フリーランスや個人事業主として新たに事業を始めようとしたとき、設備資金や運転資金を自己資金のみでまかなうことが難しい場合は、日本政策金融公庫による「新創業融資制度」の利用を検討してみましょう。制度の概要や要件、融資までの流れ、開業したばかりの事業者が検討すべき制度であることについて解説していきます。

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新創業融資制度とは?
新創業融資制度は、政府金融機関「日本政策金融公庫(日本公庫)」の国民生活事業のひとつです。
制度を運営する日本公庫は、民間の金融機関による金融の補完を目的に設置されました。民間からの融資が得られにくい新規事業者のほか、中小企業、小規模事業者、農林水産業者など、国民生活の向上のために広く融資を行っています。
日本公庫の事業の大きな柱となっているのが、「国民生活事業」「農林水産事業」「中小企業事業」の3つです。新創業融資制度は、国民生活事業に分類されます。国民生活事業とは、個人企業や小規模企業向けの小口資金の融資事業のことです。
最大3,000万円の融資を受けられる
新創業融資制度の特徴は、新たに事業を開始、または開始したばかりの人を対象にした制度で、設備資金や運転資金に対する融資であること。最大3,000万円までの融資を原則、無担保・無保証人で受けられることです。
自己資金の要件があるものの、条件付きで自己資金がなくても利用できることもあります。自己資金が大きく不足している新規事業者にとって希望がもてる制度といえるでしょう。
ただし、新創業融資制度は単体で利用できません。日本公庫によるほかの融資制度と組み合わせて利用できる、プラスの融資制度といった位置づけです。創業時に利用できる日本公庫の融資制度には「新規開業資金」など、いくつかありますので合わせて確認してみてください。
※参照:新創業融資制度|日本政策金融公庫
※参照:創業時に利用できる主な融資制度|日本政策金融公庫
利用要件
新創業融資制度の概要について説明してきましたが、当制度はすべての事業者を対象にしたものではありません。利用にあたり、いくつかの要件があります。ここでは、利用要件、融資限度額、返済期間、基準利率を詳しく見ていきましょう。
まず、利用要件についてです。新創業融資制度を利用するには、以下に説明する「対象者の要件」「自己資金の要件」のいずれも満たす必要があります。
1. 対象者の要件
- 新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人
対象者の要件を見ると、新創設融資制度を利用できる人は、新規事業者か事業を始めて間もない人だとわかります。
新たに事業を始めようとする人の場合、適正な事業計画が策定されており、事業計画を遂行する能力があると認められる場合に限られます。
融資を受けるのに適しているか、日本公庫側が確認するために作成するのが「創業計画書」です。創業計画書には、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品やサービス、取引先、従業員の数、必要資金と調達の見通方法、事業の見通しなどを記載します。記入方法は、日本公庫のWebサイトに複数の業種ごとに記入例がありますので、参考にされると良いです。
事業を始めて間もない人の要件は、事業開始後の税務申告を2期終えていない人です。税務申告とは、フリーランスや個人事業主の場合は(所得税の)確定申告を表します。2期目を終えていないことが条件ですから、事業開始から2年目程度であれば、要件を満たす可能性があります。
仮に、「X1年の4月1日に開業」して、「X2年の9月に制度を利用したい」となったとき、事業2期目ではあるものの、2期目の途中であって、税務申告(この場合の2期目の税務申告の窓口受付期間は「X3年2月16日~X3年3月15日」)は完了していないため、対象者の要件を満たすことになります。
※参照:申告と納税|国税庁
2. 自己資金の要件
- 新たに事業を始める人、また事業開始後の税務申告1期を終えていない人は、創業時に創業資金総額の10分の1以上の事業に使用する予定の自己資金が確認できること
新創業融資制度の利用にあたっては、上記のように原則として自己資金の要件が定められています。ここでの自己資金とは、事業に使用する予定のもので、プライベートの自己資金は含まれません。制度を利用するためにも、事業用としてある程度の創業資金を用意しておく必要があります。
ただし、以下の1~7のいずれかに該当する場合は、「自己資金の要件を満たすものとする要件」に当てはまるため、自己資金を創業資金総額の10分の1以上用意していなくても、制度の対象者になります。
- 現在勤務している企業と同じ業種で事業を始める場合でいずれかに該当する
(1)現在の企業に6年以上継続して勤務している
(2)現在の企業と同じ業種で通算6年以上勤務している - 大学などで修得した技能等に深く関連した職種に2年以上継続して勤務しており、同職種と深く関連した業種で開業する
- 産業競争力強化法規定の認定特定創業支援等事業(※1)を受けた創業者
- 民間金融機関(都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合)と公庫による協調融資で開業する人
