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スポットワークとは? メリットやデメリット、スポットワーカーが知っておくべき確定申告・社会保険を解説【社労士が解説】

働き方の多様化が進む中、単発の仕事を請け負うことで、一時的・短期間での就労機会となる「スポットワーク」という働き方が注目されています。

時間や場所に縛られず、自分のペースで仕事を選べる魅力があるスポットワークについて、その定義や契約形態、活用の注意点をまとめました。

さらに、確定申告が必要か否かなどといった税金の取り扱い、社会保険の注意事項まで、スポットワーカーが知っておくべき基礎知識を解説します。

スポットワークとは?

スポットワークとは、時間単位で働く1回限りのアルバイトのことです。企業や店舗は、人手がほしい時間帯を指定して求人を出します。そして、働く人は自分の空き時間にできる仕事をアプリ上で選び、雇用契約を結ぶという仕組みです(※)。

※NHK『スポットワークが人気 若者だけでなくシニアも急増 どんな仕事?メリットや注意点は』より趣旨を引用

一般社団法人スポットワーク協会(以下、スポットワーク協会)では、「短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くこと」と定義しています。マッチングアプリなどの進歩により、非対面でワーカーも企業も、お互いの条件を確認し、採用されてすぐ働けるようになっています。

スポットワークとは、短時間・単発の(短い時間と期間だけ働く)働き方を指します。

広義のスポットワークには、雇用契約を結ばない”ギグワーク”を含みますが、現在当協会では、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約を結ぶ“単発バイト”(狭義のスポットワーク)を対象にした仲介事業の健全な発展を目指しています。

引用元:スポットワークとは | 一般社団法人スポットワーク協会

スポットワークが広まった理由

スポットワークは、ワーカーにとっては、自分の働きたい時間に合わせて自分の都合やスケジュールによって働けるメリットがあります。

一方、企業は急な欠員や繁忙時にも柔軟な採用ができ、採用コストも比較的低いのが特徴。必要時期だけの人材雇用で福利厚生・人件費コストも抑制でき、お互いにメリットのある制度です。

スポットワーク協会の調査によると、2024年5月末時点の国内のスポットワーク登録者数は約2,200万人となっています。これは、2023年3月末時(約990万人)と比較すると約2.2倍に急成長しています 。企業の副業解禁や、柔軟な働き方を求めるフリーランスが増えていることも一因でしょう。

※引用元:スポットワーク市場の動向と展望について(財務省『ファイナンス』令和6年12月号)
一般社団法人スポットワーク協会

類似した働き方との違い(ギグワーク、クラウドソーシング、業務委託など)

スポットワークを、ほかの類似した働き方と比較してみましょう。スポットワーク協会では次のように、類似の働き方との違いを整理しています。要するに、スポットワークは「雇用契約により企業の管理者の指揮命令に従って単発の仕事をこなす」と理解しておけばよいでしょう。

1. 単発バイト(スポットバイト)

一般にスポットワークと呼ばれるものです。雇用契約を結び企業の管理者の指揮命令のもとで働き、時間給を得ます。

2. ギグワーク

単発・短時間と言いう点は単発バイトと同じですが、業務委託契約を結び、業務の進め方について、ワーカーの裁量に任される点で異なります。

ただし、ギグワークをスポットワークに含める方もいます。本稿では、スポットワーク協会の定義に従い、1.の「単発バイト」のみをスポットワークとします。

3. クラウドソーシング

インターネット上で不特定多数の人に仕事を発注し、受注者が納品するまでの流れを指します。契約形態は業務委託です。一定の納期までに成果物納品などのノルマが求められます。報酬も成果報酬です。

4. 業務委託

雇用契約によらず、受注の成果物や役務の提供に対して報酬が支払われます。業務の進め方等は受託者に任され、成果物や役務に対して報酬が支払われます。

スポットワークの特徴

スポットワークの大きな特徴は、「選考過程がほとんどない」ということです。スポットワークでは、仲介する事業者(以下、仲介会社)が間に入ります。

仲介会社の提供するアプリサービス内などで求人企業と求職者(ワーカー)のマッチングが成立すれば、すぐ働くことができます。

まず、求人企業はスポットワークのアプリに短時間や単発の求人情報を登録します。ワーカーも自身の情報をあらかじめ登録しておきます。

アプリ内には求人企業やワーカーの評価なども蓄積され、これらの情報は随時双方で見ることができます。つまり、企業にとっては希望の人材を、ワーカーにとっては、希望する職場を簡単に見つけることができるのです。

