会社員やパートだけでなく、フリーランス・個人事業主として働く人も増えているなか、2024年に「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。
これは、より多くの人が雇用保険のサポートを受けられるようになる改正で、対象となるパートタイムやフリーランスも少なくありません。
本記事では、法律改正の背景や具体的なポイントに加え、スキルアップや働き方の選択に、どのような影響があるかもわかりやすく解説します。
雇用保険とは?
雇用保険制度は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことなどを目的とした制度のことです。
雇用保険では、離職した日の直前6カ月に毎月決まって支払われた賃金から算出した「賃金日額」に基づき、失業給付(基本手当)の1日当たりの金額である「基本手当日額」を算定します。
※賃金:保険料などが控除される前の額(賞与は入らない)
※給付率:離職時の年齢・賃金により45~80%の間で決定(賃金水準が低いほど給付率は高い)
賃金日額・基本手当日額の上限額・下限額
賃金日額・基本手当日額には上限額と下限額が設定されており、上限額は年齢区分に応じて、下限額は年齢に関わらず一律となっています。
離職時の年齢 | 賃金日額の上限額 | 基本手当日額の上限額 |
29歳以下 | 14,130円 | 7,065円 |
30~44歳 | 15,690円 | 7,845円 |
45~59歳 | 17,270円 | 8,635円 |
60~64歳 | 16,490円 | 7,420円 |
年齢 | 賃金日額の下限額 | 基本手当日額の下限額 |
全年齢 | 2,869円 | 2,295円 |
失業給付(基本手当)受給額はおおよそいくら?
失業給付(基本手当)の概算値は以下の通りです。
- 賃金が平均月額約15万円:基本手当は月額約11万円
- 賃金が平均月額約20万円:基本手当は月額約13.5万円 (離職時の年齢が60歳以上65歳未満の場合は月額約13万円)
- 賃金が平均月額約30万円:基本手当は月額約16.5万円 (離職時の年齢が60歳以上65歳未満の場合は月額約13.5万円)
※参照:Q10 雇用保険(基本手当)の受給できる額は、例えば1か月でどの程度もらえるのか、だいたいの金額を教えてください。
※参照:雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和6年8月1日から~
雇用保険法改正の背景と目的
2024年の雇用保険法改正の背景には、働き方の多様化や、人への投資が重要になってきたことがあげられます。これまでの雇用保険は、主にフルタイムで働く人を対象としていました。
しかし、最近では短時間勤務や個人事業主、フリーランスなど、多様な働き方をする人が増えています。そのため、多様化する働き方にも対応できるよう、雇用保険の適用範囲が広げられました。
また、スキルアップやキャリアチェンジへの対応も求められています。学び直し(リ・スキリング)による新しいスキル習得や再就職の支援も、今回の法律改正の目的です。
これにより、さらに多くの人が、自分に合った仕事を見つけられるようになるでしょう。
雇用保険法の主な改正点
今回の雇用保険法改正のポイントは以下のとおりです。
- 多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築
- 「人への投資」の強化
- 教育訓練やリ・スキリング支援の充実
- 育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保
以下は、改正内容や施行期日の全体像です。2024年中に施行済みの項目は灰色になっています。

ここからは改正点をそれぞれ見ていきましょう。
雇用保険の適用拡大に関係する法改正
雇用保険の適用拡大は、雇用保険法、職業訓練の実施などによる特定求職者の就職の支援に関する法律を改正したものです。
雇用保険の適用拡大

改正前の雇用保険は「週20時間以上」働く人が対象です。たとえばパートタイムやアルバイトなどで週10〜19時間働いている人は雇用保険に加入できず、失業時のサポートなどの雇用保険の保護を受けられませんでした。
今回の改正は、雇用保険の適用範囲を「週10時間以上」雇用される人に拡大するものです。
パートやアルバイトなど短時間労働者も失業時の給付など雇用保険の保護を受けられるようになります。
給付の内容は現行の被保険者と同じく、基本手当(いわゆる失業手当)、教育訓練給付、育児休業給付などの支給です。短時間労働者が別扱いされるのではなく、これまでの被保険者と同様の保護を図ります。
改正によって増加する被保険者数見込みは約500万人です。現在の被保険者は約4,500万人のため、被保険者数が1割強増えることになります。
教育訓練やリ・スキリング支援の充実に関する法改正
教育訓練やリ・スキリング支援の充実は、雇用保険法や特別会計に関する法律の改正です。
自己都合離職者の給付制限見直し

改正前の制度では、自己都合で退職した場合、原則として、7日間の待期満了後から2カ月間(5年以内に2回を超える場合は3カ月)が経過するまでは、失業給付(基本手当)が受けられませんでした。
倒産や解雇により再就職の準備をする時間的余裕がない離職者は速やかに保護される必要があります。ですが、自身の都合で辞職する場合は、その責任は本人にあり、国が保護する必要はないとされていました(ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練などを受講した場合は給付制限が解除されます)。
なお、失業給付(基本手当)の受給期間は、離職後の翌日から1年間です。退職後の給付制限期間のために、実際に給付日数が残っていても、給付が受けられなくなる場合もあります。

