【フリーランス法律相談】業務委託契約書のない案件でトラブルが発生…事前に備える方法はあった?

フリーランスなら誰もが一度や二度は「受注に関するトラブル」を経験しているのでは?契約書を取り交わしてから業務を行うことでトラブルを防げるという知識はあっても、フリーランス側から「契約書をください」とお願いするのは、現実的に難しいもの。そこで弁護士の細越善斉さんに、契約書のない案件の「まさかの事態」に備えた自衛策について教えてもらいました。

今回の相談者
ライターTさん(40代):フリーランス歴21年。主に雑誌やWebメディア、企業広告の企画・構成・ライティングを手掛けている。最近、受注後に案件が消滅・規模縮小する事態が立て続けに起こり、売り上げに大打撃を受けたことが目下の悩み。
前回の相談のおさらい:フリーライターのTさんは、受注後に案件が消滅したり、案件規模が縮小になって売り上げに打撃を受けたりという事態が続きました。いずれの場合も、業務委託契約書などで、途中で契約を解除する場合についての取り決めはありません。Tさんは作業のためにスケジュールを空けていたにも関わらず、見込んでいた売り上げがあげられなかったことに頭を悩ませています。

Tさん:今回の経験で、業務委託契約のことをもっと勉強しなければと痛感しました。前回、こういう事態に備えた自衛策があるとおっしゃっていましたよね?

細越さん:そうですね。では、早速、具体的な自衛策のアドバイスに入りましょう。

口頭での「お願いします」「はい」で業務委託契約は成立している

細越さん:まず前回もお話しましたが、「お願いします」「承ります」というやりとりがあれば、契約の申込みと受諾の意思表示の合致により、口頭でも業務委託契約は成立します。しかし口頭だけの場合、後から具体的な契約内容を立証することがとても難しいのです。それを立証できるのが業務委託契約書になるわけですが、フリーランスの方が発注者に契約書への押印をお願いするのが難しい、という実情については理解しているつもりです。

Tさん:はい、そうなんです。

細越さん:ただし、契約書がなくても、メールでのやりとりが残っていれば、合意内容についての証拠として十分に機能することがあります。

CST法律事務所 代表弁護士 細越善斉さん

口頭で交わした重要な内容はメールでリマインドする習慣を

Tさん:メールでいいんですか?

細越さん:メールも立派な証拠となります。最近では業務にメールではなく、ビジネスチャットを使うことも増えていますが、そうしたものでも十分に証拠になります。もちろん、いずれも「後から改ざんされていないこと」が条件になりますが、ビジネスチャットは業務で使うことを前提としているので、後から改ざんができない仕様になっているものもあります。

Tさん:では口頭で話したことで、証拠として残しておきたいことは、メールをすればいいのですね?

細越さん:そうです。口頭で合意した業務内容や納期、報酬額、支払時期等についてメールで送って、相手から「了解しました」という返信をもらってください。これで、「この内容で合意した」という事実を立証できます。ですので口頭でやりとりをした後に、その内容をメールにまとめて「念のため先程の打ち合わせ内容を確認させていただきます。この内容でお受けさせていただくということでよいでしょうか。」とメール送り、「内容につき了解、お願いします」という趣旨の返信をもらっておくことがとても大切です。

案件が消滅、規模縮小といった事態にも備える

Tさん:メールで確認をして返信をもらうことの重要性はよくわかりました。では、案件が消滅したり、規模が縮小したりというような事態を回避するためには、どうしたらよいのでしょうか?

細越さん:「当初、聞いていたのと話が違う」というような状況になった場合に備えた内容についても、メールでやりとりをしておくことがポイントになります。つまり、違約条項を合意しておくということです。飲食店などが設定しているキャンセルポリシーと同じような考え方ですね。

Tさん:キャンセルポリシーというと、ホテルや旅行などでもある「〇日前のキャンセルの場合、料金の〇%のキャンセル料を申し受けます」というようなことですか?

細越さん:その通りです。例えば、口頭で依頼を受けた案件について「発注いただいた〇〇〇〇の案件について、1年間、継続することとして承りました」と、案件名や業務内容、報酬などを記載したメールを送信します。その際に、「本案件の業務を遂行するためのスケジュールを確保いたしますので、万が一、発注者側の事情で本案件を終了させる場合、直近1か月分の業務委託料相当額を違約金としてお支払いいただくことでよろしいでしょうか」というようなことをメールで送っておくのです。そして、その内容を了承した旨の返信をもらっておけば、違約条項を合意できるとともに、その合意を立証できることになります。

Tさん:これなら、途中での打ち切りという事態に備えることができそうですね。ただ、具体的な業務の内容などの詳細が未定のまま依頼をされるケースもあるのですが、そういうときはどうしたらいいですか?

詳細未定の状態で依頼をされた場合の備え方

細越さん:詳細は未定のままひとまず話を振られる、ということは比較的ありがちですよね。先方としてもまず人材を確保しておきたい、ということなのだと思いますが、そういうケースで案件が消滅してしまったということですか?

Tさん:はい。スケジュールを確保して、スタートを待っていたら、なくなりました。

細越さん:前回、このケースでは弁護士的にはそもそも契約が成立したとはいいがたい、というお話をしましたが、このような依頼のされ方をした場合は、その段階ではスケジュールを確保する必要はないと思います。

Tさん:なるほど。例えば「お打ち合わせに参加します」としつつも「具体的な業務内容や納期が決定したときに、改めて正式にお受けできるかどうか検討させていただきます」と伝えておく。そして、スケジュールの確保はしない、ということですね。

細越さん:そうですね。契約が成立していない以上、スケジュールだけ空けておく必要はないので、そのような対応でよいと思います。

Tさん:あとは、例えば依頼時にクライアントに、いつ頃に動き始める見込みなのかを聞いておいて、その時期を過ぎたら待つのをやめる、という方法もありますよね。

細越さん:そういう対応も考えられますね。例えば、正式に依頼を受ける際に、「●日までに案件がスタートしない場合、契約を一方的に解除できるということでよろしいでしょうか」「はい、構いません」というやり取りを証拠に残しておけば、スタートしない場合には契約を解除してしまい、スケジュールを空けることができます。

あとは依頼案件ごとに業種や業界の特殊性もあると思いますし、クライアントとの関係性もあると思うので、その辺は相手を見ながらどのような対応がよいのか、ご検討いただくのがよいと思います。

Tさん:はい。悩ましいところもあるのは事実なのですが、杓子定規になりすぎずに、個別に柔軟に判断しながら対処することが必要だなと思いました。

細越さん:今後、フリーランスとして働く方がどんどん増えていくと思います。業務を依頼する方も「フリーランスに頼むのは初めて」というケースも増えていくでしょうから、フリーランス側から要求し、契約書の取り交わしを習慣化していくことも必要だと思います。

Tさん:たくさんのアドバイスをありがとうございました。今日から早速、役立てていきます!

<前編>【フリーランス法律相談】受注した案件が消滅!業務委託契約の解除になる?契約書がないと泣き寝入り?

profile

CST法律事務所 代表弁護士 細越善斉: 大企業からベンチャー企業・フリーランスまで、幅広い業種の顧問弁護士の実績を有する。遺産相続に関する情報サイト「相続ONLINE」(https://souzokuonline.jp/)を運営中。