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推し活から学ぶ「正しい知識」と「頼る力」 ― 竹中夏海×犬山紙子『アイドル保健体育』対談

FREENANCE 竹中夏海 犬山紙子

フリーランスには「想いを吐き出せる存在」が大切

竹中夏海

ちなみにアイドルという職業もれっきとしたフリーランス・個人事業主ですが、お二人から見て「フリーランスだからこそ気を付けたほうがいいこと」って何でしょう?

犬山 この本にも書いてありましたけど、健康診断! 会社員みたいに毎年受けられる制度もないから、行政の健康診断やガン検診とかをキチンとチェックして、能動的に自分の体を守る行動が必要ですよね。仕事を休んだ時にフリーランスはその期間そのまま収入はなくなりますし……。労災保険の特別加入など最近フリーランスにも少しずつ幅が広がってきてはいますが、全てのフリーランスに労災がおりるわけでもない。

竹中 うん。本来なら労災おりてもいいケースでも、全然おりないのがフリーランス。

犬山 自分をケアすることも、後回しにしがちですよね。あと、同じ立場で気持ちの通じる同僚とかが周りにいる会社勤めに対して、フリーランスって孤立しがちだと思うんですよ。だからフリーランス同士で関係を作って、例えばギャランティの相場だったり、お互いに聞いたり話したりできる環境を整えておくことも必要じゃないかなって。
特にアイドルは人から見られる職業なので、メンタルケアという観点でも気持ちをわかってくれる人、想いを吐き出せる人っていうのは、甘えでも何でもなく、命を守るために必要だなぁって感じます。

竹中夏海 犬山紙子

竹中 それこそ「メンバーには知られたくないから近くのスタッフには話せない」って子もいて、そこで請け負うことが多いのが振付師だったりするんですよ。振付師は比較的女性が多いし、ダンスって身体のことだから延長で話しやすいし、距離的にもちょうどいいんでしょうね。

犬山 つまり体だけじゃなく、メンタルについて相談できるカウンセラー的な人も、特にアイドルの周りには配置されていないってこと?

竹中 それ専門の人はまったくいない。だから、なんとか心と体をケアできるような場所を、アイドル専用で作れたらいいなぁって考えているんですよね。アイドルって身バレを防ぐために、婦人科とかの病院にしろ、個人でのダンスレッスンにしろ、あらゆる場所にアクセスしづらくなっているから、アイドルが安心して通えるジムだったり、身体や心のことを相談できる場の必要性は、すごく感じてます。

竹中夏海 犬山紙子

「頼ることのできる力」を持つことこそ「本当の自立」

犬山 そもそも思春期に表に立つって、負荷は絶対かかりますよね。思春期じゃない私でも、いまだにしんどいとき全然あるし。

竹中 でも、犬山さんはちゃんとカウンセリングとか行かれてるんですよね?

犬山 そうですね。私は自分の限界を早々に気づいたので、とにかく一人で抱え込まないように徹底してます。「あ、これは不安がくるやつ」ってわかった瞬間、マネージャーさんや、絶対に私のことを否定しないで話を傾聴してくれる友人たちに相談したり、「こういうときは瞑想するといい」とか「睡眠が大事」とかっていうこれまでの知識にも従って。
あとは、もう速攻で病院に行く! フィジカルの病院に行くのと同じくらいカジュアルに心療内科にも行くので、メチャクチャ人に頼ってますね。で、その“頼ることのできる力”っていうのが、本当の意味での“自立”だろうなと思うんです。
他人に迷惑をかけないで一人で生きるのなんて絶対無理だから、自分のSOSを小さな芽のうちに出せること。そして、他人のSOSをしかるべき機関や人につないだりできることのほうが“自立”だろうなと。

犬山紙子

フリーランスは孤立しがちだからこそ人に頼る力が必要であるというのは、いや、目から鱗です!

竹中 限界を知るっていうのは、すごく大事なことですよね。特に若いうちって「我慢しちゃえばいいや」になるけど、無理だったら素直に「できないです!」って大きな声で言ったほうがいいというのも一つの“知識”だし。どうにか「この人は信用できそうだな」っていう人を探して、自分一人で抱え込まないでほしいです。

犬山 さらに男性の場合、「男は弱音を吐いちゃいけない」とか「男は泣いちゃいけない」みたいな“有害な男らしさ”のせいで、不満を吐き出せずに重い鬱の状態になってしまうという例も聞くから、「男性も弱音吐こうぜ!」って言いたいですね。そのためにも「男のくせにそんなこと言っちゃダメだよ」っていう風潮は無くしたい。

竹中 そう。「男の子だから泣かないの」は、もう絶対ダメだし、「お兄ちゃんだから」とか「お姉ちゃんだから」とかもダメ。

泣くも泣かないも、全部その子の個性ですからね。性別も立場も関係ない。

犬山 それこそアイドルなんて未成年の子もたくさんいて。商品である前に個人だし、個人である前に子供なので、その権利がちゃんと守られてほしいっていうのは、常日頃から考えてます。

竹中夏海 犬山紙子

竹中 大事な人様のお子さんを預かっているという感覚は、運営側にも失わないでほしいですよね。なので心と体のケアはもちろん、社会に適応するための成長もサポートしてほしいんですよ。フリーランスなのに確定申告とかを教えてあげる環境もないし、ただ、いまって税理士さんのマッチングアプリもあれば、婦人科のオンライン診療も広まっているから、うまく使って頼れるものは頼ってほしいです。まぁ、それも知らなければ使いようがないので、やっぱり、まずは知ってほしいなって。

それはアイドルだけでなく、すべてが自己責任にされがちなフリーランスにとって重要なことですよね。

犬山 フリーランスって仕事相手と対等に見えて、実は力関係は全然対等じゃなかったりするから、例えば業界の構造のせいだったり、自己責任じゃないところで苦しむこともたくさんあるんですよ。だから、とにかく弱音を吐ける相手とか相談できる人を見つけることが命というか、自分の心を守る術を意識することはお勧めしたいです。

竹中 あと、フリーランスって「忙しいのはいいことだ」っていうイメージがあるじゃないですか。私も母に「もう忙しい!」って弱音を吐きたいモードになっているのに、「忙しくてよかったじゃない」って言われて、もやもやしてしまうことがあるんですね。
そういうときに「弱音を吐くことで救われることもあるから、“そうなんだ、大変だね”って言ってくれるだけで助かるんだよ」って、思い切って伝えてみるのも大事かもしれない。それはフリーランスうんぬんに限った話じゃなく、立場が違って想像力が及ばないだろうことに関して、大事な人だからこそ伝えるってことも、自分の心を守るためには大切なんじゃないかなと思います。

竹中夏海 犬山紙子
『アイドル保健体育』刊行記念・配信イベント
竹中夏海×ジェーン・スー
「うちらの推し、神として見るか? 人として見るか?」

2021年10月29日(金)20:00~22:00
(19:30オンライン開場)
出演:竹中夏海/ジェーン・スー
参加予約:本屋 B&B
http://bookandbeer.com/event/20211029_idol/
※見逃し配信(1カ月)あり

撮影/阪本勇@sakurasou103