FREENANCE MAG

「こうすべき」提言はしない、働き方。雑誌『仕事文脈』のパンクな原点 ― 宮川真紀(タバブックス)インタビュー

FREENANCE 宮川真紀

活況を呈する“ひとり出版社”、独立系出版版元のなかでも存在感を発揮しているのが、宮川真紀さんが2012年に立ち上げたタバブックス。植本一子『かなわない』、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』、小川たまか『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』、ヤマザキOKコンピュータ『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』などの話題作を世に送り、今年8月には発足から10周年を迎えます。

宮川さんが編集長を務め、立ち上げ当初から年2回刊行してきた雑誌『仕事文脈』も今春には通巻20号を数えます。タイトル通り、生活の糧、人生の一部としての仕事を共通テーマとして、さまざまな書き手が寄稿するリトルマガジン。編集者や著者の視点の面白さと、ZINEっぽい自由な雰囲気が大きな魅力です。その『仕事文脈』を中心に、タバブックスのこれまでとこれからについて、宮川さんにお話をうかがいました。

profile
宮川真紀(みやかわ まき)
株式会社パルコにて雑誌編集(月刊アクロス)、書籍編集(PARCO出版)に従事し、2006年よりフリーランスに。書籍企画・編集・制作、執筆(“神谷巻尾”名義)などの活動ののち、2012年8月「タバブックス」設立。
https://twitter.com/tababooks
https://twitter.com/shigotobunmyaku
https://www.instagram.com/makio_annex/

仕事と生活は一体化しているもの

仕事文脈 vol.1』(2012年11月発行)

もともとは宮川さん個人の雑誌として創刊されたんでしょうか。

うちは2012年から出版活動を始めたんですけど、『仕事文脈』は3号ぐらいまではISBNコードをとっていなくて、ZINEみたいな感じで作って文学フリマで売っていたんです。そうこうするうちに本屋さんで「これも流通させたら?」って言われて、書籍扱いでやっています。働く女性として読みたいメディアがあんまりなかったんですよね。

当時、働く女性向けのメディアというと……。

『日経WOMAN』みたいなバリキャリ向けとか。あと当時は“すてきな暮らし”が流行ったじゃないですか。『天然生活』『クウネル』みたいな。その両極端の間の話が読みたいと思ったんですよね。仕事って誰もがしているし、生活と一体化しているものだと思うので。雑誌名はひらがなやカタカナが多かったから漢字にしたのかな。まぁ、実際の内容は仕事や働き方のことだけではないから、だんだんよくわかんなくなってきていますけど(笑)。

仕事を生活の一部として捉えれば内容も多岐にわたってくるのは自然ですよね。どんな風に作っていらっしゃるんですか?

いまは特集2本でやっているんですけど、毎回3~4人の外部スタッフに編集に入ってもらって、企画会議を2回ぐらいやって特集テーマを決めていきます。そこから各著者に依頼をして原稿をもらって入稿するところまでは担当ごとにお願いしていますね。もちろんわたしも目は通していますけど。

儲かっていなくても、雑誌を作る意味

最初は完全におひとりで?

1号はデザイナーのイシジマミキさんとふたりで作りました。イシジマさんのことはネットで見つけたのかな。「ダメ人間だから一日でたくさん稼ぐために特急案件だけ受ける」みたいな(笑)、面白いことやっているなと思って声をかけました。彼女が高円寺でやっていたコワーキングスペースで、「InDesign(※)はあんまりいじったことない」って言うから講習会とかしながら、一緒に作ったんですよ。2号めは本文組も自分でやりました。

※Adobeが提供するDTPソフトウェア

ご自分で! 大変ですね。

意外と使っていない編集者が多いけど、できたほうがいいと思いますよ。自分で気軽にZINEとか作れるし。わたしは出版社をやっていますけど、販促物とかZINEとか、ちょっとしたものを作る仕事って結構多いので。

最近またリトルマガジンの時代が戻ってきているような気がします。

雑誌は広告収入で成り立っているから不景気で大変だ、みたいなことがよく言われますけど、『仕事文脈』はそういう構造とは関係ないんですよ。予算ありきで作っていないので、売り上げがガクッと落ちるようなこともないし、部数もほぼ変わらず、地道に作って、売れたお金だけしか入ってこないというスタイルでずっとやっています。書き手探しの面もありますし、連載をしてもらってそれを本にしたりもしますから、儲かっていなくてもやる意味はあると思っています。

新しいものを探し求める、パンクな「クセ」

仕事文脈 vol.19』(2021年11月24日発売)

読者はどんな方が多いですか?

