病気やケガによる医療費の負担と休業での収入減によって、「生活が立ち行かなくなるのではないか」という不安を抱えるフリーランス・個人事業主は少なくありません。しかし、フリーランス・個人事業主が加入する国民健康保険であっても「高額療養費制度」を利用することで、医療費の自己負担額には上限が設けられます。まずはこの公的なセーフティネットを知ることで、医療費が青天井になる不安を和らげることができます。
一方で、2026年8月から段階的に施行される制度改定により、自己負担限度額の引き上げが予定されており、さらに、会社員の健康保険には存在する「傷病手当金」がフリーランスには適用されないという致命的なリスクも存在します。
本記事では、最新の制度改定を踏まえた高額療養費制度の正しい計算方法や手続きに加え、休業中の生活費や事業資金を確保するための具体的なリスクマネジメントについて解説します。
Contents
フリーランス・個人事業主も使える高額療養費制度とは?
高額療養費制度の仕組みと対象となる医療費

高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払うひと月(月の1日から末日まで)の医療費が自己負担限度額を超えた場合、その超過分が後から払い戻される公的医療保険の制度です。上限額は、年齢(70歳以上か70歳未満か)や所得によって異なります。
個人事業主やフリーランスが加入する国民健康保険(国保)であっても、会社員が加入する健康保険と同様にこの制度を利用することができます。対象となるのは、健康保険が適用される診療費や処方薬の費用です。そのため、「フリーランスは公的保障が薄いから医療費が全額負担になる」といった心配は不要です。
なお、高額療養費の支給を受ける権利は、診療を受けた月の翌月の初日から2年で時効(期限)を迎えます。時効になっていない高額療養費であれば、過去にさかのぼって支給を申請することができます。
- 「○○健康保険組合」「全国健康保険協会」「○○共済組合」
→ 記載されている保険者 - 「○○国民健康保険組合」
→ 記載されている国民健康保険組合 - 市区町村名
→ 記載されている市区町村の国民健康保険の窓口 - 「○○後期高齢者医療広域連合」
→ 記載されている後期高齢者医療広域連合
会社員(社会保険)とフリーランス(国保)の所得区分の違い
自己負担限度額を決定する基準において、会社員の社会保険とフリーランスの国民健康保険では決定的な違いがあります。会社員は毎月の給与額をベースにした「標準報酬月額」で区分が判定されますが、フリーランスは前年の総所得金額等から基礎控除(一律43万円)を差し引いた「旧ただし書き所得(基礎控除後の総所得金額等)」を用いて区分が判定されます。
自身の区分を把握するには、前年分の確定申告書の控え(第一表)を確認してください。確認する箇所は、第一表の左側にある「所得金額等」という枠内の一番下、「合計(⑫)」の欄です。
事業所得など総合課税の所得のみのフリーランスであれば、基本的にこの「合計」欄の数字が「総所得金額等」となります(株式の譲渡所得など申告分離課税がある場合は、それらも加算した金額)。
この「合計」欄の金額から、住民税の基礎控除額(合計所得金額が2,400万円以下の場合は一律43万円)を差し引いた金額が、「旧ただし書き所得」です。
※参照:確定申告書等の様式・手引き等(令和7年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁
【2026年・2027年改定対応】自己負担限度額の計算方法と最新動向
現行の所得区分と具体的な医療費の計算シミュレーション
現行制度における70歳未満の所得区分は「ア」から「オ」の5段階に分かれています。例えば、旧ただし書き所得が210万円超 ~ 600万円以下(年収目安で約370万 ~ 770万円)のフリーランスは「区分ウ」に該当します。
区分ウの現行の自己負担限度額の計算式は「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」です。仮に、ひと月に総医療費が100万円かかった場合(窓口での3割負担額は30万円)、計算式に当てはめると「80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円」となります。
窓口で30万円を支払った後、申請手続きを行うことで差額の212,570円が高額療養費として払い戻され、最終的な実質負担額は87,430円に収まります。

| 所得区分 | 月単位の上限額 | |
|---|---|---|
| ア | 年収約1,160万円 ~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
| イ | 年収約770万 ~ 約1,160万円 健保:標準報酬月額53万 ~ 79万円 国保:旧ただし書き所得600万 ~ 901万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
| ウ | 年収約370万 ~ 約770万円 健保:標準報酬月額28万 ~ 50万円 国保:旧ただし書き所得210万 ~ 600万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
