約5年半ウェザーニューズで気象キャスターを務め、フリーランスを経て、現在はirodori合同会社に所属し活動されている檜山沙耶さん。もともとは声優を目指していたほどのアニメ・マンガ好きというキャラクターを活かし、今年10月には初の冠ラジオ番組『檜山沙耶のアニウラ~アニメの裏側を覗く~』(文化放送)や、MCを務める情報番組『こんびず!~コンテンツ×ビジネス情報局~』(BS日テレ)が放送開始するなど、活躍の幅を広げられています。
自分の“好き”を仕事に活かすという、理想的な活動を展開されている檜山さんが、気象キャスターを通じて得た懐の広さと、その理由について迫ります。
1993年10月27日生まれ。茨城県水戸市出身。大学卒業後に会計事務所を経て2018年に株式会社ウェザーニューズへ入社し、同年「ウェザーニュースLiVE」でキャスターとしてデビュー。2022年には「いばらき大使」に就任。2024年3月末をもってウェザーニューズを退社、フリーランスを経て、現在はirodori合同会社に所属し活動中。
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自立してこそ、誰かを守ったり救ったりできる
今年3月に株式会社ウェザーニューズを退社されて、何か変わったことってありましたか?
誰かに悩みを打ち明けにくくはなりました。以前は同期だとか先輩だとか、同じ環境下に置かれている人間が周りにいたので、同じ悩みを同じタイミングで共有することも多かったですし、相談もしやすかったんです。でも、今は基本1人で考えて、それでもダメなら周囲の方に助けを求める……というふうに変わってきました。
ウェザーニューズにいたときは会社員だったので、何かとチームで動くことが多かったんですけど、今は1人で動いているという感覚が強いですね。
会社員時代と比べると、そもそも他人と話す機会も減りますよね。
そこは私、趣味が多いタイプなので大丈夫なんです(笑)。むしろ1人になって趣味に使える時間が増えたぶん、友達と話す機会は以前より増えたかもしれない。
カードゲームのイベントで知り合った子とか、前職の関係で知り合った女流棋士の方とか、友達の友達……みたいな感じで、むしろ人間関係の輪は広がっていってますね。例えば、この前6人で謎解きに行ったんですけど、半分は私の友達で、その他は友達の友達でした(笑)。
今、趣味に使える時間が増えたとおっしゃいましたが、具体的に何をされているんでしょう?
会社員時代はまとまった時間が取れなかったので、そのぶん今は、ひたすら長編モノのアニメを観ています。例えば『ジョジョの奇妙な冒険』とか、それこそウェザーニューズ時代から同期の子や先輩にもオススメされていて、ずっと気になっていたんですね。退社してから観始めたら、新しい部が始まるごとに“好き”が更新されていくんですよ! 部が新しくなるとキャラクターも変わっていくので、飽きがなく見られるのも魅力ですし、もちろん前の部からの繋がりもあったりして、より面白味が増えていくように感じるんです。
部が変わっても“スタンド”を使って戦うという基本線は同じですしね。お気に入りのキャラとかいらっしゃるんですか?
3部に出てくるスタンド犬のイギ―は結構好きでした。あの子も本来はおとなしくて平和に暮らしたいだけだったのに、責任感が生まれて最終回のあたりになったら顔つきも変わって、いや、良いキャラクターだな!って(笑)。
フィクションの中のキャラクターって、自分にはできない経験をしてくれるじゃないですか。その姿を見ることで自分の糧にしていくところがあるから、私は割と女性が主人公の作品を好きになることが多いんですよ。
いわゆる2次元オタクって、異性のキャラが出てくる作品を好きになりやすい傾向があるのに、ちょっと珍しいかもしれません。
うん、よく言われます。もちろん『ヴァンパイア騎士』とか、たくさん男性が出てくる作品も観てましたし、一時期は『呪術廻戦』にドハマりして、夕方の出勤前に早起きして劇場版を5回ぐらい観に行ったりもしました(笑)。ただ、基本的に仕事を頑張っている女の子が、すごく好きなんですよ。それを見て、たぶん「自分も頑張ろう!」って奮い立たせることができるんですよね。
『アナと雪の女王』でも、アナよりエルサの方が自立したかっこいい女性だからって小さい子にはエルサの方が人気みたいですし。やっぱり何か夢中になれるものがあると、人って輝くじゃないですか。
昭和の時代は何もできない女の子に王子様的なヒーローが現れて、とにかく愛して幸せにしてくれる……みたいな作品も多かったですけど、今は自分の力で道を切り開いていく女子のほうが望まれる傾向は確かにありますね。じゃあ、いわゆる“いつか王子様が”的なものには惹かれない?
