FREENANCE MAG

フリーランスを応援するメディア「フリーナンスマグ」

事務負担の軽減や節税も!インボイス登録前に知っておくべき、消費税の簡易課税制度とは?【税理士が解説】

事務負担の軽減や節税も!インボイス登録前に知っておくべき、消費税の簡易課税制度とは?

2023年(令和5年)10月1日より、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度がスタートする予定です。現在は消費税免税事業者という方も、これを機にインボイス登録して、課税事業者になることを検討している方もいるのではないでしょうか。

インボイス登録をする場合に、ぜひ知っておきたい制度が「簡易課税制度です。この制度は中小事業者を対象として設けられた措置で、場合によっては、消費税を確定申告する際の事務負担の軽減だけでなく、節税効果も期待できます。


フリーナンスは、フリーランス・個人事業主を支えるお金と保険のサービスです。
フリーナンスは、フリーランス・個人事業主を支える
お金と保険のサービスです。

簡易課税制度とは?

消費税は商品や製品の販売、サービスの提供など、取引に対して広く公平に課税される税目で、消費者が負担し事業者が納付します。また、消費税の仕入税額控除は、課税事業者が納付する消費税を計算する際、売上にかかった消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて計算することによって、消費税の二重課税を解消することを目的とした制度です。

原則として、個人事業主であれば、1月~12月の消費税を翌年の3月31日までに、法人では課税期間末日の翌日から2カ月以内に、年間の消費税と地方消費税を合計した金額を所轄の税務署に申告し納付することになります。

消費税の計算方法には、原則課税のほか、簡易課税制度があります。「簡易課税制度」とは、中小企業の事務負担を軽減するために設けられた制度で、経理処理を含む事務負担を軽減でき、また節税効果も期待できます。

※参照:No.6505 簡易課税制度

簡易課税と原則課税の違い

消費税の計算においては、原則課税と簡易課税のいずれかを選択することになります。そして、原則課税と簡易課税では計算方法が異なり、それぞれの計算方法は以下のとおりです。

原則課税の計算式
納付する消費税 = 売上(収入)にかかる(受取)消費税 − 仕入れ等(支出)にかかる(支払)消費税

※マイナスの場合は消費税の還付を受けることができます。

簡易課税の計算式
納付する消費税 = 売上(収入)にかかる(受取)消費税 − 売上(収入)にかかる(受取)消費税 × みなし仕入率

「みなし仕入率」とは、簡易課税の適用を受ける事業者の業種によって以下のとおり、税法上決められています。

※参照:No.6401 仕入控除税額の計算方法

事業区分 みなし仕入率 該当する事業
第1種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質又は形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)
第2種事業 80% 小売業(他の者から購入した商品をその性質又は形状を変更しないで販売する第1種事業以外のもの)
第3種事業 70% 農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く) 鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む) 電気業、ガス業、熱供給業および水道業
※第1種事業、第2種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除く
第4種事業 60% 第1種、第2種、第3種、第5種、第6種事業以外の事業(飲食店業など)
第5種事業 50% 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業
※飲食店業に該当する事業を除く
※第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除く
第6種事業 40% 不動産業

※参照:No.6509 簡易課税制度の事業区分

簡易課税制度を適用している場合、売上にかかる受取消費税を把握すれば、納付すべき消費税を算出することができます。

例えば、サービス業を営む会社が簡易課税制度を適用している場合、みなし仕入率は50%となり、この場合、会社の売上高が2,000万円だとすれば、納付すべき消費税額は100万円となります。簡易課税制度では、当期の仕入れにかかる消費税額を把握しないで済む分、原則課税より事務負担は軽減されます。

簡易課税制度適用のメリット・デメリット

ここでは、簡易課税制度を適用するメリットとデメリットについて見ていきます。

  • 事務負担が軽減される
  • 節税ができるケースがある
  • 税負担が増えてしまうケースがある

メリット①:事務負担が軽減される

簡易課税制度の適用を受ける場合、消費税の計算時に仕入にかかる支払消費税額を把握する必要がなくなり、事務負担が大幅に軽減されることがメリットとしてあげられます。

原則課税では原則として、すべての取引の仕入にかかる消費税を把握しなければならず、また「課税売上のみにかかるもの」「非課税売上のみにかかるもの」「課税売上、非課税売上に共通してかかるもの」の3つの区分に分けて把握する必要があります。

