初著書『コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』を、今年4月に出版された神戸在住の人気イラストレーター・フジワラヨシトさん。ADHDという特性やコロナ禍に見舞われながらも、Xを中心とするSNSでの発信を活用することにより、自身の作品を効果的にアピールしていったマーケティング×ブランディング戦略をまとめた本書について、たっぷりとうかがいました。
「ストレスのかかることを極力減らして、かつ、自分のやりたいことを伸ばしていける働き方が理想」と語るフジワラさんが教える“戦わない働き方”とは? 目からウロコの金言が満載です。
1989年10月生まれ。神戸市出身神戸市在住。大阪芸術大学中退後 、テーマパークなどで似顔絵師として活動。その後、会社員を経て2020年1月にイラストレーターとして独立。企業カレンダー、雑誌、WEBメディアなどのカットイラスト、パッケージなどのイラストを手がける。イラストレーターズ通信会員。
https://x.com/fuji25_2501
https://x.com/Mo1HNumjeU45057
https://www.instagram.com/fujiwara_illustration/
https://fujiwarayoshito.tumblr.com/
結果としての「独立」

イラストレーターとして活躍されているフジワラさんですが、今回出版された『コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』を拝見すると、幼いころから絵を描かれていたそうですね。
はい。描いた絵を親とか周りの大人たちが褒めてくれたこともあって、成長しても描き続けてましたね。それで高校はデザイン学科に、大学も美術関係のところに行ったものの、じゃあ、どうやって絵で身を立てていけるのか?という具体的な筋道はまったくわからず。大学を中退したあとは、各地を放浪しながら似顔絵を描く仕事をしていたんですけど、似顔絵って上手い絵ではなく、お客さんの求める絵が描けないとダメなんですよね。
可愛くて、きれいで、ピカピカしてる感じの似顔絵しか求められない。それは、ちょっと違うんじゃないか?というところから、段々と絵に対する興味が失われてしまい、結婚して家庭を持ったこともあって、結局、酒販店に就職したんです。ただ、日本酒も好きだったので「好き」を仕事にしたことには変わりなかったですし、会社員になってからは一切絵は描いてませんでしたね。
では、再び絵を描くようになったキッカケは?
あるとき携帯の買い替えをすることになって、ショップの店員さんに勧められるまま、ついでにiPadも買ったんです。もともと妻も絵を描く人間なので、妻が使えればいいかな……ってくらいの軽い気持ちだったんですけど、ちょっと自分も触ってみたら、絵を描く楽しさを思い出してしまって。
またちょうど、そのタイミングで京都アニメーションの事件があって、自分の青春時代を支えてくれたクリエイターさんたちが大勢亡くなったのを見て……もっと絵を描きたかったに違いない人たちが命を絶たれたのに、生きている自分はなんで描いてないんだろう? 描くべきなんじゃないかって、そこから絵をたくさん描くようになったんです。
しかも会社のほうでは、適応障害を発症していたんですよね。で、その年の年末にとうとう耐えられなくなって、半ば勢いで退職してしまったんです。その後の就職先は一応決まっていたんですけど、そこも人事が一気に変わった事情もあって、入社後1週間ぐらいでクビになって。じゃあ、もう、絵で食べていくしかない!ということで、フリーランスのイラストレーターになったという流れです。
良く言えば退路を断った、悪く言えば追い詰められた結果の「独立」だったんですね。
もう、それしか道がなかった。そしたら2番目の会社でクビになったころに、コロナ禍が始まっちゃったんです。もう、外出もしてはいけないという空気でしたし、そもそも勢いで独立したので作品を集めたポートフォリオとかも全然なくて、どこかに自分を売り込むなんてできる状況ではなかった。それでも、もう、やるしかない!ということで、注目したのがSNSだったんです。
もともと日本酒の仕事をしていたときから、お店の情報発信とかはSNSでやっていましたし、個人のSNSのアカウントでも日本酒ファンの方や酒蔵の方と繋がったりしていたんですよね。その当時の経験を活かして、SNSで自分の作品をアピールしていくことにしたんです。
SNSを使うならまず「何をしたいのか」そして「恥ずかしがらない」

