新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、自粛生活が続いています。ギャラリーや映画館、ライブハウスなど表現の場が制限される中、クリエイターたちは創作活動をどのように続けているのでしょうか。
「だれでもクリエイターになれる」で人気の、GMOインターネットグループのGMOペパボ株式会社が運営するオリジナルグッズ作成・販売サービス“SUZURI(スズリ)”も、昨年6月の流通額が過去最高の4億円を突破しました。8日間のTシャツセールでは11万枚を売り上げ、対前年同月比は347%に拡大。
ここまで売り上げを伸ばしている理由は、購入者だけでなくクリエイターを大切にする姿勢にもあります。今日は、「使いやすさ」に徹底的にこだわったそのサービス設計について、じっくりお話を聞いてきました。
<参加者>
すっしー
映画鑑賞とラジオを聴くことが趣味。最近では、コロナ対策バッチリのジムでボクシングのトレーニングに励む。SUZURIのリーダー
トビー
最近は、人とディスタンスがとれるスケボーに注力。家では漢方茶とマスタードフィッシュカレーをつくる。過去に映像監督の経験も。
おしお
旅行が趣味だったが、コロナ禍の今はキャンプと漫画に没頭する期待のホープ。
徹底したクリエイターファースト
SUZURIが競合に勝る「売り上げる技術」もしくは「仕組み」はどういった点だと思いますか?
すっしー:一言でいうと、スタッフの「熱量の高さ」だと思います。SUZURIのスタッフはサービスが好きな人が集まっているんですが、まずクリエイターさんのことがすごく好きですね。プライベートで個展に行ったり、映画や音楽が好きな人たちも多いんですが、サービスとクリエイターさんに対する熱量が高いところだと思います。
クリエイターさん達に「自分の作品が初めて売れた経験がSUZURI だった」と言ってもらえたらと思っています。実際、クリエイターさんがそういったことをソーシャルで発信してくださると、その声の反響が本当に大きいことも実感しています。
昨年、コロナ禍においてTシャツを11万枚売り上げたことは驚きでした。これはセール期間だけですよね?
すっしー:はい。セール期間だけです。作れるアイテムの追加をすることでも売り上げにつなげています。先日、「フルグラフィックマスク」という新商品をリリースしたのですが、クリエイターさんに「作りたい」と思ってもらえるようなアイテムを、日々追加していきたいと考えています。
「マスク」というアイテムは今を反映していますよね。
すっしー:新アイテムは、クリエイターさんやユーザーさん、社内から上がってくる声を参考にしています。流行などもリサーチしながら、アイテムチームが中心となって選定していきます。
SUZURIは、SNSの流れをうまくつかんで購買を促進していると感じています。
トビー:僕はプロモーション部門を担当しているので、その視点で答えますと、クリエイターさんからの発信を促進したり、発信力を高めるための啓蒙活動をおこなうことが、結果として購買促進につながっていると考えています。
具体的には、蓄積してきた情報発信に関する知見を記事化したり、ツイートで紹介したりしています。またセールの時などは、クリエイターさんがSNSで告知しやすいように販促画像を配布するなど、発信しやすい工夫をしています。こういう…(と言って、PC画面の販促画像を見せてくれる)
トビー:SUZURIもいろんなクリエイターさんがいて、こういう素材を自分で作れる人もいるんですけど、ゼロイチで告知画像を作るのが不慣れな方であったとしても一定のクオリティが担保されたものを提供して、発信しやすいように工夫しています。
SUZURIのサイト内で検索してアイテムにたどり着くというよりは、SNSでの拡散を広めることが一番効果的だと感じています。Instagramからの流入もかなり増えてきていますので、ストーリーズ用に縦長サイズの素材も配布しています。
発信力を高めるツールとして
SNSの動向と需要をしっかりキャッチされていますね。
おしお:営業の視点からお伝えすると、クリエイターさんの活動を尊重することで、結果的に購買促進につながっていると感じています。SUZURIで活躍するクリエイターさんの多くは、「地盤」をすでに持っている方が多いんですね。YouTuberさんであったり、イラストレーターさんであったり、ご自身の才能や強みをいかしたコンテンツがあり、SNSを使ってセルフプロデュースをされているので、SUZURIはあくまで、クリエイターさんの活動を助けるツールのひとつです。
営業担当である私は、そこに「人の目」を入れてクリエイターさん自身の活動を最大化するということに重点を置いています。クリエイターさんとファンの方の世界観を壊さずに、SNSコミュニケーションでの購買促進をお手伝いさせていただいています。
謙虚なスタンスですね。とは言っても、営業という立場上、利益度外視はできないと思うのですが。
おしお:はい。SUZURIは、クリエイターさん達といい関係を築いて、長いお付き合いをさせていただくことを大切にしています。微力ですが、SUZURIがお手伝いすることでクリエイターさんの活動の幅を広げていただければ、結果として私たちの利益にもつながっていくのではないかと考えています。
そして、セールや新アイテムのリリースといった、クリエイターさんにとって利益が出るようなタイミングで、折にふれてお声をかけさせていただいています。SUZURIには、付かず離れずいい距離感で出品してくださるクリエイターさんが多い印象ですね。
1枚を可能にしたECサービス
SUZURIでは画像を登録するだけで、誰でも「リスクなしでグッズ作成と販売ができる」仕組みを採用していますが、アップロードされた画像について、スタッフ側が選定することはないのでしょうか。
トビー:はい。規約違反でない限り、選定はしていません。もし選んでしまうと、クリエイターさんの作品制作の敷居を上げることになってしまい、それは僕たちが考えているブランドビジョンに反してしまいます。
例えば、お母さんがお子さんの書いたものをグッズ化して販売するといったこともありますよ。ちょっと話はそれるんですが、僕の祖母が近々、誕生日を迎えるんです。そこで、甥が描いた絵をSUZURIでマグカップにしてプレゼントする予定です(笑)。これなどは、世の中の人へというよりは、祖母に向けてつくる一作品となりますが、そういった使い方もできます。
おしお:どこにいてもどんな時でも、どなたでも自由に使っていただきたいサービスです。
一点から販売可能とのことですが、これは購入者が発注したら制作がスタートするということでしょうか?
