FREENANCE MAG

フリーランスを応援するメディア「フリーナンスマグ」

ソフトウェアエンジニア池澤あやか、フリーランスを“退職”。理想のワークライフバランスとは?

ソフトウェアエンジニア池澤あやか、フリーランスを“退職”。理想のワークライフバランスとは?

自分の仕事を可視化する

そうして生まれて初めて会社員になってみて、何かカルチャーショックってありました?

今まで関わってきた企業ってベンチャーが多かったので、上下関係がフラットだったんです。お互いズバズバ意見を言っても大丈夫!みたいなカルチャーだったので、上司がいて部下がいて……というレイヤーがあることが新鮮でしたね。それでも私の会社はフラットな方ですし、キャリアのある先輩や上司にいろいろ話を聞けるのはメリットなんですけど、自分が今何をしていて、どれくらいのリソースをどんな仕事に割いているのか。それを定期的に報告しないと、仕事をしていないという評価になるので、そのへんは意識するようになりました。

確かにフリーランスだったら、仕事の進捗や状況を誰かに報告する必要って一切ないですもんね。

そうそう。自分のやっている仕事をわかりやすく説明するスキルって求められてこなかったので、自分の仕事を可視化するように今は努力しています。今後のキャリアを考えると、そうやって「会社という組織の中でやっていく」ことのできる社会性を証明できたのは、会社員になって良かったことですね。

いや、芸能活動されてる方って、むしろ社会性が高いじゃないですか! 人前に出る方って不特定多数を相手にしているから、むしろ社会性がなかったらやっていけない。

芸能活動をしている人間と関わる機会の多い方は、それをわかってくださるんですけど、エンタメと遠い業界にいる方には「タレントしていてずっとフリーランス」な人間って、社会性が乏しい印象を与えることもあるんですよ。例えば40代、50代になってIT企業に再就職する可能性を考えると、タレントもやっていたフリーランスっていうよくわからないキャリアは、そんなに受けが良くないかなって。

なるほど。だったら転職しやすい今のうちに、会社でやっていける証明をしておこうということですね。

そうです、そうです。スタンプラリーを1個クリアする感じ(笑)。あとは、管理職やマネジメントをやっている女性もすごく多い企業なので、そっちの選択肢を考えられるようになったのもメリットですね。そもそも適性があるかもわからないですし、まだ今は現場をやりたい気持ちが強いですけど。

エンジニアの「資金繰り」を支えるお金と保険のサービス「FREENANCE(フリーナンス) byGMO」

エンジニアの「資金繰り」を支えるお金と保険のサービス
FREENANCE(フリーナンス) byGMO

フリーランスだけが持つ、自由の貴重さ

選択肢が増えるのは、純粋に良いことですもんね。他に、会社員になって感じるメリットは?

休むことに罪悪感を覚えなくなったことですね。私、フリーランスのときは土日もそわそわしていて、ゴールデンウィークとかお盆とかの休みになると、逆に「誰からも邪魔されず仕事ができる!」ってなるような働き方をしていたんですよ。もう社畜ならぬ、仕事畜みたいな(笑)。それが、ようやく土日に休むことにも慣れたんです。

先ほどおっしゃっていたワークライフバランスを、健全化させることができたと。

はい。やっぱり土日はキッチリ休んで、平日も9時-5時程度の仕事量が理想だと思うんです。仕事が楽しくて時間を費やすのもいいけれど、やっぱり家族との時間も必要じゃないですか。仕事一辺倒だと、そこがおざなりになってしまうのが嫌なんですよね。仕事にバランスが偏っていたら、パートナーとも「何のために一緒に住んでるんだろう?」ってことになりますし。その時々の家庭の状況に応じてバランスを変えながら、仕事と家族の時間のメリハリをつけることって大切だと思うんです。

それも会社員になった理由の一つなのでは? オンとオフの区別がつけづらいフリーランスは、自分で仕事の量をコントロールする強い意志がないと、ワークライフバランスを保つのは難しいですから。

