プロインタビュアー・吉田豪が〝フリーランス40歳の壁〟を感じなかったワケ

脱サラしたばかりの小沢あやが、さまざまな業種のフリーランスに仕事術を聞く対談連載『フリーランスな私たち』。今回のゲストは、取材対象の人間的魅力を引き出すインタビューに定評がある、プロインタビュアーの吉田豪さんです。

年齢を重ねながら、ずっと仕事の幅を広げ続けている吉田さん。フリーランスとして、どんな戦略とポリシーで働いているのかをお聞きしました。

40代以降も仕事を獲得するには「気軽な感じ」を出すのが大切

小沢

長年ご活躍されている吉田豪さんとお話できてうれしいです。私、30代の今は毎日楽しく働いているんですが、『フリーランス、40歳の壁(※)』が正直怖くて。吉田さんは、これまでのキャリアで壁を感じたタイミングはあるんですか?

※竹熊健太郎『フリーランス、40歳の壁―自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』(ダイヤモンド社)

意外となかったですね。ボク、「サブカルの人は、40歳になると鬱々としやすい」という仮説で本を作ったり連載したりしてきたので、自分も心構えしていたんですよ。でも、結局壁や苦労をあまり感じることなく、もうすぐ50歳になります。

吉田さん

小沢

すごい。若い頃の実績・信頼貯金があってこそですよね。フリーランスが30代のうちにやっておくといいこと、実体験としてありますか?
早い段階で思ったのは、とにかくライバルよりも趣味に時間やお金をかけることですかね。たぶんボクが古本屋で本やCDをいちばん買っていたのが30代のときなんですけど、それ以前も地道に買ってはいたんですけどお金がなくて。40代になると時間がなくなっていくから、30代までにどれだけインプットできたかでその後の人生が決まると思っています。あとは、「偉くなると周囲も仕事を頼みづらくなるから、気軽な感じを保とう」ってことですね。それはリリー・フランキーさんや杉作J太郎さんが、それぞれ成功していく様子を昔から見ていて感じました。あと、ボクはあんまり仕事を断らないんですよ。

吉田さん

小沢

意外です。依頼はたくさんきますよね?スケジュール以外に、仕事を断る基準は何ですか?
「ちょっと嫌な感じがする」っていう直感。大体当たるんです(笑)。断りきれなくて受けた仕事がトラブルに発展するパターンが、これまで何度もあったので、野生の勘を信じるようにしてますね。

吉田さん

自由だからこそ、人が遊んでいるうちに働く勇気を  

小沢

フリーランスのメリットは自分のペースで働けることですが、ダラダラしちゃったり、働き過ぎちゃう場合もあります。吉田さんは、どうバランスをとっていますか?
ボク、自分は人の目がないと仕事ができないタイプだとずっと思っていて、会社を辞めるのが怖かったんですよ。フリーになったときも「家にずっといたら絶対仕事しないわ〜、どうしよう」と。だから最初は、それまで所属してた雑誌の編集部でそのまま仕事してたんです。けど、自宅作業になってもなんとかなったんですよね。

吉田さん

小沢

自分を律することができているんですね。
ボクがフリーになった時期、ちょうどmixiが流行ってて。ボクは新宿区在住だから、同業者が近所で酒を飲んでる様子がいっぱい流れてくるわけですよ。「でもボクは仕事をするぞ!」みたいな気持ちは強かったですね。ウサギとカメ的な(笑)。

吉田さん

小沢

すごいです。ストイック。私、お酒が好きでダラダラ飲んじゃうタイプなんで。フリーランスになってから、雑談に飢えてるんですよ……。今は外出自粛中だけど、去年まではガツガツ飲みに行ってました。
ものすごく行きたいと思ったら、近場で飲んでるところに一瞬合流したことは数回ありますね。ただ、合流してもすぐ切り上げて、帰ってから仕事します。ボク、見切りが早いんですよ。酒の席でも「ここから先は揉め事が増えるな……」と察知したら即帰る(笑)。

吉田さん

小沢

危機察知能力(笑)。生活習慣の他に、大切にしていることはありますか?
原稿は落とさない。遅れてしまうことは多々あるけど、毎回、進捗は具体的に共有しますね。ボクももともと編集者なので、そこはちゃんと相手に心配かけないようにします。「あいつは原稿を落とさないし、ややこしそうな相手の取材でもなんとかしてくれる」みたいな信頼感を得ることですよね。

吉田さん

収入をキープしながら楽しく働くコツは「一つにこだわらない」

小沢

フリーランスが気になるのが、収入の話。仕事って、基本的に「ギャラが高い仕事」「ギャラが安い仕事」「ギャラは安いけど、次の仕事の呼び水になって総合的に稼げる仕事」があると思うんですよ。吉田さんは、どういう風にバランスとってますか?
偏らないように、かなあ。ギャラが安くても意味があればやるし。ノーギャラでもやるし。全部が良い仕事って、まずないじゃないですか(笑)。「安いけどなあ……」と思って受けた仕事が後に活きてることも、死ぬほどあります。でも安い仕事ばっかりやってたら、それはそれでキツイけど。

