自営業・フリーランス等の方々にとって、仕事と育児の両立は大きな課題です。企業等に勤務する方とくらべて公的支援制度が十分ではなく、順次、支援制度が拡大されつつある状況です。そして、2026年10月からは、国民年金第1号被保険者の育児期間における保険料免除制度が始まります。
本記事では、この新制度の詳細と、自営業・フリーランス等(一人親方や個人事業主等含む)が利用できる公的育児支援制度について、企業などに務める方との違いを含め、最新情報をわかりやすく解説します。
Contents
国民年金第1号被保険者の育児期間保険料免除制度について
制度の概要と目的
2026年10月より、自営業・フリーランス等の国民年金第1号被保険者は、子どもが1歳になるまで国民年金保険料が免除されます。免除措置期間の各月は「保険料納付済期間」に算入され、将来の年金が減ることはありません。
もともと「産前産後期間」の免除制度がありましたが、育児期間まで延長されることとなりました。同様の措置は、企業などに務める方(第2号被保険者)には実施済みであり、今回は働き方を問わず、育児支援の充実を図るものです。
これは「こども未来戦略(令和5年12月22日閣議決定)」の「加速化プラン」に盛り込まれた施策の一環です。ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化、すべての子ども・子育て世帯を対象とする支援の拡充、共働き・共育ての推進に資する施策のひとつです。
対象者の要件
子どもを養育する国民年金第1号被保険者であれば、父母(養父母を含む)とも対象です。厚生年金保険(企業などに務める方向けの保険)における育児休業等期間の保険料免除制度では、夫婦共働きで、ともに育児休業を取得した場合、夫婦ともに免除されるため、これとバランスをとったものと想定されます 。
また、この適用については、他の保険料免除のような所得水準等の要件はなく、実際に休業していたかどうかも問われません。
フリーランス等の育児期間における就業の有無や、所得の状況はさまざまです。多様な実態を踏まえ、第1号被保険者全体に対する育児期間中の経済的な給付支援になっています。
免除される期間
原則として、子どもを養育することになった日から子どもが1歳になるまでです。ただし、実母であれば「産前産後免除」もあります。これが適用されている場合は「産後免除期間に続く9ヵ月」にとされています。
具体的な免除額
国民年金保険料の金額は、被保険者1人につき1ヵ月あたり16,980円です(令和6年度)。父母両方が免除されれば33,960円となります。
将来の年金受給額への影響なし
育児期間免除対象期間の基礎年金額は満額保障されます。将来の年金額は減りません。
申請手続きの方法は未定
制度の適用は2026年10月からです。申請方法等の詳細はまだ発表されていません。なお、実母の産前産後の保険料免除の手続きは次の通りです。
- 市区町村役場の国民年金担当窓口に必要書類を届出
必要書類:国民健康保険料軽減届出書(産前・産後)、届出人の本人確認書類、妊娠・出産の事実、親子関係が確認できる書類
※参照:国民金第1号被保険者の育児期間における保険料免除措置について
自営業・フリーランス等向け育児支援制度の全体像(最新版)
ここでは、自営業・フリーランス等向けの育児支援制度を「産前産後期間」と「育児期間」に分け、企業などに務める方とも比較して見ていきましょう。
現在の支援制度の全体像(一覧表/一部省略)
企業に勤める人のみ利用できる育児支援制度
参考として、フリーランスではなく「企業に勤める方」などのみ利用できる育児支援制度を挙げます。
企業などに務める方には、就労の義務がありますが、産前産後や育児期間については、休業制度により就労義務が免除され、その間の収入減を補うための給付等の制度が設けられています。
一方、フリーランスの場合、就労は義務ではないほか、休業制度などもありません。そして、指定の免除期間は、働いても働かなくても、保険料の免除を受けることができます。
自営業・フリーランス等向け育児支援制度の個別の内容
ここでは、自営業・フリーランス等向け育児支援制度の個別の内容を見ていきましょう。
国民健康保険の保険料免除
産前産後の保険料免除には、企業勤務者同様の保険料免除制度があります。しかし、育児期間中の保険料免除は不十分であり、育児期間中の免除制度が望まれています。
1. 産前産後の保険料免除(企業などに務める方と同様の制度)
2. 育児期間中の保険料軽減(均等割保険料の減額)
所得が低い等の事情で保険料の法定軽減が適用となる世帯は、法定軽減(7割、5割または2割)適用後の金額からさらに半額が減額されます。
※参照:保険料の法定減額について(令和6年度)(京都市公式Webサイトより)
出産育児一時金(まとまった現金を用意しなくても済む方法がある)
出産時の経済的負担を軽減するため、一時金が支給される制度が整っています 。金額は徐々に引き上げられており、2023年4月からは50万円になっています。
妊娠22週以上であれば、子ども1人につき50万円です。妊娠22週未満または産科医療補償制度未加入の医療機関での出産であれば、子ども1人につき48.8万円です。双子など多胎児出産であれば、上記金額に人数をかけた金額を受け取れます。
出産時の自己負担軽減のため、医療機関が直接受け取り、本人の自己負担を減らす制度が整っています(下表)。たとえば、身近な産院での出産であれば、受取代理制度の施設を選ぶほうが、手続きが簡単です。
※参照:受取代理制度と直接支払制度の違い
※参照:受取代理制度を導入している医療機関等施設一覧(令和6年8月19日現在)
出産手当金(特定職種の国民健康保険組合に加入の場合のみ)
この制度は、特定職種ごとの「国民健康保険組合」(国保組合)に固有の制度です。企業などに務める方向けの出産手当金制度と似ており、業務に服さなかった期間分の手当金が支給されます。
ただし、国保組合は医師・歯科医師・薬剤師・土木建築・文芸・美術など特定業種に限られています。保険料は月額2万円程度の一律定額が一般的で、所得次第では国保よりも保険料負担を減らせます。該当業種の方は加入を検討してみてください。
※参考:全協会員国保組合一覧(支部別)
出産・子育て応援交付金(地方自治体がきめ細かく相談に乗ってくれるほか、経済的支援も受けられる)
核家族化が進むいま、地域のつながりも希薄となり、子育てに孤立感や不安感を抱く方も少なくありません。すべての妊婦・子育て家庭が安心して出産・子育てができる環境整備が喫緊の課題です。
この制度は、妊婦さんが地方自治体の「伴走型相談支援」を受けることで「出産育児関連費用の助成を受ける」制度です。なかには独自で、ある程度の金額分のギフトがあるなど、さらに充実した支援をしている自治体もあります。
児童手当(制度が大幅に拡充、取りこぼしのないよう特に注意!)
