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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第15話 フリーランスたそのお仕事日記~書けるの?書けないの?どっちなんだい!~

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

天上天真唯我独尊

とりあえず、<私が宝塚歌劇団を受験してから卒業するまで>に起きた、ネタになりそうなネタを書き出そうと、机に向かった。

「やはり、まずは受験エピソードよね……!」

実は、この「受験エピソード」に関しては「鉄板ネタがある」という自負があった。

既に書籍が販売されているのでもったいぶらずに言うと、

「面接の時に<30秒間自己アピール>というお題が出され、当時NOコンタクトレンズで視力0.1くらいだった私はそのお題が読めず(見えず)、読解するのに25秒くらい使ってしまい、<自分は笑顔が良いと思っています!>的なことだけ言って微笑んだ」(詳しくは書籍を買ってちょ)

っていう、それはそれは分厚い鉄板ネタだ。

この話は、今まで様々な現場で話してきた。

①音楽学校に入学した直後、同期に。
➁花組に配属された直後、上級生の方に。
③入り待ち出待ちの際にファンの方に。
④その他、どこでもかんでも。とにかく初めて会う人へ自己紹介がてら。

そして、話すたびに必ず爆笑してもらえる、4割打者メジャーリーガーも真っ青になっちゃう打率の高さを誇るホームランネタなのである。

書きたいネタがくっきりと浮かび、自信満々になった私は

「早くこのネタを全世界へ届けたい!」

と、物凄い勢いで時系列順に書き連ねていった。

そして、小一時間も経たないうちに「受験生鉄板ネタ」は書きあがった。
文字数も最低ラインの2500ピッタリ位に収まっている。

「すごいじゃん自分」

自分の自信のあるネタである。という自信と、自分の自信のあるネタを書き上げることができた。という自信が重なり、ここ最近の人生で一番ノリにノっていた私は、

「今すぐ誰かに見てほしい。そしてホメて欲しい……!」

という承認欲求にかられた。

そして直後、私は原稿をとある元タカラジェンヌの同期へ送り、感想を求めた。

送信ボタンを押した直後から「返事まだかな?」とソワソワしながらスマホを確認する。

そして36度見くらいしたところで同期から返事が来た。

同期「ちょっと~!サイコーなんだけど!!!!」

内心、(そうでしょうそうでしょう!!!)とドヤりつつ、「……そう……か、な。(*´σー`)エヘヘ」とブリっコお返事をかました。

同期「このネタ知ってるのに、文字で見ても面白い!その時のシーンが目に浮かぶようだよ!」

と、手放しでホメてくれた。

内心、(コイツぅーワイが欲しい言葉全部言ってくれるじゃーん)と思いつつ、そのまま「コイツぅーワイが欲しい言葉全部言ってくれるじゃーん」と答えた。

煽られて完全に調子づいた私はそのままの勢いで左右社さんへ原稿を送った。

そして奇跡的に左右社さんからも良い返事を貰い、第1話は想像していたよりもすんなりと入稿できた。

天真「我……文章書ける也」

すっかり自信が身体中にみなぎり、レッドブルいらずでツバサを授かった私は、天上天真唯我独尊へと変貌を遂げた。

天上天真唯我独尊は優勝後のエキシビションさながら、ウイニングランをキメるべく、更なる承認欲求を求め、会社から帰ってきた姉弟に原稿を見せた。

天上天真唯我独尊「さあ!我を褒めよ! 褒めたたえるのだ!」

そう思いながら顔色をうかがう。

すると……

姉弟「ぶっちゃけ、これじゃなんについて話してんのかあんまわかんないんだけど。説明不足じゃね?」

と吐き捨てるように言われた。

……

……

……Pardon me?

教えてテルミー

天上天真「…………セツメイブソク?」

自分の耳を疑った。

5分前に同期から、「そのシーンが目に浮かぶようだよ!」と言ってもらったのだが?

姉弟「アタシ達はみちるじゃないんだし、想像つかないんじゃない?」

天上天真「…………!!!!!」

凄まじい「正論」の衝撃波が天上天真を襲い、そのあまりの凄まじさに、脳内にTMレボリューションの『ホワイトブレス』が鳴り響いている。

凍えそうになりながら、ふと、かつて母親に言われたことが走馬灯のようにリプレイされた。

ある日、家族で「タカラヅカ・スカイ・ステージ」(タカラヅカ専門チャンネルのこと)を見ていた際、

母親が「タカラヅカの人って、自分たちだけで話進めるよねぇ」

と何気なく言ったあの時のことを……。

天上天真「ソウダッタ。タカラジェンヌタチハミナ、セツメイガアマリタリヌソンザイデアッタ」

これは、タカラジェンヌあるあると言っても良い。

専門チャンネルの「スカイ・ステージ・トーク」(現在公演中の作品についてトークする番組のこと)という番組などで特に露呈しがちなのだが、タカラジェンヌ達は時々

「私の事を応援してくださっているのならば、上演中の作品についての予習も、勿論、してくださっていますよね?」

というスタンスを取ってしまうときがある……。

そして、この問いかけの返答は、「はい or イエス」しか求められていないのだ(※私調べ)