一方、簡易課税であれば、そもそも仕入にかかる消費税を把握する必要がありませんので、管理する上で手間やコストを大幅に軽減することができます。

メリット②:節税ができるケースがある

原則課税では、消費税を算出する際に控除できる金額(仕入税額控除)を「仕入れ(支出)にかかる消費税」として計算している一方で、簡易課税では「収入にかかる消費税 × みなし仕入率」で控除額を算出します。

ここで、実際に仕入れにかかる消費税を計算し、その金額よりも簡易課税の計算式で算出した控除額のほうが大きければ、節税につながります

デメリット:税負担が増えてしまうケースがある

仕入支出や多額の設備投資をしたケースでは、支出にかかる消費税が増加します。場合によっては消費税の還付を受けることもあるでしょう。しかし、簡易課税を適用した場合、控除額は「収入にかかる消費税 × みなし仕入率」で計算されるため、多額の支出や設備投資支出は控除額に反映されません。したがって、原則課税を適用していたら還付金を受け取れるはずだった場合でも、簡易課税制度では必ず支払消費税が発生することになります。

原則課税と簡易課税のどちらを適用するべき?

原則課税と簡易課税のどちらが有利になるかは、当期の支出状況や設備投資の発生状況により異なります。ここでは小売業を例に、原則課税が有利になるケースと、簡易課税が有利になるケースそれぞれについて見ていきましょう。

原則課税が得になるケース

小売業のみなし仕入率は80%です。したがって、実際の仕入率がそれより大きい場合や多額の設備投資などがある場合は、原則課税の方が有利になります。例えば、売上が1,000万円、仕入が850万円である小売業を例にすると、実際の仕入率は85%であるため、簡易課税のみなし仕入率80%よりも実際の仕入率の方が高く、この場合は原則課税のほうが有利となります。

また、例えば売上が1,000万円、仕入が700万円の小売業である場合、実際の仕入率は70%であり、みなし仕入率は80%と実際の仕入率よりも高く、この場合は簡易課税のほうが有利となります。

しかし、ここに200万円の固定資産の購入がある場合、これも加味すれば計算上の仕入率は「(700万円 + 200万円) ÷ 1,000万円 = 90%」となり、簡易課税のみなし仕入率80%より高くなるため、原則課税を適用したほうが有利となります。

簡易課税が得になるケース

通常の営業において、実際の仕入率が簡易課税のみなし仕入率80%を下回る場合は、簡易課税の方が有利となります。

上で記載した例において、当期の売上が1,000万円仕入が700万円で、ほかに設備投資等がないケースであれば、原則課税での実際の仕入率は70%であり、簡易課税を適用した場合のみなし仕入率80%を下回ります

したがって、原則課税であれば、消費税の計算上、仕入税額控除の額がより少なくなることになり、簡易課税制度を適用したほうが有利になります。

簡易課税の適用を受けるには?

ここからは、簡易課税の適用を受ける方法を見ていきましょう。

簡易課税制度の要件と申告方法

簡易課税制度の適用を受けるためには、以下の2要件を満たさなければなりません。

  1. 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している
  2. 基準期間の課税売上高が5,000万以下である

①「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している

簡易課税制度の適用を受けようとする事業者は、適用を受けようとする年度の初日の前日(個人事業主の場合は適用を受けようとする年度の前年の12月31日)までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出しなければなりません。

なお、開業の初年度であれば、初年度の年度中に届出を行うことで簡易課税の適用を受けることができます(併せて「消費税課税事業者選択届出書」の提出も必要になります)。

また、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していても、次に記載する課税売上高が5,000万円を超えると、2年後の事業年度は簡易課税を適用できず、この場合は原則課税を適用することになります。

※参照:「消費税の届出書について(詳細版)
※参照:[手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続

②基準期間の課税売上高が5,000万以下である

基準期間とは「簡易課税制度の適用を受けようとする期間の前々年度(2年前)の期間を指します。また、消費税の取引は以下に示す課税取引非課税取引不課税取引の3つに区分され、課税売上高とは「課税取引の売上高(収入)を指します。

取引区分 具体例
課税取引 消費税の課税対象となる取引であり、商品・製品の販売や事業用設備の売却、資産の貸付け、宿泊、飲食、情報の提供など
非課税取引 消費税の課税対象とならない取引であり、土地の譲渡や貸付け、有価証券等や支払手段の譲渡、預貯金の利子や保険料を対価とする役務の提供など
不課税取引 消費税の課税対象にならない取引であり、給与や賃金、寄附金や保険金、株式の配当金など