正直、守られたい願望がゼロではないです。でも、それって本当に自分のためになるんだろうか?っていう疑問があるんですよね。その方が最後まで自分を守ってくれる保証もないですし、自分の身を自分で守るというのは、もう男女関係なく身につけておいた方がいいスキルなんじゃないかなと。
もともと1人っ子というのもあって、無意識に「自分でなんとかしなくちゃ」って思っているところがあるんですよね。人生どこで何があるかわからないので、たとえ1人になったとしても、ちゃんと自立できる生活スタイルでありたい。それに、自立できていた方が誰かを守ったり、救うことができるじゃないですか。
夢に向かって進んだことで訪れた転機
確かに。その考えをうかがうと、大学で経済学部という堅実で安定した方面に進まれたのも納得です。
だから、最初は会計事務所に就職したんですよ。だけど生活のために働きながら、ずっと「私が本当にしたいことって何だろう?」っていう気持ちもあったんです。同じようにオフィスで働きながら、声優さんだとか自分の夢に向かっている方がすごく輝いて見えて、それで声優養成所に通い始めて。そこにはOLさんやアルバイトをしながら声優になった方もいらっしゃったので、生活の基盤を作りながら夢に向かってもいいんじゃないかと考えるようになったんです。
ところが、そこで出会った声優の田中真弓さんに「キャスターの方が向いている」と勧められたんですよね。
そうなんです。キャスター向きの声質をしているから、その方が大成しますよとアドバイスをいただいて。実際問題そんなに演技は得意ではなく、むしろ苦手だなという意識もあったので、だったら同じ“声のお仕事”というカテゴリーの中で自分が活躍できる方に一度行ってみよう。それで楽しかったら続けようと方向転換したら、ご縁があってウェザーニューズでキャスターになれたという流れです。しかも、すごくいい会社だったので、最終的に約5年半勤めることになりました。
もともと天気だったり、気象キャスターに興味があったんですか?
個人的な経験ですが……東日本大震災のとき、暗くて電球もつかないなかで必死に呼びかけてくれているアナウンサーの方の声に、すごく救われたんです。まだまだ震災の被害が残るなかでも、アナウンサーの方がお仕事している姿にも惹かれたので、ウェザーニューズの入社試験を受けて。ご縁があって、合格させていただきました。
通常のニュースの中の天気予報って、普通3分とか5分とかじゃないですか。対して「ウェザーニュース」では3時間ずっと同じキャスターが担当しなければいけないので、よりキャスター側の引き出しが求められますよね。
そうですね。なので、仕事以外の日常生活も大事にするようになりました。例えば、秋になったらマツタケを食べたり、梨を食べたり、秋の味覚について触れる機会を積極的に作ったりしていましたね。
今日だったら、もう、だいぶ空が暗くなるのが早くなってきちゃいましたけど、空を観察して「ああ、空が高くて、もう秋の空だなと」とか。やっぱり秋になると、夏とは雲の種類も変わってくるんですよ。巻雲っていう刷毛で書いたような雲が出て、夏の雲よりも高い位置に出るから、空も高くなるんです。
そういったちょっとした変化が、より1日を楽しく過ごすきっかけになったらいいなと思って、前職では番組でお話ししていましたし、私自身、おかげで日々を、より豊かに過ごすことができるようになりました。
季節に合わせて、その時々の変化や物事を毎日しっかりと味わっていた。その当時の経験って、かなり今の人生にも活きているんじゃありません?