今回の改正で、自己都合退職者の給付制限が見直され、失業給付(基本手当)が受けやすくなりました。
自己都合退職者が、雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練などを受けた場合には給付を制限せず、雇用保険の基本手当をすぐに受給できるようになりました。加えて、「会社都合」と同様に、7日間の待期後、直ちに給付が受けられます。
また、これに合わせ、一般の自己都合退職者の「給付制限期間:原則2カ月」も「1カ月」に短縮されます。
現行でも「ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練などを受講した場合」は給付制限が解除されていました。しかし、今回の改正では、この「受講要件」も大幅に緩和されます。
緩和される受講要件 | 内容 |
対象となる教育訓練の拡大 | 公共職業訓練のほか、教育訓練給付金の対象となる教育訓練、短期訓練受講費の対象となる教育訓練 これらに準ずるものとして職業安定局長が定める訓練 |
訓練を受ける時期の要件拡大 | 離職前1年以内に教育訓練などを受講した場合、または離職日以後に教育訓練を受講した場合 |
この改正は、自己都合退職して自ら学び直して転職する、といった人には大きな支えでしょう。ただし、今回の改正はあくまで「給付制限期間」の緩和・撤廃にとどまります。
会社都合退職と自己都合退職(※)で、給付の内容(基本手当の給付日数)に大きな違いがある点は、改正後も変更はありません。そのため、この改正だけで転職増加が見込めるかどうかは未知数です。
※下表の「特定受給資格者・一部の特定理由離職者」が、会社都合などに該当します。

教育訓練給付の拡充

改正前の制度でも、厚生労働大臣指定の教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部が支給され、労働者の学び直し(リ・スキリング)の支援があります。
しかし、働き方の多様化が進むにつれ、個人の主体的なリ・スキリングなどへの直接支援をより一層強化し、教育訓練の効果(賃金上昇や再就職)を高めていく必要があると考えられてきました。
改正後の制度では、教育訓練給付金の給付率の上限が最大で受講費用の70%から80%に引き上げられます。
また、「専門実践教育訓練給付金」(中長期的キャリア形成に資する専門的・実践的な教育訓練講座を対象)は、教育訓練受講後に賃金が上昇した場合、さらに受講費用の10%(合計80%)を追加支給されることになりました。
加えて、「特定一般教育訓練給付金」(速やかな再就職および早期のキャリア形成に資する教育訓練講座を対象)は、資格を取得し就職した場合、受講費用の10%が追加支給され、合計50%が給付されます。
教育訓練中の生活を支えるための給付の創設

改正前は、労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事から離れる場合でも、訓練期間中の生活費を支援する制度が設けられていませんでした。
労働者の主体的な能力開発をより一層支援するためには、離職者含め労働者が生活費に不安を持つことなく教育訓練に専念できるようにする必要があります。
今回の改正により、新たに「教育訓練休暇給付金」が創設されることになりました。雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合が支給される制度です。
教育訓練休暇給付金 | |
対象者 | ・雇用保険被保険者 |
支給要件 | ・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること ・被保険者期間が5年以上あること |
給付内容 | ・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ ・給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか |
国庫負担 | ・給付に要する費用の1/4又は1/40(基本手当と同じ) |
※上記のほか、雇用保険被保険者以外の者を対象に、教育訓練費用と生活費を融資対象とする新たな融資制度を創設予定。【省令】
※引用:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
育児休業給付にかかわる安定的な財政運営の確保
育児休業給付にかかわる安定的な財政運営のため、雇用保険法、労働保険の保険料徴収に関する法律も改正されています。
この法改正の目的は、育児休業取得者数の増加とともに増加している支給額の財源を安定して確保し、子育て世帯の支援を拡充することです。
育児休業給付の給付率引上げ

改正前の制度で育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%(手取りで8割相当)、180日経過後は50%が支給されます。
しかし、若者世代が、希望どおり結婚・妊娠・出産・子育てできるようにするには、夫婦がともに働き、育児を行う 「共働き・共育て」を推進する必要があると考えられます。特に、男性の育児休業取得においては、さらなる促進が求められていました。
改正後の制度では、子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額が給付されます。
これにより、育児休業給付と合わせ給付率が80%(手取りで10割相当)に引き上げられることになります。なお、配偶者が専業主婦・主夫の場合や、ひとり親家庭の場合などには、配偶者の育児休業の取得を求めずに給付率を引き上げるものとされています。
育児時短就業給付の創設

改正前は、育児のための短時間勤務制度を選択して労働者の賃金が低下しても、その分を補う制度は設けられていませんでした。
「共働き・共育て」を推進するためにも、子の出生・育児休業後の労働者の育児とキャリア形成の両立支援をするためにも、時短勤務を選択した場合の賃金低下を補う施策が必要です。
改正後は、被保険者が2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合の賃金低下を補うことを目的とした、「育児時短就業給付」が創設されます。
とはいえ、時短勤務を第1の選択肢とするのが適当とはいえません。「休業よりも時短勤務」「時短勤務よりも従前の所定労働時間での勤務」を推進するほうがよいと考えられています。
そのため、時短勤務についての給付率は「時短勤務中に支払われた賃金額の10%」と定められました。給付率は、以下の図のように、細かな調整が行われています。
育児休業給付を支える財政基盤の強化