トビー:はい。SUZURIは受注生産になるので、注文が入ったらそこで初めて工場の方で生産が始まって、購入者の元に発送されるという手順になっています。
すっしー :Tシャツ1枚から受注生産できるサービスは、海外サイトでは以前からあったんですが。
おしお:そうですね。それを一般の方々が簡単に利用できるようにサービスに落とし込んだのが、もしかしたらSUZURIなのかもしれないですね。
では、サイトのトップに上がる「ピックアップ」はどのような視点で選ばれているのでしょうか。
おしお:「ピックアップ」は、スタッフの独断で選んでます。「好み」ではなく、フラットな視点で何名かが意見を出し合って選んでいます。
トビー:SUZURIが選んで「見てください」と言っているものなので、クオリティーの一定の基準は設けています。
ピックアップに上がった商品の売れ行きはどうですか?
おしお:トップページのファーストビューに上がってくるので、売上アップにつながっているようです。私見では、個性がよく出ていると感じるものが選ばれている印象ですね。
ブランドビジョンの共有
SUZURIには魅力あるクリエイターさんがたくさん参画されていますよね。そういった方々を発掘するための工夫がありましたら教えてください。
おしお:ありがとうございます。でも、私たちがクリエイターさんを発掘したり選んだりしているのではありません。むしろ、クリエイターさんにSUZURIを発掘してもらう、選んでもらうためにはどうすればいいかと常に考えています。
Twitterやサービスサイトでの発信ひとつとっても言えることですが、SUZURI自身の振る舞いによって、コンセプトを打ち出していくことが大切だと思います。スタッフ全員がブランドビジョンを共有することで、ブレない「軸」をつくっています。それを感じ取っていただいたクリエイターさんたちが、自然と集まってきてくださっているとうれしいですね。
これがSUZURIが選ばれる理由ですね!
おしお:日本中、世界中、いろんな方にSUZURIを使っていただいて、「だれでもSUZURIで自己表現できる・販売できる」という未来があればいいなと思っています。
人気クリエイターおよび作品の傾向についてお聞かせください。
トビー:ここ2~3年の傾向としては、大きく分けると3つ挙げられます。1つ目は、デザイン自体に引きがあるクリエイターさんです。こちらは、SUZURIのサービス開始当初から大部分を占めているクリエイターさんにはなるんですが、SNS発信でファンを獲得して売上につなげている方が多いですね。
2つ目は、ストーリーや背景があるアイテムを販売しているクリエイターさんです。具体的に言うと「売上を保護犬や保護猫に全額寄付します」や「被災された地域に還元します」などです。 昨年からは、コロナで影響を受けた店舗さんがグッズを作ることも増えています。
3つ目は、 YouTuberさんや芸能人の方など、すでにファンが付いているクリエイターさんですね。デザインの傾向で言うと、YouTuberさんだったら、お決まりのフレーズをそのままTシャツにプリントして販売するパターンも多いです。デザインが得意ではなくても、そういったカタチで売り上げをつくることができます。
「ストーリーや背景があるもの」を購入される方は、「応援」の意味合いが強いということでしょうか。
おしお:はい。例えば、SUZURIはお笑い芸人さんも多く利用してくださっているのですが、駆け出しの方だったりすると、グッズの売り上げが生活や活動資金に直結します。ファンの「買いました!応援してます!」といったコメントがSNSでワーッと流れて、それに気付いた他のファンが「私も応援します!」って応援の連鎖で購入されることも多いです。ご自身の持つコンテンツとファンとの関係性を考えたセルフプロデュース力がある方がやはり人気ですね。
応援でもあり、支援でもありますね。
トビー:そうですね。芸人さんの話がでましたが、ライブ以外に支援できる機会がない駆け出しの方にも、SUZURIというツールによって、支援の幅が少し広がったのではないかと思います。
おしお:YouTuberさんでいうと、スパチャ(スーパーチャット)など投げ銭ができますが、クリエイターさんに対する片道通行の支援であるようにも感じます。SUZURIでは、大好きなクリエイターさんのグッズが手元に届くので、双方向のコミュニケーションになるという点も大きいのではないかと思っています。
トビー:ファンとTシャツを一緒につくる生配信を行っているクリエイターさんもいますよ。「どこにロゴを配置すればいいと思う?」とかチャットで話しながら。そこでコミュニケーションが生まれていますよね。
一緒につくったTシャツなんて最高ですね!
