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これからのフリーランスに必要なのは「売る力」と「AIスキル」。木内翔大(SHIFT AI)インタビュー

これからのフリーランスに必要なのは「売る力」と「AIスキル」。木内翔大(SHIFT AI)インタビュー

日本をAI先進国にするためには?

木内翔大(SHIFT AI)

なるほど。それを伺うと、既存の会社への就職ではなく、起業の方に向いたのも納得できます。そして大学に進み、まず、何から始められたんでしょう?

起業の前に先輩たちを見ておこうと、フリーランスエンジニアとして、いろんなスタートアップ企業や上場する手前の会社とかで働いてました。最初は起業だけを考えていたんですけど、ゼミの先輩から声がかかったんですよね。あとは大きな会社の案件をちょっとやってみたりとかっていう生活を2年くらいかな。併せて起業の準備の一環として、ビジネスアイディアを作るために学生向けのビジネスコンテストに応募したら、いくつか入賞して。その賞品の一つに、3週間のシリコンバレー視察ツアーがあったんですよ。シリコンバレーでGAFAMが全部見れて、他にもスタートアップ企業とか、VC(ベンチャーキャピタル)の人とか、現地のトッププレイヤーの人たちと話す経験ができて。

そのときに「自分がやろうとしてることは本当にちっぽけで、世界を変えるには圧倒的に力が足りない」と実感したんです。当時の日本のスタートアップ業界って本当に赤ちゃんみたいな状態で、本場と比べると規模感が100分の1とかだったから、ここでドングリの背比べしても世界を変えられないし、かといってアメリカに行くのはハードルが高いし、サラリーマンになって海外に行くのも厳しい。じゃあ、まずはスモールビジネスでいいから日本で成功して、グローバルで戦えるような戦闘能力をつけようと決めたんです。

それで2013年に、日本初のマンツーマン専門プログラミングスクールを創業されたんですね。

そうです。プログラミングスクールであれば資本もいらないし、自分にスキルもあるし。何よりAI革命につながるIT革命を加速させるためにも、人材不足が予測されていたエンジニアを育成できれば、少なくとも日本においては貢献できるだろうと。そのころはプログラミング専門のスクールって存在しなくて、いわゆる専門学校の一部門にしかなかったんですよね。専門学校に入るとなると時間も年単位、授業料も百万単位でかかるけど、プログラミングを最短で学んで仕事にしようと考えたら、そんなにかける必要はないんです。当時フリーランスエンジニアは珍しかったけれど、時給も5,000円とか頑張れば1万円とかになったんで、働き方として普通に流行るだろうと。それで「プログラミングを身につけてフリーランスエンジニアになりませんか? 人生変えませんか?」みたいなコンセプトで始めたんです。

マンツーマン専門ということは、特に教室を設けるわけではなく?

はい。本当に家庭教師みたいな感じで、最初はカフェとかで教えてました。プログラミングって教材があれば、基本独学でいけるんですよ。ただ、わからないところが出てきたら質問したくなるので「わかんないところは聞いてくださいね」のスタイルで、週1回授業をやるような感じでした。そのほうが実践的なので、実力がつくんですよね。3年後にはスクールを法人化して、関連する人材紹介とか法人研修とかをやるうちに、プログラミング教育が小学生に義務化され、フリーランスを目指すスクールもめちゃくちゃ増えて。プログラミング教育もフリーランス教育も当たり前になったことで、一定の役割を終えたなと、2021年にスクール事業は譲渡しました。

