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声優と音楽 ― パラレルキャリアのてっぺんを目指すには?山村響インタビュー

山村響

『Go!プリンセスプリキュア』との出会い

そして出会ったのが『Go!プリンセスプリキュア』ですよね。山村さんの代表作というとこれになるんでしょうか?

わたしとしては『蒼き鋼のアルペジオ』のイメージなんですけど、一般的にはそうなのかなと思います。もう本当に悩んで苦しんで、「これ以上何もできなかったらやめなきゃいけないかも」と思ってたときに『プリキュア』に受かったんです。首の皮一枚つながったっていう意味でも、わたしが演じた、キュアトゥインクル/天ノ川きららちゃんという存在には、ものすごく引っ張り上げてもらいました。

以来、声優としてのキャリアは軌道に乗ったとお見受けしますが、ちょっとユニークなのが、音楽活動に関しては所属事務所のマネジメントを通していないことですね。そういう声優さんって他にもいらっしゃるんですか?

声優としての仕事は事務所を通してやっていて、自分のイベントをやったりする場合は個人的に、という方もいらっしゃると思います。ただ、わたしみたいに音楽活動を完全に個人でやってる方はあんまり聞いたことないかもしれないですね。

制作はもちろん、ライブ会場やミュージシャンのブッキングも全部ご自分でやっているんですよね。

そうですね。いまのところ、音楽活動は商業ベースではなく「やりたいからやってる」だけなので、必然的に自分でやるほうがスムーズなんです。事務所経由で音楽方面のお話が来た場合に窓口をやってくださるマネージャーさんだけ立てて、あとは基本的に自分でやって、事務所に確認が要る場合はその人に確認をとって……という形で合意してます。

山村響として歌うには「全て自分でやってみよう」

セルフプロデュースになる前のミニアルバム2枚、『Love Magic』(2018年)と『Take Over You』(2019年)もその体制ですか?

Tridentの楽曲を作ってくださってたHeart’s Cryというアーティスト集団と出会って、彼らが所属しているTOKYO LOGICという事務所から「一緒にやりましょう」とお話をいただいたんです。TOKYO LOGICさんとうちの事務所のやりとりだったので、基本は他の声優さんのアーティスト活動と同じ形でしたね。

そのころは曲は作っていましたか?

『Love Magic』のほうは歌詞を全部書かせていただいたんですけど、2枚目の『Take Over You』はTridentと同じ作り方をしてみようということで、わたしは楽曲制作にはタッチしない形でやりました。たくさんの方が動いてくださって、すごくいい経験もさせていただけたんですけど、そのなかで自分のやりたいことが見えてきたんです。

キャラクターを背負うんじゃなく山村響として歌うときは、自分の言葉で届けたいな、ってあらためて感じて、じゃあ全部自分でやってみようと。それで2019年の5月ぐらいから少しずつDTMの勉強を始めて、初めてできたのが「Suki」っていう曲でした。

ずっと前からあったアーティスト性が徐々に花開いてきたんですね。

いわゆる“声優アーティスト”と呼ばれる方々の華々しい活動をうらやましく感じることも正直ありますし、レーベルに所属していたこともありますけど、いまのわたしにはどうしてもやりたいことがあるので、それを自分でどうにかこうにかして伝えることのほうが、意味があると思ったんです。それがちゃんと真摯にできた上で「いいですね」って言ってくださる方が増えていけばいいなって。

経験から知った、押すべき・引くべきタイミング

やりたいことというのは?

型にはまった曲は歌いたくないんです。わたしは声優であり歌う人ですけど、音楽は自分のなかでは本当に毎日、生活に寄り添ってくれるものだから、わたしの音楽も聴いてくれる方たちにとってそういうものでありたい。みなさんの毎日に染み込むような音楽を作りたいんです。キラキラした感じではないかもしれないし、アップテンポでノリのいい曲もまだ全然少ないんですけど、聴いてホッとしてくれたり、「また明日も頑張ろう」って気持ちになってくれたりするような楽曲を作っていきたいなと思ってます。

僕が聴いて思ったのは、都会でひとり暮らしをしている地方出身者の音楽だな、と。日常的な喜怒哀楽を、自分の内面を見つめながら作った歌という印象を受けました。

わたしは自分自身と対話することでしか歌詞を書く作業ができないので、必然的にそういう曲になるんでしょうね。自分を奮い立たせる歌だったり、悔しかった気持ちを恋愛に置き換えて作ったり。そういう書き方が多いです。

こだわり抜いていることがわかるのが魅力だと思うので、セルフプロデュースでやる以上は貫き通してほしいですね。

「全部ひとりでやるのは大変だよ」とはよく言われます。もちろん手伝ってくださる方がいらっしゃればありがたいんですけど、性格上、納得いく形でできない限りは自分でやるしかないのかなって。appleCiderさんっていう方にアレンジをお願いしてるんですけど、かなり細かいところも修正してもらったりしてますし。

表向きは愛想がよくて物腰も柔らかいけど、根は頑固なタイプ?

