不況に動じず、フリーランスが安定して仕事を得るには? キャリア26年の辛酸なめ子さんに聞いてみた。

フリーランスは、なによりも「安定した継続」が難しい。特に最近は新型コロナウイルス騒動で、収入の変化に大きな不安を抱えている人も多いはず。

独立2年目・小沢あやの連載『フリーランスな私たち』第4回のゲストは、コラムニストの辛酸なめ子さん。26年間、コンスタントに本を出し続け、連載も多数継続している彼女に、長く仕事を持続させるための思考法を伺いました。

仕事量や収入が沈んだら「インプットの時期」と割り切ってみる

小沢

フリーランスで働いていると、仕事量や収入に浮き沈みがあります。キャリアが長い辛酸さんですが、これまでのご自身の仕事を振り返って、波はありましたか?
たくさんあります。一時的に仕事が少なくなったり、増えたり。でも、「地道にやっていけばまたすぐ次の良い波が来る」と考えて、なんとか乗り切っていますね。

辛酸さん

小沢

仕事が沈んでいると感じるときは、どんなことをしているんでしょうか。営業活動とか……?
私は頑張り過ぎても空回りしてしまうタイプなので、自分から仕事を得るための営業はしたことがないんです。実は最近も新型コロナウイルスの影響で出張案件がすべてなくなったので仕事は減っちゃったんですけど、基本的に受け身・待ちの姿勢でいますね。

辛酸さん

仕事が減っても、基本は待ちの姿勢

小沢

新規案件が入らないと、気持ちが焦ってしまう人もいます。私もそうなんですが、辛酸さんはどうやって気持ちの折り合いをつけていますか?
時間の余裕ができたから、「インプットの時期」に当てようと、ポジティブに考えるようにしています。外出自粛中でもネットの世界に目を向ければ、学ぶ手段はいくらでもあるんですよね。自分の興味があるジャンルを勉強する時間を、積極的に作るようにしています。

辛酸さん

小沢

フリーランスだと会社員のように社内研修とかもないし、強い意志がないとなかなか新たな学習はできないですよね。学び続けているの、すごいです。最近はどんなジャンルを勉強しているんですか?
最近もリモートで、データサイエンティスト講座を受講しました。

辛酸さん

小沢

データサイエンティスト!?
データサイエンティストって、なんかかっこいいな……っていう気持ちだけで始めました。初級講座だったのですが、復習として高校の数学の例題が送られてきました。その部分で挫折してしまったのですが、AIやデータ解析の現状について学べて良かったです。

辛酸さん

「売れる」だけが正解じゃない。安定感と謙虚さが大切

小沢

新型コロナウイルスのような社会的影響だけでなく、年齢についても不安になることがありませんか?フリーランスは40歳過ぎると行き詰まる説などがありますよね。自分も、漠然と将来への不安を感じることがあります。辛酸さんは、どうですか?
あまり、気にしたことないですね。私は著書がベストセラーになってドーンと売れるとか、ちやほやされるとか、わかりやすい成功して良い思いをしていないからかも(笑)。やっぱり一度売れると「今がピークなんじゃないか」と本人も不安になるだろうし、その後に「終わった人」として見られてしまうこともあるんじゃないかなと思っています。

辛酸さん

小沢

「売れる」だけが正解じゃない、と。
お取引先の出版社の方には「私がもっと売れたら貢献できるのにな」という申し訳なさはあるんですけどね。でも私、バズったことはないんですけど、締め切りをしっかり守るとか、一つのひとつの仕事を真面目にやっています。原稿も、前倒しで。まず、相手の気持ちを考えるようにしています。

辛酸さん

小沢

「大御所やベテランほど締め切りを守る」という声、たしかによく聞きます。辛酸さんから見て、ずっと安定して書き続けている人の共通点はありますか?
発想や視点が面白いと注目されても「実はクスリやってるんじゃないか」と噂がたつレベルに不安定だとか、お酒に溺れているとか、暴力的だとか、危うさがあると難しいんじゃないですかね。ユニークな作品を書きつつも、締め切りをしっかり守るとか、相手を安心させられるようなコミュニケーションとかは必要だと思います。

辛酸さん

小沢

取引先や同業者の方々との「お付き合い」的な部分ではどうですか?
あまり人付き合いが得意ではないので飲み会などに誘われることもないのですが、今、一緒に仕事をしている方にはメールに季節の挨拶を入れるとか、ちょっとした雑談を交えたりしています。同業者の方には「重版決まりました!」とかイケてる感じを出しすぎると反感を買うこともあるので(笑)、SNS上ではあんまり仕事の話はしないですかね。ときには弱みを見せる、くらいがちょうどいいのかもしれません。

辛酸さん

小沢

そうなんですね。アピールとか自慢のつもりはないですが、フリーランスは実績が命なので、私はどしどし仕事の実績をSNSに投稿する派です。辛酸さんは、同業者の活躍に対して、嫉妬することってあるんですか?
嫉妬ではないんですけど、正直羨ましい気持ちはあります。パーティーで「『テレビブロス』の連載いつも読んでます!」と言われたり、他の売れている著者さんと間違えられたりすることもあります。私は『テレビブロス』で書いていないんですが……。でも、「他人の功績を私の仕事だと思い込んでくれているなんてラッキー!」と、ポジティブにとらえるようにしています。最初はいちいち否定していたんですが、人の思い込みってなかなか変えられなくて……。

辛酸さん

小沢

斬新な発想!!!