| エ | ~ 年収約370万円 健保:標準報酬26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 57,600円 |
| オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
【重要】2026年8月および2027年8月の制度改定による負担引き上げ
厚生労働省の決定により、2026年8月1日から高額療養費制度の自己負担限度額が一律で引き上げられます。
上述した「区分ウ」を例に挙げると、改定後の月額上限計算式は「85,800円+(総医療費-286,000円)×1%」となり、負担額が増加します。
同時に、「年間上限」という新しい枠組みが新設され、区分ウの場合は年間の自己負担上限が53万円に設定されます(多数回該当の対象にならない月でも、年間でこの額を超えれば支給対象になります)。
| 所得区分 | 月単位の上限額 | 年単位の上限額 |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円 ~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 270,300円 +(医療費-901,000)× 1% | 1,680,000円 |
| 年収約770万 ~ 約1,160万円 健保:標準報酬月額53万 ~ 79万円 国保:旧ただし書き所得600万 ~ 901万円 | 179,100円 +(医療費-597,000)× 1% | 1,110,000円 |
| 年収約370万 ~ 約770万円 健保:標準報酬月額28万 ~ 50万円 国保:旧ただし書き所得210万 ~ 600万円 | 85,800円 +(医療費-286,000)× 1% | 530,000円 |
| ~ 年収約370万円 健保:標準報酬26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 61,500円 | 530,00円(※) |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 290,000円 |
※「年収換算 ~ 約200万円(健保:15万円以下、国保:86万円未満)」区分に該当することが確認できた場合は、年間上限41万円を適用し、2027年8月以降に償還払い。
さらに、厚生労働省の計画により2027年8月からは所得区分自体がさらに細分化され、一定以上の所得がある層にとっては実質的な連続負担増となることが決定しています。公的制度のみに依存するのではなく、今後の負担増を見据えた資金準備が求められます。
| 所得区分 | 月単位の上限額 | 年単位の上限額 |
|---|---|---|
| 年収約1,650万円 ~ 健保:標準報酬月額127万円以上 国保:旧ただし書き所得1,356万円超 | 342,000円 +(医療費-1,140,000)× 1% | 1,680,000円 |
| 年収約1,410万 ~ 約1,650万円 健保:標準報酬月額103万 ~ 121万円 国保:旧ただし書き所得1,110万 ~ 1,356万円 | 303,000円 +(医療費-1,010,000)× 1% | |
| 年収約1,160万 ~ 約1,410万円 健保:標準報酬月額83万 ~ 98万円 国保:旧ただし書き所得901万 ~ 1,110万円 | 270,300円 +(医療費- 901,000)× 1% | |
| 年収約1,040万 ~ 約1,160万円 健保:標準報酬月額71万 ~ 79万円 国保:旧ただし書き所得809万 ~ 901万円 | 209,400円 +(医療費- 698,000)× 1% | 1,110,000円 |
| 年収約950万 ~ 約1,040万 健保:標準報酬月額62万 ~ 68万円 国保:旧ただし書き所得679万 ~ 809万円 | 194,400円 +(医療費- 648,000)× 1% | |
| 年収約770万 ~ 約950万円 健保:標準報酬月額53万 ~ 59万円 国保:旧ただし書き所得600万 ~ 679万円 | 179,100円 +(医療費- 597,000)× 1% | |
| 年収約650万 ~ 約770万円 健保:標準報酬月額44万 ~ 50万円 国保:旧ただし書き所得410万 ~ 600万円 | 110,400円+(医療費- 368,000)× 1% | 530,000円 |
| 年収約510万 ~ 約650万円 健保:標準報酬月額36万 ~ 41万円 国保:旧ただし書き所得313万 ~ 410万円 | 98,100円 +(医療費- 327,000)× 1% | |
| 年収約370 ~ 約510万円 健保:標準報酬月額28万 ~ 34万円 国保:旧ただし書き所得210万 ~ 313万円 | 85,800円 +(医療費- 286,000)× 1% | |
| 年収約260万 ~ 約370万円 健保:標準報酬月額20万 ~ 26万円 国保:旧ただし書き所得127万 ~ 210万円 | 69,600円 | |
