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らしくないから、決まってるから「ダメ!」の呪いを解く方法とは? はらだ有彩『ダメじゃないんじゃないんじゃない』インタビュー

FREENANCE らしくないから、決まってるから「ダメ!」の呪いを解く方法とは? はらだ有彩『ダメじゃないんじゃないんじゃない』インタビュー

自分のやりたいように生きるのが、幸せへの近道

迎合になってしまうからと、自分が自分のためにしたいことを我慢するのも本末転倒で。『フェミニスト(というか人類)が脱毛するのは、あるいは脱毛しないのはダメじゃないんじゃない』の章を読んだときも、いや、脱毛なんて本来、好きにやればいいことのはずじゃない!?と心底ビックリしました。それも「フェミニストはこうあるべし」という悪しき外圧があるんだなって。

そもそも大前提として、フェミニズムの近現代史には「女に体毛があることの何が悪いんだ?」という主張がありました(今もあります!)。その前提を可視化しないと、「なんで急に脱毛はダメ」って話になるの?と時系列がこんがらがって戸惑ってしまいますよね。「女に体毛があることをダメじゃなくしよう」という声を上げているときに起きる、「では、女が体毛をなくすことは、この前進の足を引っ張ってしまうんだろうか?」という逆説的な葛藤をこの章で書きました。

ここでも「女に体毛があるのはダメじゃない」vs「女に体毛がないのも別にダメじゃない」の対立になると、やっぱり「いや、女に体毛があるのはダメだろ(笑)」と一番最初に圧をかけた存在が透明になってしまう。フェミニストが勝手に「ダメだ」と思い込んでいるだけ、ってことになってしまう。

「いや、ダメだろ」という外圧って気づかないくらい自然に日常に滲みこんでますよね。例えば私、以前交際していた男性に「背が低くてごめん」と言われてビックリしたことがあるんです。その人自身は、「男は背が高くないとダメ」っていう外圧に晒されてそう自然と思ってしまったらしいということが話してみて分かりました。「男は背が高くないとダメ」、ついでに「女は背が高いとダメ」と考えたことがなかった私は最初どういう意味かわからなかったんです。でも、その人が勝手に思い込んでいるからその人の責任、ではないですよね。外圧によってそう思わされている。

やっぱり外圧が生んだ根拠の無い“ダメ”に惑わされず、自分のやりたいように生きるのが、幸せへの一番の近道ですね。今は“ダメ”でも10年後、20年後にはそうでなくなっている可能性も高いんですから、諦めるのはもったいない。

そこまで辿りつくのはしんどいし、いや今なんで「そうでない」世界じゃないねん!と思いながらですけどね。“ダメ”に惑わされないためには、まず、その“ダメ”を直視しないといけないから、「いやまだこんなことも“ダメ”なのかよ……」とがっくりくることもある。でも、急に楽観的に聞こえるかもしれないですが、最終的にはあらゆる“ダメ”って無くなっていくと思うんですよ。世の中に蔓延する大半の“ダメ”に実は何の根拠も無く、それが多くの人の行動を制限して悲しい想いをさせてきたんだってことに社会が気づいてしまった以上、気づく前には二度と戻れないんですよね。誰がどうあがこうが、目覚めは不可逆だから。

しんどいからこそ、「“ダメ”じゃなくなった」世界に一秒でも早く辿り着けるように、知らない間に決まっているレギュレーションを破壊して回りたい。爆破して地面をならして、柵を壊して平原にすることが私の目標なんです。

そこでユーモアを交えて「ダメじゃないんじゃない?」とユルく攻めて、疲れて怒れない人をクスッと笑わせ、一方で耳を塞ぎがちな人の扉もこじ開けるのが、はらださん流のテクニックですね。

ただ、笑いを交えることのリスクについて、最近もう一つ怖いなと思ったことがあって。去年の終わり頃、男性アイドルグループ「嵐」の桜井くんと相葉くんが結婚されたときに「嵐の桜井・相葉結婚」っていう見出しでニュースが出たじゃないですか。そのときに「うわ、二人が結婚したのかと思ってビックリした!」っていう反射的な反応とともに、その勘違いがちょっと「面白い」みたいな雰囲気がばーっと広がったことがあったと記憶してるんですが、そういう「反射的な」面白さっぽいものって、無意識なだけにすごく危ないなと思って。冷静になれば桜井くんと相葉くんという男性どうしが結婚する可能性が、制度としては存在しないっていう事実は、全然笑えるものではないのに、「え~! 紛らわしい!笑」という反応が先に出てしまう。ときには、そういうバズを狙った言葉選びさえしてしまうかもしれない。だから楽しいときほど、慎重になるべきだなと。

おそらく今の時点では「考えすぎだよ」という捉え方の人もいるかもしれないけれど、それこそ10年後には「あんな発言で笑うなんて、当時は社会が成熟していなかった」って言われる可能性もありますよね。