これは、タカラジェンヌ達が基本的に何事にも「ストイックである」という事が原因だと私は睨んでいる。

次回作品が発表され、例えばそれがオーストリアが舞台の作品だったりすれば、タカラジェンヌ達は休み中に現地へ出向き、本場の空気を吸い、役作りに活かす(※当時は)。

また、再演ものであれば、過去の作品すべてを何度も見返すし、原作物であれば原作小説を読み漁り、資料もできる限り探し回る。

そんな日々を目の当たりにしているファンの方々も、少しずつ「ストイックさ」が伝染し、例えば私が卒業した時の作品の舞台が天草だった時は、劇団に届く手紙の中に「天草四郎ミュージアムのパンフレット」を同封してくださる方が何名もいたほど。

その他にも、役作りに活かしてくださいとさまざまな資料を同封してくださった。

話が長くなってしまったが……

まあ、つまるところ、タカラジェンヌ達は、基本的に「自分の話を聞いてくださる方々は、自分以上に自分の気持ちを理解してくれているはず」という思いが強い。

でもこれは、「在団時」に限る話だ。

卒業した今、私は「タカラヅカを大好きな人」だけではなく、「タカラヅカを知らない人」にも届けられる表現をしたい。

そのためには、今の内容では圧倒的にセツメイブソクなのだ。

一身にホワイトブレスを浴びた天上天真は、正気を取り戻し、ただの天真に戻った。

そんな天真に姉弟は更に続けた。

姉弟「てか、みちるの文ってさ……」

ただの天真「みちるのぶんって……?」

圧倒的に描かれていないもの

姉弟「みちるがどう思ったのか全然わかんない」

ただの天真「……わたしが、どうおもったのか……」

今の私の文章は、受験時に起きた現象の箇条書きであって、そこに私の感想がない。更には何が起きているか説明が圧倒的に少なく、「読む人」を最初から限定し過ぎているのだ。

ただの天真「我……文章全く書けぬ也」

なんにも書けていなかったのに、書けている、と思い込んでいた自分が恥ずかしかった。

自分のうぬぼれの高さと、それに伴わない実力のなさに気が遠くなった。

今のままの原稿は世に出せるもんじゃない。世に出しちゃいけない。辞めよう。いっそこの話はなかったことにしようか……。

頭の中で緊急会議が行われ、一点を見つめながらNO瞬きで10分ほど立ち尽くした。

10分後……

天真「これは、アレをやるしか……ない」

静かに覚悟を決めた私は、一点を見つめたままおもむろにスマホを取り出し、左右社さんへ電話を掛けた。

天真「お疲れ様です」

左右社「お疲れ様です。先程は原稿ありがとうござ……」

天真「先程お送りした原稿ですが……削除してください」

左右社「え?!」

天真「あのままじゃ駄目なんで書き直します。さっきのはなかったことにして下さい」

左右社「え…………え?!」

天真「あのままじゃ……駄目なんです」

左右社「え……は、はい……」

天真「なので書き直します」

左右社「あぁ……はい、承知しました。もう少しお待ちしますね」

天真「ありがとうございます。それでは(ガチャ)」

お気づきの方もいらっしゃると思うが、この会話でもマジで圧倒的セツメイブソク。

(にも関わらず、左右社さんは御理解くださり、待っていただけることになった。マジ感謝)

そんなこんなで……

「〆切ギリギリでさっさと入稿してくれないと困る!」という状況下にも関わらず、原稿を書き直していった。

まずは大前提として、私が在団していた「宝塚歌劇団」とは、どういうところなのか。受験生の生活はどんなものなのか、どれくらいの倍率で受かるものなのか、受験生たちはどんな心持で受験に望むのか……

そして、「そんななか、私はどう思っていたのか」

気づいた部分に説明や感情をもの凄い勢いで書き加えていった。

というか、最早「手当たり次第」だった。

数日後……

説明と自分の思いをこれでもかと詰め込んだリメイク版第1話が完成した。

ふと、文字カウントを確認すると、総文字数が軽く「10,000文字」を超えていた……

天真「まだ序章なのに……壮大すぎやしないか?」

そう懸念しつつ、再び左右社さんへ送った。

数分後、「前回よりもめちゃくちゃわかりやすいです」とお返事をいただけた。

左右社「ただ……」

天真「ただ……?」

左右社「さすがに長すぎるので分けましょう」

天真「……前編後編って感じですか?」

左右社「いえ、3回に」

天真「3回!」

1カ月前、「自分語りで2,500文字も書けるのかなあ」と心配していた自分へ言ってあげたい。

天真「アンタ、1回の入稿で3話分も自分語りするゾ」

と……。

こうして、「天真みちるの、天真みちるによる、天真みちるのための自分語り」の連載がはじまった。

タイトルは「こう見えて元タカラジェンヌです」

これは、私が宝塚歌劇団を卒業し、サラリーマンとして働いていた7カ月間、名刺交換の場で必ず口にしていた自己紹介文句。

この自己紹介を、今後、もっともっと様々な場所でできるように願いを込めて……。

次回予告
次回、遅れてきた社会人篇
「フリーランスたそのお仕事日記~自由と地獄の輪舞曲~」

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