吉田さん

小沢

どこかで線引きしないと、絶対息切れしますからね。自由な表現と好きなことを守りながら、満足できる収入をキープするために必要なスキルや努力って、なんだと思いますか?
まあ、ひとつにこだわらないことですよね。ボクも90年代は連載が20本以上あって、雑誌の原稿料だけである程度の年収をもらえていて。で、ある時期からラジオとかイベントの司会が増えてきて、今はネット配信も増えています。雑誌だけで稼ぐのはしんどい時代になったから、そこはうまく対応できたのかなと思っていますね。

吉田さん

小沢

お仕事の幅は広がっていますが、「人に話を聞く」っていう軸は一貫していますよね。
もしも文章だけに変なこだわりがあったら、今も相当厳しかったと思いますよ。昔リリーさんに言われた「なんでもやっといたほうがいい」って、本当なんだなと。

吉田さん

小沢

私も、なんとなくの軸はありますけど、「自分の強みってなんだろう?」と迷うことがあるんです。「もっと仕事のジャンルを絞って、専門領域を作ろう」って説に焦るので、とても励みになります。
逆に、とにかくいろんなところに首を突っ込みながら働くのが大事だと思いますよ。ひとつのジャンルだけやってると発言できないことも、いろんなところに足場があると気にせず言える。「何が何でもこのジャンルで飯食わなきゃいけない」っていう遠慮や不安がなくなるんですよ。

吉田さん

競合を避け、隙間に行こう

小沢

フリーランスは生存戦略やブランディングが大事だとかよく言いますけど、吉田さんはそのあたりどう考えて動いていますか?
ボクは本当に、隙間に行っただけですからね。ニーズがないほうへ、ニーズがないほうへ来てたらここにいた。最初に編集プロダクションに入ったときも、「好きなものは音楽と映画」っていう人だらけだったわけです。そこでボクが同じことを語ったって勝てるわけがない。勝てないことはどんどん切り捨てて、タレント・アイドル方向に行ったっていう。

吉田さん

小沢

なるほど、その思考は私も似ているかもしれないです。私も新卒で音楽業界に入ったんですけど、ロック好きな応募者ばかりだから、面接ではアイドルの話ばっかりしてました。転職を経てフリーランスになってからも、音楽・カルチャー系メディアじゃないところを主戦場にしたからこそ、仕事がうまくいくようになった手応えがあります。
「人が行かないところに行く」っていうね。アイドルという趣味も今でこそ世間に認められましたけど、昔はもっと敬遠されていて。ボクはその時代から仕事にしていたので。

吉田さん

小沢

吉田さんの肩書き「プロインタビュアー」も、独自でいいですよね。私、まだ迷いがあって。仕事の領域が結構バラバラなので、なんて言えばいいかな?って。基本的には、呼ばれた肩書きを受け入れてるんですけど。一度「アイドル評論家」と呼ばれたときは、流石に訂正をお願いしました。ベースがアイドルオタクだから、「評論」できないので……(笑)。
ボクも「プロレス評論家」って肩書きにされたときは嫌でしたね。評論したことないですよ、って伝えました。でも、肩書きなんて名乗ったもんがちですよ。ボクがプロインタビュアーって名乗り始めた時点で、果たしてプロインタビュアーだったのかって話ですけど(笑)。「俺のほうがプロインタビュアーとしては上だ!」みたいに怒ってくる人もいないしいいかな、くらいに思ってます(笑)。

吉田さん

読むだけで本人の「声が聞こえてくる」インタビューを

小沢

吉田さんが手がけたインタビューって、本当にラジオを聴いてるみたいに読めるんですよ。本人の声と、吉田さんの声が脳内再生余裕で。あれって、どれぐらい編集してるんですか?
かなり編集してますけど、話し方とかは加工しないです。嫌じゃないですか、まったく本人の声が聞こえてこないインタビュー。実際とは口調が明らかに違う、みたいな(笑)。

吉田さん

小沢

結構ありますよね。メディアのルールもありますけど、事務所の原稿チェックで「正しい日本語に整えすぎじゃない!?」って状態で戻ってくる、みたいな……。
関西芸人の方々のインタビューが、全部標準語に直される、とかね。(笑)。

吉田さん

小沢

「素敵なエピソードなのにカットされちゃった……」とかもあると思うんですよ。吉田さんはそんなとき、どう調整してました?
ボクは結構、粘って戦ってきましたよ。ただ、粘りすぎると仕事が来なくなっちゃうかもしれないので注意が必要ですけど(笑)。

