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eスポーツキャスターの先駆者、平岩康佑が実践した「好き」を仕事にする方法とは?

平岩康佑 FREENANCE MAG

朝日放送のアナウンサーとして、主にスポーツ番組のキャスターなどで活躍しながら、韓国で目撃したeスポーツ競技大会に衝撃を受けて入社8年目に独立。ゼロから株式会社を立ち上げ、キャスターのマネジメントに代理店業務、コンサルタントと、今やeスポーツにまつわるすべての事業に携わる平岩康佑さんは、まさに“好き”を仕事にするという社会人の夢を現実にした方です。

それを叶えた要因はeスポーツに対する情熱と、広範囲にアンテナを広げて情報をキャッチする好奇心、そして、まだ誰も足を踏み入れていない領域の可能性を信じ、果敢に飛び込んだ勇気。その経験から得た“好き”を持つことの公私にわたるメリットを、たっぷりと語ってくださいました。

profile
平岩康佑(ヒライワコウスケ)
2009年米ワシントン州の大学で経営学を学ぶ。卒業後、朝日放送にアナウンサーとして入社、プロ野球や高校野球、Jリーグ、箱根駅伝などの実況を担当。2017年には高校野球の実況が評価され、ANNアナウンサー賞優秀賞を受賞。報道番組や情報バラエティにも出演、ラジオパーソナリティも務めた。2018年に同社を退社し、株式会社ODYSSEY(オデッセイ)を設立。​日本最大級のeスポーツイベント“RAGE”やCRカップなどで実況を担当。
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技術よりも「好き」であること

平岩康佑

朝日放送のアナウンサーから独立されて、現在は株式会社ODYSSEYの社長を務めていらっしゃるとのことですが、業務内容はどんなものなんでしょう?

まずメインになっているのは、全国から集めたアナウンサーを、eスポーツにキャスターとしてアサインするというマネジメント部門ですね。所属しているアナウンサーは私を含む男性6名ですが、コロナ禍が終わってオフラインイベントが復活して、“東京ゲームショー”とかのゲーム関連イベントやスポーツイベントだと、女性MCの需要も高いんです。なので、他の事務所の方と提携しているケースもあって。例えば、元日本テレビの久野(静香)さんは、松竹芸能に所属しながら弊社でゲームの仕事をしていたり、そういった業務提携も含めて20人ほどをマネジメントしています。

自らeスポーツを志望するアナウンサーの方は多いんですか?

僕が声をかけることもありますけど、7割ぐらいは自発的にコンタクトをくれた人たちですね。月5人ぐらいは志望者からの問い合わせがあって、今はアナウンサーにeスポーツの実況を教えるパターンと、ゲーム業界から来た人にアナウンス技術を教えるパターンと両方をバランスよくやってます。最初は前者ばかりだったんですけど、現在の弊社で活躍しているキャスターは後者なんですよ。

確かに野球やサッカーと違い、ゲーム実況の視聴者は自らもプレイしている場合がほとんどでしょうから、より深い知識が実況キャスターにも求められますよね。だとすると、ゲーム業界出身者のほうが有利かもしれない。

そうですね。逆に、どれだけアナウンス技術があってもゲーム好きじゃないと厳しい。やはり新規で実況するとなったら、個人的には当該タイトルを100時間プレイする、ぐらいに向き合わないといけないと思っているので、普通のアナウンサーだったら苦痛でしかないでしょうね。

正直、ゲーマーからしたら100時間なんて少ないんですけど、そのくらいやればゲームのコアの部分だったり、観客の沸くポイントが体感的にわかるんですよね。その上で、私がマンツーマンで“このゲームは、この数字がめちゃくちゃ大事だから見といて!”など指導します。そういったマネジメント部門と、もう一つ売上面で大きくなりつつあるのが代理店事業ですね。

代理店事業って、具体的に言うと?

