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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第16話 フリーランスたそのお仕事日記~自由と地獄の輪舞曲〜

華麗なる宝塚歌劇団で「癖のあるおじさん役」を究めた天真みちる=「たそ」による大人気連載『こう見えて元タカラジェンヌです』に、待望の続編が爆誕!退団後すぐに「サラリーマン」として企業に就職した「たそ」が、タカラジェンヌとして過ごした15年間と一般社会のギャップにおののきつつ、タンバリンと付け髭を手に第二の人生を突き進む!知られざる「宝塚OG」のリアルライフを描く爆笑エッセイ。(提供元:左右社)

(BGM:世にも奇妙な物語っぽいやつ)

あなたは地獄に落ちたことはありますか。
あるわけないですよね。
地獄に落ちるということは、死んだも同然なのですから。
それでは、地獄を「見た」ことは……?
これからご紹介するのは、度重なる番狂わせの中で地獄を見たという、ひとりのフリーランスの日記です。
地獄への扉は、あなたのすぐ側にひっそりと開いているのかもしれません。

(SE:日記のページを捲る音)

※この物語は半分フィクション・半分創作であり、登場人物・団体名等は半分フィクション・半分架空のものです。

プロローグ〜2019年・夏〜

勤めていた会社と契約変更し、フリーランスになった私は、フリーランスの「フリーさ」 を堪能しまくっていた。

朝は好きな時間に起きて良い。通勤しなくて良い。平日でも気分がノらなかったら、勝手に記念日を創っちゃったりして突然休日にしちゃったりしても良い。フリーサイコウ♪ そんな風に思いながら仕事をする毎日。良い事しかない!と思っていた。

……が、ただ一つ、ずっとまとわりついている不安があった。

それは……「この先、いつまで仕事を依頼してもらえるのか」ということ。

その頃に請け負っていた案件は、前会社からの発注のものが数件と、フリーランスになって請けることになった『こう見えて元タカラジェンヌです』の執筆……のみ。前会社案件は出演などの単発のものがほとんどで、クリスマスを迎える頃には全て終了している。そしたら……

来年は……職無し……か?

身震いがした。

会社に勤めていた時は、たとえやりたくなくても案件が山のように積もり、日々翻弄されていた。だが、フリーになった今、「案件という山自体を自分自身で作る必要がある」ということを、イヤという程実感していた。

「自由への喜び」と「漠然とした不安」がせめぎ合う日々を過ごしていく中で、少しずつ不安の要素の方が大きくなっていく……。

そんな不安をかき消す為、私は営業を重ね、片っ端から案件を受けて行った。

脚本、演出、出演、余興芸人、MC、中には「何故これを私に……?」というようなオファーもあったが、会社という組織の窓口ではなく、「天真みちる」という一個人事業主の、小さな小さな窓口をわざわざ選び、依頼して下さっている……その恩を無駄にしてはいけない。

そんな思いも相まって、ほぼすべての案件を受けることにした。その結果、来年の春先まで案件に恵まれることとなった。隙間なく埋まるスケジュール帳を眺め、満たされた感覚に浸る。

仕事は、ないよりもありすぎるくらいの方が良いに決まってる!

でも、この時はまだ知らなかった……自分が、とんでもない地獄の入口に立ってしまったということを……。

脚本やイベントなど、さまざまな企画が始動!

脚本案件その① 2019年・秋/脚本執筆

前会社案件。先月からプロジェクト開始。

この作品の脚本を担当する際、先方は「脚本と言えど、ゼロイチというわけではありません。過去に上演した原作があるので、今回出演するキャストの個性に合わせて適宜アレンジしてもらえば良いと思います。まあ、言うなれば脚本協力という感じ」と言うようなことをおっしゃった。

これまで書いてきたものは、1時間の朗読劇の脚本と20分の朗読劇の脚本のみ、という「乏しすぎる実績」の私に、舞台公演の脚本協力の打診をして下さる……とても光栄な気持ちで、私は脚本を受け取った。

物語の「芯」は変えずに、「登場人物」に「出演するキャスト」の個性や、事務所の戦略イメージを落とし込んでいく。

すると

「これを演じる○○さんがこんなこと言うかなあ」
「こんなことに気が付かない○○さんって……ニブすぎ?」

など、台詞一つ一つに対して、毎回「これでいいのか?」という疑問が付きまとってくる。

一つ直せば前後に小さな「歪」ができる。それを直すとまた別の場所に歪が……。一生終わらないワニワニパニックをしているようだ。

ホントにこれでいいのか?このままで提出してOKがもらえるのか?

