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『こう見えて元タカラジェンヌです』~遅れてきた社会人篇~ 第11話 新人サラリーマンのブルース~ドキュメントオブ天真爛漫ショー~

FREENANCE こう見えて元タカラジェンヌです 天真みちる

華麗なる宝塚歌劇団で「癖のあるおじさん役」を究めた天真みちる=「たそ」による大人気連載『こう見えて元タカラジェンヌです』に、待望の続編が爆誕!退団後すぐに「サラリーマン」として企業に就職した「たそ」が、タカラジェンヌとして過ごした15年間と一般社会のギャップにおののきつつ、タンバリンと付け髭を手に第二の人生を突き進む!知られざる「宝塚OG」のリアルライフを描く爆笑エッセイ。(提供元:左右社)

どうも。
それは……フリーランスになったばかりの、暑い暑い8月の始めのことでした。月末に原稿(1本5000字クラス)の〆切を3本抱えていた私は、机に向かいながらふと、

天真「フリーランスって、誰も見てないからパジャマでも良いのか……フリーだなあ」

と、フリーランスの「フリー」の部分について何気なく思考を巡らせておりました。

天真「業務日報も書かなくて良いし……え、ちょっと待って……なんなら今日休んでも良いの……?」

そう。ついうっかりそう思ってしまったんです。

その瞬間から仕事そっちのけで、サラリーマン時代に手を付けられなかった積みマンガ積みゲーの山に片っ端から手を出していきました。

その宴は毎夜毎夜続きました。

それから何日経ったじゃろうか……

遊び疲れた天真が、ふとカレンダーを見ると、

「8月25日」と表示されておったそうな……

ギャー

以上、残暑に送るフリーランス怪談でございました。

憧れのあの御方から…

2018年10月14日
宝塚歌劇団を卒業した日。

この先自分はどう進んでいくのか、どんな仕事をしていくのか……
まだ具体的に想像もつかずただただ「未知」だった中で、ただ一つ、確実に開催が決まっていた案件があった。

それが、第一ホテル東京シーフォートにて行われる自身のディナーショーだった。

この案件をご紹介下さったのは、ホテル「レム日比谷」の支配人である貴柳みどりさん。
貴柳さんは宝塚歌劇団娘役として星組、花組、宙組で活躍されていた上級生の方である。前話に引き続き、「元タカラジェンヌの進む道の幅広さ」を体現されていらっしゃる御方だ。
ぽっぽさん(貴柳さんの愛称)は、ファン時代から憧れの存在だった。

タカラヅカのステージでは、お衣裳に合わせる髪飾りやアクセサリーは、劇団のお衣裳部さんが用意してくださるものもあるが、自分で用意したり、アレンジを加えることもある。特に、娘役だとイヤリングなどは自身で用意することが多い。

私は、ぽっぽさんがお衣裳に合わせるアクセサリーのチョイスが大好きだった。

なんというかもう……

「センス!!!!」の一言に尽きる。

「そう来たか――――――――――――!!!」の一言に尽きる。

どうしたらこのお衣裳にこの色味の物を合わせようと思うのか、そしてそれが成立するのか、ワイのセンスでは到底考えつかないハイセンスな世界だった。

さまざまな時代、国、人種の作品を演じるタカラヅカのステージで、いつも衣装に「着られている」のではなく、「着こなしている」ジェンヌさんだった。

余談だが……

在団中にぽっぽさんを観た時と同じ衝撃を受けたのが、同じく娘役の花野じゅりあさんだった。

じゅりあさんのセンスも「そう来たか――――――――――――!!!」のオンパレードで、毎回ドレスリハーサルが楽しみで仕方なかった。

ある日じゅりあさんにその旨をお伝えしたら、じゅりあさんはぽっぽさんの花組在籍時に「御付き(弟子入りのようなもの)」をしていたとおっしゃった。

「……なるほど」と、スッとーんと腑に落ちた。

この世の出来事の中で一番「腑に落ちる」瞬間だった。
センスはセンスを呼ぶ。そして受け継がれていく。

「嗚呼、宝塚よ、永遠なれ」

そう心の中で呟いた。

少し前に取った杵柄

話を戻そう。

プレイヤーとしても完璧なぽっぽさんは、宙組在団時は副組長も務めていらっしゃった。美しく麗しい娘役の鑑のような表現者としての素質と、70名以上の組子をまとめあげるリーダーシップの素質。天はぽっぽさんに二物を与えたもうた。

そんな、ファン時代に一方的に憧れていたぽっぽさんから「ディナーショーに出演しませんか?」とお話を頂く。

退団後、こんなにありがたい巡り合わせってあるんか!と、私は喜びに震えた。

美しい佇まい、一本の乱れもなく美しく結われた御髪、スーツにさりげなく合わせた美しいスカーフ……。目の前で企画の趣旨を説明されるぽっぽさんは、ファン時代に客席から眺めていた時と寸分たがわぬ美しさと高貴さに満ち溢れていた。

私の返事は、「はい」か「イエス」か「喜んで」しか選択肢はなかった。

ただ、ぽっぽさんに差し伸べられた手にお答えしようと手を差し出した瞬間、

ふと「どうして私なのか……?」という疑問が湧いた。

在団中の私は、芝居の表現として歌うことはあってもショーの中で「ソロ」として歌ったり踊ったりする機会は割と少なく、ディナーショーも在団中に一度だけ、壮さん(壮一帆さん)のディナーショーに出させていただいたっきりだった。

そんな私にどうしてオファーしてくださったのだろう……。

考えていても埒が明かないので、ぽっぽさんに率直にお聞きした。

するとぽっぽさんから「エトワールを務めていたからよ」というお答えを頂いた。

「エトワールを務めたのだから、貴方は立派な歌手でもあるのよ……」と。

ぽっぽさんは知らない……

あのエトワールは、「退団作」という「忖度」が大分働いたと思われるオーディションで勝ち取ったものだったことを……(※書籍『こう見えて元タカラジェンヌです』参照)

でも、そのおかげでディナーショー出演のお話を頂けた……。

結果オーライじゃないか!ええじゃないかええじゃないか!

私は胸を張って、ぽっぽさんの差し伸べた手に、手を乗せたのだった。

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