新たな市場への挑戦を後押しする「中小企業新事業進出促進補助金」の第1回公募の受け付けが、2025年(令和7年)6月17日より始まりました。本補助金は、既存事業とは異なる分野での新たな収益源の確立を目指す中小企業を対象に、最大9,000万円の支援が受けられる制度です。
中小企業新事業進出促進補助金を活用すれば、人口減少・物価上昇の影響で経営環境が厳しさを増す中にあっても、企業の成長戦略と賃上げを両立できます。事業の収益力や生産性を高めつつ、従業員への還元を強化するための手段として、有効活用しましょう。
Contents
中小企業新事業進出補助金とは? その概要と目的
まずは、中小企業新事業進出補助金の趣旨や補助対象者など、基本的な情報から見ていきましょう。
制度創設の背景
中小企業新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新事業への挑戦を後押しするための補助金事業です。
対象者は、中小企業や個人事業主。企業規模の拡大や付加価値の向上による生産性向上や、最終的な従業員の賃上げを目的とする補助金で、新しい市場や高付加価値事業への進出にかかる経費の一部を支援します。
現在の日本は、少子高齢化の影響により、今後ますます労働人口が減少する見込みです。消費の縮小や経済の停滞といった課題があるため、政府としては企業の生産性の向上や従業員への賃上げを通じて、経済を活性化したい思惑があります。
中小企業新事業進出補助金の補助対象者は?
中小企業新事業進出補助金の補助対象者は「企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等」です。具体的には、以下の企業が該当します。
| 業種 | 基準 |
| 製造業、建設業、運輸業 | 資本金3億円以下、 または常勤従業員数300人以下 |
| 卸売業 | 資本金1億円以下、 または常勤従業員数100人以下 |
| サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
資本金5,000万円以下、 または常勤従業員数100人以下 |
| 小売業 | 資本金5,000万円以下、 または常勤従業員数50人以下 |
| ゴム製品製造業 | 資本金3億円以下、 または常勤従業員数900人以下 |
| ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 資本金3億円以下、 または常勤従業員数300人以下 |
| 旅館業 | 資本金5,000万円以下、 または常勤従業員数200人以下 |
| その他の業種 | 資本金3億円以下、 または常勤従業員数300人以下 |
先述した通り、補助対象者には、企業だけでなくフリーランスや個人事業主も含まれます。ただし、後述する「賃上げ要件」を満たす必要があるため、従業員がいない場合は補助対象外です。
中小企業新事業進出補助金の補助上限額と補助率は?
中小企業新事業進出補助金の補助上限額は、従業員数に応じて決まっています。補助金の下限は750万円で、補助率は1/2です。
補助金額
| 従業員数(人) | 補助金額(万円) | ||
| 下限 | 上限 | 特例(※) | |
| ~20 | 750 | 2,500 | 3,000 |
| 21~50 | 4,000 | 5,000 | |
| 51~100 | 5,500 | 7,000 | |
| 101~ | 7,000 | 9,000 | |
※大幅な賃上げによる補助上限額引上げの特例措置の適用を受ける事業者の場合
中小企業新事業進出補助金の対象となる経費は?