そうなんです。フリーランスって柔軟に休みは取れるけど、休んでいる間は無給になるので、つい、こなしきれない量の仕事を受けがちになってしまう。休みながら「今、お金を稼いでない!」って焦ってしまうのも精神的に良くないし、納品してから入金までが長くてキャッシュフロー死することもあるし(笑)。そういうことが辛いって感じる人は、一度会社員になってみるのも良いんじゃないかと思います。特に、フリーランスでも一つの企業に常駐している人なんて、そのまま就職しても環境がそれほど変わらないですからね。

逆に、会社員にならず、フリーランスのままでいるほうが良いタイプの方もいますよね。

やっぱり会社勤めには最低限の社会性が必要ですし、自由だから輝いている人もいるじゃないですか。私の友人でも、働く時期と休む時期を完全に分けている人がいるんですよね。2ヶ月働いて2ヶ月休むとか、夏の間は海外のダイビングショップで働いて冬になったら日本に戻るとか。そういった働き方は会社員では絶対できないので、自分の確固たるワークライフバランスがある人は向いてないかもしれないです。きっと本人も辛いでしょうし。

ちなみに、現在は普通に9時5時で出社されているんですか?

いえ、メインはリモートですね。もちろん出社することも出張することもありますけど。

となると、実際の業務体制はフリーランス時代とそれほど変わらない思うのですが、そこでの仕事しやすい環境作りのポイントって何でしょう?

やっぱり、1日1回は外に出ることじゃないですか。ずっと家にいると、たぶん服も着替えないですよね。じゃあ、例えばジムに行ってから仕事をするとか、生活にメリハリをつけると良いんじゃないかと思います。それも会社員になってやりやすくなったんですよ。定期的にミーティングが入るので朝、起きざるを得ないですし、タイムスケジュールは組みやすくなりました。ただ、社内の人ってカレンダーで予定が空いていると、その隙にミーティングを入れてくるんですよ。「時間欲しいからインバイト送っといた!」って言われて、え、その時間やろうと思ってたことあったのに……!みたいになるのは、フリーランスとの大きな違いですね。

フリーランスだと必ず「この日程で大丈夫ですか?」というお伺いが事前にありますもんね。じゃあ、将来はフリーランスに戻る選択肢も?

……かもしれないですね。ただ、それこそ1、2年でやめたら、会社員適性がなかったということになってしまうので、しばらくは会社員を続けたいです。親からも「3年くらいは同じ企業にいなさい」って言われてきましたし、今、勤めている企業でもジョブホッパーの方もいましたけど、個人的には在籍1年だと会社に慣れるだけで終わるような気がしていて。なので、ちゃんと働くなら最低でも2、3年はいないとダメなんじゃないかなって。もちろん、環境が劣悪だったら速攻で辞めるべきですけど、ある程度自分の希望とマッチしているのであれば、続けたほうがいいんじゃないかと思うんです。

おっしゃる通りですね。フリーランスと会社員、両方の働き方やメリット/デメリットを十分に知ることで、将来の選択肢が広がり、より自分にあった生き方を選択できるでしょうから。

そうですね。フリーランスから会社員になるって珍しい、って言われることが多いんですけど、30代って家庭との両立も重要になってくる時期なので、意外と会社員の働き方が向いているように感じるところもあるんですよ。なので、ずっとフリーランスでやってきた人は、就職を検討してみてもいいんじゃないでしょうか。

逆に、フリーランスは本当に「自由」な世界で、無限にダメになることも、無限に仕事漬けになることもできますよね。私は会社員になったことで、休むことに対する罪悪感から解放されると同時に、フリーランスだけが持っている自由の貴重さも理解できたんです。なので、次にフリーランスになるときがあれば、その「自由」を思う存分楽しめるように、今のうちにレベルアップしておきたいですね。


撮影/中野賢太@_kentanakano