大会やチームにスポンサーを探してきて、入ってもらうということですね。キャスターって、本当にいろんな方々と横断的に仕事できるポジションなんですよ。制作会社さんもそうですし、ゲーム会社さん、別の代理店さん、ストリーマーと呼ばれる配信者の方々とか。そこに付随して、例えば、eスポーツに関わる事業をやりたい企業さんからヒアリングしてアドバイスしたりという、いわゆるコンサルタント業みたいなこともやっています。

一言にeスポーツ事業と言っても、チームや大会をスポンサードするのもありですし、自分で大会やチームを立ち上げるのもありですし。業界の内情をわかってないがために失敗したイベントとか大会をかなり見てきたので、各社にとって一番良い形で目的を達成できるように協力していきたいんです。

一人ではなく、みんなで

平岩康佑

ちなみに朝日放送をやめて独立されたとき、現状のように事業が広がっていくことって想像されていました?

いや、まったくしてなかったですね。それこそ請求書の意味も知らずに飛び込んだので、最初は四苦八苦でした。ただ、僕が会社を立ち上げた2018年は、eスポーツ元年と言われているくらい業界自体が始まったばかりだったので、何でもありのカオス状態だったんです。それをフルに活かしながら進んできた感じですね。

そもそも、なぜ最初から会社を立ち上げられたんでしょう? ご自身がeスポーツの実況をやりたいという動機なら、個人事業主でも良かった気もするのに。

業界に可能性を感じていたのもありますけど、やっぱり一人でやりたくなかったんです。心配だからとかじゃなくて、とにかく歯がゆかった。当時のeスポーツの実況者はゲームのプロではあっても喋りのプロではなくて、なのに、会場のサイズは幕張メッセだとか東京ビッグサイトとかの規模になっていて。これはゲーム好きでアナウンス技術のある人間がやれば、相当な違いが出るなと目に見えてわかっていたので、それを一気にやりたかったんです。

業界全体の実況レベルを上げたかったから、そうなると僕一人では無理なんですよね。実際3年目ぐらいのころは、どのイベントに行っても弊社関連のアナウンサーがキャスターとして喋っているような状況で、今でも年間で600件くらいの依頼があるんですよ。多いときだと同じ週末に7人ぐらいが、いろんなイベントで実況していたりします。

eスポーツのイベントって、今、そんなにたくさん開催されているんですね。

ありますね。さいたまスーパーアリーナでのイベントのチケットが15分とかで完売するんですよ。お客さんが若いのも特徴的で、アメリカではZ世代のほとんどが何らかの形でゲームに触れているとも言われています。たぶんですが、日本も数字的にはほぼ変わらないはず。中高生から社会人5年目未満ぐらいがボリューム層で、当然それがスライドしていくから、年が経つごとに上の世代まで広がっていくという。

つまり、これから顧客が増えるばかりの業界だと。

そうなんです。逆に、従来のプロスポーツから若い人たちが離れていて。だからオリンピックとか、eスポーツを採用しようとしているんですよ。ゲーム自体の売上があって、競技自体にお金のある珍しい業界だから、IOCはそこも狙っているんでしょうね。ただ、こちら側からすると賞金が出ないんで、プロは出たがらない。もともとeスポーツって賞金が高くて、おまけに競技キャリアが短いから、名誉だけのオリンピックに時間を使っていられないんです。人気タイトルの『フォートナイト』なんて16、17歳がピークで、20歳になると大体引退を考えますからね。

反射神経と動体視力が衰える前に辞めるということですね。今の子供は生まれたときからゲームがあるので、16歳でもキャリア10年とか全然あり得るでしょうし、昔のような“ゲーム=悪”なイメージも無い。

むしろ今、ゲームは“クールなもの”という立ち位置です。コロナ禍のステイホーム期間も追い風になりましたし、今の高校生ってゲーム上手いとモテるらしいですよ。昔のイメージとは真逆。サッカーやるとモテる、足速いとモテるみたいな領域にゲームも入ってきていて、プロになれば高額の賞金も得られるから、今はゲームの家庭教師とかも流行ってます。もちろんプロになるのは、野球選手と同じくらい狭き門なんですけど。

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