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スモールビジネスを、もっと自由に自分らしく。freee出版『起業時代』が目指す価値観の変換

FREENANCE freee出版

freee出版は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、小規模法人や個人事業主向けにクラウド会計ソフトなどの統合型経営プラットフォームを開発・提供するfreee株式会社が立ち上げた出版レーベルです。昨年10月に川内イオさんの『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』を刊行し、今年1月には雑誌『起業時代』を創刊しました。

freeeはなぜ出版事業に進出したのか。freee出版はどんなビジョンでどんな出版物を出していくのか。単行本の編集責任者でありfreeeブランドマネージャーの銭谷侑さんと、スモールビジネス事業本部に籍を置いて『起業時代』編集長を務める井口侑紀さんにお話をうかがいました。

profile
銭谷 侑(ぜにや ゆう)
電通コピーライターを経て、独立。夫婦でビジネスデザインファーム「the Tandem」を経営しながら、ソーシャルベンチャーLITALICO、リクルートホールディングスで兼業。2020年、freeeにジョイン。ブランドマネージャーとして、ブランドの全体戦略や、コミュニケーションづくりを担当。主なプロジェクトに「確定申告FES」「確定申告モンスター」「スモールビジネス映画祭」「#取引先にもリモートワークを」「freeeリブランディングPJ(2021)」など。「freee出版」責任者。 https://twitter.com/_zeny_
https://twitter.com/freeepublishing
井口侑紀(いぐち ゆうき)
1987年生まれ。大学卒業後、エンジニア、マーケターとしての経験を積みながら、編集者としても活動。Web事業会社にて資格や人材に関するWebメディアを複数立ち上げ。その後マイナビにて新規事業部門での農業メディア、人材サービス開発を担当。2021年『起業時代』立ち上げのためにfreeeへ。編集長に就任。その他、個人事業主として農業を支援するプロジェクトにも参画中。
https://twitter.com/kigyojidai

freeeが出版レーベルを始めた理由

起業時代』創刊号

お二人とも兼業社員だそうですね。

井口 はい。僕は個人事業主として農業の支援をするプロジェクトに参加しています。

銭谷 僕は前々職が広告会社のコピーライターで、妻がアートディレクターなんです。その経験を活かして言葉とデザインでいろんなもの作りをしていて、クライアントさんのブランド作りをお手伝いしたり、自分たちで「昼ビ」というノンアルコールビールのブランドを立ち上げていたりと、いろんな小さな事業をやっています。

すごいですね。まずfreee株式会社のことからおうかがいできますか?

銭谷 ひとことで言うと「スモールビジネスを、世界の主役に。」する会社です。すでにご存じの方は個人事業主の確定申告や会社の決算をサポートするクラウド会計・人事労務ソフトのイメージが強いでしょうし、実際に事業のメインはそれなんですけど、僕らとしては、ソフトを販売したいというよりは、スモールビジネスを始めたい人が誰でも始められて、自分らしく経営できる環境を作っていきたいと考えているんです。
「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム。」というビジョンに合わせてプロダクトも経営全般に進化させ、今、僕らが携わっている出版などの活動もあわせて、スモールビジネスを世界の主役にしていきたいと思っています。

ウルトラニッチ

そんな御社が出版レーベルを立ち上げられたわけですが、出版不況といわれる今、あえて乗り出されたのはなぜですか。

銭谷 freee出版は僕が在籍するブランドの部署から生まれました。プロダクトを届けるだけじゃなくて、誰もが自由に経営できるためのヒントやノウハウを併せて広めていかないと、僕らのやりたいことってできないよね、ということで。ちょうど同じタイミングで、井口のいるマーケティングのチームでも動きがあって。

井口 はい。さっき銭谷がお話ししたように、スモールビジネスをさらに伸ばしていく、あるいは興味を持つ人を増やすために、もっとたくさんの人に生き方として起業や開業を選択肢として持ってもらえる時代を作っていきたい、スモールビジネスを誰でもできる身近なものにしたいというビジョンのもと、「じゃあ雑誌を作ろうか」ということで立ち上がりました。

銭谷 あっちは雑誌を作りたい、こっちは書籍を出したい。じゃあ一緒にやっちゃえばいいじゃん、ということで、別部署からそれぞれ立ち上がったプロジェクトが同じfreee出版という傘の下で活動することになった、というわけです。

社内横断型のプロジェクトなんですね。

銭谷 経営側と話しているのは、中長期的には機能的価値だけではなく、ユーザーに企業としての考え方や価値観まで含めて好きになってもらうことが大事なんじゃないかと。freeeのプロダクトには強力なオリジナリティがありますけど、パートナーに選んでいただくにはやっぱり、freeeが愛され続けるじゃないですけど、freeeの考えや価値観も含めて共感や愛着を持ってもらう。そうすることで「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションがいち早く実現できるんじゃないかと思ったんです。

スモールビジネスが持つ可能性

井口侑紀 / 銭谷 侑

話が前後しますが、そもそもどうしてスモールビジネスを応援したいんでしょうか?

