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いつだってやり直せる - 日本最大級フリーランスコミュニティ“FreelanceNow(フリーランスナウ)”代表・黒田悠介はこう考える

FREENANCE MAG 黒田悠介(FreelanceNow)

フリーランス研究家という肩書をもち、6,000人を超えるフリーランスが所属するコミュニティ“FreelanceNow(フリーランスナウ)”を発足するなど、リアルなフリーランス像を熟知しながら業界の活性化に貢献されてきた黒田悠介さん。この2月に「ライフピボット」を出版されました。心理学や社会学などの知見をもとに体系化し、転職も独立も「ピボット=方向転換」というとらえ方をすることで、肯定できる自分だけのキャリアパスを描けるようになることがよくわかる一冊です。働く人がもっと自由に、かろやかにピボットし続けるためのスキルセットは何か、今日は著書の内容もとりまぜながらお話をうかがってきました。

profile
黒田 悠介(くろだ ゆうすけ)
東京大学文学部卒業。「フリーランスを実験し、世に活かす」という活動ビジョンを掲げて、自分自身を実験台にしているフリーランス研究家。多彩なメンバーがディスカッションでつながる「議論メシ」、新規事業に特化した1on1の「ディスカッション・パートナー」を主宰。様々なテーマと参加者で、毎月20回ほどの議論イベントを開催している。フリーランスコミュニティの先駆者。
https://www.amazon.co.jp/dp/429501088X/
http://www.gironmeshi.net/
https://www.discussionpartners.net/

何が起こるかわからない時代に

本を読みながら、ハッとさせられる瞬間が何度もありました。「蓄積と偶然がキャリアの転換を実現する」という一文がありましたが、これまでの「一つの企業に長く勤める」といった価値観についてはどうお考えになりますか?

はい。もちろん、そういった価値観は認めます。専門性を極めて、長く一つの仕事を続ける方々がいなければ社会が回っていかないことも事実なので、それも選択肢だと思います。ただその一方で、今は世の中の変化が早くなっていたり、それこそVUCA(ブーカ)の時代といわれるように、何が起こるかわからない現状があります。

今回のコロナのように、オンラインでしか仕事が出来なくなったといったような変化に直面したときに、自分の中に蓄積してきたストックがないと、いざというときに転換(ピボット)ができません。大手企業でも、もしかしたら通常の就業スケジュールと同じように働けなくなるかもしれないので、先が予測できないからこそ、転換できるように備えておく、ということを本書でも伝えています。

仮に、一社に長く勤めていたとしてもあてはまりそうですね。

そうですね。社内でもちゃんと自分を知ってくれている人を増やすとか、もっているスキルを高めておいて、「これだけスキルがあるなら、次はこの部署で」などと周囲にもわかってもらえれば、企業内でも転換ができます。自分の中にストックがあれば、対応可能な領域が広がっていきますから。

時間がかかっても、ちょっとずつちょっとずつ、半紙を重ねていくようにゆっくり蓄積していければいいと思います。意外と仕事を「繰り返し」にしていっているケースって多いと思うのですが、「繰り返し」ではなく「積み重ね」に。そういった考え方を取り入れたいと思っていますね。

なるほど。「積み重ね」を継続するために、心がけたほうがいいことはありますか?

そうですね。具体的に言ってみると、本書の中で「3つの蓄積」という言い方をしているんですけど、「今日の仕事で自分は少しでもスキルセットが高まったものがあるんだろうか?」とか「今日の仕事を通じて、人的ネットワークが広がったんだろうか?」や「自己理解が深まったんだろうか?」など、一日の終わりに数分だけでもいいので、自分を客観的に見る時間は必要かなと思います。

ライフピボット
思わず手に取ってみたくなる一冊

「弱いつながり」の強さ

著書では、ヒューマンスキルや人的ネットワークの重要性についても説かれていますが、一般的には、会社員よりも人間関係から解放されるといわれるフリーランスにも「人とのつながり」は欠かせないものでしょうか。

はい。まず、フリーランスという観点でいうと、私もそうなんですけど、仕事を得るときは、たいてい人とのつながりがきっかけになっています。自分で積極的に営業をかけたり、マッチングサービスの利用や経営者の交流会に出かけるといったようなやり方も色々ありますけど、やっぱり既存の知り合い、私は人的ネットワークと呼びますが、そこからの仕事が大半です。