希望条件が一致して合意すれば雇用契約が成立し、ワーカーは所定の日時に所定の場所に赴いて働きます。

報酬支払いは、銀行振込やモバイル送金などが比較的多いようです。仲介会社によっては一時立て替え払いをしてくれるところもあり、その場合ワーカーは企業の給与支給日を待たずに、すぐ報酬を受け取ることができます。

スポットワークの主な職種

スポットワークの主な職種は次のものがあります。特定の時期・時間に業務が繁忙になる特徴があり、スポットの労働力投入が求められる職種といえます。

  • イベントスタッフ
  • 飲食店
  • アミューズメント施設
  • コンビニ
  • アミューズメント施設
  • フードデリバリー
  • 倉庫などの軽作業
  • コールセンターなどのオフィスワーク
  • 充電器レンタル

スポットワークのメリット・デメリット

スポットワークのメリット、デメリットについて、実際にワーカー側、企業側の声を聞いた調査結果があります。

ワーカーにとってのメリット

ワーカーにとって最大のメリットは「単発性」「時間の有効活用性」です。通常のアルバイトの場合、事前に就労可能な時間帯を企業に示し、企業がほかのワーカーと調整してシフト表が組まれます。

一方、スポットワークの場合、すでに組まれたシフト内で突発的に穴が空いてしまった場合やカバーできなかった時間帯に募集するので、自分の希望時間帯を確実に押さえることができます。

ミライトーチMediaが実施したスポットワーカーが増えている理由とは?【専門家が解説】ワーカー547人に稼いでいる額や使い勝手など本音を調査(ミライトーチMedia/株式会社キュービック)の結果を見てみると、「スキマ時間を有効活用できる」「好きなときに入れて働きやすい」という声が、このことを示しています。また「採用面接等の面倒な手続きがない」「いろいろな職種を体験できる」といった声もあります。

ワーカーにとってのデメリット

一方ではデメリットとして、コミュニケーション協業(既存人材と連携して仕事すること)に難がある、という声もあります。単純作業であれば問題ありませんが、チームワークを要する作業には、問題が生じるケースもあるようです。

企業にとってのメリット

企業側からの声については、マイナビキャリアリサーチLabによる非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2024年5-6月)株式会社マイナビ)による調査結果を見ていきましょう。

メリットとしては「融通性(シフト調整のしやすさ)」「単発性(働く時間・働く期間の短さ)」を上げる声が多いようです。

また、必要なときに採用の手間をかけずに柔軟な採用ができ、採用コストも低廉なこと、必要時期だけの人材雇用で福利厚生・人件費コストも抑制できる、といったメリットもあります。

企業にとってのデメリット

ワーカーと同様にコミュニケーション協業に難がある、という声が多く見られます。

基本的にスポットワーカーはチームなどに属する時間が短いため、既存社員との関係構築は十分にはかれないことも多いと思われます。

※引用元:マイナビキャリアリサーチLab「非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2024年5-6月)」(株式会社マイナビ)

契約を引き受けるときの注意点

スポットワーカーは、雇用されて働く労働者であり、労働基準法や最低賃金法等をはじめとする労働法制が原則すべて適用されます。そして、ワーカーを採用する企業は、労働契約の締結に際し、労働条件の明示が義務付けられています。

多くのスポットワークサービス事業者では、利用企業を代行して「労働条件通知書」を交付し、ワーカーが確認できる機能が提供されています。ワーカーとしては、最低限次のような項目を確認することが必要になるでしょう。

  • 契約期間
  • 就業の時間
  • 就業場所
  • 業務内容
  • 賃金の決定方法
  • 支払い時期

後述しますが、「業務の内容」が不明確であったり、業務の内容にくらべて賃金が不相当だったりする場合には「闇バイト」も疑われます。事前にしっかり確認を行いましょう。

スポットワーカーと税金・社会保険の取り扱い

スポットワーカーはあくまで雇用されて働く労働者です。税金や社会保険等は一般の雇用労働者(サラリーマン等)と基本的には変わりません。

ただし、働く時間も短く賃金が比較的少額であることが多いため、それに応じた特徴があります。

税金の取り扱い

スポットワークは、短時間とはいえ雇用契約であり、賃金は給与所得となります。納税については、会社の源泉徴収で完結するのが原則です。

ただし、多くのスポットワーカーは正社員やパート等として給与所得を得たうえで、スポットワークに従事していることが多いでしょう。副業のスポットワークの年間所得が20万円を1円でも超える場合(ただし、年収103万円以下の場合は除く)は、確定申告が必要になります。