補助金の対象となる経費は以下のとおりです。
- 機械装置、工具・器具(測定工具・検査工具等)の購入、製作などに要する経費
- システム構築費、構築、借用(リース・レンタル)に要する経費
- 建物費(生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、作業場、その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費)
- 運搬費、運搬料、宅配・郵送料等に要する経費
- 技術導入費に要する経費
- 知的財産権等関連経費に要する経費
- 外注費(補助事業遂行のために必要な検査等・加工や設計等の一部を外注する場合の経費)
- 専門家経費(補助事業遂行のために必要な専門家に支払われるコンサルティング業務や旅費等の経費)
- クラウドサービス利用費
- 広告宣伝・販売促進費
上記のように、新事業の進出に必要となるさまざまな経費が補助対象です。
中小企業新事業進出補助金を受けるための要件
中小企業新事業進出補助金を受けるためには、さまざまな要件をクリアしなければなりません。新事業で売り上げを出すだけでなく、生産性の向上や賃上げが求められる点を押さえておきましょう。
- 新事業進出要件
- 付加価値額要件
- 賃上げ要件
- 事業場内最賃水準要件
- ワークライフバランス要件
- 金融機関要件
- 賃上げ特例要件
それぞれを見ていきましょう。
新事業進出要件
新事業進出要件とは、具体的には以下の3つを指します。
- 製品等の新規性要件
- 市場の新規性要件
- 新事業売上高要件
- 事業計画期間最終年度において、新たに製造等する製品等の売上高または付加価値額が、応募申請時の総売上高の10%または総付加価値額の15%を占める見込みであること
- 応募申請時の直近事業年度の売上高が10億円以上で、かつ新事業進出を行う事業部門の売上高が3億円以上の場合、当該事業部門の売上高の10%または付加価値額の15%以上を占める見込みであること
中小企業新事業進出補助金の目的は、新事業展開の後押しです。そのため、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦が可能であり、新事業で一定の売上高が確保できなければなりません。
付加価値額要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間に、「付加価値額(または従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%以上増加する事業計画」を策定する必要があります。
付加価値額の定義は「営業利益・人件費・減価償却費の合計」です。比較基準となる付加価値額は、補助事業終了月の属する(申請者における)決算年度の付加価値額となります。
賃上げ要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかにおいて、水準以上の賃上げを行う必要があります。
- 補助事業終了後の3~5年の事業計画期間にて、従業員一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間(※)の年平均成長率(一人当たり給与支給総額基準値)以上増加させること
- 補助事業終了後3~5年の事業計画期間にて、給与支給総額の年平均成長率を2.5%(給与支給総額基準値)以上増加させること
※令和元年度が基準の令和2年度~令和6年度の5年間
目標未達成の場合、交付決定が取り消され、補助金全額の返還が求められます。
いずれかの目標値が達成できなかった場合、達成度合いの高い方の目標値の未達成率を乗じた額の返還が求められるため、注意しましょう。補助金返還義務の規定は、政府が事業主に対して積極的な賃上げを求めている表れです。
事業場内最賃水準要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年の事業所内最低賃金が、補助事業実施場所の都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準である必要があります。
この目標が未達成の場合、補助金交付額を事業計画期間の年数で除した額の返還が求められます。
ワークライフバランス要件
「次世代育成支援対策推進法」に基づき、「一般事業主行動計画」の策定・公表が必要です。
一般事業主行動計画とは?
事業主が、従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、「①計画期間」「②目標」「③目標を達成するための対策の内容と実施時期」を具体的に盛り込み策定するもの
※両立支援のひろば | 一般事業主行動計画とは? | 一般事業主行動計画公表サイト | 企業が行う両立支援の取組を紹介するサイト
具体的な内容としては、策定した「一般事業主行動計画」を厚生労働省の「両立支援のひろば」にて、応募申請時までの掲載が求められています。公表手続きには1~2週間程度かかるため、早い段階からの準備が必要です。

金融機関要件
金融機関から資金提供を受けて補助事業を実施する場合は、資金提供元の金融機関から事業計画の確認を受ける必要があります。