そういう意味では、フリーランスになったからこそ、人とのつながりは大事にしなければいけないと思っています。それから、これはフリーランスに限らずですが、何かしらの新しい仕事上の機会は、自分と少し距離があるような人間関係=「弱いつながり」から発生することが多々あります。例えば、友達の友達や、一回だけ飲んだことがある人。メチャクチャ仲がいいわけではないんだけど、お互い顔は知っているといった弱いつながりから、仕事の提案がきたりします。

私は26歳のときに起業してるんですけど、知り合いから「黒ちゃん、会社やる?」みたいな感じで言われて。それで、今を逃したらこの先きっとやらないと思ったので「あ、はい。やります」と軽い気持ちでスタートさせました。

自分はどちらかと言うと研究者肌なので、会社の経営や起業したいというような思いは全くなかったんですけど、そうやって何気なく人に言われたことがきっかけで起業するようになったり、「フリーランス、向いてそうだよね」って言われて、「じゃあフリーランス、やってみようかな」と、実際に始めてみて今の私がいるように、自分のことを深く理解していない人だからこそ、なんの気なしにポンと出てきた言葉が影響を与えるといったことが起きます。そんな多様な人的ネットワークがあったほうが、キャリア転換のきっかけをたくさん作ってくれると思います。

黒田悠介(FreelanceNow)
物腰が柔らかく、謙虚な黒田さん。人が集まってくるのがよくわかるお人柄です

意外です。ビジネスチャンスは強い信頼関係があってこそ成立すると考えていましたが、「弱いつながり」なんですね。

そうなんです。飛距離のある提案がきたりするので。例えば、私のことをあまり知らない人が「黒田さんって本とか書いたほうがよさそうですね」って何気なく言ってくださって。そうやって人から言われて「そうか。私、本を書くように見えるのか」と思って、改めて実行に移すというようなことがあります。ここらへんは、フリーランスか会社員かなど、働き方はあまり関係ないと思います。みんなに必要なことかと思います。

日本のフリーランスはこれから

海外ではフリーランスの数が日本よりも圧倒的に多いようですね。国内のフリーランスを働きづらくさせているものがあるとしたら、どういったものがあるでしょうか。

そうですね……なんだろうな……日本の戦後の復興みたいなフェーズって、企業が先導してきたという背景は大きいと思います。モーレツ社員という言葉もありましたけど、そういうゴリゴリに働くサラリーマンが支えてきたところがあって、サラリーマン同士のコミュニティ的要素が強い時期が日本では長かったと思うんですよね。

で、ある意味、そこから抜け出すというのは裏切りというか、そういうふうに受け取る風潮も一時期あったりして。文化的なものかもしれないんですが、会社を辞めて一人になることが「怖い」という雰囲気もあったと思います。

私自身思っているのは、日本のフリーランスは、実はちょっと増えてはいて、これからなんじゃないかなと感じています。具体的にいうと、純粋な意味でのフリーランスっていうのはそんなに増えてないんですけど、会社に行きながら2割の時間だけ副業してますとか、週末フリーランスなどの働き方をしている人たち。パラレルワーカーもそうですね。

最近だと週4勤務の会社も出てきてますよね。その空いた時間で自分のやりたいことをやるっていうような。パッと見ると会社員に分類されちゃう人も、実はフリーランス的な気質があって、そういったカタチで潜在的に増えている現状があります。

純粋なフリーランスより、そういった働き方のほうが定着するかもしれませんね。

確かに、福利厚生を得ながら、社会的な保障も得られるのでリスクも低いです。日本だけじゃないですけど、フリーランスの保証は弱くて、家も借りづらかったり、ローンもあまりいいものを組めなかったりしますよね。会社員をしながらのフリーランスは、そういった点でも賢い選択といえると思います。

黒田悠介(FreelanceNow)

問いでつながるコミュニティ「議論メシ」

いろんなフリーランスの方にお会いして、相談ごとも多そうですけど、特に多い質問などはありますか?

フリーランスは結局、自分で仕事をとらなければいけないので、「単発の仕事はとれるんだけど、それが継続しない。どうすれば継続していけますか?」などの案件の獲得についての相談は多いですね。ここが一番の不安の種でもあるし、それができれば、働く時間も、誰と働くか、何をするかも比較的自由になれると思います。

そういったことも、黒田さんの主催されている「議論メシ」でいろんなアイディアが出てくるんでしょうね。活動について詳しく教えてください。

はい。いくつかコミュニティを運営しているのですが、「議論メシ」は、設立して3年半で、メンバーは200人を越えました。毎月15~20回くらいイベントをやっているのですが、ディスカッションするテーマを毎回メンバーからもらって、そのテーマの元に10人、20人が集まってオンラインで議論をするといったことをやっています。新しいアイディアを出し合えたり、人がつながって新しいプロジェクトが動き出したりするので、私も熱中している活動です。

そこに集まる人たちは職種は問わないのですか?