確定申告の詳細は本稿では省きますが、国税庁の令和6年分確定申告特集確定申告書作成コーナーで申告書の作成や税額計算シミュレーション、さらに実際の確定申告も済ませることができます。

本業で年末調整を受けている方も、確定申告すれば、医療費控除や寄付金控除などを受けることができます。この機会に一度お試しください。

社会保険(健康保険・年金保険)の取り扱い 

本業で給与所得のある方なら、本業の勤務先で健康保険・厚生年金保険に加入されていることが通例でしょう。

副業のスポットワークで週20時間以上働き、かつ月給が8.8万円以上というような場合でなければ、副業先での健康保険・厚生年金保険の加入は必要ありません。

なお、本業が個人事業主ならば国民健康保険、国民年金に加入されていると思われます。

労働保険(労災保険・雇用保険)の取り扱い

労働保険は、以下のような取り扱いとなります。

労働者災害補償保険(労災保険)

スポットワーカーは雇用されている労働者です。短時間の勤務でも労災保険は自動的に適用されます。業務によりケガをした、通勤時にケガをした、といった場合に労災保険が適用されます。

健康保険と異なり、医療費は全額補償され、働けないときの休業補償などもあります。ケガをしたらすぐ雇用主に相談してください。

「そのうち治るだろう」といった無理は禁物です。悪化してから労災の請求をしようとしても、本当に業務等に起因するかどうか立証が難しくなります。

なお、雇用主が労災保険の請求をしてくれないときは、ワーカー自身で労働基準監督署に相談しましょう。

雇用保険

雇用保険の適用要件は次の通りですので、スポットワーカーとして該当することは少ないと思われます。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上引き続き雇用されることが見込まれること(短期契約を繰り返す場合を含む)

スポットワーカーが気をつけるべきこと

ここでは、スポットワーカーとして気をつけておきたいことを紹介します。

収入の上限があるか

スポットワーク収入そのものに上限はありませんが、前述のように一定の所得を超える場合、税金、社会保険、雇用保険等の取り扱いが変わってくるので、ご注意ください。

複数の仕事を掛け持ちできるか

スポットワークを掛け持ちすることについて、特段の制限はありません。ただし、本業のかたわらスポットワークを行っている場合、長時間労働にならないように注意すべきです。

企業には、自社の労働時間を、副業・兼業先の労働時本業も含めた労働時間と通算するなどの管理が求められています。

過重労働防止のため、本業・副業含めて法定外労働時間と休日労働をあわせて単月100時間未満、複数月平均80時間以下などの制限を守らなければなりません。

また、法定労働時間外の割増賃金の取り扱いも、本業・副業の事業者で調整が必要です。いずれにせよ、スポットワークの時間そのものが短くても、本業と含めて過重労働にならないようご注意ください。

いわゆる闇バイトの問題

スポットワークは、有害業務や違法・有害と疑われる業務に係る求人に用いられる可能性があります。

厚生労働省からの注意喚起を受け、スポットワーク協会では昨年12月に会員への注意喚起を行い、スポットワーク雇用仲介事業を行う者が遵守すべきガイドラインを策定することを表明しています。ワーカーとしても、いかがわしい求人広告に惑わされないようご注意ください。

まとめ

スポットワークは、ワーカーにとっても企業にとっても、大変メリットの大きな働き方であり、活用が進んできています。しかし、その法的な位置づけには、まだ曖昧な部分も残されています。

便利であるために、闇バイトなどに悪用される可能性も考えられるでしょう。また、中には、当日になって出社しないといった、急なキャンセルで企業に迷惑をかけている人の存在も報じられています。

スポットワークに取り組むのであれば、労働条件をしっかり確認し、引き受けた以上は、責任を持って業務に取り組んでください。ご自身の信頼を勝ち得るだけでなく、スポットワークという新しい働き方の発展にもつながっていくはずです。