すぐに結果が出なくても投げ出さない、鬱になったら前向きに向き合う。AMIX代表&フリーランスデザイナー・トミナガハルキさんにインタビュー

FREENANCE MAGで連載中の、デザイナーに役立つツールやサービスを紹介するコラムが好評のフリーランスデザイナー・トミナガハルキさん。最近執筆した書籍『#ズボラPhotoshop』は、初心者でも簡単に実践できる上級テクニックが満載の一冊で、早くもSNSで話題に。そんな順風満帆に見えるトミナガさんですが、実はSNSで自身が鬱であることを公表するという意外な一面も。
フリーランスになったきっかけや仕事観、鬱との向きあい方など、さまざまなお話を聞きました。

profile
トミナガハルキ/デザイン事務所AMIX代表・デザイナー。複数の企業でデザイナーとしての経験を積んだ後に独立。小さなデザイン事務所AMIXを立ち上げる。業界の片隅で活動中。『ASOBO DESIGN』を運営中。

デザインはほぼ独学。苦戦を強いられた就職活動

まずはトミナガさんがデザイナーになろうと思ったきっかけを聞かせてください。

大学時代は、デザインと全く関係のない学部に在籍していました。就職活動を意識する時期になって、将来を真剣に考えたんですけど、特にやりたいことが浮かばなかったんです。父が公務員だった影響もあって、漠然と「自分も公務員になろうかな」と考えているくらいでした。でも当時の友人たちにその話をしたところ、「目的もなく、なんとなく公務員になるって意味あるの?」と言われて。確かにそうだな、と思ったんですよね。

そこからどうして、デザイナーという方向に?

当時僕は軽音部に所属していたんですけど、エクセルやパワポが得意だったんでoffice系のソフトを使ってイベントのチラシやポスターを作っていたんですよ。その作業がすごく楽しくて、「デザイナーになれないかな」と考え始めました。

トミナガさんの作例

では、就職活動ではデザインの仕事ができる企業を探したんですか?

そうなんですけど、デザイン系の企業はデザイン専門学校や芸大・美大を卒業していることが応募条件になっているケースが多いんですよ。だから僕には、応募資格すらないんですね。でも「条件が揃わなくても作品を認めてもらえれば入社できるんじゃないか」と思って。独学でIllustratorとPhotoshopを学んで、ポートフォリオ作りに励みました。その結果、デザイン関連の企業2社から内定をいただきました。それまでに40社以上は落ちましたけど(笑)。

会社員時代はどんな業務を経験したんですか?

最初に就職したところは商品パッケージを製造する会社で、僕はそこでデザインを担当していました。食品から医薬品まで、とにかく多彩なジャンルの仕事ができて楽しかったです。その企業は大手の仕事も受けていたので、街を歩いていると自分がデザインしたパッケージをいろいろなところで目にするんです。それはすごく嬉しかったですね。それから2回転職して合計3社で会社員を経験したんですが、どの会社も扱う商品のジャンルが違ったので、とても勉強になりました。

メインの営業ツールはWEBサイト。数年越しのサイト運営が実を結ぶ

そんなトミナガさんが、独立を考えたきっかけは何だったんですか?

3社目で働いているときに、副業でフリーランスとしてデザインの仕事を受けるようになったんです。そっちの仕事が増えてきたので、「フリーランスの仕事を本気でやってみようかな」と思い始めて。僕は形から入るタイプなので、思いきって事務所を借りてみたんです。事務所を借りて半年くらい経った頃に、「あ、これならフリーランスでやっていけるな」と思って会社を退職しました。

副業時代からどんどん仕事の依頼が来ていたわけですね。どんな形で仕事を獲得していたんですか?

知り合いからの紹介等で獲得した仕事が5割、残り5割は自分で作ったWEBサイトからの依頼です。電話や対面で営業しようと思うと、どうしても時間が取られてしまうじゃないですか。WEBサイトだったら、向こうから連絡が来て、それに自分のタイミングで返信すればいいので。もちろん、ただWEBサイトを作っただけではなく、SEOなどの集客にはかなり力を入れました。自分の作品や問い合わせ先だけでなく、コラムなども積極的に掲載しました。すぐに大きな効果は出なかったですが、長年コツコツ努力したおかげで、現在、運営しているWEBサイトには安定的にお仕事の問い合わせがあります。

https://asobo-design.com/nex/

そういったWEBサイトからの集客方法も、独学ですか?

はい、独学です。WEBサイト集客みたいにすぐに効果が出にくいことって、みんな自分ではやりたがらないじゃないですか。僕が周囲に「WEBサイト集客を頑張ってみようかな」と言ったら、「大変そうだね」って言われて。そう言われると、すごくやりたくなるんですよ。他の人がやらないってことは、ブルーオーシャンじゃないかって。僕は子どもの頃からレゴブロックをコツコツと積み重ねていくのとか好きだったんで、一人で黙々と何かを続けるのは好きなんですよね(笑)。

最近執筆された書籍『#ズボラPhotoshop』はどのような経緯で発行することに?

