13年にわたり25件の事故物件に住んできた“事故物件住みます芸人”の松原タニシさんが、初の怪奇エッセイ『事故物件生活 恐い日常』を発表されました。事故物件とは何か?という“トリセツ”であり、また、この13年の集大成でもあるという本書が伝えるのは、事故物件から心霊、そして“死”にまつわるものへと、松原さんの興味の対象が移り変わっていった心の変遷。自身の恐怖を知り、克服して、日常へと変えていった松原さんの探求心みなぎる強さと、その源にある“怖がり”な本質を語っていただきました。

『事故物件生活 恐い日常』
1982年4月28日生まれ。兵庫県神戸市出身。松竹芸能所属のピン芸人。現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組『北野誠のおまえら行くな。』(エンタメ~テレ)の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまで大阪、東京、沖縄、北海道など日本各地で25軒に住む。事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演する。
ラジオ関西『松原タニシの生きる』、MBSラジオ『松原タニシの恐味津々』、CBCラジオ『北野誠のズバリ』などレギュラー出演中。
著書に『事故物件怪談 恐い間取り1~4』『恐い怪談』『恐い食べ物』『異界探訪記 恐い旅』『冥途探訪記 死の旅』(以上、二見書房)など。著書累計55万部を突破。2020年8月には著書『事故物件怪談 恐い間取り』を原作とした映画『事故物件 恐い間取り』(配給 松竹)が公開。また2025年7月には著書『事故物件怪談 恐い間取り』シリーズを原作とした映画『事故物件ゾク 恐い間取り』(配給 松竹)が公開。
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人がやらないことをやりたい、知らないことを知りたい

各種メディアでお見かけするたび、いつもお召し物が斬新な柄だなぁと思っているのですが、事故物件に住んでいるということで、もしや魔除け的な意味もあるんでしょうか?
まったく無いです! ただ、昔はこんな柄シャツなんて着てなかったんですけど、事故物件に住むようになってから婦人服売り場をうろちょろするようになったんですよね。
婦人服のワゴンセール的なところだと、あまり人が好んで着ないような派手な柄シャツが千円、二千円とかで売っていて、いつの間にかそういうものを買うようになったのは、おばあさんが亡くなった物件に住んでいたからかな……みたいなこじつけはしてます。自然と趣味がそうなっていったんですよ。
やはり、そこで亡くなった方の好みが反映されるのかもしれないですね。
そうですね。物件ごとに好きな食べ物が変わったりもするんですよ。おばあさんが亡くなったところだと、よく濡れおかきを食べていたのが、引っ越すとポテロングばっかり食べるようになったり、アーモンドチョコばっかり食べるところもあった。物件ごとに変わっていくんですよね。
そもそも事故物件に住むようになったのは、2012年に始まった“事故物件に住んで幽霊を撮影しよう”という番組の企画がキッカケだったそうですが、当初“怖い”という気持ちは無かったんですか?
もちろん、ありました。
なのに、企画が終わっても「事故物件についてもっと詳しく知りたいと思うようになり住み続けた」と、新刊の『恐い日常』にも書かれているんですが、それは何故だったんでしょう?
住んでみたら意外と大丈夫だったんです。怖いことも時には起こるけど、そもそも僕は怖いことを撮影するために住んでたわけですから、むしろ起きてくれたほうがありがたいわけで。
そのうち“なんでみんなこんなに嫌がってるんだろう?”っていうことのほうが気になってきたんですね。それを知りたくて住み続けるようになったんですけど、まぁ、誰も理解はしてくれない(笑)。
松原さんって、もしや昔から「変わってるね」と言われるタイプのお子さんでした?
言われるタイプでしたね。自分から変わってることをやりたがる子ではありました。小学校3年生のときに各班で歌を発表するイベントがあって、当時『101回目のプロポーズ』が流行ってたから主題歌の「SAY YES」をやったり、優等生たちは教科書に載ってる「ふるさと」とかを選ぶなか、僕の班はTHE BLUE HEARTSの「リンダ リンダ」をやったんですよ。

しかも、他のみんなはリコーダーとかカスタネットとかをやってたのに、僕にはドラムが一番変わってる楽器のように見えたから、自分で空き缶とかを集めてドラムセットを作ったんです。結果、僕らの班だけバンド編成になったのは、今考えても“変わってるな”と思いますね。当時は知らなかったですけど、たまのドラムの石川浩司さんも結構オリジナルのパーカッションを作っていらしたみたいなので、たまリスペクトだったのかもしれない(笑)。
人がやらないことをやりたい精神は、もともと強かったんですね。
そうですね。芸人になったきっかけも、そこなんです。もともと同級生が先に芸人になって、そしたら簡単に舞台に立てたらしく“まっちゃん、松竹来たらすぐ舞台立てるで”って言われたんですよ。“え、そんな簡単に芸人を味わえるの? おもろそう”って、それだけで松竹芸能に入ったんです。
だから、もし、その同級生が吉本に入ってたら絶対にやってないですよ。吉本興業だったら簡単に舞台に立てないし、人と違うことをやりたかったから、吉本じゃダメなんですよね。
なるほど。そうして最初は事故物件での心霊体験をネタにお仕事されていたのが、本書によると、だんだんネタが足らなくなり、2016年頃から心霊スポットに行くようになったそうですが。
確かに最初はネタ目当てだったんですけど、だんだん目的が変わっていって。世の中には、いろんな怪談話や都市伝説があっても、本当かどうか確かめに行く人ってあんまりいないじゃないですか。よく、幽霊が出て気絶したとかっていう話があるけれど、実際そういう場面になったら自分はどうなるんだろう?っていうのも知りたくなったし、だから探求心ですよね。もう、それだけ。
それは心霊スポットに行くYouTuberとは根本的に違いますよね。
最初は一緒かなと思ってたんですけどね。あの人たちは幽霊を見るよりも再生回数を稼ぐこと、つまり、エンタテインメントとして視聴者を楽しませることが目的じゃないですか。だから心霊が当たらなかったら、全然違う畑に行ったりもするし、心霊スポットに行くのは手段でしかないんですよね。
でも、自分は別に読者や視聴者を楽しませるつもりもないし、YouTubeの動画を撮るのも本を書くのも、自分がやりたくてやっているだけなので、優先順位が違うのかなっていう気がします。僕も最初は手段だったのが、いつの間にか目的に変わってきたんですよね。
芸人として身を立てるために踏み込んだはずの心霊というジャンルが、実は松原さんの探求心を満たすにはピッタリのものでもあったと。
そうですね。とにかく“知らないことを知りたい”という欲求があるので。その点、答えの出ない心霊というジャンルはピッタリだし、人がやらないことをやると言う意味でも、“事故物件住みます芸人”っていうのは天職やと思います。
怖がれば怖がるほど、何かが起きる