そうですね。そんな風に変わっていく過程を「息苦しい世の中になった」「考えすぎ」と批判する人もいると思います。でもそう言う人は、今まで自分が押しつけていたルールが跳ね返されて、人を傷つけながら自由に笑えなくなったから息苦しいように感じているだけだと思うんです。逆にルールを押しつけられていた人は息苦しいどころか、息そのものができなかったんですから。

わかります。ダメが蔓延する時代を謳歌していた人が味わっていた自由な空気は、窒息していた人の痛みの上に成り立っていたものですよね。

そうなんですよ。だったら、みんなで「息苦しい」ほうが、まだマシなんです。少なくとも全員が呼吸はできているんですから。

ダブルワーク≒「見える範囲」が二倍に広がる

つまり、一人でも多くの人たちの息を吹き返らせる活動や発信が、はらださんの本懐なわけで、では、その一方で会社員も続けていらっしゃるのはなぜなんでしょう?

単純に楽しいからっていうのもあるんですけど、会社員としては今、ファッションの資材に関わる仕事をしてるんですね。つまり新しい女性像を提案しようとする方々に、間接的に関われているわけで、フリーランスとして女性に関わることを書く身としては、眼を開かされるばかりなんです。仕事内容としては直接関係するわけじゃなくても、世の中に提案される女性像が変化していく様子を見ると「うおお! やるぞ!」となります。

それに組織の一員として働いていると、物を書く仕事で社会に触れるときの角度とは、また別の角度で社会に接することができて、思わぬ情報を浴びることもできるんですよね。やっぱり自分一人で机に向かっていて思いつくことには限りがあるし、どうしても偏っちゃうじゃないですか。その点ダブルワークをすることで、必然的に目に見える範囲が二倍に広がるから、働いているだけで丸儲けっていう状態なんです(笑)。

なるほど。テキスト、テキスタイル、イラストを作る“テキストレーター”という肩書きも、そのお話を聞くと納得です。

そのうちのテキスタイルに関しては、今、ちょっと新しいものを創ることをサボってるんですけど(笑)、これまでにはスカーフなどを作っていました(※)。どうしてもサイズの無いものを作りたくて。身に纏うことって自由である一方、サイズだとかTPOだとかっていう制限もかかってくるから、着る人やシチュエーションを極力限定せず、しかも身に纏うことで考える方向を外に持ち出せるようなことをやれたらいいなぁって。そこにテキストとイラストも加えて、目と頭と身体というところに総合的に関わりたかったんです。

※「mon.you.moyo」https://minne.com/@monyoumoyo

はらだ有彩『ダメじゃないんじゃないんじゃない』
『ダメじゃないんじゃないんじゃない』
表紙/裏表紙(カバー下)

ちなみに、会社員とフリーランスという二つの形態で仕事していて、一番難しいなと感じることって何でしょう?

良くも悪くも無茶な予定は立てられない。しんどい予定にすると両方に迷惑がかかるから、自分が確実にできる予定しか立てなくなり逆に整いやすいですね。会社の仕事もフリーランスのほうも、「絶対にちゃんと回るようにしなきゃ」っていう良い緊張感がある。ただ、フリーランス仕事の打ち合わせを会社の就業時間外にしていただかざるを得ないので、そこは多大なご迷惑をかけているところですね……。「『手間のかかるやつだけど、それでも声をかけてやろう』と思ってもらえるようにせねば」っていう危機感を持てることは、良いのかもしれないです。

そもそもレギュレーションを破壊して回るっていう活動は、そうせずにはいられなかったから勝手に始めたものなんですよ。だから、もし誰からも依頼されなかったとしても、特に女性にまつわるレギュレーションを破壊して回るために絵を描いたり、文章を書くってことは、ずっと続けていたと思います。これは「お金をもらわなくても書きます!」という意味ではなくて、どうせ人生の時間の大半をこのことに使っていただろうなって意味です。どうせ人生のためにやり続けずにいられなかっただろうライフワークが、どうせ生活のためにやり続けることになっただろう仕事と偶然ドッキングして、結果的にはメッチャ効率いい!っていう感じですね(笑)。

じゃあ、今はベストの状態ですね。

はい。でもベストじゃない状態にも、「ネタ」は潜んでいます。以前は女性像を提案することとは全く関係の無い広告関連の会社にいたんですが、そこには女性の扱われ方について疑問を持つ人が誰もいなくて、普通に生活しているだけで腹立つことがたくさんあったんですよ。そういうイラつきを体験することって基本的に起きるべきじゃないんですが、今振り返ると当時の“イラつき貯金”が、今はイラつきの無い世の中に向かうためのエネルギーになっていたりするんです。

長く続けていられれば、“イラつき貯金”のような、起きない方がよかったことを食いちぎって自分の活動に変換することもできるから、特に守ってくれる人や組織の無いフリーランスの人には「お互いに長く、健康に続けましょう」っていうメッセージを伝えたいですね。長く続ければ続けるほど未来に近づくから、とにかく生き延びて、“ダメ”の無い未来で会いましょう!