具体的に、どんな戦略を立てていったんでしょうか?
例えば、ワインの場合は個性的な味のものが人気だったりしますけど、日本酒って割と綺麗な味のものが好まれる傾向にあるので、なかなか差別化が難しいんです。じゃあ、どこでお酒の個性を打ち出して、売り上げにつなげていくのか?ということになると、その蔵のストーリーであったり、そのお酒がどういった製法で作られているのか?といったところが重要になるんですね。なので、その手法をイラストにも応用していったんです。
実際、19世紀末から20世紀前半のアメリカン・イラストレーション黄金期で、最も有名なイラストレーターであるノーマン・ロックウェルの作品を見ると、ストーリー性を前面に打ち出しているんですよ。私の根本的な考え方に、単に今、流行っているものではなく、源流をたどって新しいものを作るという手法があるので、そうなるとイラストレーションの源流は、やはりロックウェルだろうなと。そこで自分のイラストでも、ロックウェル的な“ストーリー”を重視していきたいと考えたんです。
たしかにフジワラさんのイラストは、キャラクターの関係性や物語を想像させる情景を映し出したものが多いですよね。『コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』を読んでも、単に絵の技術を磨くだけでなく、マーケティングやブランディングといったところをキッチリ考えていらっしゃるのにも驚きました。
そこは会社員時代の経験のおかげですね。メーカーさんの作ったお酒を販売していく仕事だったので、マーケティング的な手法を勉強するために、経営学者のピーター・ドラッカーの本を読んだりもしていたんですよ。
そこでの学びから言わせてもらうと、ビジネスでSNSを使うならば、まず、何をしたいのか?という目的を定義しなければいけない。多くの場合は自分の商品であったり、サービスを売ることが目的になると思うので、だったら単に日記みたいな感覚で使っていても意味がないですよね。
もし、自分のことを知ってもらいたいんだとすれば、その結果どんなことに繋げていきたいのか? その目的を達成するために、どんな運営をしていくべきなのか?ということは、しっかり考えておかないといけない。
そう考えると、プライベートをSNSで発信するようなことは控えたほうがいいんでしょうか?
それを見た人にとってプラスになるようなことであれば、出してもいいと思うんですよ。
例えばラーメンの写真をあげるとして、店名だったりお店の情報も一緒に載せれば、行ってみよう!と考える人も出てくるじゃないですか。でも「美味しかったです」の一言だけだと、どこのラーメンか教えてくれよ!になってしまう。
何か有益な情報であったり、共感を覚えてもらえるような事柄であれば、親しみを持ってもらえるという意味で有効なんじゃないでしょうか。
見る人にプラスになるか否かというのは、わかりやすいひとつの基準ですね。
SNSって“お店”だと、私は思っているんですよ。商品そのものだったり、コンセプトを伝える場所であって、例えば何か食べに行ったときに店主の私生活とか見せられても、ちょっと困るじゃないですか。テーマパークだって、そうですよね。例えば、ディズニーランドにピカチュウがいたら「あれ? ディズニーランドに来たはずなのに!」ってなるじゃないですか。
でも、私生活を見せることが、例えば“仕事を取る”という目的に繋がるのであれば、まったく構わない。だから目的を最初に定義することが不可欠なんです。

では、その目的にかかわらず「こうしたほうがいい」「これはしないほうがいい」という全般的なアドバイスがあれば、教えていただけますか?
まったく繋がりの無い状態から始めるのであれば、最初は積極的に同業者をフォローしたり、ポストにリプライを付けることですね。やっぱりSNSって拡散してもらって、見てもらって繋がりが増えていくので、ゼロからのスタートになるのであれば、何か足がかりを作ることが必要になる。
あとは「恥ずかしがらない」ということも大事かなと。やっぱり自分の作品を発信するにあたって、恥ずかしさってあるとは思うんです。ただ、その恥ずかしさって自分の問題であって、他の人から見れば関係ない。例えばイラストレーターの場合、作品をあげるときに「ほんの落書きです」とか「ちょっと未熟なんですが」とか注釈付けがちだけど、落書きだろうと未熟だろうと別にいいじゃないですか。
その恥ずかしさが垣間見えてしまうほうが、見てるほうとしては逆に居心地悪いんですよね。なので、自信満々に魅せる必要もないけれど、変にエクスキューズみたいなものはつけないほうがいい。
ネガティブな発言をしないことも、もちろん重要ですね。例えば「クライアントがこんな悪条件で依頼してきた」とかって、愚痴りたくなる気持ちはわかりますけど、言ったところでクライアントの対応が変わるわけでもないですし、見た人も「あ、そうなんや」って思うだけ。
いっそ「こういうクライアントがいたので裁判沙汰にしてやりました!」ぐらいまで行けば、見た人の参考にもなるからいいですよ。でも、誰のプラスにもならないことであれば、発信しても意味がない。同じ理由で、答えの出ないことを議論したり、誰かに対してアンチコメントするのもやめたほうがいいですね。