そうだと思います。自分のなかで譲れない部分は本当に譲れないことが多くて。嫌われたくないから流されやすい部分もあるんですけど、その場では「あ、それで大丈夫です」と言って、あとから後悔して「やっぱりすみません、やめます」とか言っちゃったりすることもあります。

そういうことは若いときよりは減ってきましたか?

んー……難しいですね。若いときは若いからこそわがままを言えてた部分もあり、わからなくて言えなかった部分もありますから。いまはいまで、いろんな人の立場とか考え方がわかるようになってきたからこそ「言わないでおこうか、ここは」みたいなこともあったり、「だからこそ言わなくちゃ」って部分も見えてきたりとかして。

根っこの性格は変わっていない?

うん。こだわりが強いのと気が強いのは変わってないと思います。

先日のライブのMCで、セルフプロデュース以前の曲をやらない理由をていねいに説明されていましたよね。あれでファンの方もこだわりを理解してくれたと思います。

音楽性がガラッと変わってるので、昔から応援してくださってる方であればあるほど疑問をお持ちだったと思うんです。だからこのタイミングでお話をしたくて。そしたら「気になってたことも聞けて腑に落ちた」とか「響ちゃんの思いを強く感じたライブだった」と言ってくださる方がたくさんいて、話してよかったなと思いました。

「続けたい」と思って続けてきた結果が、いま

声優のお仕事のほうは最近はどうですか?

少しずつですけど、受かりたい役に受かることができるようになってきた気がしてます。昔からオーディションを受けるたびに「絶対にこの役やりたい!」という思いはもちろんあったんですけど、なかなか叶うことはなくて。情報が出てるなかで言うと『うちの師匠はしっぽがない』っていう落語のアニメに出演するんですけど、そのオーディションのお話をいただいたときに、原作を読んですごく感動して「このキャラクターの声、絶対やりたい! やりたいし、絶対にわたしの声が合う!」って思って(笑)、めちゃくちゃ練習して、終わった後は神社にもお参りに行って、それが受かったりとか。他にもいくつかあるんですけど、夢がかなうことが少しずつ増えて、うれしいです。

音楽のほうでもやりたいことができるようになってきて、いい感じですね。

いやいや、でも未来はわからない……それがフリーランスなので(笑)。事務所に所属していても個人事業主ですから、安定はないですね。

音楽活動のほうではレコーディングやライブの費用も持ち出しですか?

基本的には予算は全部、自分で捻出してます。未来への先行投資ということで(笑)、いつかペイできればいいなって。

声優と音楽という、複業・パラレルキャリアを追求することには、苦労もたくさんあると思うんですが、楽しみもあるのでは?

いまは声優さんもYouTubeをやってたりとか、音楽でもアレンジまで自分でやる方もいて、わたしのやり方もそうだと思うんですけど、自由な世の中になってきたことはすごく感じてます。

苦しんだ時期もありましたけど、絶対にやり続けたいと思って続けてきた結果、いまはまあまあ順調にお仕事をいただけてますし、音楽に関してもやりたいことをやれているので。本気でやればやれないことってないんだなってすごく思うんです。もちろんエネルギーも要るし、精神もすり減るので、手放しで「やってみなよ!」とかは言えないんですけど(笑)、わたしの経験上そうです。

これからも上を目指していくわけですね。

もちろん。わたしなんて声優のピラミッドの底辺なので(笑)。本当にそう思ってます。どの作品に決まっても、メインキャストの名前を見ると「有名な人ばっかり……わたしこの並びにいて大丈夫かな」って。仕事が決まらなかった時期が長かったからなのか、「わたしみたいなものが」という気持ちしかないです、毎回。


撮影/須合知也@tomoya_sugo

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
https://www.tapiocahiroshi.com/
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