児童手当制度は、2024年10月から大きく拡充されました。新たに受給資格を得る方は申請が必要です。忘れないよう申請してください。
拡充のポイント!
- 所得制限撤廃
- 支給対象年齢が高校生まで拡充
- 第3子の支給額が月額15,000円から30,000円に倍増
- 多子加算のカウントの仕方が拡充
- 支払い月/回数の変更
「上の子について高校生年代までカウント」という扱いが見直されました。進学有無、同居別居を問わず、親等の経済的負担があれば22歳年度末までカウント対象です。これにより、第3子への加算期間が「第1子が22歳に達する日以後の最初の3月31日まで」に延長となります。また、年3回の受け取りだったのが、年6回偶数月ごとの受け取りに変わります。
次の方は新たに手当の対象になります。必ず申請してください。
- 現在所得制限により特例給付を受給している方、所得上限超過により児童手当・特例給付を受給していない方
- 高校生年代の子がいる方
- 多子世帯の方、特に多子世帯で22歳年度末までの上の子がいる方
児童扶養手当(困った状況にある児童の養育者を助ける制度)
児童扶養手当は、父母が離婚した児童や、父が死亡した児童などを監護している母または養育者に支給されます。配偶者からの暴力(DV)で「裁判所の保護命令」が出された場合、父親または母親が身体などに重度の障がいがある家庭なども対象です。
高校生年代(18歳に達する日以降の最初の3月31日まで)の子ども(一定の障がいのある子どもは20歳未満)を養育している親等に支給されます。
子どもの医療費助成(地方自治体ごとにさまざま違いがある)
妊婦健康診断の費用助成(受診票・健診チケット/妊娠から出産まで14回分使えるため活用必須!)
今後予定されている支援 ~ 少子化トレンド反転のラストチャンスに向けた「加速化プラン」
2022年の出生数は約77万人でピークの1/3以下となっており、急速な少子化・人口減少が進んでいます。
少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、経済・社会のシステムを維持できなくなるといわれており、若年人口が急減する2030年代までに、状況を改善できるかどうかが重要な分岐点と考えられています。
そこで2023年12月、今後3年間集中的に取組を行う「こども未来戦略」の「加速化プラン」が閣議決定されました。この決定のポイントを3つに分けて見ていきましょう。
「加速化プラン」のポイント3つ
1. ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や、若い世代の所得向上に向けた取組
今回の児童手当拡充のほか、出産・医療費・高等教育費の負担軽減、いわゆる「年収の壁」への対応、子育て世代への住宅支援の強化も挙げられています。
2. すべての子ども・子育て世帯を対象とする支援の拡充
- 妊娠期からの切れ目のない支援の拡充(妊婦等包括相談支援事業)を創設
- 保育所等に通っていない満3歳未満の子どもの通園のための給付(こども誰でも通園制度)を創設
その他、幼児教育・保育の質の向上、子どもの貧困対策、ひとり親家庭の自立支援と社会的養護、障害児・医療的ケア児等の支援基盤充実など、多様な支援ニーズにも対応します。
3. 共働き・共育ての推進
前述の国民年金第1号被保険者の育児期間に係る保険料の免除措置創設もこの一環です。企業などに務める方向けの出生後休業支援給付、育児時短就業給付なども挙げられています。
育児支援制度を最大限活用するためのポイント ~ 何はともあれ情報収集が第一
次々と公的な子育て支援が整備されてきています。前述の「児童手当」なども、その一例です。こども家庭庁や厚生労働省、各自治体などで、申請漏れがないように注意喚起されています。
最新情報を収集するためにはまず「各市区町村のWebサイト」を確認しましょう。実際の地域住民向け支援窓口は市区町村であり、住民のため最新情報が整理されています。「くらしのガイド」といったタグのなかには、「妊娠・出産・子育て」に係る支援がまとめられており、独自の支援があるケースも少なくありません。
公的支援の内容、支援手続き、申請窓口なども市区町村のWebサイトでまずは確認しましょう。そのうえで、疑問点があれば、市区町村の窓口に相談してみてください。
市区町村による解説の一例 ~ 東京都杉並区「子育て便利帳」
具体例のひとつが、東京都杉並区のWebサイトに掲載されている「子育て便利帳」です。妊娠・出産・子育て・就学までの公的支援や諸手続きが一冊にまとめられ、いつ何をすべきか、すぐにわかるようになっています。
まとめ
子育て支援は国を挙げての重要施策です。さらに各自治体によって、住民のためにさまざまな創意工夫や独自の支援制度が整えられています。また、自営業・フリーランス等の方向けの育児支援も次々と整備されつつあります。申請などを行う、実際の窓口は市区町村などの自治体です。各自治体のWebサイトを確認のうえ窓口に相談するなど、大切な支援を取りこぼさないよう活用しましょう。