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得手不得手を見極めること。フードライター白央篤司『台所をひらく』インタビュー

得手不得手を見極めること。フードライター白央篤司『台所をひらく』インタビュー

「無理せず、なるたけラクに、そこそこおいしく」。新刊『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)に記された、白央篤司さんのモットーです。

作るのも食べるのも大好きで、家庭の炊事担当を買って出たプロのフードライターでも、億劫だったり、献立が思い浮かばなかったりすることはある。毎日のことだから、気分の波はあって当たり前です。

その波に逆らうことなく、炊事と上手に付き合っていくための工夫や心構えをざっくばらんに綴った本書は、優しい筆致も手伝って、日々のごはん作りに悩みがちな人(ほかならぬ筆者もそのひとり)の肩の荷を軽くしてくれることでしょう。もちろんレシピも満載です。

『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』
台所をひらく
料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集
profile
白央篤司(はくおうあつし)
フードライター。1975年生まれ、早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経てフリーに。「暮らしと食」、日本の郷土料理やローカルフードをテーマに執筆する。​
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https://note.com/hakuo416
https://hakuoatsushi.hatenablog.com/

“波”はあって当たり前

FREENANCE MAG 白央篤司

タイトルがとてもいいですね。

2020年から1年ちょっと、ハフポストで「家事の “ごはん作り” 担当の皆さん、おつかれさまです!」という連載をやっていたんですが、「おうちの料理の悩みをシェアしましょう」と呼びかけたら「昔は料理が好きだったけど、母だから、妻だから、当番だから、義務だからと思いながらやっているうちに、台所に行くのが苦痛になった」というお便りが届いて、それはつらいな、と思ったんですね。まわりの人たちに話すと「けっこうそういう人いるかも」とか「わたしも」みたいに言う人も多くて、台所を閉ざされた、狭い、息苦しい、暗い場所みたいに感じてしまっている人が一定数いることを実感したんです。

その後、大和書房の編集者から「白央さんがあちこちで書いたものを本にしませんか」というお話をもらったときに、「それだとまとまらなくないですか?」と言ったら「いやいやいや、わたしはあなたの文章を読んで料理から心がひらかれたんです」みたいに言ってくださって、やりとりするうちに「タイトルは『台所をひらく』のひとことでいいんじゃない?」という話になりました。

最終的にはほぼ書き下ろしの内容となったとのことで、一貫したストーリーを感じました。読んでいてだんだんと話が深まっていく感じというか。

本にも書きましたけど、料理ってやりたい日とやりたくない日があるんです。人間なんだから波はあって当たり前ですよね、なのに、料理本は「料理サイコー!」か「すごくつらいよね」の両極端しかない。「いや、どっちもあって人間なんじゃないの?」ということをやりたかったから、つらいときはこうしよう、でもすごく楽しい日もあるよ、とそのまま記したのが第1章です。その先でいろいろ考えようというのが第3章で、ここがいちばん他で書いたものを入れているんですけど、自然とそういう構成になっていきました。

《「家事としての料理って楽しい⽇もあるけど、しんどい⽇もある」という、 “波”のある⼈が「私だけじゃないんだ」と感じられる本を作りたい》。そういう人に向けて作られた料理本って意外にないですよね。

そう思うんですが、料理研究家さんは「料理がイヤな日もある」ってやっぱ書きにくいんですよ。自分の存在意義を否定することにもなりかねないし、「ハンバーグ作るのが面倒くさい日もある」って言うと、ハンバーグのレシピを出しにくいだろうし(笑)。かといって、ものすごく手順を抜いて作れるレシピを出しました、となると、今度は手抜きレシピ系の話しか来なくなる。わたしはレシピも出していますけど、料理研究家ではないから、そういうことが言いやすい立場ではあるんですよね。

時短一本槍でもなく、徹底的に手間をかけるだけでもなく、その間を掘ったわけですね。ある意味、もっとも現実に即しているというか。

両方を知っていると中間を取れるんですよ。「今日は余裕があるから丁寧にやってみよう」とか、「今日は全然無理だから手抜きで」とか、あるいは両方を1~2品ずつ使い分けるとか。それって幅がないとできないんですけど、最初は自分の幅がどこにあるのか、わかんないじゃないですか。

ヘタの横好きで(白央さん、眉をしかめて首を横に振る)……ってつい前置きしちゃいますけど、よくないですね(笑)。僕も料理はよくするんですが、最初はわかりませんでした。

1周して、2周して、3周して……って言うじゃないですか。それって幅ができるってことだと思うんですよ。1周目で一から出汁をひく人もいるし、1周目がめんつゆの人もいるけど、例えば「今日はちょっと背伸びしてみたいから出汁だけひこう」とか、日によっていろいろあるじゃないですか。そこがわかってくると幅ができて楽になる。でも、経験が浅いと何が楽かもわかんないんですよね。