あ、もう全然です。誰でも入れます。年齢層も高校生の10代から、定年退職された60代の方まで幅広くて、シスジェンダーの方もトランスジェンダーの方も、さまざまな身体的もしくは発達的な特性の方もいるし、本当に多様です。

去年の3月までは「19:30に渋谷のこの会議室に集まってください」っていうようなリアルイベントだったんで、今思うとかなりハードルが高かったなと思います。このコロナでZoomでポンと参加できるようになったので、子育て中の方が「1時間だけ参加します」とかされてますし、家から出られない人も参加してくださるようになりました。

月額会費制で4,000円をいただいていますが、ディズニーランドの入場料みたいな感覚で、あとはどの議論でも、何度でも自由に参加していただけます。

仕事仲間で議論していても、そんなにアイディアが広がらないってことがあると思うんですけど、領域が違う、年齢が違う、働き方が違う人がゴチャマゼになる。私、「ゴチャマゼの議論」とかいうんですけど、「ゴチャマゼの議論」の場で生まれるアイディアは本当にユニークなものが多くって、いつも驚かされています。

黒田悠介(FreelanceNow)

議論メシは企業に勤めている方も多く参加されているとお聞きしましたが、実際にはどういった感じでしょうか。

はい。フリーランス3割、会社員3割、経営者3割、あと他に学生さんという感じで、割とバランスがいいんです。

プロジェクトを立ち上げようというときも速そうですね。

そこは速いですね。例えば「起業したい」という人がいれば、メンバーがその起業をサポートするパートナーを組んであげたり、「地域の魅力を発信したい」という人がいれば、出張料理人がタッグを組んで、「じゃあその地域の料理をつくって東京の人に関心をもってもらおう」とか、業種も絞ってないですし、年齢も全く絞ってないからこそできるコラボレーションを可能にしています。

人がたくさん集まる力を感じますね。

そう。三人寄れば文殊の知恵ですし、「一人のしたいこと」を「みんなでできることに」っていうのがうちのコミュニティのビジョンだったりするんで。「ライフピボット」にもコミュニティの重要性を書いていますが、「議論メシ」をつかって、ライフピボットを実践しているメンバーがいます。

コミュニテイ運営は、人数が増えれば増えるほど大変なイメージもありますが、とりまとめていく手腕といったものは、黒田さんは前職でお築きになったんですか?

いえいえ。全く違います。私は前職はキャリアコンサルタントで、その前に経営者をやっていたんですけど、それが直接コミュニティの運営につながっているかというとそんなことはなくて。

コミュニティって極論、人ひとりが何十人か何百人かいたりするだけなんで、結局は人との関係性の話だと考えています。私がいま重要だなと思っているのは、1on1(ワンオンワン)の対話ですね。会社とかでは上司と部下で1on1でやったりしますけど、私はコミュニティでもとても重要だと思っているので、今、月に15人とか20人くらいのメンバー達と1on1で話をさせてもらっています。

1on1の対話「ディスカッションパートナー」

そうやっていく中で、その人が今何をしてる人で、これから何がしたい人なのかっていうのがわかってくるので、例えば「これからレストランをやりたいんです」って人がいたら「じゃあそのレストランのテスト版を議論メシでやってみる?」とか「一回じゃあイベントでやってみようよ」とか。そのお店を「クラウドファウンディングで立ち上げたいんです」って言うのなら、「じゃあそのクラウドファウンディング、どうやったらうまくお金が集まるのかみんなで議論してみようよ」とか。

実現への第一歩ですね。新規事業に特化した「ディスカッションパートナー」も興味深い活動ですので、議論メシとの大きな違いをお聞きしたいです。

まず、人数が違います。ディスカッションパートナーは1on1です。経営者と私というカタチでやっていて、長いと4時間くらい膝を突き合わせて話していることもありますね。事業の方向性を一緒に考えていくといった壁打ち相手ですね。

一般的にいうと「顧問業」に近いのですが、顧問業というと割と年配の方が行っているケースも多いので、私は今35歳ですから合わなくて。かといってコンサルタントでもありません。コンサルタントは答えをもってきますが、私は経営者と一緒に話をしながら、事業の可能性について一緒にディスカッションしてます。それで、上下関係にもなりたくないので、横並びのパートナーで「ディスカッションパートナー」です。

黒田悠介(FreelanceNow)