申請時に「金融機関による確認書」の提出が求められるため、あらかじめ金融機関から証明書を取得しておきましょう。なお、自己資金のみで補助事業を実施する場合は提出不要です。
賃上げ特例要件
補助上限額の引き上げを受けるためには、以下の賃上げ特例要件をすべて満たす必要があります。
- 給与支給総額を年平均6.0%以上増加させること
- 事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げること
中小企業新事業進出補助金は、賃上げを積極的に行う企業を厚遇する仕組みとなっています。
賃上げ特例要件を満たす目的だけでなく、従業員の満足度やエンゲージメントを高めるためにも、積極的に賃上げを行いましょう。人材確保や人材定着の面でも、賃上げは効果的です。
ただし、要件の内ひとつでも達成できなかった場合、賃上げ特例の適用による補助上限額引上分について全額返還が求められるため注意してください。
審査で採択されるための事業計画や対策
補助金は、事務局に採択されなければ受給できません。中小企業新事業進出補助金を受給するうえで、事業主が考えるべき事業計画や対策を解説します。
- 事業計画の明確性と具体性を重視する
- 財務計画の妥当性を証明する
- 実施体制の充実をアピールする
- 専門家に相談する
事業計画の明確性と具体性を重視する
補助金審査では、事業計画の実現可能性が重視されます。新事業の内容や市場分析を詳細に行ったうえで、競合優位性を具体的に示しましょう。
なお、中小企業新事業進出促進補助金の審査項目は以下のとおりです。
- 補助対象事業としての適格性
- 新規事業の新市場性・高付加価値性
- 新規事業の有望度
- 事業の実現可能性
- 公的補助の必要性
- 政策面
- 大規模な賃上げ計画の妥当性など
新市場性とは
補助事業で取り組む事業の内容が、新事業進出指針に基づく当該事業者にとっての新規事業であることを前提に、社会においても一定程度新規性を有する(一般的な普及度や認知度が低い)ものである
高付加価値性とは
補助事業で取り組む事業の内容が、同一のジャンル・分野の中で、高水準の高付加価値化を図るものである
※新市場・高付加価値事業の考え方 -新市場・高付加価値事業とは-
中小企業新事業進出促進補助金には付加価値額要件や賃上げ要件があるため、「3年後に売上2,000万円増加」のような定量的な目標設定を示すことが大切です。
財務計画の妥当性を証明する
実現が危ぶまれる計画だと、もちろん、採択される可能性は低いでしょう。補助金以外の資金調達計画や今後の収支予測、投資回収期間を現実的な数値で示すことも大切です。例えば、企業の自己資金比率が高いほど、事業への本気度が評価されます。
また、キャッシュフローが安定していると新事業進出をする十分な余力があると評価されるため、採択される可能性が高まります。
実施体制の充実をアピールする
審査段階では、立案した事業計画を実現できるだけの内部リソースが揃っていることもアピールしましょう。事業推進チームの専門性や外部専門家の活用予定、必要な許認可の取得状況など、事業実施に必要な体制を具体的にアピールすると効果的です。
専門家に相談する
採択される可能性を高めたい場合は、社会保険労務士や公認会計士といった、専門家に相談しながらの申請がおすすめです。補助金申請の経験が豊富な専門家は審査基準を熟知しており、自社の状況を加味したうえでの、客観的なアドバイスを期待できるでしょう。
例えば、審査に通過しやすくなる事業計画の立案や、計画の実現可能性や根拠をわかりやすく示してくれます。「新規事業に将来性はあるか」「事業の実現可能性はあるか」「賃上げを実現する財務的な余裕があるか」を専門家にチェックしてもらい、精度の高い計画書を作成しましょう。
【注意!】採択されにくい事業計画の特徴とは?
採択されにくいと考えられる、事業計画の特徴は以下のとおりです。
- 事業内容が不明確、抽象的すぎる
- 市場分析が甘い
- 収支計画が甘く非現実的
- 必要なスキル・経験をもつ人材がいない
- 外部委託先が未定のまま申請している
- 代表者以外のメンバーの役割が不明
- 賃上げの実現可能性が低い
中小企業新事業進出促進補助金の趣旨に沿っていない場合や、審査員から「事業計画が甘く、付加価値の創出や賃上げは難しい」と判断された場合は、採択される可能性が低くなります。
中小企業新事業進出促進補助金の申請で経営者が準備すべきこと
補助金の申請にあたって、経営者が準備すべきことを解説します。
自社の強みや事業の新規性を整理する
補助金の申請段階において、自社の強みや事業の新規性を整理しましょう。審査員に納得してもらいやすい事業計画を作成するためには、わかりやすく言語化したうえで、具体的に伝える必要があります。
例えば、「自社ならではの強み」として以下の要素がないか整理してみましょう。
- 保有する特許・実用新案・商標
- 独自の製造技術・ノウハウ
- 特殊な設備・機械の保有
- 技術者のスキル・資格・経験年数
- 既存顧客との関係性(継続年数、信頼度)
- 市場シェア・ブランド認知度
- 販売チャネルの独自性
- 地域での位置づけ