| 年収約200万 ~ 約260万円 健保:標準報酬月額16万 ~ 19万円 国保:旧ただし書き所得86万 ~ 127万円 | 65,400円 | |
| ~ 年収約200万円 健保:標準報酬月額15万円以下 国保:旧ただし書き所得86万円以下 | 61,500円 | 410,000円 |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 290,000円 |
窓口での高額立替を防ぐ! 申請方法とマイナ保険証の活用
事後還付のデメリットと「限度額適用認定証」による事前申請
高額療養費制度は原則として「事後還付」の仕組みをとっています。つまり、後から超過分が払い戻されるとはいえ、医療機関の窓口では一時的に3割負担の全額(前述の例なら30万円)を立て替えて支払う必要があります。手元資金が不安定なフリーランスにとって、この一時的な大金の立替はキャッシュフローを悪化させるリスクとなります。
これを防ぐための従来の手法が「限度額適用認定証」の事前取得です。事前に市区町村の窓口で申請して認定証を発行してもらい、医療機関の窓口で提示することで、支払いを最初から自己負担限度額内に抑えることができます。
マイナ保険証の利用で面倒な事前申請が不要に
2024年12月2日に従来の健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行しました。
マイナ保険証を利用する最大のメリットは、事前の申請手続きが完全に不要になる点です。医療機関や薬局の窓口(カードリーダー)でマイナ保険証を利用し、限度額情報の提供に同意するだけで、オンライン資格確認システムを通じて自動的に高額療養費制度の限度額が適用されます。入院直前の慌ただしい時期に役所へ出向く物理的な手間や時間を省略できるため、マイナ保険証の活用は非常に実用的です。
※参照:マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット|厚生労働省
高額療養費制度を利用する際の4つの注意点・落とし穴
差額ベッド代や入院中の食事代は対象外(全額自己負担)
高額療養費制度はすべての入院費用をカバーするわけではありません。制度の対象となるのは、保険適用される診療費・治療費・薬代のみです。入院時の食事代(入院時食事療養費の標準負担額)や、希望して個室や少人数部屋に入院した際に発生する「差額ベッド代」、保険適用外の先進医療にかかる技術料などは対象外であり、全額自己負担となります。限度額とは別に数万円から数十万円の出費が発生するため、注意が必要です。
歴月単位の計算ルールと「21,000円ルール」の適用
自己負担額の計算は、「月をまたがない歴月単位(毎月1日から末日まで)」で厳密に行われます。例えば、同日数の入院であっても「8月15日から8月24日」のように同月内に収まる場合と、「8月28日から9月6日」のように月をまたぐ場合では、後者は8月分と9月分で別々に計算されるため、負担額が大幅に増えてしまうリスクがあります。
また、同じ月内に複数の医療機関を受診した場合、自己負担額が21,000円以上になったものだけを合算して高額療養費を計算するという「21,000円ルール(70歳未満の場合)」が存在します。すべての医療費が無条件に合算されるわけではない点に留意してください。
治療が長引く場合の救済措置「多数回該当」とは?
慢性疾患や長期の抗がん剤治療など、継続的に高額な医療費がかかるケースに対する救済措置として、「多数回該当」という仕組みがあります。これは、直近12カ月の間に高額療養費制度を3回以上利用した場合、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下がるというものです。
例えば現行の「区分ウ」の場合、4回目以降の限度額は一律44,400円となります(2026年8月以降の制度改定においても、多数回該当の限度額は据え置かれる予定です)。これは生活が破綻しないためのセーフティネットとして機能します。
確定申告での「医療費控除」との違いと併用時の注意点
高額療養費制度と混同されやすいものに、確定申告で行う「医療費控除」があります。高額療養費制度が「医療費そのものの還付」であるのに対し、医療費控除は「所得税・住民税の計算のもととなる所得から一定額を差し引き、税負担を軽減する」制度です。
両者は併用可能ですが、税務上の厳格なルールが存在します。医療費控除を申告する際は、実際に支払った医療費の総額から、高額療養費制度で補填された金額(および生命保険などから受け取った給付金)を必ず差し引いて計算しなければなりません。補填分を差し引かずに申告すると過少申告となるため注意が必要です。
医療費控除と高額療養費の相違点
| 制度 | 申請先 | 対象となる期間 | 医療費の範囲 | 関係する内容 |
|---|---|---|---|---|
| 医療費控除 | 税務署 | 1/1~12/31の1年間 | 保険適用内・外の治療費 | 税金の控除 |
| 高額療養費 | 加入先の医療保険者 | 月初め~月末の1カ月 | 保険適用分の治療費 | 医療費の払い戻し |
フリーランス最大の罠! 休業中の生活費はどうする?
