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水曜日のカンパネラ「エジソン」MVから日清食品CMまで。映像作家・渡邉直のオリジナリティとは?

FREENANCE MAG 渡邉直

「信用できる」から日清CMに起用

FREENANCE MAG 渡邉直

水曜日のカンパネラと同じチームのシャンユーさんのMVも手がけられていますが、そうとう遊んでいる印象です。

シャンユーの映像がいわば、僕のやりたいこと、っていう感じですね。ケンモチさんの曲で僕がまったく誰にも干渉されないで作るとああなるんだな、みたいな。カンパネラも干渉はされてないけど、いろんな人の手が入ってるから。シャンユーのMVは自分でカメラもやったり、カメラマンの横山マサトくんと二人でやったり。シャンユーにはナレーションをよく読んでもらってるんですよ。GUのCMとかそうですね。

無数のシャンユーさんが動き回る「ひじのビリビリ」なんてすごいです。

あれコピペいっさい使ってなくて、全部違うんですよ。地面にメモリを引いて、リップシンク、座り、中腰、ちょっと中腰、立ち、っていうのを全部で28カ所やってもらいました。場所によってレンズのパース感が変わるし、コピペだといかにもって感じでおもろくないから。シャンユーは大変そうでしたけどね。あの元気な彼女が終わったときには疲れ切ってましたから(笑)。

最初の「プーパッポンカリー」も面白い。

あれも低予算だったんですけど、ロケに行って、オープンマウス、クローズマウス、クローズハンド、オープンハンドで4枚撮らせてもらったのを動かしたんですよ。コマ撮りのところも僕はいちいちチェックしないで、制作スタッフみんなそれぞれにやってました(笑)。

で、ここからめちゃくちゃ面白い話で、これがチャプター3なんですけど、「プーパッポン」がくさびになってるんですよ。当時そこまで再生数もあまり伸びてたMVでもなかったし(いまは10万超え)。ところが、なんと日清食品の担当者が見てたっていう。社長さんなのかな?

あははは。さすがです!

意味わかんないですよね(笑)。日清担当のクリエイティブディレクターの鈴木晋太郎さんも見てて、「こういうのを作るやつは信用できる」って言われて、日清のCMが決まったんですよ。

日清の社長さんは面白い人みたいですね。

お会いしたことはないんですけど、話聞いてるとやっぱ勘がいいし、僕よりもディレクターなんですよね。たぶんすっごいアンテナを張ってらっしゃるんだと思います。もちろんカンパネラ関連だからっていうのはあったかもしれないけど、そこが届くか、と思って。最初は日清焼そばU.F.O.で、輝夜月ちゃんとマキシマム ザ ホルモンのコラボCMをやらせてもらったんですけど、それも「『ディアブロ』っぽい感じがいい」とか言ってくださって、けっこうカンパネラまわりでやらせていただいたことが次のステップにつながってるんですよね。

カンパネラまわりでされている仕事が、いちばん渡邉さんの映像作家としての個性がストレートに出ているんですかね。

間違いないでしょうね。僕も作りやすいですし。

そう考えると組む相手は大事ですね。

本当にそうです。いろんな人に声かけてほしいですし、作った映像は全部気に入ってますけど、単純に相性がいいんでしょうね。アイナ(・ジ・エンド)ちゃんとかも相性いいなと思うんですけど、何かあるんでしょうね。

サザンのMVも撮られていて、すごいなと思いました。

あれも「エジソン」がきっかけなんですよ。「あ、現代の日本でバズるってこういうことなんだな」みたいな。あのちゃんなんかも続いたし、たぶんその流れでいただいてる仕事だと思うから、ほんとつながるんだなと思って。サザンから何につながるのか楽しみです。

面倒な経験をされたことはあんまりないですか?

あんまりないかもしれませんね。全然面倒な経験ではないんですけど、ラッパーのD.Oさんがフィーチャリングした曲のMVを撮ったときに、ボス感を出したいから、練マザファッカーのみんなでD.Oさんを台車に乗せて登場させたい、って話したら、「うちのボスを台車に乗せるってどういうことだよ!」「おまえ、なめてんのかよ」と言われてしまって……。そこで、D.Oさんが「まあまあまあ、落ち着けメーン」「監督さ、これ台車以外何かないんかな。もっとさ、こうさ、照明のかっこいいところでバッと出るとかさ、そういうほうがいいかも」と言ってくださったので、「ちょっと考えます」と。

ものまねがうまい(笑)。

好きなんですよ、D.Oさん。ラジオでも話してくれてましたね。結局、ゲーセンでD.Oさんが鎮座してて、そこにカメラが入ってきてラップする、かっこいい感じになりました。

コミカル要素は渡邉さんの大事な個性の一部ですよね。

そうなんですけど、全部コミカルだとチープになるんですよね。絵作りがちゃんとしてないと成り立たない気がします。「これ、絵作りしっかりしてるのに、なんかおもろいな」のほうが中毒性がある。そこはけっこう気をつけてるかもしれないですね。日清にしても、いろいろ突飛なアイデアが方々から降りて来るんですけど、それを絵として整えるのが僕のひとつの仕事です。

カンパネラもやってることはくだらないけど、一枚絵はけっこうちゃんとこだわってるんですよ。「ジャンヌダルク」にしても「エジソン」にしても、そこは気にしてるかも。例えばおもしろさとかっこよさ、おしゃれさなど要素があるとしたら、料理みたいにその調合には気を遣ってますね。

目指すは、ピッケル理論

FREENANCE MAG 渡邉直

今後、こんなものを作ってみたい、みたいなヴィジョンはありますか?

