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『こう見えて元タカラジェンヌです』書籍化記念インタビュー〜天真みちるさんが考える宝塚のセカンドキャリア〜

天真みちる

先日、FREENANCE MAGで最終回を迎えた天真みちるさんの人気連載『こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇』が2023年2月28日に単行本化されました。

2018年に宝塚歌劇団を退団してから、会社員を経て、独立に至るまでの出来事などを綴った今作。タカラジェンヌが外の世界に飛び出したとき何に驚き、どんな壁に直面し、いかにして乗り越えていったのかが、テンポよく綴られています。

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

これまでのFREENANCE MAGでの連載

劇団生活と一般社会のギャップに斬りこむ着眼点の鋭さには、俳優のみならず脚本家・演出家・社長・劇団主宰と、多岐にわたって活動している天真さんの多才ぶりがキラリ。そんな天真さんが考える宝塚のセカンドキャリアについて、たっぷりお話をうかがいました。

天真みちる profile
『株式会社たその会社』の代表取締役社長。舞台、朗読劇、イベントなどの企画・脚本・演出を手掛ける傍ら、自身もMCや余興芸人として出演している。2006年宝塚歌劇団に入団し、2018年10月の退団まで花組で男役として活躍。2021年に宝塚歌劇団での体験を綴ったエッセイ『こう見えて元タカラジェンヌです』(左右社)を発売し、2023年2月には待望の続編を刊行。

退団、サラリーマン、会社設立…すごく濃かった3年間

前作『こう見えて元タカラジェンヌです』から約2年。シリーズ2冊目が出版されることになり、今の率直なお気持ちはいかがですか?

前作では宝塚歌劇団を目指し始めたところから2年にわたる受験生活と、合格してから2年間の宝塚音楽学校、15年間の劇団生活っていうトータル20年くらいの話を1冊にまとめていたんですね。それが今回は『遅れてきた社会人篇』ということで、退団してからサラリーマンになり会社を立てて……っていう、年数にすると3年分くらいのことしか書いてないはずなのに、同じくらいのページ数になったんですよ。この3年間は初めて知ったことも多くて経験値も急激に上がったし、悩みつつも劇団生活とは違う楽しみや喜びを知れたので、たぶん自分にとってすごく濃かったんでしょうね。

天真みちる『こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇』
こう見えて元タカラジェンヌです 遅れてきた社会人篇(左右社)

タカラジェンヌが退団したあとのセカンドキャリアって、表舞台に出る方以外は今でも“未知の世界”ですから、こんなふうに第二の人生を歩まれる方もいるんだと興味深く読ませていただきました。そもそも舞台に出る側ではなく、裏方に興味を持つようになったきっかけって何だったんでしょう?

劇団に所属する生徒という立場だと常に次の公演がありますが、退団して一出演者としてやっていくとすると、誰かの作る舞台に選ばれなかったらずっと仕事が来ないことになりますよね。それは怖いなと思ったし、そうなったときに自分で興行を打てたら強いよな……って思ったのがきっかけです。

今はご自身で脚本も書かれていますが、もともと作品作りに興味はおありだったんですよね。

はい。入団しても最初の3年くらいは一言も台詞がなく、でも小道具とかの準備でずーっと稽古を見ているんです。そんななかで、さまざまなシーンを俯瞰して見ながら勝手に二次創作というか、別のオチに自分で書き換えてみて同期だけに見せたり、それが高じて組宴会とかの余興でも披露するようになったり、ずっと「私だったらこう作りたい」っていうのはやっていたんですよ。

なるほど。ただ、そういった二次創作と自分がゼロから物語を作り上げるのとでは、労力も使う頭も全く違ってくるわけで。そこで壁にブチ当たった様だったり、いかに乗り越えていったかというところも、今回の『社会人篇』には描かれているのが、一社会人としては非常に共感できたところでした。

ホントですか?うれしいです。でも、そこで乗り越える段差の幅がホントに小さいんです。ちょーっとずつ乗り越えていく感じで、そのたびに適宜休んだり、断食道場に行ってみたり(笑)。年齢的なのもあるかもしれないですけど、一回横にならないと、立ち上がれないんですよね。