おしお:配信中に「できました!どうぞ!」とリンクを共有したらすぐに購入できるので、生まれたてのグッズが買える喜びは大きいと思います。
トビー:SUZURIは在庫を持たなくてもいいので、もしロゴの位置に迷ったら、何通りか用意して販売することも可能です。
SUZURIの原点を未来に
聞けば聞くほど使いやすいサービスですね。ユーザービリティ向上のために工夫されている点があれば教えてください。
すっしー:リリース当初から、複雑なものではなくシンプルなカタチにしようという点は心がけていました。直感でもわかりやすくという点には気を付けていますね。
弊社は、「カラーミーショップ」というネットショップ作成サービスを10年以上運営しているのですが、こちらはすでに商品を持っている人たちをメインに使っていただいているサービスです。ここから、「在庫がなくても売れるようなサービスがあるといいよね」と始まったのがSUZURIの原点です。ECのノウハウ自体はあったので、改善を重ねて現在のサービスに辿り着きました。
販売サイトでは、あたかも先に商品があってそれを販売しているかのように見えるのですが。
すっしー:グッズのイメージ画像には結構こだわっているんですが、よく見ると、Tシャツにちょっと「シワ」が入っているんです。そのシワに合わせてプリントが乗るような感じにすることで、実際のTシャツに近づけています。
そいういった細かな工夫があるんですね!
すっしー:ちょっとしたことですが、エンジニアのこだわりです。
トビー:最近エコバックも出したんですけど、「市販でつくっているエコバックは、在庫をつくってるからエコではない」と弊社の代表がツイートしていて。
確かに!
トビー:SUZURIのエコバックは「一個ずつつくる」からエコだよねってことをツイートしていて、僕も一番エコだ!と思いました。エコバッグを50個つくって、売れなかったら全然エコではないですよね(笑)。
それでは最後に、さまざまなジャンルで創造的な仕事を目指す人たちへ向けて、お一人ずつメッセージをお願いします。
おしお:クリエイターさんがものづくりをして世の中に販売していくには、どうしても煩雑な作業や手続きが必要になってくると思います。そういったノイズになる部分をSUZURIがお手伝いさせていただくことで、クリエイターのみなさんに作品づくりや自己表現に集中していただき、ものづくりのハードルを下げていきたいと考えています。個性的で多様なカルチャーが生まれていく未来を、クリエイターのみなさんと目指していければと思います。
トビー:僕は、「創造」っていうのは「脳内の具現化」だと思っています。頭の中に描いているものを外に出す工程って、本当に大変だと思うんですよ。例えば映画でも、僕も素人ながらいっとき映像をつくっていたことがあるんですが、監督や脚本家さんが脳内に思い描いているものを映像に落とし込んで表現するのは、ツールを使いこなすことだったり、費用面だったり、クリエイティブ活動以外の労力がすごくハードルが高いなというように感じていました。グッズ販売にしてもそうなんですけど、他者が認識できるカタチに表現することは大変だと思いますが、ご自身が大切に持ってる脳内のものをドンドン世に放っていってほしいなと思います。そしてまたSUZURIも、そのアウトプットするうえでの一助となれればうれしいですね。
すっしー:クリエイターさんにとって「初めて売れた」経験がSUZURIであってくださったり、購入者の方にはSUZURIを通して好きなクリエイターが見つかったり、届いたアイテムを見てもっとクリエイターさんを好きになるといったような、熱意の循環を生み出すものを提供していきたいと思っています。SUZURIは今、プリントサービスを中心にやっていますが、新しいチャレンジも模索中です。そんなSUZURIを、今後ともどうぞよろしくお願いします!
今日はたくさんのいいお話をありがとうございました!
撮影/阪本勇(@sakurasou103) 取材・文/FREENANCE MAG編集部