普通の人たちですね。転職を考えていたりとか、働き方に悩んでいる人から「こんな仕事をして生きている人がいるんですね。ちょっと気持ちが楽になりました」みたいな感想は聞きます。意外と古くならないというか、直販イベントにバックナンバーを持っていくと、けっこう売れるんですよ。一冊読むと他の号も読んでみたくなるみたいで。

宮川さんご自身が書いていらっしゃる巻末のページが面白いです。毎号とてもお怒りになっていて。

怒り芸じゃないけど、怒ったほうが面白がられるんですよ。一回ページが足りなくなって書かなかったことがあるんですけど、「今回はないんですね」とか言われて「しょうがない、書くか」と(笑)。怒りたくて怒っているわけじゃないし、そろそろやめたいんですけど、そのたびにとんでもないことが起こるから、ついつい書いちゃう。

仕事文脈 vol.19』より

ここ10年はひどいことが起こりすぎですものね。

震災の翌年に創刊したから当時もいろいろあったし、その後すぐに第2次安倍政権の発足で毎号毎号いろんなことがあり、今度はコロナですからね。怒らない人も多いじゃないですか、特に若い人は。なんか遠慮しちゃっているのか、「自分の思想を書いていいんですか?」みたいに言うんですよね。

うるさい人と思われて目立つのがイヤなのかもしれませんね。世代の違いみたいなことを感じることはありますか?

誰も言ってくれないからわからないです(笑)。もともと新しもの好きで、本も新刊を読みたいんですよ。古本にはあんまり興味がなくて。これは別のインタビュー(※)でも話したんですけど、中学生のときにパンクが来たんですよ。それでガツーンときた経験があるから、オルタナティブなもの、新しいものを探し求めるクセがついたのかなって。今日着ているTシャツも事務所近くのライヴハウスのグッズなんです。

トーチライト『言葉のその先を、信じているために。「仕方がない」に逃げないものづくり/宮川真紀さん(タバブックス)』

編集者としての歩み

ZINEもパンクのDIY文化から出てきたものですしね。

そうなんです。当時、セックス・ピストルズのファンの高校生か大学生ぐらいのかっこいいお姉さんたちが四つ折りの手書きのZINEみたいなのを作ってレコード屋さんに置いてもらっていて、そういうのに憧れていました。

編集のお仕事をされるようになった最初の最初のきっかけみたいな?

もしかしたらそうかもしれないですね。ただ、新卒で最初に勤めたのは外資系のコンピューター会社でしたけどね。当時はわりと景気がよかったのもあって、2年くらいで出版社に転職しました。そこでは広告営業をしていたんですけど、編集をしてみたいなと思ってPARCO出版に移って、『アクロス』の編集部で7年、書籍編集部に異動になってから8年。それで2006年に早期退職に応募してフリーランスになりました。

PARCO出版ではどんな本を?

アート系の本を出しているイメージが強いかもしれませんが、ギフトブックや実用書もあったし、わたしが在籍していたときは美輪明宏さんの『人生ノート』がめちゃめちゃ売れていました。わたしもいろいろ引き継いでやったなかで、『ラブ・ダイアリー 恋についての365問』というのがすごく売れましたね。あと100%ORANGEさんの『Doughnuts ドーナッツ! マイボーゾウにのる』とか。ヨシタケシンスケさんの最初の本(『しかもフタが無い』)も担当しました。

当時から若手をフックアップされていたんですね。まさに新しもの好き。

その頃から、著者の“最初の1冊”は多かったですね。それはいまも同じで、すでに有名な人の本はほぼ出していません。そんなにいい条件も出せないし、すでに売れている人は大きい会社で出したほうがいいじゃないですか。初めて出す人なら相談しながらやれるし、チャレンジの意味でうちからどうですか、と。以前FREENANCE MAGに登場されていた植本一子さんの『かなわない』がうちでは一番売れた本なんですけど、彼女が作っていたZINEを読んで衝撃を受けて、最初は『仕事文脈』に書いてもらったんですね。「もうどこか決まってるかもしれないけど、書籍化とかどうですか?」って聞いたら「特に決まってないです」って言うから、やらせてもらいました。

