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『こう見えて元タカラジェンヌです』書籍化記念インタビュー〜天真みちるさんが考える宝塚のセカンドキャリア〜

天真みちる

怒られずに終わる外の世界のほうが、宝塚よりも厳しい?

お話を聞くに、天真さんって「なぜ?」が見過ごせない方じゃありません?常に理由が欲しいし、それゆえに理不尽が許せない。

だから音楽学校に入ったときは、メッチャ怒られてたんです!よくある「先輩がカラスは白いと言ったら白い」にも、「いや、黒くね?」って言っちゃうタイプだったんで(笑)。

思考停止せずに常に自分の頭で考えて、答えを見つけ出そうとする気質は、まさにフリーランス向きですよね。

ホントそうかもしれません。でも、自分をプレゼンするのが苦手なんですよ。わりとタカラジェンヌの方って、そういう傾向があると思うのですが。

そうなんですか?

「私はこういうことをしてきました、今後はこういうことがやりたいです」というのをうまく言語化できなくて、とりあえず「私のパフォーマンスを見て(感じ取って)ください!」っていうスタンスになりがち。現役時代って、毎日入り待ち出待ちをしてくださるファンの方から「今日の天真さんはこういう芝居をされていて、昨日とここが違ったけど、こういう解釈で合ってますか?」とか演者側に寄り添った手紙をいただくんです。

天真みちる

「あなたのことちゃんと観てますよ」みたいな手紙が届くわけですね。

だから、どうしても「みんな知ってるでしょ?」みたいな気持ちになっちゃうんですよね。結果、外の世界に出てセカンドキャリアを始めるときに「はじめまして、私はこういう人間です」という最初の一歩を上手く踏めないことも多いんです。私はスター路線ではなかったから、どうすれば自分のポジションを確立できるだろう?と、早いうちから自分の強みと向き合ってきたつもりでしたが、それでも苦労することはありました。

確かに、タカラヅカって在団している限り、必ず次の公演、次の仕事が用意されていますもんね。自分をアピールする必要性は薄くなりがちかもしれません。

宝塚を卒業されたOGさんがよく「ずっと次の作品が来るこの劇団にいられることは幸せだよ」って仰ってました。外に出たら無限に広がる可能性の中で自分の道をひとつ選び、自分の力で進まないとダメなんだというのは感じていたんです。

実際にそのへんは、どうだったのでしょう?

タカラヅカを出ると、一度決まったキャストが変更になることがあったり、プロジェクトのメンバーに入れ替わりがあったりすることに驚きました。社会人になって怒られることはほぼ皆無になったのに、いつの間にか終わっていたプロジェクトとかメチャクチャありましたからね。

そこは劇団と一般社会の大きなギャップでした?

タカラヅカは体調不良で休演にでもならない限り、最初に発表された配役が覆ることってないんです。だから稽古場で上手くやれない子がいると、稽古が終わった瞬間に上級生が取り囲んで「もっとこうした方がいいんじゃない?」とかって手を差し伸べるし、絶対に見捨てられはしないんですね。なので、世間ではタカラヅカって厳しいと言われるけれど、私からすると怒られもせずに終わる外の世界のほうが、よっぽど怖いかも(笑)。

“セカンドキャリアの掲示板”みたいなものを立ち上げたい

それにしても面倒見がいいんですね、宝塚のみなさん。

そうなんです。例えば下級生ができていなかったら夜中まで稽古に付き合ったり、自分たちで衣装や小道具に手を加えたり、より良い舞台を作るためには努力を惜しまない。でも退団後は、そういったタカラジェンヌの素晴らしさをちゃんと理解して活かしてくださる仕事ばかりじゃないのも現実です。私自身も、退団してピンポイントで仕事の依頼が来ると「自分を求めてる人がいるんだ!」ってすごく喜んであまり深く考えずに片っ端から受けてしまうから、すごい量の仕事を抱えて疲弊して……ということがありました。

それも自分を上手くプレゼンできない、売り込めないことの弊害ですよね。

もっと自分の価値に自信を持って売り込めるようにできないだろうか?っていうのは、特に会社を立ててから強く考えるようになったことですね。元タカラジェンヌたちがセカンドキャリアでも重宝されるようになるには、どうしたらいいのかな?って、最近すごく考えてます。

元タカラジェンヌのセカンドキャリア支援みたいなことも、「たその会社」の事業内容の一つとしてやっていきたかったり?

できれば!今って演者だけじゃなく、本当にいろんな分野に進まれているOGの方がいらっしゃるんですよね。例えば娘役さんとかは髪飾りとかアクセサリーを自作してきた経験を活かしてモノ作りのほうに進んだり、メイクが得意な子はヘアメイクアーティストになったり。

卒業したタカラジェンヌが全員、表舞台に立つわけではないですもんね。いわゆるエンタメ業界ではないところに進まれる方もいるはず。

だから、個々人の強みとそれを欲する企業を繋げていけるような、セカンドキャリアの掲示板的なものを作りたいんです。とはいえ基本的には一人ひとりが自立できるところを目指したいので、進む道が見えている人には自分のキャリアを売り込んでいくお手伝いと、それがまだ見つけられない人はこっちからプロデュースするのと、大きく分けたら二つをやっていきたいなと。

ファンから見ても、タカラジェンヌのセカンドキャリア支援って大切なんじゃないかなと思うんです。本書も、劇団を卒業して今後は平穏に余生を……という天真さんのモノローグから始まりますが、タカラヅカ時代が人生の最盛期で、あとは余生なんて悲しいじゃないですか。

30歳で辞めて100歳まで生きるとなると、70年間は余生ってことになっちゃいますよ!?(笑)それを考えると、退団した次の現場で「ああ、タカラヅカに入って良かったな」って感じてもらえるようでなければ、タカラヅカを目指すこと自体お勧めできなくなってきちゃうんですよね。つまりセカンドキャリアを支援することで、いい循環が生まれると思うんです。

どんなキャリアをタカラヅカで積もうとも、それをステップにして、より良い人生を構築するお手伝いをする……もしかして、それが天真さんの最終的な目標なんじゃありません?

そんなそんな、恐れ多いです(笑)。最近は本家の宝塚歌劇団でも「タカラヅカ・ライブ・ネクスト」っていうOGプロデュース業務を始めていますよね。だけど本当は、卒業を決めた瞬間(在団中)から寄り添えたらいいなという気持ちがあります。劇団内にそういう部署ができたらいいのになぁ、なんて。

客観性と行動力を兼ね備えている天真さんですから、今後、他のタカラヅカOGが誰もやらなかった活動をしてくださるんじゃないかと期待しています。

それも今回の『遅れてきた社会人篇』でまとめた3年間があったからこそ、なんですよね。自分をプレゼンするってことが私は比較的できるほうだと思っていたけれど、やっぱり弱いなと感じたし、「こうなっていけたらいいなぁ」という今後のビジョンも、3年かけてようやく見えてきたんです。自分を知ってもらうためにかけるエネルギーってすごく大切だってことが身に染みてわかった3年間だったので、それを文面から感じ取っていただいて。「え、こんなことがあるの?」って新鮮に感じていただいたり、共感していただいたりする部分があれば嬉しいです。

天真みちる

撮影/須合知也