そして2022年3月に株式会社10Xを設立され、現在は「日本をAI先進国に」を掲げてメディア・コミュニティのSHIFT AIを運営されていると。

今は法人名もサービス名と同じSHIFT AIに変更しました。海外に比べると日本はDXで少なくとも5年は遅れてますし、AIの利用率もアメリカの30%に対して10%と、3倍の開きがあるんです。しかもChatGPTを運営するOpenAIのサム・アルトマンいわく、フォーチューン500の92%がChatGPTを導入しているということで、それと比較すると9倍の差があるんですよ! 孫正義さんも「IT革命の30年=失われた30年」であり、時価総額トップ10に日本企業がゼロになったのは、この30年のIT化に遅れたからだと言っていて、事実、個人GDPも今やアメリカの半分しかない。このまま次のAI革命に突入すると、さらに速い速度で進化が進んでいくので、利用率が9倍違ったら経済規模は10倍、20倍変わってくるだろう。それって相当ヤバいことじゃないか……ってことですね。

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2023年が生成AI元年なら、2024年はまだ2年目

木内翔大(SHIFT AI)

ChatGPTの登場は人々に衝撃を与えましたが、子どものころからAIにつながるITに触れ、AIの可能性に気づいていた木内さんからすると、驚きというよりは「やっぱり来たな」といった印象だったんでしょうか?

「思ったより早く来たな」って感じでした。いわゆるプレ・シンギュラリティですね。ディープラーニングの段階では、本当にシンギュラリティにつながるのか、まだ、わかっていなかったんですよ。まだまだカスタマイズが必要で、汎用人工知能とは呼べないという認識だったのが、ChatGPTが出てきたときに「これはブラッシュアップしていけば、シンギュラリティに到達するな」という確信に変わったんです。しかも思ったより早いな、シンギュラリティは2045年って言われてたけど、2035年には余裕で到達してるだろうし、もしかしたら15年くらい早まったかも……みたいな感覚でした。

登場自体への驚きではなく、早さに対する驚きであり、だからこそ遅れを取っている日本の状況への危機感も増した。そこで生まれたのがSHIFT AIなんですね。

そうですね。私のXアカウントが月間2,000万インプレッションあるので、それを通して数百万人の日本人の方にAIの可能性を届けて。そこでAIを学びたいと思った方々に、コミュニティ型のスクールであるSHIFT AIを提供しているという流れです。今は入会金システムを取っていますが、買い切り型なので月会費とかはないですし。今月も120人くらいは入るんじゃないかな? 前月200人ぐらい入っていて、今ちょうど千人ぐらいですね。

SHIFT AIでは具体的に、どんな授業が受けられるんでしょう?

説明がちょっと難しいんですが、前職のスクールとは違ってコミュニティ型を取っているので、そこにいろんな講師を呼んできてウェビナー形式で授業をしてもらってます。SHIFT AIって日本で講師数が一番多くて、70人くらいいるんですね。なので、いろんなジャンルの授業ができるし、それが毎月10本ずつくらい追加されていくんです。例えばライティング領域のインタビュー記事作成だったら、その工数を5分の1にしてほぼ半自動でやる方法を教えます!っていうウェビナーを1時間半やるとか。

個人的に、メチャメチャ参加したいですね……!

ですよね? それができれば作業が効率化されて、請け負える案件の数が増えるぶん、時給も跳ね上がる。副業でやるにしても自分の本業に組み込むにしても、生産性が上がれば時給も上がるので、収入に直結するんです。そういった実践的な使い方を、個人向けと法人向けに分けて、教材としても公開しているし、リアルタイムの授業としてもやっているんですよ。

結局、AI活用が進まない一番の理由って、利用方法がわからないからなんですね。ということは、それぞれの業務に使えるところまで解像度を上げて、利用方法を教えてあげれば使ってもらえる。となると無数の授業が必要になってくるので、コミュニティ型にして、外部パートナーを講師に招いているという形ですね。まだ今は月10本ですけど、今後は月30本、最新の授業を提供するのを目標にしています。もちろん動画教材はすべてアーカイブが残るので、結果的に何百本と溜まっていくんですよ。

フリーランスの人間にとっては、かなり有用性が高そうですね。

フリーランスはめちゃくちゃAIと相性いいですよ。生成AIを使えば生産性が上がるし、フリーランスの場合、生産性がイコール時給に直結するんで、自分の年収を2倍、3倍に上げることができる。そのためにはAIスキルを持っていないといけないけれど、自分の業務に適したツールを使うことができれば、達成できるんじゃないですかね。