安達茉莉子さんも『私たちにはことばが必要だ』の装画を担当されていますね。

安達さんのZINEを見て、本の内容と親和性があるかなと思い依頼しました。2017年に『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社)という韓国の独立系の小出版社や書店を紹介する本が出たんですよ。それで興味を持って視察ツアーに同行して、いくつか見て回ったなかに『私たちにはことばが必要だ』の原書があったんです。けっこう目立つ表紙で「これはなんですか?」って聞いたら「韓国ではいま若い人の間でフェミニズムがすごく活発で、そのきっかけになった本のひとつなんですよ」と言われて。当時は韓国とフェミニズムが頭の中で結びつかなかったんですけど、買って帰ってきて、翻訳をしている人に聞いたら「すごく話題になっている本ですよ」と言われたので、やってみようと。偶然『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)と同じころに出たこともあって、話題になりました。

提言は載せない/予測もしない

仕事文脈 vol.3

タバブックスの刊行物を見ていると、ことさらにフェミニズムを強く打ち出しているわけではないものの、女性の視点を大事にされている印象を受けます。

わたしが女性だからでしょうね。自分が興味のあるテーマで本を作っているので、自然とそうなっているのかな。『仕事文脈』の3号が「女と仕事」という特集だったんですけど、これまでの中でも売れ行きがよくて品切れになってしまったので再編集して『女と仕事 「仕事文脈」セレクション』という単行本にしたんです。書き手もインタビュアーも全員女性だったから、親近感を持って読んでもらえたのかなと思います。

『仕事文脈』は内容も書き手も幅広いですが、共通項は何ですか?

自分なりの視点がある人ですかね。 あと企画のルールとしては、提言は載せない。『来るべきなんとか』とか『なんとか2.0』みたいなのはいっぱいあるじゃないですか。読みたい人は読めばいいけど、うちはそれを求めているわけではなくて、実際に自分がやったこと、やっていることをベースにして書いてもらっています。

提言はしない(笑)。すてきですね。

あと予測もしないかな(笑)。『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』という本を出しましたけど、それは予測じゃなくていまやるべきことというか、お金の使い方とか考え方をちゃんと言っているんですよ。ありふれた提言とは違うと思ったし、新しいと思ったので出しました。

>同じ著者の似たような内容の本がいっぱいありますものね。どこの出版社も著者や類書の実績がないと企画が通らないから。

そうなんですよ。フリーランスで編集をやっていた時代に勝間和代さんがすごく売れていて、「勝間和代っぽい企画ない?」とか言われていたのがトラウマになってやらないのかもしれない(笑)。

それで自ら出版レーベルを立ち上げて現在に至るわけですから、フリーランスも受注仕事をするだけじゃなく、ひとり親方になることを考えてもよさそうですね。

親が会社員だったりすると「フリーランスなんて、そんなわけのわからないもの……」というイメージがあるかもしれないけど、わけのわからない働き方をしている人ばかりじゃないですよと(笑)。若い子に話を聞くと、本当に悲壮感いっぱいで、就職が決まっているのに「将来の展望がない」ってすっごく暗いんですよ。「そんなことないよ」とは言えないけど、だったら逆にいろいろやってみてもいいんじゃない?って思いますね。ひとつの会社で定年まで勤め上げる時代でもないし。

そういう人たちに何か言ってあげるとしたら?

提言はしないから(笑)。わたしが若いころは景気がよかったですしね。突出した人間にならないと食えないみたいな考え方の人が多いですけど、コロナはみんなに平等に降りかかってきているわけで、勝ち抜こうが負けようが、ある日突然死んじゃうかもしれないし、ポンと不幸な立場になっちゃうかもしれない。あんまり悲観しないでもいいんじゃないかなって思いますけどね。「こういう大人もいるよ」「こんな風にも生きられますよ」というのを見せていくしかないのかな(笑)。


撮影/阪本勇@sakurasou103

執筆者profile
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばで育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
https://twitter.com/tapiocahiroshi
https://www.tapiocahiroshi.com/
FREENANCE
今すぐ無料登録
会費ずっと
0