音楽や相撲の記事を書いてきたライター和田靜香さんが衆議院議員の小川淳也さん(立憲民主党)と討論した『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)が話題を呼んでいます。
発売前に増刷が決まり、発売1カ月で5刷も決定。政治本としては異例のヒットになっていますが、それ以上に、SNSを見ると「すごい本だ」「一気に読んだ」など、多くの人たちがアツい感想をつぶやいているのが印象的です。
どうしてそんな「アツい政治本」が生まれたのか、和田さんに聞きました。言葉遣いがお互いにかなりカジュアルな箇所がありますが、筆者が音楽雑誌の編集をしていた二十数年前からの古い知り合い同士ということでご容赦ください。
相撲・音楽ライター。千葉県生まれ。著書に『世界のおすもうさん』、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。
https://twitter.com/wadashizuka
苦しみも書かないと、わたしが書いてる意味がない
執筆のきっかけは去年「AERA dot.」でやった小川議員へのインタビュー(※)なんですよね。彼を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を和田さんが見て、アツいツイートを頻繁にしていたのをよく覚えています。
※AERA dot. 映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題の小川淳也衆議院議員 涙で語った娘の一言「父が総理大臣になったら…」(前編)(後編)
詳しくは本に書いたんですけど、わたしはライターとアルバイトでもともと生活が不安定だったんですよ。そこにコロナ禍がやってきて、状況はいつになっても好転しないし、バイトもクビになるしで、かなりまずい精神状態でした。そんなときに映画のプロデューサーの前田亜紀さんから小川さんにインタビューしないかってお話が来たんですけど、いざ会ってみたら本当に映画のまんまの人でね。弱音を吐きながら「あきらめそうになるけど、あきらめません」って何度も何度も言うんですよ。面白いな、いい人だなと思って、その後に政策動画を見たら、そこでもいい話をしてました。希望を感じて、小川さんの本を書きたいと思ったんです。
秘書の八代田京子さんに宛てて手紙を書いたんですけど、最初は「和田さんに迷惑がかかるから」って断られちゃって。前田さんにそう言ったら、「きっと八代田さんは本が売れなかったら申しわけないって心から思って遠慮してるんだよ。もうひと押ししてもいいんじゃないの?」って言われて、今度は小川さんと両方に手紙を書きました。そしたらOKが出てやることになった、というのが始まりです。
インタビューというか、和田さんは「面談」、小川さんは「デスマッチ」と呼んでいたそうですが、お二人の対話を軸にした形になったのはどうして?
わたし、自分でも不思議なんだけど、本当に何も知らない、何も考えてない状態で衆議院議員会館に行ったんですよ。ただひたすら苦しくて不安で、精神状態がやばかった。こないだトークショー(※)で小川さんに「カウンセリングに来られたのかな」って言われたけど(笑)、もしかしたら、ただその感情をぶつけたかったのかもしれない。
ところが、いざ対面すると何も言えないんですよ。本に書いてあるのはテープ起こしのまんまです。「何が聞きたいの?」って聞かれても「わかりません」。小川さんも絶句しちゃって、しばしうつむいた後で小川さんは顔を上げて、わたしが何に困ってるか、不安に思ってるかを具体的に書き出してほしい、そこから一緒に考えましょう、って言って隣の部屋から何冊か本を持ってきて貸してくれたんです。だから、この本は「企画:小川淳也」なんですよ(笑)。
読む前は、生まじめで優秀であるがゆえに硬くなりがちな小川さんの政策や主張を、和田さんの文章力とキャラクターを通してわかりやすく伝える本を想像していたんです。ところが読んでみたら全然違って、面談を重ねながら二人が互いに学び成長していく過程を克明に記した対話篇みたいな本でした。
最初は話し合いもできなくて「小川さまのおっしゃる通りです」みたいな感じでしたけど、毎回勉強したし、慣れもあって、だんだんと「わかんない!」とか「何それ?」とか「それは違う!」とか言えるようになっていったので、それを対話形式で書こうと思ったんです。それでもやっぱり話が難しいから、解説的なこともちょこちょこ挟みながらね。でも、わたしみたいなエンタメや相撲のライターが国会議員に政策の話を聞くなんて、やっぱり尋常な気持ちじゃできないんですよ。
小川さんはこの1年でどんどん人気者になっていって、いまやちょっとしたスター議員になったけど、テレビやネット番組で討論するときの小川さんは、立て板に水で丁々発止やってるわけですよ。なのに、わたしが相手だとバカみたいな話に付き合わせることになっちゃって、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。もともと「自分なんかでいいんだろうか」っていう悩みもあったし、苦しくて苦しくて。バカっぽくて見えてもかまわない、その苦しみも書かないとわたしが書いてる意味がない、と思って、コラムを挟んでいって感じたことや考えたことを全部書いちゃいました。「企画:小川淳也」だけど「構成:和田靜香」ではあります(笑)。
政治を「我がこと」として考える
最初から何度か面談をすると決まっていたんですか?
そう。秘書の八代田さんがグイグイ時間を取ってくれました。毎回テーマを決めて事前に質問を送るんですけど、やる気を見せるというか「こんなに調べてるんだよ」と知らせたほうがいいと思って、自分が調べた大量の資料を全部コピーして、毎回、事務所にガンガン送りつけてたんです。そうして2日前ぐらいに質問をメールして、面談に臨むと。
小川さんが「これは和田さんの成長物語」と言った通り、面談を重ねる中で和田さんがみるみる変わっていって、小川さんも触発されて変わっていきますよね。その過程が率直な筆致で記されていることが「読まされる」的な面白さを生むのかなと。
確かに。原稿を書き進めながら『なぜ君』の大島新監督にも読んでもらってたんですけど、間に挟んだわたしのコラムを「和田さんの苦しみや成長が読ませる」って言ってましたね。小川さんは「この本を読む人は和田さんの体験を追体験して、一緒に成長してほしい」とか「第2、第3の和田靜香が出てきてほしい」とか言ってました。想像してみると、第2、第3のわたしが出てきたらすっげえ世の中がウザくなりそうだけど(笑)。
それこそが小川さんの望みなんですよね。もっと困らせてほしいという。
本当にそう。「この本で追体験をして政治を我がこととして考える人が増えてほしい、もしそれが叶ったら自分は政治家を辞めてもいい」とさえ言ってるんですよ。
和田さんも「これが民主主義なんだ」と書いていますが、その実感を持てるようになったのは何ものにも代えがたい経験ですよね。
それを最初に思ったのは、本にも書いたけど乗り換えの飯田橋駅なんですよ。「でも民主主義って何だろう?」と思って、取りあえずガシャポンやって (笑) 。乗り換えの途中にあるんだけど、いつもそこを通るときに何があるか必ずチェックして、アンパンマンのガシャポンは毎回やるんです。好きだから。