いや、本当に目線が変わりました! 何か辛いことがあっても空を見上げたり、自然豊かな場所に行くと、価値観が違っていても1人ひとり同じ時間、同じ地球で生きているんだなって、俯瞰して全体を見ることができるようになったんです。なんというか……前より大人になれたんですかね? なので、感謝しかありません。
観ている人を幸せにしたい
以前に公開されていたインタビュー動画でも、とにかく「周りの人を傷つけない、笑顔にしたい」とおっしゃられていて、なぜ、そんな聖人のような発想に到ったんだろう?と不思議だったのですが、そういった俯瞰視のおかげなのかもしれませんね。
観ている人を傷つけたくはないんですよ。自分が発信できる3時間の放送時間は、自分の為のものではなく、観ている“誰か”に対して何かをできる時間だと思っていたので、やっぱり観ている人を幸せにしたい。その想いは辞めた今もずっと残っています。
例えば今、キャスターだったりMC業をされているときは、カメラの向こうや目の前にいる人たちに対して、同じように考えているということですよね。
そうですね。あとは、関わってくださっているクライアントのみなさんとか。この前もSEGAさんのゲームショーでMCをさせていただいたんですけど、ゲームには小さい頃から楽しませてもらってきたので、業界に対して恩返しをしたいという気持ちも強いんですね。自分の好きなことでお仕事させていただく機会も増えてきたぶん、その気持ちが原動力になっているところもあるんです。
私は本当にアニメとかゲームを通じて毎日を楽しく過ごしてきて、前職でも散々そういった話をしていたら、私のフォロワーの中にプロゲーマーになった方がいらっしゃるんですよ! 「さやっちに“自分の好きなことを仕事にした方がいい”ってアドバイスをもらって、高校生だった僕は頑張って大学に進学してプロゲーマーになれました。ありがとうございました」ってコメント頂いて、自分の発信したことが若い世代に繋がったことが、すごく嬉しかったんですね。なので、今後も誰かの1日がより豊かになれるようなことを発信し続けたいなとは思っています。
それだけヴィジョンがしっかりしていると、では、今のところ独立したことによる懸案事項も特になく……?
あ、社会保険料が2倍になりました! 会社をやめたばかりの今年が一番高いんでしょうけど、これにはちょっとビックリしましたね。
月給制ではなくなったぶん、ちゃんと見通しを立ててやりくりしていかないといけないのと、あと、唯一注意しているのが“頑張りすぎない”こと。よく家族や友達にも言われるんですけど、結構頑張りすぎちゃうタイプなので、潰れてしまうことがたまにあるんですね。
でも、もう30代にもなるので、もっと他人に甘えることを覚えてもいいんじゃないかなと。せっかく自分で自由に時間を使うことのできる個人事業主になったんだから、上手くバランスを取って“いい湯加減”で、頑張っていきたいです。
ライフスタイルの変化に合わせて柔軟に
最初におっしゃっていた“自分で何とかしなくちゃ”精神が、頑張らせすぎちゃうんでしょうね。とはいえ、自分のキャパシティ以上に頑張るとパンクして、逆に周りに迷惑をかけかねないですし。
だから、キャパオーバーにならないぐらいの頑張りというのが正しいかもしれません。ただ、前職のときに“これだけ寝不足が続くと自分はダメになる”というラインも把握できているので、そのへんは自分で計算しながらやっていますね。もう、どうしてもダメな日はベッドでゴロゴロする(笑)! 睡眠時間も、今は1日に7時間は取るようにしています。
では、キャパオーバーと判断したら、お仕事を断ることもありますか?