簡易課税制度の適用要件を判定するには、2年前(前々年度)の売上高から非課税取引や不課税取引を控除して課税売上高を算出した上で、その金額が5,000万円を超えると、簡易課税制度の適用を受けることができません。

簡易課税制度を適用する場合の注意点

簡易課税制度を適用するには、上述した要件を満たす必要がありますが、一度、簡易課税制度を適用した場合には、2年間は継続適用が要求されます。また、簡易課税制度の適用を廃止し、原則課税にする時は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。

インボイス制度をふまえて

ここからは、2023年(令和5年)10月1日からインボイス制度が導入されるにあたり、簡易課税制度の利用がどのような影響を受けるかを見ていきましょう。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは?

インボイス制度とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、取引の売手と買手の双方に適用されます。売手は「適格請求書」を発行してその写しを保存し、買手は「適格請求書」を保存する必要があります。

「適格請求書」とは?

「適格請求書」とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝える書類を指し、「適格請求書」に「登録番号」「適用税率」「消費税額」などの記載が必要になります。

インボイス制度は2023年10月1日から開始され、「適格請求書発行事業者」に限り「適格請求書」の発行ができ、消費税の仕入税額控除が認められます。

「適格請求書」に必要な記載事項は以下の6項目となります。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称、登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

※参照:適格請求書等保存方式の概要

①の登録番号は「適格請求書発行事業者」に発行されるため、「適格請求書」を交付するには、事前に所轄の税務署にて「適格請求書発行事業者」の登録申請(インボイス登録)が必要になります。

簡易課税制度を利用すると、仕入れにかかる消費税の計算が不要に

上で述べた通り、簡易課税制度による消費税の計算は、売上(収入)にかかる消費税にみなし仕入率を掛けて算出します。

つまり、簡易課税制度を利用する場合は、仕入先から入手する請求書や領収書、レシートが「適格請求書」の様式であるかどうかは関係なく仕入等にかかる消費税額を計算する必要がありません。これにより、経理処理などの事務作業の負担が軽減されます。

したがって、簡易課税制度を適用する事業者は、インボイス制度導入による影響はほとんど受けないといえます。インボイス制度導入に際して、「適格請求書発行事業者」になることを検討している事業者は、簡易課税制度の適用も併せて検討するとよいでしょう。

簡易課税制度では、インボイス制度における経過措置を利用可能

免税事業者として事業を行っているフリーランスや個人事業主が、簡易課税制度を利用する場合は、まず「消費税課税事業者選択届出書」を所轄する税務署に提出して課税事業者となり、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

しかし、インボイス制度導入にともない、2029年(令和11年)9月30日までの間に「適格請求書発行事業者」の登録申請(「インボイス登録」)をした免税事業者は、課税事業者となるための届出(消費税課税事業者選択届出書)を不要とする経過措置が設けられています。

これにより、「インボイス登録」をすれば、インボイス制度が導入される2023年10月1日に消費税課税事業者となります。

また、この経過措置を利用して課税事業者になった免税事業者は、2023年1月1日~12月31日までの間に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、通常は翌年度から適用となる簡易課税の適用を、インボイス制度の開始と同時に適用することができます。

※参照:特集 インボイス制度

まとめ

インボイス制度の導入によって、事務負担の増加が懸念されていますが、簡易課税制度を利用すれば、複雑な消費税計算などの事務処理を大幅に軽減することができます。ただし、インボイス対応のためだけに、すぐ適格請求書発行事業者となる必要はありませんので、自身で最新情報・動向を注視して対応していくことが大切です。

インボイス制度を導入するにあたり、これまで消費税課税事業者であった人はもちろんのこと、免税事業者であった人も、メリットとデメリットを正確に把握したうえで簡易課税制度の利用を検討してみてください。

フリーナンスはフリーランス・個人事業主を支えるお金と保険のサービスです

ピンチにも、チャンスにも。ファクタリングサービス
「FREENANCE即日払い」

FREENANCE会員(会員登録は無料)になると、手持ちの請求書を最短即日中に現金化できるファクタリングサービス「即日払い」を利用できます。会員登録自体は通常1時間以内に完了。会員登録を申し込んだその日に即日払いを利用することも可能です。
https://freenance.net/sokujitsu

▼あわせて読みたい!▼