幅を広げるのが大事だと。

例えば唐揚げとか天ぷらしか作れないと、簡単なお惣菜って作れないんですよ。「キャベツでも茹でておかかで和えちゃえばいいのに」と思うけど、作ったことがないとそれが簡単かどうかもわからない。そうすると「キャベツ」で検索して、作るの大変なのにロールキャベツを選んじゃったりするんです。作るものは自分が食べたものの中からしか選べないから、「キャベツのナムル」と書いても「うまくなさそう」と思われたり、もしくは「シンプルすぎて、俺がおいしく作れるとは思えない」となりがちなんです。

かつての自分です(笑)。作ったことがないと、レシピに「醤油大さじ2、みりん大さじ1、砂糖小さじ1、塩小さじ1/2」と書いてあっても、味の想像がつかないんですよね。

つかないですね。で、使ったことない食材や調味料の表示がいっぱいあると「自分には作れなさそう。やめとこ」となってしまうんです。

少しの変化で人生もひらける

FREENANCE MAG 白央篤司

いまお話をうかがっていて思い出したんですが、肉じゃがや豚汁を作るときに途中で「カレーにしようかな」と思うことがあります(笑)。同じ食材を買ってきても、作れるものはいろいろあるという。

じゃがいも、人参、玉ねぎって皮を剥くのが面倒くさいからカレーはイヤだって人もいますよ。そういうことは聞いてみないとわからなかったですね。

そのレベルまで料理が苦手な方にはどうアプローチしますか?

「そのレベルまで苦手」って言っても一概に判断できない。何が苦手、何が嫌いって人によって絶対に違うじゃないですか。魚をさばくのは面倒くさくないけど、じゃがいもと人参を剥くのはイヤだって人もいるし。でも、「これは初歩的」「これは簡単」って、みんな決めつけちゃうんですよね。

うんうん。僕は野菜を剥くのを簡単だと思っているけれど、それはたまたま苦手じゃなかっただけの話ですからね。

そうそう。「こんなことが面倒くさいの?」と思うと、無言のうちにイヤな何かを出しちゃうんですよ。すると、相手はバカにされてるような気になって、ますます料理が嫌いになってしまう。特に生活を共にしていると鋭敏に感じ取ります。だから「イヤがることってそれぞれ違うよね」っていう視線を持ってあげると……いや、持って “あげる” っていうのもダメですね(笑)。自然に持てるようになると、家庭でも職場でも人間関係がうまくいく気がします。共同で何かをするのに大事なのは、作業を遂行する力だけじゃないですから。

「こんなこともできないのか」とジャッジしないで「なるほど、こういうのがイヤなのね」とありのままに受け止めて、「じゃあこっちをやってみたら?」と提案したり、「そもそもこれ作らなくていいじゃん」と考えたりすることのほうが大事だと思います。仕事だったらそれでも克服してもらわないと困ることはあるけど、家庭料理だったら、苦手な作業のあるものは作らないという選択もできる。それを「肉じゃがも面倒くさいの?」なんて反応すると、大事な人にイヤな思い出を残しちゃうことにもなりかねない。共に暮らす相手にどう対していくか、その心構えはいろいろあると思うんですね。 そういうちょっとした変化で台所がひらけるし、人生もひらけるんじゃないかって気がします。

同様のお話が第3章の「家庭料理って、つまり何なのでしょうね」の項にあって、とても印象的でした。僕はこの第3章がいちばんグッときたんですが、それは料理を介して他者と関係を結ぶことを語った章だと思ったからです。料理にとどまらず、いろんなことに応用できるお話だなと思いました。

ありがとうございます。この記事、私がどう思うかよりも高岡さんが本をどう感じてくれたかひたすら書いてくださるほうがいいと思う。私もそれを読みたいです。

それじゃインタビュー記事になりませんから(笑)。白央さんが料理に向かうモチベーションは、お母さまが料理好きだったなどのバックグラウンド的なものは別として、どこにあるんでしょうか? 食べるのが楽しい、食べてもらうのが楽しい、作るプロセス自体や買い物が楽しい、いろいろあると思うんですが。

全部ありますね。日によって湧いて来る思いも違いますし。ところが、作りたくない日に作らなきゃいけないとか、作りたい日に作れないとか、作りたいけど面倒とか、人間は複雑でしょう。ひとりだったらその気分に素直に従えばいいだけなんですけど。

お連れ合いがいらっしゃると、そういうわけにもいきませんものね。

これがまた難しくて、「今日は作りたくないから外行こう」って言えればいいんですけど、そう言う自分を責めてしまう日もあるんですよ。「こんなに食べるものが家にあるのに」とか、「金があるわけでもないのに」とか。「今日はやらない」って決めても、決めたら決めたで後ろめたい気持ちは生まれてしまうわけですよね、人間。そこも含めて自分の機嫌を取れるのはなかなかの人生の達人で、そうはいかないからこそ、こんな本の存在理由があるのかもしれません。

なるほど! お連れ合いはものすごく理解がある方ですよね。

理解のある部分だけを書きました(笑)。

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