銭谷 大きく二つありまして、スモールビジネスが世の中に多様性をもたらす、あるいは新しいイノベーションが起きる源泉だと思っているというのがひとつ。世の中の全部が大企業に飲み込まれたら、画一化してしまって面白くないですしね。二つめは、スモールビジネスはどうしても大企業よりもテクノロジー面で遅れをとりがちという課題意識があります。本来、スモールビジネスのほうがしがらみなくいろんなことを実現できるわけだから、もっと先に行けるはずなんですよ。そのポテンシャルを発揮するためにfreeeのテクノロジーを活用していただきたいんです。

井口 『起業時代』がやりたいことにつなげると、アイデアはあって、起業もしたいと考えてはいるけどあと一歩を踏み出せない、みたいな方がけっこう多いんじゃないかと思うんです。そういう方々の背中を押してあげられるものは何なのか、ということを追求していきたいと思っています。
特に日本では周囲に起業家があんまり多くないから、「参考になる例がない」「相談できる人がいない」といった声をたくさん聞いていますが、それってもったいないじゃないですか。ほんの少しのことで一歩を踏み出せそうなのに、「よくわかんない」とか「リスクが怖いし」とモヤモヤして動けない。そういう方に最後のひと押しをしてあげたいという気持ちがありますね。

まわりに起業家がいないんだったらここにいるよ、みたいな感じですね。

井口 何をしなきゃならないか、どんな手続きが必要なのか、世の中に情報はたくさんありますけど、ありすぎるんですよね。なので雑誌ではなるべくシンプルに、本当に必要なことだけをわかりやすく見せるように心がけています。

拝読しましたが、今おっしゃったようなことがバランスよくまとまっていると思いました。ノウハウも載っているし、経験者のインタビューもあるし。

井口 起業・開業したいと思っている人がもう明日から動けるみたいなところを意識したので、そのために必要な情報は全部入れようと。「この1冊があれば起業できる」という状態を作りたかったんです。それと、まだ迷ってる人が起業後のライフスタイルをイメージできるように、なるべくいろんなタイプの方を取材しました。そのうち誰か一人でも共感できる、参考になる部分を見つけてもらえていれば嬉しいです。

先駆者の可視化とイメージの転換

川内イオさんの『ウルトラニッチ』(※)もとても面白い本でしたが、これをfreee出版の刊行物第1弾に選ばれた理由は何ですか?

「書くか書かないかは別、できるだけいろんな風景を見ておく」“稀人ハンター”川内イオが出会った、ウルトラニッチな人々

銭谷 「スモールビジネスってかっこいいな」ということが大事だと思っているんです。スモールビジネスという言葉自体、僕らは毎日口にしていますけど、世の中の人には明確なイメージがまだないと思うんですよ。就職ランキングの上位には大企業が来ていますし。
でも、小規模だからこそできることってたくさんあるし、世の中に新しいイノベーションとか面白いことを起こしている存在だと思っていて。小さな発見から未知の市場を切り開いている方たちを可視化することで、「スモールビジネスって面白いな」とか「自分も始めてみたいかも」といったふうに価値観を変えていきたいという願いがあって、『ウルトラニッチ』を第1弾として出しました。

編集実務に銭谷さんは関わられたんですか?

銭谷 スモールビジネスのための出版レーベルだからこそ体制もスモールであろうと思っていて、SNSで「携わりたい編集者はいますか?」みたいに募集して、本をつくる部分はフリーランスの編集者に動いてもらいました。
企画は僕も行いますし、もちろん意見も言いますけど、著者も編集者もデザイナーも全員個人事業主という体制で一回やり切ってみようと。自分たちが読みたいものであることが大事だと思うので、僕自身も小さな会社をやっていますし、スモールビジネスのために情熱を持って本を作りたいという人が集まって、今のところはまだ実験的ですけど、やっているという感じです。

その実験はうまくいっていますか?