最近はストーリーものをやりたいなと強く思ってます。最近のMVで言うと、マカロニえんぴつ(「リンジュー・ラヴ」)とかback number(「怪獣のサイズ 」)とか、ドラマにチャレンジはしてるんですけど、MVだとちょっと尺が足りないし、役者さんがせっかくいい芝居してても泣く泣く切らなきゃならなかったりするんですよ。CMにも同じことが言えるんですけど。役者さんのいい芝居を長く撮りたいなっていう思いが最近強いから、もう少し尺の長いストーリーはやってみたいですね。

『世にも奇妙な物語』に戻ってきましたね。

パフォーマンスがいいときは、その人の動きと表情が見えてればいいと思ってて、できるだけ切らないことを大前提にしてます。なるべく切らない、切らない、切らない……で、ここで顔の寄りを見せたいから切る、みたいに、カットにはわりと明確な理由があるかもしれないです。1枚ワンカットで成り立つのがとりあえずベスト。曲に添ってかっこよければポンポン切り替えますけど。

自分がダンスをやってたこともあり、音の取り方や音ハメには少々こだわりがありますが、基本的にはできるだけ割りたくないタイプかなあ。きゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんの「一心同体」も最初ずっとワンカットだし、femme fataleの「鼓動」もそうだし、「エジソン」もけっこう長回ししてるし、同じくカンパネラの「カメハメハ大王」も1番はずっとワンカットで、意外とそういうほうが多いかもしれません。同じ絵が続いて、ちょっとした変化がそこで起きるほうが、トランスが生まれるというか没入できる気もして。

ちょっとずつ変わっていくというのはダンスミュージックっぽいですね。

そうそう。曲によるっていうのはそういうことなんです。

ダンスをフィーチャーしたMVが多いのも、もともと渡邉さんがダンスをやっていたことと関係があるんでしょうか。

いろんなジャンルのダンスをやってたこともあって、この曲だったらこういうダンス、みたいのがわりとすぐ思い浮かぶかもしれないですね。さっき「エジソン」はハウスダンスって言いましたけど、きゃりーちゃんは鏡面ダンスやりたいと思ったし、あのちゃんのマックのCMでは、手元だけで表現するタットをやりたいなと思ったし、最近いただいてる曲ではこれ絶対ポッピンが合うな、とか。そういうのが最初に思い浮かぶから、ダンスの要素が増えてるのかもしれないですね。児玉裕一さんのような先輩方がいらっしゃったおかげで、ダンスってやっぱりMVと相性がいいんだな、という気づきもあったし。

最後にベタな質問ですが、これまで作ってこられたMVやCMのなかでとくに気に入っているものというとどれですか?

やっぱりシャンユーっすね。カンパネラの「ジャンヌダルク」とか、最近だと「エジソン」もよくできたと思います。あとfemme fataleをはじめ、戦慄かなのまわりの映像も好きですね。ストーリーライトもできて、CGもできて。でもCGって難しくて、満足な水準に達するのがめちゃくちゃ大変だから、ちょっと100点とは言いづらいんですけど。そこはまだ勉強中です。でもシャンユーの「ひじのビリビリ」と「プーパッポンカリー」がパッと出てきますね。

低予算で、手法はプリミティブで、アイデアが冴えている感じ。

ピッケル一本で山登ったぞ、って言いたいんですよ(笑)。装備十分で高い山に登っても「よく頑張ったね。でもまあ、そんだけあったらいけるよな」みたいな感じだけど、少ない予算、少ない労力ででっかい成果を出して、「え、それで登ったの?」みたいなのが快感ですね。そういう意味でシャンユーの2曲は……あ、でも「エジソン」のほうがエビでタイを釣った感じはあるかな。誰も狙ってなかったんで、あんなにバズるなんて。

CMでは(池田)エライザさんがやってくれたUCCとかすごく好きなんですけど、あれもよく考えたらケンモチさんの曲使ってるんです。最近だとマネスキンの曲を使わせていただいたUCCはけっこう気に入ってます。あれはホワイト・ストライプスとかカイリー・ミノーグとか、平成の名MVのアイディア全部入りみたいな感じでできたから。答えはやっぱり過去見てきたものの中にある気がしますね。それを自分なりにどう転用するかというのがオリジナリティであり、引き出しかなって思います。

好きな映像作家は?

映画監督の藤井道人さん。『新聞記者』とか『ヴィレッジ』とか『ヤクザと家族 The Family』とか、最近めっちゃ見てます。あとYUANNさん。日本でいちばんグローバルな演出してる人なんじゃないかな。ユーモラスだけどかっこいいんです。

あとはやっぱり燦然と輝く辻川さんですかね。コーネリアスの「無常の世界」は、物を落としたのを照明を変えながらいろんなアングルで撮って、同じ平面上に配置すると「重力どうなってんの?」みたいになるっていう。やってることはすごくプリミティブなんだけど、使い方が本当にうまい。「eyes」なんて、まばたきの映像素材だけを使って、タイミング変えてるだけですから。ピッケル理論の最高峰ですね(笑)。憧れます。

FREENANCE MAG 渡邉直

撮影/中野賢太@_kentanakano