなってから声かけてください」ってお願いしてます。もちろん何か特殊な事情があれば2、3カ月先のものを受けるときもありますけど、普通に「話を聞いてほしい」とかっていうオーソドックスなものなら、僕の気持ちがあんまり先まで見えないところもあって、1カ月が限界かなと。

あんまり先の依頼を受けると、そのときになって気持ちが乗らない、やりたくない、ということもあり得ますからね。やはり無理はしない、やりたくないことはやらないというのは貫いている。

そうですね。「無理しない」というのは大事だと思うので。

ちなみに本サイトはフリーランスの方、フリーランスを目指す方が多く閲覧されているんですが、そんな方々に生き方や働き方のアドバイスをするなら?

さっきも言った通り、アドバイスは成長のチャンスを奪うことになるので、一貫してやっていないんですが……フリーランスっていう言葉に、ちょっとかっこいい響きがあるじゃないですか。それに縛られているというか、しんどいのにフリーランスをやっている人が結構いるんですよね。なので、会社に勤められるなら会社に勤めたほうがいいんじゃないでしょうか。

新しい! この質問をすると「会社員が辛いならフリーランスを目指しては?」という回答をするケースがほとんどなのに。

だって、無理してフリーランスやってないかな?って心配になることがあるんです。独立したってかっこいいけど、できるなら、あえて会社員でを続けていくのもかっこいいんじゃないかなって。なので、今、フリーランスをしていて辛い人は、思い切って会社員になっても全然いいんじゃないかと思います。

レンタルなんもしない人

撮影/中野賢太@_kentanakano

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