銭谷 まだわからない、というのが正直なところですね(笑)。書籍も雑誌も「こういう考え方があるのね」みたいなことを発信し続けることで、世の中の価値観が徐々に変わっていくと考えると、継続することが大事だと思っています。

内容はいいと思うので、あとはこれがどのように話題になって、売れて、人々の意識に影響を与えることができるか、みたいなところですよね。

銭谷 「freee出版らしいコンテンツを作れたか」と「freee出版らしい広め方をできたか」という二つがあると思っていて、コンテンツはおっしゃる通り、著者や編集者のおかげでいいのができたと思うんです。
ただ流通に関しては、なにしろ初めてなのでほぼ何もできなかったという反省があって、今後は出版の素人だからこそ、freeeのいろんなリソースを使って、普通じゃない届け方をしていきたいと考えています。例えばショップに置いていただくとか、スモールビジネスの人たちと一緒に何かやっていくところまでできたら、届け方という点でも成功するかなと思ったりはしますね。

広め方も新しい手法を模索していくわけですね。

銭谷 何も考えないでWeb広告を打っても、グーグルしか儲からないじゃないですか(笑)。なるべくスモールビジネスの人たちにお金がいくようにするというか、一緒にやることが大事だと思うんです。答えはやっぱりそこにあると思っていますし、案外、誰もやったことのないことでもあるので、効率で考えるとマス広告とかWeb広告のほうがいいのかもしれないんですけど、あえてそうじゃないやり方にチャレンジしたいと思っています。

川内さんもそういう銭谷さんのビジョンに共鳴されたんですね。

銭谷 はい。freeeという会社の「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションに共感してくださった感じです。『起業時代』も同様だと思いますね。

井口 僕自身もそうですし、取材させていただいた方々もそこに強く共感して「ぜひ協力させてください」みたいに言ってくださる方が多かったです。

How Toではなく価値観を伝える

『起業時代』には実際に起業した方たちのインタビューもたくさん載っていますね。人選はどのように?

井口 いろんなパターンがあるんですけども、ひとつは事前アンケートをとって、テーマに沿う思いをお持ちでお話を聞かせてくださる方を募集しました。必ずしもfreeeの会計ソフトのユーザーばかりではないんですが、弊社のプロダクトというよりもメッセージや企業哲学みたいな部分に共感してくださる方が多くて、前のめりにご協力いただけましたね。

さっき日本ではまだ起業のハードルが高いというようなお話がありましたが、じわじわと気運が高まっている手応えはおありですか?

井口 僕はあります。前はわからなかったんですけど、『起業時代』を出してリアクションを見ると、来ているのかもしれないな、と。「待ってた!」という声もいただいて、「待っててくれたんだ」みたいな(笑)。起業に限らず、働き方の多様化は進んできていると思いますし、コロナの影響で生活スタイルそのものが変わったり、価値観が変わったりというのも大きいかなと思います。

他にどんな声を耳にされましたか?

井口 僕は農家の方とよく話すんですけど、ある方がおっしゃっていたのが「何やってるんですか?」って聞かれて「農業やってます」と答えると「大変ですね」みたいによく言われるそうなんです。「大変とかじゃなくて、好きでやってるんだけどね」と笑っていましたけど、起業するとかスモールビジネスをやっていることが世間的に「大変」とか「頑張っている」と思われがちな中、この雑誌が出たことで、言われることがちょっと変わってきたみたいです。
誌面に出ていただいた方も「周囲からすごいね、応援してるよって言われます。協力してよかった」みたいに言ってくださっていて。起業やスモールビジネスに関する一般的なイメージが変わるのであればうれしいことですし、起業しない人も、起業ということについて知っている、理解していることがこれからは重要になってくるんじゃないかなと思いました。

認知度の上昇に貢献できているのであればすばらしいことですね。農業といえば、僕のまわりにも、自宅の庭を耕したり畑を借りて野菜を作る人がここ10年ですごく増えています。

井口 特にコロナ後は顕著に増えていますね。農業って「密」じゃないじゃないですか(笑)。ここ10年ほどは新規就農者が増えているんです。それ以上に減っているだけで。若い方は多くなっていると思います。

井口さんご自身はどうして農業に興味を?

井口 おいしいものが好きなんです(笑)。やっぱり穫れたてがいちばんおいしいですよね。

大事なことですね。今後はどんなものを出していきたいとお考えですか?

井口 雑誌はまだ1号めを出したばっかりなので、やっぱり継続が大事ということで、2号め3号めを出していきたいなと思っています。「時代を作っていく」とまで言うとおこがましいですけど、やはり起業のハードルを下げていきたいので。2号めは7月ぐらいを予定していて、特集の内容の検討が始まったところです。今後も年2冊ぐらい出していけたらいいなと。

書籍のほうはどんなご予定を?