今の段階では、基本スケジュールが被らない限りは「お願いします」とお伝えすることが多いです。ただ、今後ライフスタイルが変わって、例えば今、仕事が生活の7割、8割を占めているのが5割になることもあり得るでしょうし、そこは柔軟に対応していきたいですね。それでも新しいこと、今後の人生で糧になりそうなことには、迷わず挑戦していきたいです。
新しいことって、具体的に言うと?
願わくば、CMのナレーションとかやってみたいですね。以前、NEWSさんのアルバムでナレーションをさせていただいたことがあったんですよ。そういったCDや企業さん、CMとかのナレーションを、いつかやってみたいなと。
当初目指していた声優に挑戦してみたいお気持ちは?
声優さんは、もうリスペクトの気持ちが強すぎて! お仕事で関われば関わるほど「声優さんってすごいんだなぁ」という想いが強まっていくので、どちらかというと声優さんを支える……それこそMCとかの仕事を、これからも続けていきたいです。アニメの中に出てくるキャスターだったりアナウンサー役なら、機会があればやってみたい気持ちはありますけど。
それこそ気象の知識を活かして、マンガやアニメ内の気象監修のお仕事もできるのでは? 檜山さんの場合、アニメを観ていて「設定と違う時期の雲が浮かんでる!」なんて気づくこともありそうですし。
「夏場なのに冬のような雲が出てるな」って思うことはありますね。実際、監修の仕事をやっている気象予報士の方、近くにいたりするんですよ。「楽しいよ」っておっしゃっていたので、もっと知識が身についたら私もやってみたいです。
それこそ『ジョジョ』に出てくる漫画家キャラの岸辺露伴も「リアルな情景の方が良い」って言ってましたし、前にお仕事させていただいた『薄桜鬼』というアニメも、画面に出てくる月がちゃんとその時代の月になっているんですよ! 江戸時代のその年、その日にしか見られない角度で描かれているらしくて、『薄桜鬼』チーム素晴らしい!って思いましたね。
フィクションだからこそリアリティは重要ですよね。そういった新しい挑戦の先に、では、人として目指したいヴィジョンは何でしょう?
さっきも言ったように、誰かの1日がより豊かになるようなことを発信し続けたいとは思っています。それは出役に限らない話なので、将来、誰かを育成することもあるかもしれないですし。間接的でも、誰かを支えるお手伝いができるようになればいいなって。
6月にはYouTubeチャンネルも開設して、自分で発信する機会も増えたので、いろんな企画を考えていきたいです。好きなアニメ作品の同時視聴とかもしたいですし、最近は海外に行く機会も増えているので、そこで撮影したVlogとかも投稿しているんですよ。時間が自由になったぶん、海外にも行きやすくなったんですよね。
それこそ好きなアニメの聖地巡礼とかも良さそうですよね。
実際、この前は『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿』の聖地巡りで、イギリスのハロッズに行ってきました(笑)。あとは『ご注文はうさぎですか?』の聖地があるフランスのコルマールにも行ってみたいですね。『ジョジョ』の聖地であるローマは前に行ったことあるんですけど、そのときは『ジョジョ』観てなかったんで、観てから行けばよかった!
そんなアニメ好きの檜山さんにとって、10月から文化放送で初の冠ラジオ番組『檜山沙耶のアニウラ~アニメの裏側を覗く~』を持たれるというのは、かなり嬉しいことだったのでは?
すごく嬉しかったです。番組名を掛け声できるんだ! フツオタを募れるんだ!って(笑)。“アニメの裏側を覗く”というコンセプトで、監督の方だったり作品に携わっている方を毎回ゲストにお招きし、お話をお聞きするといったスタイルの番組なんですよ。放送時間が深夜1時なので、アニメ好きな方にはぜひ一緒に楽しんでから、眠りについていただきたいですね。初めての経験なんですけど、楽しく頑張りますので、よろしくお願いします!
撮影/中野賢太(@_kentanakano)