天真みちる

でも、壁にぶつかり疲弊しても「どうしよう?」で終わらせず、例えば断食道場に行ってみたりと、キチンと行動を起こせるのが天真さんの凄いところだと思うんです。

入団して10年目くらいの頃かな?人間ドックに行って胃カメラをやったら、お医者さんに「胃に3回穴が空いてるけど、全部自力でふさがってます。繊細で強いですね」って言われて妙に腑に落ちたんです。落ち込むときはトコトン落ち込むけど、やっぱり図太いっていうか。最終的には「仕方ない!」って立ち上がるんですよ。

その姿勢は見習いたいです!あとは、ひろくんとの出会いや結婚についてのエピソードも楽しく読ませていただきました(笑)。あんなパンチのある台詞を出会い頭に言われたらドン引きですよね。「娘役さんに憧れているので男役には興味ありません」って!

(笑)絶対この人、友達いないだろう!って思いますよね?実際、友達いなくても全然意に介してなくて、「だから何なの?一人が一番楽しいじゃん」みたいなタイプなんですけど、そういう人のほうが私は一生一緒に暮らせるなと思ったんです。「この人がいないとダメなんです!」とか言われるほうが重い。好きでなくなったら終わってしまう愛よりも、冷静な契約のほうが私にとっては固い絆なんです。

本書にも書かれていたように「愛」には寿命がありますもんね。

あると思います。それも燃えれば燃えるほど短い気がするんですよ。たとえばファンの方でも、私のことではなく自分の近況を手紙に書いてくるような温度感の方とは、卒業してからも付き合いが続いていたりするので。

天真みちる

つまりは「ひろくん」とも、人間としてのウマが合うということなんでしょうね。

そうですね。でも、一番ありがたいのはタカラヅカに対するリスペクトがあるので、いちいち説明する必要がないのと、結婚しても同期を家に呼べることなんですよ。むしろ来てくれることを楽しみに、ひろくん、毎日家を片づけてるような節もあるから。この前も同期と上級生が来たんですけど、二人とも娘役さんだったからマジでテンション高くて!私がずっとダイニングに鎮座している間、一緒にキッチンに立てて感激してました。その様子を私は後ろから写真に撮って「よかったねぇ」って(笑)。

いわゆる恋愛から始まった結婚だったら、それって嫉妬するシチュエーションなのに(笑)。

フリーランスになった理由は、自分の価値を可視化するため

ところで宝塚歌劇団を退団してイベント会社に就職し、アシスタントプロデューサーとして裏方の仕事をされていたにもかかわらず、9ヶ月で退社してフリーランスになられたのは何故だったんでしょう?

自分がやっている仕事にどれくらいの価値があるのか、一回ちゃんと見てみたかったからですね。会社員のときにプロデューサーという立場になって、初めて自分が携わるプロジェクト全体の予算が見えるようになりました。ただ、私個人に対する報酬の詳細はわからなかった。自分がやっている仕事にどれくらいの価値があるのか、一回ちゃんと見てみたかったんです。

確かにフリーランスになると、自分の仕事一つひとつに対して、ハッキリと金額が提示されますからね。

そうなんです。文章を書くなら何文字でいくら、イベントだと何時間でいくらとか。今の相場だと自分はこれくらいの価値なんだというのが数字で見えたほうが、私はモチベーションに繋がるんですよね。

個人事業主から、法人化した理由は何かあったんですか?

2021年に『こう見えて元タカラジェンヌです』の1冊目を出したタイミングで会社を立てたんです。一番大きかった理由が本の印税で、同じ頃にガラコン(エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート)やディナーショーなどさまざまなお仕事もいただいたので、今、ちゃんとお金をかけてできることって何だろう?と考えたとき、「あ、会社を作ろう」と。おかげで決算のときに数字で振り返ることのできる今は、給料を貰っていた頃より納得できますね。

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