YouTube でデザインのテクニックを紹介する『ズボラPhotoshop』という動画を公開していて。商業目的じゃなくて、ほとんど趣味で運営しているアカウントなんですけど、たまたまそれが出版社の方の目に留まって「本を出してみませんか?」とオファーがあったんです。普通の「Photoshopの使い方」みたいな本だったら、断っていたと思うんです。そういう本はすでに良いものがたくさんあるし、僕が作る意味がある?と思ってしまうので。ただ今回は僕のYouTubeのコンセプトそのままの『ズボラ Photoshop』の本を出せるということだったので、ありがたくOKさせていただきました。こういうテーマの本はこれまでになかったし、ニーズがあると確信できたからです。

https://www.youtube.com/watch?v=ZeY9xh4JSh8

「フリーランスが働きやすい時代になってきているって思います」

今はスタッフを雇用して「デザイン事務所AMIX」として組織化しているそうですね。

ありがたいことに2018年頃からすごく仕事の量が増えたので、スタッフを雇用してチーム体制で仕事をしています。人が増えたら法人化するという選択肢もあると思うんですけど、今はちょっと後回しになってしまっていますね。
最近は、個人事業主とも抵抗なく取り引きしてくれる企業がほとんどないじゃないですか。昔は「個人とは取り引きできないんです」と言われることもあったみたいですけど……。すごく、フリーランスが働きやすい時代になってきているなって思いますね。

https://amix-design.com

トミナガさんにとって、フリーランスとして仕事をする醍醐味って何でしょう?

フリーランスの人にその質問をすると「自分の好きな時間に働ける」とか「好きな仕事ができる」と答える人が多いと思うんですけど、僕自身はあまりそう思わないんですよね。好きな時間に好きな仕事をしたいなら、そういう条件の会社を探すという選択肢もありますから。最近は、比較的好きな時間に働けるフレックス制度の会社も徐々に増えていますし。

僕はフリーランスの魅力って、「経営」だと思っているんです。フリーランスって、全部自分で考えて自分で動かなきゃいけないんですけど、それが面白いというか。例えば仕事を獲得する手段とか、自分が手を動かさなくても利益が生まれる仕組みとか。それを考えて実行して、実際に成功したときの達成感は最高だと思うんです。

トミナガさんが手がけた作品一例

鬱を公表することで生まれたコミュニケーションが、自分自身の励みにも

ところで、トミナガさんはSNS等で鬱であることを公表しているのですが、それはどんな理由ですか?

鬱は珍しい病気ではないと思っているので、公表することに抵抗はありませんでした。一人で抱えるよりも、人に言ってしまった方が気が楽になるかなと思って。noteに鬱に関する記事を書いてみたところ、いろんな人から「僕も鬱なんです」「トミナガさんの投稿を読んで元気がでました」ってDMが来たんです。僕が誰かを励ますことができたんだと知って嬉しくなりましたし、何よりもそのメッセージに僕自身が励まされました。「鬱になってしまった」と落ち込んでいるだけでは何もプラスに動かないので、少しでも良い方向に向かうように、公表してみたという感じです。

https://note.com/asobodesign/n/nc004052244ba

鬱になった原因は、仕事関係ですか?

原因は、はっきり分からないんですよ。独立してからすごく忙しい時期があって、そのときに頭がぼーっとしたり落ち込んだりすることがあったんです。最初のうちは「忙しくて睡眠時間が足りないのかな」ぐらいに思っていたんですけど、次第に体調も悪くなってきてしまって。病院を受診したら、鬱だと診断されました。そこで、「これはまずい。スタッフを雇おう」と思ったんです。

「仕事を休もう」ではなく、「人を雇おう」と思ったというのは?

「自分の作業量を減らさなければ」とは思ったんですけど、「仕事を断ろう」という発想はなかったですね。あくまでも今まで通り仕事は受けて、人を雇って作業を分担して、自分の作業量を減らそうと考えました。仕事を辞めるとか断るとかは最終手段で、その前にできる限りのことをやってみようと思ったんです。今はすごく症状が落ち着いていて、良い状態で生活できています。
もちろん、鬱になったからという理由だけでなく、事業を拡大するという〝攻め〟の意味での採用でもあります。

フリーランスは全部自分で責任を負うこともあるので、それが心にプレッシャーをかけてしまう可能性もありますよね。

そうですね。僕も周りに仕事の相談はあまりしなくて、一人で解決することが癖づいているというか。僕は誰にも相談できないことが原因で鬱になったわけではないですが、一人で活動することに不安を抱え、気持ちが落ち込んでしまうフリーランスって決して少なくないと思います。そういう人たちに、僕のメッセージが少しでも役に立てばいいなと思いました。僕もたまに仕事のことで落ち込むことはありますが、そんなときはYouTubeで面白い動画を見て大笑いしたり、たくさん寝たりして解消しています(笑)。

では最後に、世の中のフリーランスのみなさんにメッセージをお願いします!

ある程度、長く続けることって大事だと思います。だから、1年間ぐらい収入がなくても食べていける貯金をしておきましょう。半年間、無収入の状態が続いたから、「もうフリーランスをやめるしかない」となってしまうのは悲しいですよね。今回の新型コロナウイルスの流行もそうですけど、世の中の経済に影響を与えるような出来事ってこれからもあると思うので、そんなときに備えておくことは大事だと思います。

だから、今の取り組みがうまくいかなくなったときのために、他にも収入に繋がるチャンネルを自分で増やしていくことも大切です。「それは仕事がなくなったら考えよう」では遅いと思うんです。僕は、何でもコツコツ長期的に積み重ねないと結果は出ないと考えるタイプなので。仕事が十分にあっても、今のうちにやっておくといざというときに大きな助けになってくれるんじゃないでしょうか。

長期的にコツコツという言い方をすると「めんどくさいな」と思われるかもしれないですけど(笑)、僕がフリーランスのみなさんに言いたいのは、「もしすぐにうまくいかなくても、簡単に諦めず気長に頑張りましょう!」ということです。

ありがとうございました。