「議論メシ」は人数が多くて、40人くらいでディスカッションをするようなケースがもあります。一つの興味関心ごとについて、みんなで議論するっていうのが「議論メシ」のイベントでやってることで、アイディアの幅を拡大させていくときに向いていると思います。で、ディスカッションパートナーのほうはどっちかというと深堀りに向いています。何かワンテーマ決めて、グッと深掘って、広げるときは議論メシで何十人も集めて展開する、といった違いですね。

横にも縦にも自由自在ですね。

そうですね。あるテーマがプロジェクト化して「人が足りないです」といったことが起こったりもするので、そういうときにはもう一つ、私のやっている「フリーランスナウ」というフリーランスが6,000人くらい所属しているコミュニティがあるんですけど、そこから、デザイナーやエンジニアをちょっと連れてきて、「じゃあ一緒にやろうか」みたいなことが起こっています。一気通貫でインキュベーションのお手伝いをさせていただいています。

ライフピボット

黒田さんは東大をご卒業されていますが、理科一類で入学するも、心理学に興味を持たれて文学部に転籍と、ここでも早々にピボットを実証されていますね。素早く判断するために、考え方のコツのようなものがありましたらお聞かせください。

なるほどなるほど。いくつかありそうな気がします。私もそうですが、あらゆることを実験的にとらえておくといいのかなと思っています。何かをやったときに、成功しなければいけないわけではないし、大事なのは、何か失敗したとしても、その経験から何か学びとって前に進んでいると思うので、失敗ということでもありません。「このやり方ではうまくいかない」ということの発見という見方もできます。前に進んでるし、「じゃあこういうやり方ができるかな」という別の考え方ができるはずで。

失敗する過程でいろんな人とつながりができているかもしれない、自己理解も深まってるかもしれないし、スキルセットも高まってるかもしれない。その3つの蓄積がたまっている状態であれば、その次にまた活かせる。経験になってます。

なんでもやってみればいいと思います。フリーランスもやってみたければやって、合わなければまた会社員に戻るとかすればいいですし、起業してダメだったら元の会社に戻るのも全然アリですよね。

いきなりフリーランスを始めるんじゃなくて、0.1だけフリーランスをやってみて、ちょっとずつ重心移動すればいいわけで。私も最初はそうでした。議論メシをメインにするつもりは全くなくて、3年前はディスカッションパートナー9割、議論メシ1割みたいな感じでした。

今は、ディスカッションパートナー1割、議論メシ9割って感じで、徐々に移行してきたので、状況を見ながらの重心移動は、リスクもなく、ピボットが成立するなと思っています。

黒田悠介(FreelanceNow)

チャレンジとリスクのバランスのとり方はどう考えればいいですか?

なかなか難しいですね。でも、よく考えるのは、リスクやチャレンジって後回しにすればするほど、後でデッカくなって返ってくるってことです。例えば、一生のうち、一度もピボットしない人って多分いないですよね。1つのライフスタイルで生きていく人なんていなくて、それで、今は半世紀働く時代です。ある人が50年1つの会社にいたとして、その人生の初のピボットが70歳にやってきたときってものすごいリスクだと思うんですよね。

チャレンジやリスク、いろんなものを後回しにした結果、ものすごいリスクもしくはチャレンジが70歳にして来てしまったというのは、本当に大変だと思います。だとしたら、もっと若いうちにちっちゃなリスク、ちっちゃなチャレンジみたいなことを積み重ねておいたほうが、かえってうまくやれるんじゃないかなと思ってます。

後回しにしたものは、実は回避できてるんじゃなくて、つもり積もってるだけだったりするんじゃないでしょうか。人生100年時代とよく言われますけど、自分の人生をどう100年単位で考えられるかってことが重要です。今はラクかもしれないけど、リスクもしくはチャレンジを後回しにしているだけかもしれない、と考えると行動しやすくなるかもしれません。

黒田悠介(FreelanceNow)

今日は貴重なお話をたくさんありがとうございました。最後に、フリーランスのみなさんに一言お願いいたします。

フリーランスって自分で意思決定ができて、始めるのもやめるのも自分1人で決められることだったりするので、こういうコロナの影響で社会がどんどん変わっていく中で、一番適応しやすい働き方だと思うんです。フリーランスなりの特性、身軽さみたいなものを生かして、適応し続ける、もしくはライフピボットし続けることができるんじゃないかなと思ってます。フリーランスのみなさん、一緒に頑張りましょう!私も頑張ります。


撮影/阪本勇@sakurasou103)取材・文/FREENANCE MAG編集部