吉田さん

危険なエピソードの調理方法

小沢

「これ、このまま出したらちょっとまずいんじゃない?」ってネタの線引きはどうしていますか? 吉田さんはかなり踏み込んで聞くし、原稿も豪快ですよね。
本人が損しちゃうエピソードは削るけど、聞いた内容の9割は書いちゃいます。でも、最終的には相手にとってプラスになるインタビュー記事に仕上げますよ。ボクが大切にしているのは「危険なところに踏み込むこと」じゃないんですよ。危険なところに踏み込んだ上で、平和に着地させることなんです。

吉田さん

小沢

変な空気になっても、うまく原稿では軌道修正しているなぁと毎回感動します。
ボクの配信番組などを観てもらえればわかりますけど、相手が危険なことを言ったときのフォローとか、かなりちゃんとしてるはずなんですよ。ギリギリのことをやりつつ、事故にはならないようにバランスを常に考えているから、その発言を引き出すことが相手にとってプラスになるかを考えていない人を見るとモヤモヤする。「真実を聞きました!」って言って、ただ聞いたことをそのまま全部出すのはよくないですよ。揉め事をよりエスカレートさせて、ダメージを与える行為。いろいろ踏み込んで聞き出しつつも、相手に「これを出せてよかった」と思ってもらえるようにしないと。

吉田さん

インタビューの下調べは「ツッコミどころ」を見つけること

小沢

吉田さんは、インタビューの下調べにすごく定評がありますよね。
でもボクは、下調べの方法はスタートからちょっとズレてたんです。プロレス雑誌の編集をやってたけど、当時は生観戦回数が10回ぐらいだった。なので、古本や資料を集めて読んでいました。ボク、そもそも未だにAKBだって生で観たことないですからね(笑)。

吉田さん

小沢

意外です。それでも大丈夫なもんなんですかね?
大丈夫なもんですよ。

吉田さん

小沢

まだメディア露出が少なくて、下調べが難しい方にインタビューすることもあるじゃないですか。そういうとき、どうしてますか?
なんでもいいんで、話を聞き出すきっかけを探します。他の人が気づかずにスルーしているような部分とかで、「え?ちょっと待て!?」ってポイントを探すんです。

吉田さん

小沢

例えば……?
例えば、以前に元乃木坂46の川後さんのインタビューするときにいろいろ調べていたら、川後さんが出していた〝好きな漫画リスト〟を見つけたんですよ。「ちょっと待て、風俗体験ルポ漫画が入ってるじゃねえか!何をさらっと入れてるんだよ!」ってなって(笑)。それは、深掘りしたくなりましたね。

吉田さん

年齢を重ねたからこそ、アイドル関連の仕事がやりやすくなった

小沢

吉田さんはずっと右肩上がりだと思うんですけど、年齢を重ねたことによって、仕事がやりやすくなったことってありますか?
ありますよ。多分ボク、20代ぐらいのビジュアルのままだったら、今の仕事はできてないと思いますからね。年齢を重ねて、ファンシーグッズ感(笑)?が出たことによって、アイドルとの仕事がしやすくなりました。ファンも「チャラついたやつが好きなアイドルの横にいると嫌」ってのが、絶対あるじゃないですか?

吉田さん

小沢

ありますあります。私も根っこはずっとアイドルファンなんで、ファンとしては正直、アイドルとの距離が近過ぎる関係者って、見ていてハラハラすること結構あるんですよ。
それはね、あります。わかりますよ。アイドルを「○○ちゃん」とか、呼び捨てにする男性関係者とか、嫌じゃないですか(笑)?

吉田さん

小沢

嫌です、超嫌ですよ(笑)。でも吉田さんは若いアイドルに対しても常に敬語だし、ファンとして見ていてまったく嫌な感じがしないんですよね。ご自身で、意識していることはありますか?
大森靖子さんが初めてモーニング娘。と仕事したとき、「アイドルと絡むことによって、自分が名前を売ろうとしてる感じが出たらダメ。アイドルに自分が手を差し伸べて、協力してる感じが出なければいけなくて、豪さんはそれができてるからうらやましい」って言ってもらったことがあって。要は、アイドルを利用して売名しているように見えても駄目だし、アイドルを利用して金儲けしてるように見えても駄目。他の仕事で結果を出している人が「お金にはならないけど、アイドルとの仕事もしますよ」って感じになることが大事だなって。ボクも、アイドルとの仕事で稼ごうとはまったく思ってないんです。そういう意味でも、結局、手広くやっていくのがいいんですよね。

吉田さん

#編集後記

実際に対談してみて「この人になら話したい」と思わせる、プロインタビュアー・吉田豪さんのすごさを体感しました。多くのアイドルからお悩み相談が届くのも納得です。保健室の先生のように、穏やかに相手を肯定する姿勢だからこそ、いくつになってもお仕事が尽きないんですね。

取材・文/小沢あや(@hibicoto)撮影/高浦宏幸