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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~第12話 新人サラリーマンのブルース~Word・Excel・PowerPoint みんなちがって、みんないいこともない~

こう見えて元タカラジェンヌです~遅れてきた社会人篇~

華麗なる宝塚歌劇団で「癖のあるおじさん役」を究めた天真みちる=「たそ」による大人気連載『こう見えて元タカラジェンヌです』に、待望の続編が爆誕!退団後すぐに「サラリーマン」として企業に就職した「たそ」が、タカラジェンヌとして過ごした15年間と一般社会のギャップにおののきつつ、タンバリンと付け髭を手に第二の人生を突き進む!知られざる「宝塚OG」のリアルライフを描く爆笑エッセイ。(提供元:左右社)

どうも。

先日コンビニで「かにぱん」を見かけまして。

中学1年生の夏、地元厚木で(私にとって)朝から晩まで楽しめるテーマパーク的存在で毎日通っていた本屋の有隣堂の店頭に、ある日ズラリと並べられた宮部みゆきさん著の『模倣犯』が読みたくて読みたくて、

我が家はお小遣い制度は無かった故、母上が弁当をこさえなかった時だけ渡される昼食代500円(なんなら弁当よりもこっちの方が頻度が高かった)を、

「1番コスパの良いパン1つだけ買って後は貯める」というやりくりで貯めようとして、来る日も来る日も「かにぱん」を食べて。

一袋に2枚入っているありがたさに感動し、牛乳との相性の良さに感動し、毎日ちぎり方のアレンジで「かに」以外の様々な「カタチ」を模りながら食べれる、という飽きの来なさ具合に感動し……「セミのカタチ」まで来ると、あと少しで食べ終わってしまうという寂しさを憶えていた。

その後なんとか貯まった軍資金を手に有隣堂へ直行、前編後編イッキ買いして夏休み全日程かけて読んだ。

っていう思い出が味と共に蘇り、

「うぅわ!なつぅ!あれでミステリーが好きになったんだよなあ!あの微かな甘み!牛乳ミキシング大会優勝レベル!」

ってなりました。

現場からは以上です。

……え? はい、買いませんでしたけど。

懐かしさが一気に全身を駆け巡り、牛乳ミキシング大会優勝レベル!ってなったのにもかかわらず買いませんでしたけど?

あと、全くフリーランスネタではありませんけど?

お引越ししてから連載3回目にして既にフリーランスネタが尽きましたけど?

……さ!そんな事より本編本編!
参りましょうよ!

想像できない責任を想像する

前話にて。

自身の「ゼロ」を知り、なんとかディナーショーも滞りなく終演し、再びサラリーマンの日常を過ごしていたある日の事……。

とある御方のイベントの制作の案件が舞い込んできた。

その御方とは……元宝塚歌劇団星組の七海ひろきさんであった。

類まれなる美貌をお持ちで(お顔の小ささがヤバイ。写真撮るとき5メートルくらい後ろに立たないと公平にならない)、口から発する言葉は全て甘い囁きになるという、とんでもなくツミな御方……。

そんな七海さんが2019年3月24日、惜しまれつつ退団。
それから3カ月の時を経て、再びファンの方にお会いする最初のイベント……の制作の案件が舞い込んできたのである。

大変光栄でありがたい事である!……が、それと同時に想像できないレベルの責任を感じた。

(想像できないけれど)想像してほしい。

アナタは友人の付き添いか、もしくは貸し切り公演のチケットが奇跡的に当たったご家族の付き添いで、初めて宝塚歌劇団のステージを観劇したとする。

俯瞰して観ていたステージで、キメっキメで銀橋を渡るスターとふと眼が合ったとする。

するとそのスターが、アナタだけを見つめてゆっくりとウインクしてきたとする。

「……今のって……私だけにしてくれた……?」

その瞬間から、良くわからないウズウズとした感覚が心を支配し、気が付けば、

「あら……さっきはバチバチにキメていたのに、場面が変わると全然違う表情もされるのね……」

と、そのスターさんだけを目で追いかけてしまう。

そのスターさんはとんでもないものを盗んでいきました……アナタの心です。

そして劇場を後にする頃には、同じ演目のチケットを何とか買い足せないかGoogle先生にお聞きし、公式ファンクラブである『宝塚友の会』なるものの存在を知り、「お友達になりましょう!」と握手を求めるが、友達とは思えない塩対応を取られたりして、「真の友への道のりは遠いのね……」と覚悟を決める……とする。

その後、「初恋ドロボウスターさん=贔屓」を、なんとかして目に焼き付けるためにさまざまな努力を重ね、少しずつ力を付けていく。

公演ごとに魅せる表情や表現はアップデートされ、1テラバイトでも足りない!ってくらいの心のアルバムができあがっていく。

途中、共に応援する仲間に出会い、ときに贔屓にどうやって心を奪われたのか互いに語り合い、ときに贔屓の良さをプレゼンし合い、ときに「険しすぎる真の友への道のり」を助け合い進み、仲間と出会えたことに対する感謝も相まってさらに贔屓が大切な存在になっていく……とする。

ご贔屓~貴女に会えて~

そんな、日を重ねるにあたってかけがえのない存在になっていた贔屓が、ある日突然「卒業」を発表した。

まさに青天の霹靂、寝耳に水の出来事。

「もう……贔屓があの板の上でキザにキメる姿を観ることができな……い……?」

心は乱れ、事実を上手く受け止められず、ただただ涙がこぼれる。

なんとか贔屓の想いを受け止めようと心に決めて卒業公演を観劇。スターとして輝くその姿を、ゆらめいた瞳でしっかりと見つめ、儚いからこそ生まれる贔屓へのエターナルな想いを胸に抱き、

「贔屓……バン……ザ……(パタリ)」

と、燃え尽きる(概念)

…………とする。

それから3カ月……普段通りの生活を過ごしながらどこか空虚な思いがチラつき、その度に「フ……」と陰りのある笑みを浮かべていたある日、ネットに贔屓の名前が突如トレンド入りする。

なななな何事?!!!と検索すると

まさかの、そして待ちわびていた贔屓のカムバック情報が!!!!

……とする。

いかがだろうか?

情報を見たアナタは、次の瞬間身体が勝手にそのイベントのチケット申し込みサイトを開き、決済ボタンをポチっているのではないか?

直後、かつての仲間に贔屓の生存確認が取れたことの喜びを長文ポエムにて送りつけ、「会場で待ち合わせよっ!」と締めくくったのではないか?(私だったらそうする)

そんな、エターナル贔屓との感動の再会の場をプロデュースする……緊張と責任は計り知れないほどであった。

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