2020年4月に民法が改正されました。
今回の民法改正は257項目に及ぶ改正事項があり、特に債権関係の規定(契約などに関わる部分)については、1896年(明治29年)の制定以来の改正となります。果たしてどのように内容が改正されたのか、そしてその改正がフリーランスの仕事にどのような影響を与えるのか、細越弁護士に解説していただきました。
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「分かりづらい内容を分かりやすく」したのが今回の民法改正
2020年4月から施行された改正民法ですが、そもそもなぜ改正されることになったのでしょうか?
今回、改正された内容は主に契約に関する規定です。この部分は明治時代に制定された頃からまったく変わっていませんでしたが、その間に新たな商習慣が生まれ、情報化社会の中で取引内容が複雑・高度化してきました。民法の規定内容と社会背景が大きく乖離していったことで「分かりづらさ」が生じていたと言えると思います。そうした分かりづらい部分を分かりやすくする、というのが今回の民法改正の方向性だと思います。
120年以上も変わっていなかったんですね。
そうですね。変化する社会の中で起きるさまざまな問題に対して、民法の規定文言だけでは解決が難しい場合に、これまでは多数の判例により民法の解釈や適用を行い、実務上の解決を行ってきたわけです。しかし、そのような判例上の解釈が民法の条文からは必ずしも明らかでないことが多く、「基本的なルールが見えない状態」となっていました。今回の改正では、そういった部分を「分かりやすい形で条文に落とし込む」ことを目指したのだと思います。
改正ポイント1:売主の瑕疵担保責任に関する見直し
それでは、改正された民法でフリーランスが知っておいたほうがいい内容を教えていただきたいのですが。
まず「瑕疵担保責任に関する見直し」の項目があげられると思います。
主な改正点は、まず「隠れた瑕疵」という要件が「契約の内容に適合しない」、つまり契約不適合に改められた、という点です。また、これに対する責任追及の方法についても、以前の民法では「契約の解除」か「損害賠償請求」しかできませんでしたが、今回の改正により、それらに加えて、「修理や代替物の引き渡しなど履行の追完の請求」「代金減額請求」も求められるようになった、という点もあります。
「契約の内容に適合しないもの」というのは……? 具体的にどんなケースがあるのですか?
それでは、例をあげて説明しましょう。
- フリーランスのデザイナーがパッケージデザインを受注。
- クライアントからの要望で「赤色の花をモチーフにしたいので、花の色は赤色で作成してください」と指示され、了承する。
- 制作する過程でデザイン的にどうしてもバランスが悪くなり、花の色を黄色にしてしまった。
- この成果物は「花の色は赤色で作成する」との「契約内容に適合しない」ということになる。
- この状態で納品した場合、クライアントはデザイナーに対して契約不適合責任の追及として、まずは①追完請求を行い、追完されない場合に、②代金減額請求、③契約の解除、④損害賠償請求を検討する。
なるほど。では、たとえば赤色の花をモチーフにデザインしたけれど、クライアントが気に入らなかった場合、契約不適合責任が発生するのでしょうか?
双方が合意した契約内容が「赤色の花をモチーフにしたデザイン」ということである以上、契約不適合とはいえませんので、契約不適合責任は発生しません。「クライアントが気に入らなかった」というのは、成果物に対するクライアントの主観であり、基本的には単なる感想に過ぎません。
契約内容を軸にして、責任の所在を明確にしましょう、ということなのですね?
そうですね。改正前の「瑕疵担保責任」は、その法的性質が「契約責任」か「法定責任」かで見解の対立があり、法定責任と解する立場が有力でした。しかし、改正後の契約不適合責任は「契約責任」であると整理されました。あくまでも、双方が合意した契約内容がどのようなものであったのか、ということを基本とします。その契約内容通りに履行されていない場合には、債務不履行として追完請求や減額請求という方法も含め、責任追及をできるようにしましょう、という内容の改正です。
契約の内容がますます重要になるということですね! フリーランスが仕事を受注する場合、契約段階で気をつけることがあれば教えてください。
代金や支払期日、商品の目的、納期などの契約内容を明確にしておくことですね。下請法の適用がある場合は発注側が書面にしなければいけない内容ですが、下請法の適用がない場合でも、具体的な契約内容についてはメール等のやり取りでも証拠になりますので残しておくことをおすすめします。
改正ポイント2:消滅時効に関する見直しと法定利率の引き下げ
他にフリーランスが知っておいたほうがいい内容はありますか?