毎年本を書くだけの文章力もあり、動画で発信する際には声の良さも武器になりますから、生来の素質が“事故物件住みます芸人”としての活動に、ピタリとハマったんでしょうね。
いや、日本語って難しいなって、年々思うようになってますけどね。ただ“声がいい”っていうのは、よく言われます。あと“髪のツヤいいですね”も絶対言われますね! だから“シャンプーは何使ってるんですか?”って、よく聞かれるんですけど、別に特別なものを使っているわけではなく。TSUBAKIとかエッセンシャルとか普通の製品ですよ。
気になっていたことを答えていただき、ありがとうございます(笑)。そして事故物件に住み続けるうちに、不可解な現象が日常になっていたとか。
そうなんですよ。昨日もラジオにオカルトコレクターの方がゲストに来て、一緒に写真を撮ろうとなったときに“スマホ壊れるんちゃうか?”とか言ってたら、案の定スマホがブラックアウトして。そんなことがもう普通になってるから、別に怖くもない。
事務所のホームページで僕の顔だけ消えたり、黒くなったりしたこともありましたけど、そういうことが起きた時点て“わ、これ使えるな!”ってなりますからね。このネタどっかで使おう、イベントで使おうとかって。
恐れるべき霊障だとか呪いとしては、特には捉えていない?
だって、呪いにしては弱くないですか? スマホがブラックアウトするしかできへんの、何のダメージやねん!っていう。みなさん、何か変なことが起きただけで怖がってるけど、いや、そんな大丈夫ですよ!と言いたい。
最近は、収録に行かせてもらった先の楽屋で、センサー式の水道から水がピャーッ!と勝手に噴き出してきたこともあったんです。そのときついてた新人のマネージャーさんは“え、本当にこんなこと起こるんですね”って驚いてましたけど、僕はそれ2回目やったんですよ。前に万博の仕事をやったときの楽屋でも同じ現象があったんです。一応AIで原因を調べてみたら、センサーがゴミかなんかを察知して誤作動することは稀にありますと。じゃあ、それかなって。
だとしても、そういった不可解な目に遭う確率が尋常じゃなく高くありません?
だから、何かはあるんでしょうね。その1つとして、怖がってる側のせいじゃないかというのは、今回『恐い日常』でも書かせてもらったんです。怖がれば怖がるほど、何か起きるんですよ。
やっぱり目に見えない力みたいなのはあると思っていて、ただ、それを全部僕のせいにされてしまうのは解せない。僕を怖がってる人が念を飛ばしてスマホが壊れたりとかもあるだろうし、まぁ、それも根本の原因は僕かもしれんけど、僕が直接壊したわけじゃないよなとか。

でも、それが逆に良いふるいになってるんですよね。何か起きるかもしれないことを承知で、それでも興味を持ったり、近づいてきてくれる人とは仲良くなれる気がする。人は自分の周りの人間を50人くらいしか把握できないって話もあるから、それくらいふるいの目が細かくていいんですよ。
全般的に見れば、松原さんご自身より、周りの方のほうに異変が起きていることが多いですもんね。逆に、松原さんは守られているのかもしれない。
いや、もし守られてるとしたら、ちょっと守らんといてほしい。どんな目に遭うのか確かめたくて心霊スポットに行ってるのに、守られてたらわからないじゃないですか。起きるべきことはちゃんと体験して“こうなるんやったらここまでにしておこう”とか、自分で対策を考えたいので。
本書でも“住人が必ず亡くなってしまう家”が紹介されていますが、では、そういった事故物件が空いてますと言われたら住みますか?
空いてたら住みます。むしろ、それをずっと求めてるんですけど、そういう家が常時空いているわけでもないし、なかなかたどり着かないんですよね。
住んでみて命の危険を感じたら、初めて僕は逃げるかもしれないですけど、あえて“ここに住んだら死ぬ”って大げさに言って、怖がらせているだけの可能性も高いと思うんです。だから自分で実際に住んで、本当のことが知りたいんですよ。心霊にまつわる話って、嘘と勘違いが多すぎるので。
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