- 技術・ノウハウ等に新規性があり一定の要件を満たす
- 新商品や新サービスの事業化に向けた研究・開発、試作販売のため、生産やサービス提供に6カ月以上を必要とし、かつ3事業年度以内に黒字化が見込める
- 「中小企業の会計に関する基本要領」また「中小企業の会計に関する指針」を適用予定(※2)
※1:認定特定創業支援等事業とは、市町村や認定を受けた事業者が、創業希望者向けに原則1カ月以上継続して行う、経営・財務・人材育成・販路開拓の創業に必要な総合的な知識を養う支援のこと。
※2:上場企業ほど厳密な会計処理でないものの、中小企業の実態に合わせて作成された日本公認会計士協会など4団体が主体となって作成した指針、または中小企業団体などが主体となって作成した基本要領の示す会計ルールに従って会計処理をする予定であること。
自己資金がなくても制度の利用要件を満たす人の内容をまとめると、同業種での経験や十分なスキルがある人、創業に必要な知識がある人、ほかに融資を受ける予定の人、新規事業を開業する人、中小企業向けの会計ルールを適用しようとする人です。いずれかひとつでも該当するときは、自己資金なしでも新創業融資制度による融資を受けられる可能性があります。
※参照:新創業融資制度の「自己資金の要件を満たすものとする要件」|日本政策金融公庫
※参照:経営サポート「創業・ベンチャー支援」|中小企業庁
※参照:中小会計指針・中小会計要領|日本税理士会連合
3. 融資限度額
- 最大3,000万円(設備資金のみ、もしくは設備資金+運転資金)
- 運転資金のみの場合は最大1,500万円
4. 返済期間
- 各融資制度に定める返済期間以内
ほかの融資制度とプラスして申し込む制度であることから、返済期間はベースの融資制度が基準となります。
例えば、ベースが「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」、「生活衛生新企業育成資金」の場合は、設備投資の返済期間は20年以内(据え置き期間2年以内)、運転資金の返済期間は7年以内(据え置き期間2年以内)です。
5. 基準利率
- 年利2.41~2.90%(令和3年7月1日現在)
上記は、基準の利率であって、新創業融資制度の利用を希望する事業者の状況によっては、基準利率よりも低い「特別利率」を利用できることもあります。新創業融資制度で利用できる特別利率はA、B、C、D、E、J、P、Qの8つです。ベースで利用する融資制度で適用される特別利率によって、新創業融資制度で適用される特別利率も異なります。
例えば、ベースの融資が「新規開業資金」で、産業競争力強化法規定の認定特定創業支援等事業を受けて開業する場合には、特別利率は「A」です。この場合、新創業融資制度も特別利率A(年利2.01~2.50%/令和3年7月1日現在)が適用されます。
また、法人が新創業融資制度を受けるときは、代表者(実質的な経営者または共同経営者)が連帯保証人になることもでき、この場合は返済利率が0.1%低減されます。
手続きの流れ
新創業融資制度による融資はどのようにして受けられるのでしょうか。申し込みから返済までの一連の流れを説明します。
電話ではなく、支店窓口やオンラインで相談したい場合は、予約が必要です。予約はオンライン上でできますので、窓口での相談を希望する場合は前日の16時まで、オンラインでの予約を希望する場合は2営業日前の16時までに予約を完了させておきます。
- 借入申込書(インターネット申込は不要)
- 創業計画書
- 最近2期分の申告決算書(申告している場合)
- 見積書(設備資金を申し込む場合)
- 運転免許証(両面)またはパスポート(顔写真と現住所等記載のページ)のコピー
- 許認可証のコピー(許可・届出等が必要な事業の場合)
※参照:個人企業・小規模企業の方|日本政策金融公庫
※参照:予約相談|日本政策金融公庫
制度利用のメリット
新創業融資制度を利用するメリットは、創業したばかりの事業者、これから創業しようと考えている人でも融資を受けられる可能性があることです。
銀行などの金融機関でもビジネスの融資はありますが、多くは中小企業が対象です。個人事業主やフリーランスが開業のために融資を受けたいと思っても、その選択肢や融資額は限られてしまいます。個人事業主を対象に融資する金融機関もありますが、多くは創業から少し経った、安定して利益を上げているような事業者が対象です。
民間の金融機関は、融資額を回収できるかどうかを基準に審査しますので、創業資金を借りたくても思うように借りられないケースは多々あります。民間からの融資は、創業時の資金調達というより、事業拡大時の資金調達に向いた方法といえるでしょう。
それに対して、日本公庫の新創業融資制度は、まだ事業を開始していない個人(事業を開始しようとしている人)も対象に含まれます。創業時の資金調達を考えるなら、新創業融資制度の利用をはじめ、あらゆる方向から資金調達の方法を検討してみてください。
まとめ
新創業融資制度は個人事業者・小規模企業者向けの融資制度で、日本公庫によるほかの融資制度と組み合わせて利用できるものです。これから開業する人、開業間もない人を対象にしている制度ですので、開業時の資金調達を必要としている人は、詳細を確認してみると良いでしょう。
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