フリーランスや個人事業主として働くにあたって、自身の体はまさに資本。健康でいるためには、生活習慣病の予防や病気を早期に発見できるよう、定期的な健康診断が欠かせません。会社員にくらべると、多少は手間やコストがかかりますが、事業の継続や成長を考えても、定期的に受診しておくべきでしょう。また、 受診により、 対象医薬品の購入費用について所得控除を受けることができる「セルフメディケーション税制」という制度もあります。そこでこの記事では、フリーランスや個人事業主として働く方が利用できる健康診断について解説していきます。

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フリーランス・個人事業主の健康診断は義務ではない
労働安全衛生法第66条では「事業者(企業)が従業員(労働者)に対して、健康診断を実施する義務」を課しており、従業員(労働者)は、実施される健康診断を必ず受けなければなりません。
正社員の1/2以上3/4未満働くアルバイトやパートタイムで働く人も、「健康診断の実施が望ましい」とされています。正社員の週所定労働時間の3/4以上働いている場合は、正社員でない場合も、企業は健康診断を実施し、従業員は健康診断を受ける義務があるのです。
しかし、フリーランスや個人事業主として働いている場合、健康診断について法律上の義務や規定はありません。健康診断にかかる費用は経費にならないため、しばらく健康診断を受けていないフリーランスや個人事業主の方も多いのではないでしょうか?
なお、病気の早期発見が目的である「人間ドック」には、法的な実施義務がありません。事業者に実施義務のある健康診断とは異なり、人間ドックを受けるか、否かは個人の判断になります。
※参照:労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~
フリーランス・個人事業主が健康診断を受けるべき理由
仕事が忙しく、納期が迫っているときなど「もし体調を崩してしまったら……」と不安になることはありませんか? 実際、フリーランスや個人事業主として働く方が抱えている不安・悩みには、「収入の不安定さ」「社会保障(医療保険、年金等)」などに加え「自分の健康や気力の持続」も挙がっています。
※参照:中小企業庁「小規模企業白書」
理由1:「傷病手当金」がない
フリーランスや個人事業主として働く方の多くが加入している、国民健康保険(国保)に「傷病手当金」がないことも、健康面での不安要素のひとつです。
傷病手当金は、ケガや病気により就労が難しくなった場合に、療養中の生活保障として給付を受けられる制度です。しかし、あくまでも医療費負担の問題解決を目的としている国保には、傷病手当金の制度がありません。
つまり、フリーランスや個人事業主として働いていると、保険に加入していない限り、ケガや病気で働けなくなったときの「生活保障がない」のです。自発的に定期的な健康診断を受けることは、もしものときのリスクヘッジとも捉えられるでしょう。

理由2:「セルフメディケーション税制」を利用できる
「セルフメディケーション税制」は、個人が健康維持を目的としたスイッチOTC医薬品(ドラッグストアなどで買えるように転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用を所得控除にできる、医療費控除の特例制度です。なお、セルフメディケーション税制の対象とされる医薬品は、購入した際の領収書・レシートに控除対象であることが記載されており、2021年10月時点で2,505点となっています。
※参照:セルフメディケーション税制対象品目一覧
対象医薬品を年間1万2,000円以上購入した場合、セルフメディケーション税制を適用することができます(生計をひとつにしている配偶者や親族も対象) 。 適用にあたっては、「健康の保持増進及び疾病の予防として一定の取組を行っている」ことが条件となっており、健診は「一定の取組」に該当します。ただし、健診にかかった費用は、控除の対象に入りませんので注意しましょう。
具体的な「一定の取組」とは以下6つです。
- 保険者(健康保険組合等)が実施する健康診査【人間ドック、各種健(検)診等】
- 市区町村が健康増進事業として行う健康診査
- 予防接種【定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種】
- 勤務先で実施する定期健康診断【事業主検診】
- 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
- 市区町村が健康増進事業として実施するがん検診
課税所得400万円の者が、対象医薬品を年間20,000円購入した場合
(生計を一にする配偶者その他の親族の分も含む)
→ 8,000円が課税所得から控除される
(対象医薬品の購入金額:20,000円-下限額:12,000円=8,000円)【減税額】
厚生労働省 セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
・所得税:1,600円の減税効果
(控除額:8,000円×所得税率:20%=1,600円)
・個人住民税:800円の減税効果
(控除額:8,000円×個人住民税率:10%=800円)
なお、セルフメディケーション税制の適用には、以下の書類の提出が必要です。
- セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
- セルフメディケーション税制の明細書
- 一定の取組を行ったことを明らかにする書類(提示によることも可能)
健康診断の選択肢
いざ健康診断を受けようと思っても、どこに行けばいいか、いつ受ければいいかわからず、結局面倒になった経験はありませんか? ここでは、フリーランスや個人事業主の方が利用できる健康診断についてまとめました。
地方自治体が実施している健康診断
自治体により料金は異なりますが、無料で実施している自治体もあり、費用がかかる場合でも1,000円程度というところが少なくないようです。
例:東京都新宿区 | ||
申込方法 | 健康づくり課検診係への電話、電子申請、窓口 | |
費用 | 無料 | |
検査項目 | 問診、身体計測、血圧測定、尿検査、血液検査等ほか |
医療機関が実施している健康診断
病院や診療所など、医療機関で健康診断を受けることもできます。ただし、費用は保険適用外になるため、検査項目によって費用が異なります。
例:一般的な病院 | ||
申込方法 | 電話、窓口など(病院によって異なる場合も) | |
費用 | 5,000円~2万円程度(病院、検査項目により異なる) | |
検査項目 | 病院により異なる |
国民健康保険組合が実施している健康診断
加入している保険組合が実施している健康診断を受けることもできます。また、文芸美術国民健康保険組合(文美国保)のように、特定の職業で構成されている組合に加入していれば、健康診断を受ける際「疾病予防費」として支給を受けることができます。
例:協会けんぽ | ||
申込方法 | 保険組合より案内が届いたら、希望する健診実施機関に直接予約 | |
費用 | 一般検診最高7,169円(協会、検査項目により異なる) | |
検査項目 | 身体測定、血圧測定、血中脂質検査、肝機能検査、血糖検査、尿検査等(用意されている検査以外を追加で受けることも可能) |
※参照:全国健康保険協会(協会けんぽ)
※参照:JILLA 文芸美術国保
特定健康診査(特定健診)
特定健診は、40~74歳の方が対象で、主に生活習慣病の予防を目的とした健診です。保険組合が実施していることも多く、年度途中に加入、脱退、転出で異動などをしていなければ健診を受けることができます。また、生活習慣の改善が必要だと診断された場合は、「特定保健指導」を無料、または安価で受けられます。
例:大阪市 | ||
申込方法 | 届いた案内に従って申し込み(取り扱い医療機関には事前予約が必要/集団健診の場合は予約必要なし) | |
費用 | 無料(加入している組合により異なる/無料の自治体も多数) | |
検査項目 | 身体測定、血圧測定、脂質検査、肝機能検査、血糖検査、尿検査等(用意されている検査以外を追加で受けることも可能/自己負担額が追加されることも) |
※参照:大阪市 特定健診
まとめ
傷病手当金等がないフリーランスや個人事業主の方にとって、健康維持はまさに死活問題です。スケジュールによっては、多少無理をしてしまうこともあるでしょう。長く元気に活躍していくためにも、定期的な健康診断を心がけてください。

東京女子医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学病院循環器内科入局。現在も東京女子医科大学病院、および関連病院で内科、循環器科、睡眠科として診療にあたるほか、嘱託産業医として企業の健康経営にも携わっている。
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