銭谷 年に3~4冊出していきたいと思っています。第2弾は、『倒産した時の話をしようか 8人の倒産社長に学ぶ「失敗」を「資産」に変える挑戦のヒント』(関根諒介著)というタイトルで、4月20日に発売されます。単純なハウツーは消費されてしまうので、価値観や考え方といった太い部分から本にしたいと思っていて。いざ起業をしても、失敗が怖い、みたいなことがあると自由な経営ができないじゃないですか。世の中には倒産をして次のステップに進めた人も実はすごくたくさんいて、倒産も捉え方を変えると人生においてとても意味のあるものになる、みたいに価値観を変えていきたいんです。著者はfreeeの社員で、大学院で倒産の意味を変えるみたいなことを研究しながら働いている人です。

面白い研究! それは楽しみです。

銭谷 第3弾以降はまだ決まっていないんですが、会計士さんとか労務士さんってすごく経営にとって重要な仕事をしているので、絵本や漫画で伝えるとか。バックオフィスの業務にはあまりイメージがない方も多いと思うんですけど、それを知ることでさらに自由な経営が実現するんじゃないかと。

まさに価値観の変換ですね。

銭谷 ニッチな出版社なので、普通の出版社ではできないことしかやらないほうがいいんだろうなと思っているんです。素人なので、実験しながらやっていくって感じですね。

素人とおっしゃいましたけど、井口さんもそうですか?

井口 僕は昨年起業したので起業に関しても素人、出版も素人です(笑)。なので雑誌の編集長としては、どの記事に関しても「最初の読者」みたいな感じですね。「自分の役に立つものを作れば、みんなの役に立つ」と考えて、変に前提知識みたいなものがないところをむしろ強みにしていますし、各所にはもしかしたらご迷惑をおかけしているかもしれないんですが(笑)、常識に囚われないというか、この業界に何らかの価値観の変化を多少なりとももたらせるんじゃないかなと思って、開き直ってやっています。

編集者、デザイナー、ライター、アートディレクター、写真家、イラストレーターといったスタッフのお名前がクレジットされていますが、こうした方たちがプロでいらっしゃるから……。

井口 そうです。内容に関しても税理士さんや経営コンサルタントの方にしっかり作っていただくんですが、それだけだと「教えてあげます」みたいになりがちなところを、「一緒に学ぶ」「横に寄り添う」みたいなスタンスにまとめていくことを意識しました。

プロだとわかりきっているから言わないようなことも言えるのが素人ならではですからね。ガンガンやってください。

井口 「そこ突っ込む? 大昔からこうなってるんだよ」「そこをなんとか……」みたいなことは何度かあって、中はけっこうバチバチでした(笑)。

最後に、この媒体の運営元であり、フリーランス向けの保険や、入金前の請求書を買い取るファクタリングなどを提供している「FREENANCE byGMO」というサービスをどう評価なさいますか?

井口 『起業時代』では、ベンチャーやスタートアップだけじゃなく、フリーランスや副業を含めて「開業」「起業」と呼んでいるんですね。だから個人開業にもページを多く割いていて、重要視しています。その上で、なるべく楽しいことをやっていただきたいというか、お金にまつわる事務作業や面倒な手続きはツールに頼ってやりたいことに集中できる環境を作ったほうがいいなと考えているので、その意味ですごく共感します。
創刊にあたってテレビCMを作ったんですけど、出演してくださったお笑い芸人のヒロシさんが「仕事をしてもお金がすぐに振り込まれないことがあった」みたいなお話をされていたんです。そういった話はヒロシさんに限らずたくさん聞くので、そのへんの保障を提供されているのはめちゃくちゃ価値が高いなと思います。

銭谷 フリーナンスさんには2020年の確定申告FESに協賛していただいたんですけど、ファクタリングって僕はめちゃめちゃいいサービスだなと思っているんです。というのは、僕もスモールビジネスをやっていますけど、大企業と取引をすればするほど、支払いが手形で来たりするんですよ(笑)。手形って支払いが半年後なので、資金力がないとめっちゃショートするし、そのことを意外にみんな知らないんですよね。だから請求書を現金化できるのってめちゃめちゃ価値があると思っています。
あと、これはfreeeもそうなんですけど、ちょっとした楽しさって大事だと思うんですね。お金まわりとか法律まわりってつまんないものだと思っている人が多いですけど、それが楽しくなればいいなと思って。そのほうがサクサクできますしね。その点、フリーナンスさんはイラストもかわいいし、金融サービスっていうよりも、もっと身近な感じがするのがいいなと思いますね。


撮影/阪本勇@sakurasou103

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
https://www.tapiocahiroshi.com/
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