どうも。
FREENANCE MAGで連載させていただいていた『こう見えて元タカラジェンヌです〜遅れてきた社会人篇〜』も、早いもので今回が最終回となります。
「歌って踊って芝居して」が生業だった私が、名刺交換、メール送信など、社会人としての基本のキを学び、通勤に苦しみ、議事録作成に苦しみ、藻掻き、足掻きながら進み、脱サラし、フリーランスになり、そして結婚する……。
宝塚歌劇団を卒業しても、まだまだ波乱万丈に過ごすさまをお届けさせていただきました。
FREENANCE MAGでの連載は結婚するところまで、なのですが……まだまだ私の人生は続いておりますので、またどこかでお目にかかれましたら幸いです。(最後に嬉しいお知らせがありますので、よろしければご覧ください!)
今後とも何卒よろしくお願い致します。
それでは、前回までのあらすじを。
ひょんなことから友達になった、たそと「ひろくん」。
宝塚歌劇団を卒業後は疎遠になっていたのだが、またまたひょんなことから再会。再会を喜ぶのも束の間、突如ひろくんの両親から「ひろくんと結婚したら?」と猛プッシュ。
フワッとかわしつつも、内心ひろくんとなら結婚できるかも!と考えたたそは、ひろくんにプロポーズ。イエスかノーかを迫られた車内で、ひろくんが出した答えは「一度冷静になって考えましょう」
果たして2人は結婚するのかしないのか……今宵明らかに……!!!
Contents
結婚について本気出して考えてみた
一週間後に会う約束をして、その日はそのまま自宅へ戻った。
決してひろくんの言う「群馬マインドコントロール(略してグンマ―)」にかかっていたわけではないと言い切れるのだが、せっかくなので、今一度「結婚」について考えてみた。
まず前提として、元タカラジェンヌの方々の結婚といえば。
これまで名だたるスターさん方が、誰が聞いても知っている企業の社長と結婚されたり、誰もがご存知の俳優さんと結婚されたりと、結婚を発表するたび世間を賑わせてきたと思う。
歴史的には、宝塚音楽学校での生活は花嫁修行と呼ばれていたときもあり、寿退団の多い時代もあった。なので元々は「卒業=結婚」という、たったひとつのゴールしかなかったのではないかと思う。
でも、時代は動き続けている。
世の人たちのライフスタイルも変わり、結婚に対する価値観も変わった今は、必ずしも卒業=結婚ではなくなった。どちらかというと卒業後もキャリアを高め続ける方々のほうが多い気がする。
私の結婚観も、「できればしたいけど、それよりもやってみたいことが沢山ある」くらいの立ち位置だった。
ただ……ここで、皆さんにお話ししておきたいことがある。
19話にて、なんの前触れもなく「マイホームを購入した」と記述したのだが、その理由やきっかけについてはひとっことも語りはしなかった。
実は、このマイホーム購入は、先ほど述べた私の結婚観にかなり影響を与えることになった、かなり大きめの事件だったのだ。なので、今回はその理由について少しお話ししようと思う。
私がなぜ、マイホームを購入したか。その理由はただ一つ。
周りから「心配」というオブラートに包んだ、ただの「圧力」を、これ以上かけられたくなかったからである。
それってアナタの感想ですよね
例えば……この歳になると、友人や劇団の卒業生などから結婚式の招待を受けることが増える。
心からお祝いする気満々で参加させてもらうのだが、披露宴の途中、新郎新婦のお色直しなどのフリータイム中に「ところで皆様はご結婚は?」という、来賓者同士の近況報告@披露宴会場ver.が始まったりする。
私が「まだです」と答えると、「え?!(まだ)結婚してないの?」という周りのリアクション。
この(まだ)というのは、相手は決して口には出さないが、顔がありありと「まだ?」と物語っていることが多々ある。