なにかがずっと後ろ髪を引っ張ってくる。

脚本・演出案件Aその① 2019年・秋/打ち合わせ

以前上演した作品の再演。前回が好評だったみたいでとても嬉しい。

再演なので脚本を一から書く必要は無いが、キャスティング変更や舞台機構が変わるので修正が必要。どれくらいの時間要するかわからんけど多分1日くらいでできるだろう。

イベント構成・企画案件 2019年・秋/打ち合わせ

出演者の方の歌ってみたい曲、チャレンジしてみたいこと、逆にこちらが見てみたいと思うナンバーやシチュエーション、衣装などについて意見交換。

沢山アイデアが出てくる。お話していてとても楽しい。あとは私がしっかりと構成に落としてまとめる。

どれくらいの時間要するかわからんけど多分1日くらいでできるだろう。

MC案件 2019年・秋/本番

今まで何回かさせていただいたが、MCはかなりエネジィを要する案件だ。

イベントのテーマ、ゲストの方のプロフィールなど、予習すべき点は多々ある。トークは掘り下げていきたいが、予定時間をオーバーしてしまうとゲストの方々のその後のスケジュールに支障が出てしまう。そうなると関係者さん方の眉間にしわが寄る。そのしわはメンタルにこたえる……ので絶対に時間通り終わらせたい!

……のに5分オーバーしてしまった。

終演後オーバーアクションで時計を見る関係者さんたち。

……つらみ。アルコールほしみ。こんやもひとりのみ。

こう見えてMJ 2019年・秋/こう見えてMJ執筆

今までどんなことがあったか、その中でどんなことを知ってもらいたいか。自分の気持ちと読み手の事を思い浮かべながら書いていく。他の案件よりも割とスッとアイデアが浮かんでくる。

こんなことあったよな……と思い出し笑いする。

思い出を推敲するのは癒しなのかもしれん。

「できるだろう」は、できない事の方が多い

脚本案件その➁ 2019年・秋/第一稿提出〆切

……正直、ここまで「これでいいのかな」と思いながら提出したものはない。高校の頃まったく試験勉強せずに受けた期末試験よりも手応えがない。

めちゃくちゃ不安。怖い。眠れない。眠るけど。

脚本・演出案件Aその➁ 2019年・秋/打ち合わせ

打ち合わせの結果、「役替わりシステム」を導入することになった。とってもいいと思う。色んな役にチャレンジして色んな経験値を積んでもらいたい。

となると演じる子たちの個性や人柄に合わせて、少しずつ演出を変えていった方がより違いが生まれて見る方も楽しめるはず。

そう思った後、パソコンと睨めっこ。枝葉のように分かれて行く変更箇所を落とし込んでいく。

……

誰だ!「どれくらいの時間要するかわからんけど多分1日くらいでできるだろう」とか言ったのは!

そんなわけないわ。めっちゃ時間かかるわ。

「できるだろう」は、できない事の方が多い!!!

そう肝に銘じた。

脚本案件その③ 2019年・秋/打ち合わせ

……結果は散々だった。

自分が不安だと感じた箇所、更にはまったく注目していなかった箇所も不意打ちで細かく訂正されることになった。

「ですよね」と思うこともありつつ「マジで?」と思うことも正直あった。でも、言えるワケない。

相手側の求める「正解」を提示する。

それが、今の私がしなければならないことだ。

イベント出演案件その① 2019年・秋/打ち合わせ

来年に控えた自分のイベントで朗読劇をやろうという話題に。

脚本の掛け持ちがどれくらいできるのかはわからないけど、上演時間は短めだからなんとかなるだろう。なんとかしなければ。

内容を考えなければ……

脚本案件その④ 2019年・秋/脚本執筆 

……正直どうすれば良いのだろう。「正解」が汲み取れない。何を書いても違うと言われそうだ。

脚本は地図みたいなものだ。私がしっかりと目的地を示さなければ、路頭に迷う。しかも、私だけが迷うんじゃない。この後この本を受け取る演出家が、キャストが、この作品を見に来られるお客様が、全員が路頭に迷うことになる。

だから直さなければ。一週間後に会議が待ち受けている。

イベント出演案件その➁ 2019年・冬

今この脚本を書く時間は正直……無い。