書類審査に通過したあとは、オンラインによる口頭審査が実施されます。提出した書面の情報を踏まえ、事業の適格性・優位性・実現可能性・継続可能性などを口頭で伝えなければなりません。
口頭審査は、申請事業者自身が1名で対応する必要があります。事業計画書作成支援者や経営コンサルタントへの依頼や同席は認められないため、自分の言葉でわかりやすく伝えられるよう、情報の整理をしておきましょう。
GビズIDを取得しておく
中小企業新事業進出促進補助金はオンラインでの申請になるため、申請サイトにログインするためにも、「GビズID」の事前取得は必須です。アカウントの申請から取得まで、オンラインの場合は最短即日、郵送の場合は1~2週間程度かかる可能性があります。

申請期限が迫ってから慌てて取得しようとすると、手続きが間に合わなくなる可能性があるため、早い段階で準備を進めておきましょう。なお、アカウントの取得にあたって、印鑑証明書(個人事業主の方は印鑑登録証明書)が必要です。必要書類を準備する期間も踏まえて、計画的に準備を進めましょう。
中小企業新事業進出促進補助金のスケジュール例
中小企業新事業進出促進補助金は既に第1回の公募が開始されており、締切日などの具体的な日程は以下のとおりです。公募は以降も複数回行われる予定となっていますので、開始~締切~採択発表にかかるスケジュール感の参考にしてみてください。
- 公募開始日:令和7年4月22日(火)
- 申請受付開始日:令和7年6月17日(火)
- 応募締切日:令和7年7月10日(木)18:00まで(厳守)
- 補助金交付候補者の採択発表日:令和7年10月頃(予定)
なお、応募申請が集中した場合は、申請手続きが滞る可能性があります。特に締め切り直前は多くの応募が見込まれるため、時間に余裕をもって準備しましょう。
中小企業新事業進出促進補助金の申請書類
補助金の申請にあたって必要となる書類は、以下のとおりです。
- 直近2年間の決算書
- 従業員数を示す労働者名簿の写し
- 収益事業を行っていることを説明する確定申告書の控え
- 固定資産台帳
- 賃上げ計画の表明書
- 金融機関による確認書
(金融機関から資金提供を受ける場合) - リース料軽減計算書、リース取引にかかる宣誓書
(リース会社と共同申請する場合) - 再生事業者であることを証明する書類
(再生事業者加点を希望する場合)
書類に不備があると再申請となるだけでなく、不採択となる可能性が高まります。必要書類は確実に用意したうえで、補助金を申請しましょう。
中小企業新事業進出促進補助金の申請フロー
公募要領から、中小企業新事業進出促進補助金の申請フローを解説します。
いずれも1~2週間程度がかかる可能性があるため、時間に余裕をもって準備しておきましょう。
採択された案件は、商号や補助事業計画名が公表され、採択された事業者は事務局が実施する説明会への参加が必要です。不参加の場合、採択は自動的に無効となるため、説明会にはかならず参加してください。
また、応募申請時に計上したすべての経費が、補助対象として認められるわけではありません。事務局による精査の結果、交付決定額の減額や、全額補助対象外となる可能性もあります。
補助事業の完了とは、建物の建設や設備の導入が完了しているだけでなく、応募申請時に提出した事業計画のスケジュールどおりに事業が進捗していることを指します。
また、賃上げ要件を含めた補助対象要件が未達成の場合、補助金交付額の一部返還が求められることがあります。
中小企業新事業進出促進補助金に関するFAQ
最後に、中小企業新事業進出促進補助金に関するFAQを紹介します。
- 常時雇用する従業員がいない場合、申請できますか?
- 応募申請時点で従業員数が0名の事業者は、補助の対象外です。役員しかいない会社や従業員を雇用していない個人事業主は、申請できません。
- 個人事業主から法人成りして1年が経過していない場合、申請できますか?
- 個人事業主としての創業から1年以上経過しており、個人事業を承継する形で法人成りをしている場合、申請要件を満たします。
- 海外企業や海外の子会社は対象に含まれますか?
- 海外企業は対象になりません。中小企業新事業進出促進補助金は、日本国内に本社と補助事業実施場所があることが申請要件です。
- 補助対象経費として認められるのは、銀行振込だけですか?
- 補助対象経費に関するすべての支払いは、銀行振込の実績で確認を行います。現金払いや代引き払いは、補助の対象外です。また、PayPayやPayPalなどの決済サービスは銀行振込とみなされないため、注意が必要です。
まとめ
中小企業新事業進出促進補助金は、既存事業とは異なる新たな分野への挑戦を支援する制度で、従業員数に応じて最大9,000万円の補助を受けられます。新事業の展開を検討している事業主の方は、有効活用しましょう。
採択されるには、新事業進出要件や付加価値額要件、賃上げ要件などの厳格な条件をクリアする必要があります。採択されて新事業を軌道に乗せるためにも、事業計画の具体性と実現可能性を意識し、必要に応じて専門家へ相談をおすすめします。
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