「そりゃあ!できればしたいと思ってますよ!思ってますけど、その前にやりたいことが沢山あって……」とマジレスしていたこともあったのだが、その都度、過激派な既婚の方に「いや〜、結婚は良いよ!何というか……一人前になれるよ」などと返され、その後延々と結婚することの良さを語り、そして一様に「早くしないと!」と急かしてくる。「できるならしたい、じゃ一生結婚なんてできないよ!行動あるのみ!」と。
そして散々まくし立てた挙句、最終的には「まぁ~、ウチは今じゃ喧嘩ばっかしてるけどねぇ」的な、謙遜なのか知らんけど突然自分のパートナーをdisるような結びの言葉で締め、満足気にメインディッシュを頬張る。
頼む、今は肉に集中させてくれ。
内心そうは思いつつ、これ以上要らないプレゼンを続けられても困るので、「ね~!そうですよね~!」とただただ同意する、という返しを基本装備としていた。
こういった既婚過激派による謎の「結婚している自分一人前マウント」は、日々の生活の中で多々おとずれる。
「それって、アナタの感想ですよね?なんだろう、『結婚してる』から『一人前だ』と決めつけるのやめてもらっていいですか?」
と問い詰めたい。この概念にあぐらをかき、マウントを取ってくるなど、一人前の人間のやる事じゃないといつも思う。
……とまあ、こんな風に年齢を重ねれば重ねるほど、心配している風を装った「結婚しろ、一人前になれ」という圧力は増していく。
そして……その最大勢力は、紛れもなく「実家」に存在するのだ。
キーッチュ!
宝塚歌劇団を卒業した後、我が家の両親は呼吸するのと同じくらいの頻度で「結婚はしないのか」と私に問うてきた。
「ひとりで生きていくのが性に合っている」なんてものは理由として認められない。なので、話をはぐらかす。
聞かれたらはぐらかし、また聞かれたらはぐらかす、両親と私のギリギリの我慢比べである。
ただ、私もその話題で両親と喧嘩になるのは避けたいので、両親に「結婚する気はあるか?」と問われれば、したいわけじゃなくても「そりゃあ、したいとは思ってるよ」的な、両親の意見に賛同している素振りの返事をしてしまっていた。
私の両親は私が結婚することで安心するし、結婚しないならずっと心配なのだ。
これが親の愛というものならば……ありがたくお受けしなければ。そして、私もいい歳だから両親を安心させてあげたい。そんな気持ちからの返答だった。
しかし、私の内心を知らず、ただ結婚したい意思を汲み取った両親は行動を起こす。
ある日、お見合いをすることになった。
父の親戚の方からのご紹介で、お相手は家業を継ぐことになっており、私にも是非家業を継いでバリバリ働いてほしいと言っている。
それを聞いた私は「嫁ぐ」というより、「再就職先」を見つけた気がした。
卒業してから就活もせずに一生働ける場を提供していただけるなんて。結婚してからもずっと働きたいと思っている私にとってはとても嬉しい条件だった。
「ここで働かせてください!」そう思い、結婚を決意。
そんな思いで、かるーい食事から始め、2回目に会う時には「結婚を前提とした」付き合いに変わっていった。
そこに愛はあるんか?と問われれば……答えはNOだ。
それよりも再就職先としてかなり魅力的であること、お相手のお義母さまともノリが合いそうだと直感したこと、なにより両親も勧めているということの方が大きかった。
結婚を決意した私を見て家族は一安心。とても嬉しそうだった。ああ、良いことしたなぁ……などと思っていたのだが……。
いざ結婚しようと決めた途端、それまでマスオさんのように柔らかな印象だったお相手の性格が急変。世間一般的な亭主と妻の関係を築きたくなったのか、私の行動一つ一つに「お小言」がつき始めたのである。
「世間一般的には内助の功として務めるべきだと……」
「世間一般的には働いていても家事もこなしてもらわないと……」
「世間一般的には……」
「世間一般的には……」
……うるせえ!!
ワシは「世間一般的」という言葉がこの世で一番嫌いじゃ!!!シャラップナウ!!
一瞬で悟った。
この人と一緒に生活することはできない、と。
気がつくと私は、お相手と一度結んだ結婚の約束を、一週間も経たぬうちに反故にしていた。