育児休業給付は、育児休業の取得者数増などを背景に支給額は年々増加しており、財政基盤強化が急務でした。
※現在の国庫負担割合:本則1/8(暫定措置として1/80、現在の保険料率:0.4%)
改正後は、男性育休の大幅な取得増などにも対応できるよう育児休業給付の財政基盤強化を目的とした、以下の対策が取られます。
- 2024(令和6)年度から、国庫負担割合を現行の1/80から本則の1/8に引き上げ
※施行期日:公布日又は2024(令和6)年4月1日のいずれか遅い方 - 当面の保険料率は現行の0.4%に据え置き
→ ただし、今後の保険財政の悪化に備えて、本則料率は2025(令和7)年度から0.5%に引き上げ
→ 加えて、実際の料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整する仕組みが導入
※施行期日:2025(令和7)年4月1日
この改正を踏まえ、男性の育休取得率は、以下のような目標が据えられています。
- 2025年 公務員 85%(1週間以上の取得率)、民間 50%
- 2030年 公務員 85%(2週間以上の取得率)、民間 85%
※参照:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
そのほか雇用保険制度の見直し
上記以外にも、教育訓練支援給付金の給付率や介護休業給付に係る国庫負担引下げの引下げに関する暫定措置を、2026(令和8)年度末までに継続することも法改正に組み込まれました。加えて、就業促進手当の所要も見直しが実施されます。
改正の影響と実務上の留意点
今回の改正では、企業・労働者双方にさまざまな影響があります。ここでは、実務的な面で留意すべき点を解説します。
企業への影響
最も大きな影響があるのは、「雇用保険の適用拡大」(被保険者資格の拡大)でしょう。被保険者が1割以上増えると見込まれます。
特にパートタイマーやアルバイトを多数雇用している企業には大きな影響があるでしょう。雇用保険料の会社負担が増えることや、手続きの増加に伴う事務負担など、十分に留意しながら準備するべきです。
また、複数の事業所で短時間の就業を掛け持ちする労働者をどのように扱うべきかについても、注意するべきです。
現状の雇用保険制度では、「2以上の雇用関係のうち1の雇用関係(原則として、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係)についてのみ被保険者となる」となっています。施行は2028年10月ですが、今から準備を進める必要があるでしょう。
加えて、「自己都合離職者給付制限見直し」、「教育訓練給付の拡充」、「教育訓練中の生活を支えるための給付の創設」などは、従業員のリ・スキリングや新規採用などへの活用が望まれます。
さらに、「育児休業給付の給付率引上げ」や「育児時短就業給付の創設」は、育休取得促進を通じて、従業員の定着および採用への好影響が期待できるでしょう。
労働者への影響
「雇用保険の適用拡大」(被保険者資格の拡大)は、週10時間以上20時間未満の短時間労働者にとって、雇用保険料を新たに徴収される制度のため、抵抗を感じる労働者がいるかもしれません。しかし失業時の手当をはじめとする、さまざまなメリットもあります。
たとえば、「自己都合離職者の給付制限見直し」や、「教育訓練給付の拡充」、「教育訓練中の生活を支えるための給付の創設」などは、自らの教育訓練に活かし、就職・転職機会の拡大にもつながるでしょう。
「育児休業給付の給付率引上げ」や「育児時短就業給付の創設」も、雇用保険被保険者であればこそ受けられるメリットです。
多様な働き方を実践する人への影響
雇用保険の適用拡大により、2028(令和10)年10月1日以降は、週に10時間以上雇用されて働く場合には雇用保険のさまざまな支援が得られることになります。
個人事業主であるフリーランス、自営業の方も、週10時間程度の雇用という働き方を選択肢に入れられれば、いざというとき、雇用保険セーフティネットで守られることになります。
また、現在は被用者(雇われて働いている人)として働いているが独立・転職を考えているといったケースでも、週10時間以上の雇用も一つの柱として残しておく、という働き方も可能です。
そのうえで、「教育訓練給付」や「教育訓練休暇給付金」を用いてのリ・スキリングを行ったり、転職先を探したり、「育児休業給付」や「育児時短就業給付」を用いて、出産・育児の時期の生活の安定も図ることもできるでしょう。
まとめ
今回の改正は多岐にわたるものですが、短時間勤務など多様な働き方をする労働者に雇用保険のセーフティネットを拡充し、教育訓練、リ・スキリングの支援によってふさわしい職場への労働移動を促す効果も考えられます。
さらに、育児期間中の労働者への保護も拡充するなど少子化対策にも注力している改正です。これにより一人ひとりの働き方に多様な選択肢が提供されることになります。
制度の内容に精通できれば、自身の能力を最大限に活かせる働き方を選ぶ助けになるでしょう。
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