木内翔大(SHIFT AI)

フリーランスということは、何かしらの専門領域があるわけで、例えばデザイン、動画編集、ライティングそれぞれにAIツールがあるし、それぞれに有用なプロンプトの書き方があるんです。僕らはAIスキルをプロンプトエンジニアリング、AIツール活用スキル、AIマネジメントスキルの3つに定義していて、マネジメントスキルはちょっと難しいんですけど、ChatGPTのような汎用AIツールと専門領域に特化した専用AIツールを組み合わせられれば、業務効率が2、 3倍、下手したら10倍とかになってくるんです。必要な経費もツール代くらいなんで、月額数千円で済みますし、大体どれも無料で試せますから、無料分を超えたら課金すればいいレベルですね。課金しても1万とかいかないんで、余裕で回収できますよ。

今回のインタビューではAIの可能性についても伺いたかったのですが、お話を聞いていると可能性の域を超えて、もはや必要不可欠なものにもなっていく気がしました。

そうですね。エンジニアリングにおいてもAIを使うか使わないかで生産性がまったく変わってくるので、みんな使わざるをえない。よく「AI失業が始まる」と言われていて、日本ではそこまで急激な変化はないでしょうけど、AI転職氷河期みたいなものは絶対に来ますから。特に大きな会社だと、社内でのジョブシェアリングも進んでいくはずなので、おそらく2、3年のうちに業務の半分ぐらいをAIにやらせる方向になっていくんですよ。そうなると社内で半分ぐらいの人間は新しい仕事を見つけないといけなくなるけれど、転職先を見つけづらい業種もあるでしょうし、フリーランスだと仕事も取りづらくなる。だから、そこまでにAIを「使える」側に回らないとマズいんです。

人間の仕事をどんどんAIが代替していく中で、では、フリーランスが自分の特異性だったり市場価値を維持するためには、どうすればいいんでしょう?

下流の仕事はAIに奪われるとして、中流にはプロジェクトマネジメントやマネージャー的な仕事があるんですね。そこではコミュニケーション能力とか企画力が必要になってくるので、まずは営業スキルや企画力を伸ばしていくことでしょうか。ただ、そこも今後AIに取って代わられることになるでしょうから、最終的にはAIを従えて経営側に回る、いわゆる上流にシフトしていくことが必要でしょうね。それには思考の転換が必要になるので、難易度が高いと言うのであれば、この過渡期のうちはAIで業務効率を上げて時給を上げればいいんじゃないかと。ただ、そのためには仕事をバンバン取ってきて、件数をさばくことが必須だから、やっぱり営業スキルは身につけないといけない。もし対人が苦手だったら、代わりに向こうから仕事が来るようなマーケティングスキルが必要で、結局どっちにもAIが使えるんですよ。

いずれにしても、自分もしくは自分の会社をいかに上手く、魅力的に見せて売っていくか?というスキルは重要になってきそうですね。

その通りです。営業力とかマーケティング力とかっていう「売る力」さえあれば、納品までの実作業はAIと一緒にやればいい。そこに業務成績を上げられる「AIスキル」を掛け合わせられれば、これからのフリーランスはすごく強いと思いますね。

よく言っているのが、2023年が生成AI元年だとすると、2024年ってまだ2年目なんですよ。IT革命は30年以上過ぎちゃってるので、今から参入して30年選手と戦うのは厳しいけれど、AI業界ならスタート地点はほぼ同じだから、今のうちに慣れ親しんで情報をキャッチアップした方がいいのは間違いない。インターネット革命が起きて、みんなインターネットを使うのが当たり前になったじゃないですか。それと同じで、今はAI革命が来ているんで、これからの30年はAIを使わないことはあり得ない。だったら早いうちから使いましょう、AI時代の先行者利益を取りに行きましょうとお伝えしたいです。

木内翔大(SHIFT AI)

撮影/中野賢太@_kentanakano