フリーランスに関わらずすべての人に関係するのですが、「消滅時効に関する見直し」と「法定利率の引き下げ」という点については、これまでのルールが実質的に変更されました。
では「消滅時効に関する見直し」から解説をお願いします。
例えば、友人同士であるAさん・Bさんの間で、100万円のお金の貸し借りをしたとします。この場合、貸主Aは借主Bに対し、100万円を返すように請求できる債権を有します。この金銭債権の時効期間は、改正前は「権利を行使することができる時から10年間」という客観的起算点の規定でした。改正後はこれに加えて、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」という、主観的起算点による時効期間が追加されました。
以前は10年間時効にならなかったものが、5年間に短縮されたということですね?
そういうことになります。以前なら10年間は時効にならなかった債権も、今回の改正で、5年間で時効になってしまう場合がありますので、今後の債権管理については注意してください。
また、改正前は職業別の債権、例えば弁護士報酬や医者の診療報酬の債権などは3年間、ホテルの宿泊料や飲み屋のツケ払いなどは1年間が時効期間でした。それらが、今回の改正で一律の時効期間に変更となりました。
あと、遅延損害利率を契約で定めていない場合は法定利率が適用されますが、この法定利率についても、以前は5%だったものが、当面は3%に引き下げられました。法定利率については、市中の金利動向に合わせて、3年ごとに見直しが行われる予定です。
改正ポイント3:約款(定型約款)に関する規定の新設
インターネットの普及によって改正された内容などもあるのでしょうか?
「定型約款に関する規定」が新設されていますが、これはECサイトの普及などが背景にはあると思います。以前は、約款中の条項に顧客が拘束される法的根拠が不明確でした。これが改正により、定型約款による契約の成立が認められる場合は、法的根拠が明確になったといえます。
こちらも、具体的な例をあげていただけると嬉しいです……!
例えば鉄道を利用して移動する場合、従来の解釈では「鉄道会社の切符を購入すること=約款を契約内容とする意思表示をした」ものとして、運送約款等の顧客への拘束力が肯定される、つまり顧客は運送約款等に従うことを前提としていました。
しかし、契約とは当事者間で合意した内容について成立するものですから、契約内容を認識していない場合には、その契約内容には拘束されないのが原則です。通常は、鉄道を利用する顧客は約款の内容を認識していないことがほとんどですよね。それなのになぜ、約款の条項に拘束されなければいけないのかという点は以前から問題とされていました。また、約款が一方的に変更された場合も同様で、約款の変更を認識していない顧客に対してもなぜ変更後の内容で拘束できるのかということの根拠が明確ではありませんでした。
そうですね。約款を確認せず利用することも多いと思います。それが、どんな風に改正されたのでしょうか?
今回の改正により、「定型約款」に該当する場合には、一定の要件のもとに、定型約款の各条項に顧客が拘束されることが明文化されました。例えばECサイトにおいて、利用規約が「定型約款」にあたる場合、利用規約に「当該利用規約をもって当社と利用者との契約内容とします」と表示されていて、利用者が実際にサービス利用の申込みをすれば、定型約款による契約が成立することになります。つまり、利用規約の各条項が法的な拘束力を持つようになるわけです。定型約款を変更した場合の拘束力についても同様です。
他にもさまざまな点が変更になっていると思いますが、民法改正のポイントをまとめるとどんなことが言えますか?
今回の民法改正では、「分かりづらかった部分」や「今まで明文化されていなかったこと」をはっきりさせるということが、改正の大きな目的になっていると思います。前回の改正から積み重ねられてきた判例や通説の見解をもとに今回の改正が行われていますので、改正前の民法に比べると、だいぶ分かりやすくなったのではないでしょうか。
最後に、フリーランスにメッセージをお願いします。
フリーランスの方がいざというときに自分の身を守るためには、やはり法律の正しい知識や理解が不可欠だと思います。法律を知り、理解することで、例えば、取引上のトラブルが起きてしまっても、自分に有利な主張を行うことができる場合もあるでしょう。反対に相手から何か言われたケースでも、「証拠の有無」という裁判のルールを意識しながら、的確に反論することができるかもしれません。
だからこそ、今回の改正をきっかけに少しでも法律に興味を持っていただき、学んでみることが大事なのではないでしょうか。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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