「自分のギャラは、できるだけ知らないようにしています」

小沢

ギャラ交渉など、お金周りについて意識していることはありますか?
出版業界って、ギャラを事前に聞いたり、交渉したりする文化がないんです。だから、私もなかなかしたことなくて、ずっと言われた通りに受けてきましたね。

辛酸さん

小沢

辛酸さんのようなベテランでも、そうなんですね。私は明確に基準は設けていないものの「作業時間にベビーシッターを頼んだら赤字」ラインの案件はやんわりお断りしています。「私のギャラ、安過ぎ……?」とモヤモヤすることはないんでしょうか。
お金のことは気にしないで、できるだけギャラが振り込まれてからも、その金額を見ないことにしています。「この仕事こんなに安かったんだ……」と思うと、自分がショックを受けちゃうだろうし、今後の仕事に対するモチベーションが低くなるかもしれないので。

辛酸さん

小沢

フリーランスは人事考課がないだけに売り上げが目標になりがちですが、「お金は気にしない」という辛酸さんは、潔いですね。では、一体何を基準にお仕事を選んでいるのでしょうか?
基本的には、第一印象で「楽しそう」「できそう」と感じられる仕事は積極的にお受けしています。全然知らないジャンルの場合は、不勉強なことを理由にお断りすることもありますけど。

辛酸さん

「お金のことは、あまり気にしないようにしています」

小沢

「これヤバそうだな、断ろう」っていう案件はありませんか?納期やギャラが不明瞭とか、担当者がいきなりタメ口メールをしてくるとか、コピペ依頼なのか名前が他の方になったままだったりとか、私もたくさんあるんですよ。辛酸さんは、どうやって「ヤバそう」な危機を察知してますか?
怪しい人、いましたね。「辛酸さんのマネージャーをしたい」と言ってきたんですけど、よくよく話を聞いたら、「それって私が抱えている既存仕事のギャラを中抜きするだけじゃないですか?」って思ってしまうケースもありました。

辛酸さん

小沢

私も「マネジメント・事務作業代行します」というメールが来たこと、過去にありました。謎ですよね……。
だから私は、仕事だけに関わらず、普段喫茶店で隣のテーブルから聞こえてくるあれやこれやの勧誘などに耳を澄ませて「怪しい人はこういう言葉を巧みに使うんだな」とか、審美眼を鍛えています。

辛酸さん

国内外のメディアを読んで、価値観をアップデート

小沢

ずっと書き続けている辛酸さんにこそ相談したいことがあって。言葉を扱う仕事は、常に思考のアップデートが必要だと実感しています。例えば少し前によく使われていた「○○女子」とかも、今はちょっと時代にそぐわなくなった気がします。辛酸さんは、どうやってご自身をアップデートしていますか?
ニュースを追っています。日本だけでなく、海外メディアの記事も読むようにして。海外セレブの発言とかを調べるうちに、「こういう発言が支持されているんだ」「価値観って、今こうなんだ」と、時代の空気を読んでいますね。

辛酸さん

小沢

昔、自分が書いたものを読んでどうですか?私は「今の自分なら絶対書かないし、意見が変わったな」って思う原稿があって、罪悪感を覚えることもたくさんあるんです。
私も、今だったらヤバイ原稿たくさんありますよ。当時は雑誌がネットに転載されない時代でよかったです。でも、それぞれ時代や価値観が違って、当時のニーズに合わせて書いたものですから、あまり気にしないようにしています。あとは、大昔の雑誌を読み返す人もあんまりいないだろうと思って、忘れることにしてます(笑)。

辛酸さん

# 編集後記

私は女子校出身だったこともあり、辛酸さんの『女子校育ち』を発売当初から読んでいました。そこから他の著書もたくさん読むようになったのですが、独自視点でずっと書き続け、新たな領域でコンスタントに本を出していらっしゃることを尊敬しています。

辛酸さんとお会いするのは3回目ですが、常に敬語で落ち着いたトーンで接してくださいます。「作品がユニークでも、堅実・真面目な辛酸さんだからこそ仕事が途切れないのだな」ということがわかり、さらにファンになりました。

取材・文/小沢あや(@hibicoto)撮影/須合知也

辛酸さん著書
『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)
ブームを超えた“スピリチュアル”の世界を、人気コラムニストの辛酸なめ子が徹底分析!スピリチュアル界の旗手でもある著者のユニークな視点に注目。

『愛すべき音大生の生態』(PHP研究所)
音大という一般人には知り得ない秘密の花園を舞台に繰り広げられる、「愛すべき変人」集団・音大生の生態。そこに辛酸なめ子が独自の視点で迫る、ありそうでなかった音大生解体新書。