国民健康保険には「傷病手当金」がないという無収入リスク
高額療養費制度によって医療費自体の目処は立っても、フリーランスにはもう一つの大きなリスクが待ち受けています。それが「休業中の生活費」です。会社員が加入する健康保険には、病気やケガで休業した際に給与の約3分の2が支給される「傷病手当金」が存在しますが、フリーランスが加入する国民健康保険にはこの制度がありません(一部の国保組合等を除く)。
フリーランス向けの労災保険(特別加入制度)も存在しますが、対象となるのは業務上の災害や通勤災害に限られ、プライベートでのケガや一般的な病気には対応できません。入院や療養で仕事ができなくなった瞬間から収入が完全に途絶え、自身の生活費や家賃、事業の固定費が支払えなくなる「無収入リスク」に直面します。
解決策1:最大44%オフで備える所得補償保険「あんしん補償プラス」
無収入リスクに対する確実な備えとして、フリーランス・個人事業主向けの金融支援サービス「FREENANCE(フリーナンス) by freee」が提供する所得補償保険「あんしん補償プラス」の活用が挙げられます。これは、業務中・業務外を問わず24時間365日のケガや病気をカバーし、あらかじめ設定した「受け取りたい月額」を最長1年間補償する手厚い制度です。
加入時に医師の診断は不要です。さらに、フリーナンスの会員として「一般社団法人フリーランスAWS協会」を通じた団体加入の仕組みを利用することで、個人で一般的な同種の保険に加入する場合と比較して、保険料が最大44%オフという大幅なコスト削減が実現します。公的制度の穴を埋めるために、自ら民間保険でセーフティネットを構築することが不可欠です。
解決策2:医療費による手元資金のショートを防ぐ「即日払い」
差額ベッド代の支払いや、休業による一時的なキャッシュフローの悪化に対して、手元資金がショートしそうになった場合の緊急対応策も確保しておくべきです。フリーナンスが提供する「即日払い」は、手持ちの請求書(売掛債権)を最短即日で現金化できる請求書買取の先払いサービスです。
即日払いは借入ではないため、信用情報機関への照会や登録はなく、もちろん担保や保証人も不要、取引先に請求書の売却が知られることもありません。
こうしたサービスは「ファクタリング」と呼ばれ、取引先からの入金期日を待たずに事業資金を確保できるため、突発的な医療費の支払いや当面の運転資金が不足した際の強力なライフラインとして機能します。有事の際にも事業を継続させるための具体的な資金繰り支援策として、事前の無料登録を済ませておくことをお勧めします。
よくある質問
- 高額療養費は申請してからいつ振り込まれますか?
- 払い戻しが行われるのは、診療月の約3〜4カ月後になります。これは、医療機関等から各自治体(保険者)へ送られる医療費の請求書(レセプト)の審査を経て支給額が決定されるためです。窓口での高額な立て替えを避けたい場合は、事前の「限度額適用認定証」の発行か、マイナ保険証を利用することをおすすめします。
- フリーランスの入院費や治療費は、事業の「経費」に落とせますか?
- 落とせません。個人の病気やケガの治療費は、事業を遂行する上で直接必要な支出(経費)には該当しないためです。ただし、確定申告の際に「医療費控除」として所得から差し引くことで、所得税や住民税を軽減することは可能です。
- 家族の医療費も合算して高額療養費制度を利用できますか?
- 同じ国民健康保険に加入している世帯であれば、「世帯合算」が可能です。同じ月内に世帯内で発生した自己負担額(70歳未満の場合は、1回21,000円以上のものに限る)を合算し、自己負担限度額を超えた分が払い戻しの対象となります。
- フリーランスが病気で働けなくなった場合、公的な収入補償は本当に何もないのですか?
- 会社員の健康保険にある「傷病手当金」は、原則として国民健康保険には存在しません(一部の国保組合を除く)。そのため、働けなくなった期間の収入はゼロになるリスクがあります。これをカバーするには、民間保険会社が提供する「所得補償保険」などに加入し、自助努力で備える必要があります。
まとめ:最新の制度を理解し、フリーランスならではの医療費リスクに万全の備えを
高額療養費制度を正しく理解し活用することで、「医療費が青天井になる」という不安からは解放されます。しかし、2026年8月からの自己負担限度額の引き上げや、マイナ保険証を利用したスムーズな申請手順など、最新の情報をアップデートしておくことが重要です。
そして、フリーランスにとって体が最大の資本である以上、傷病手当金がないという国民健康保険の弱点を補う対策は必須です。公的な制度(高額療養費制度)と、フリーナンスの「あんしん補償プラス」や「即日払い」といった民間の支援サービスをハイブリッドに組み合わせて活用することが、フリーランスにとって強固なリスクマネジメントとなります。安心して自身の事業に専念できる環境を整えるために、まずは必要な備えを見直してください。
FREENANCE MAG 
