「フリーランスになる以上、好きなことしか仕事にしない」。元All About編集長が語る“フリーの醍醐味”。

編プロ勤務を経て雑誌編集部へ、そして39歳でオールアバウト編集長に就任。その3年後にはフリーランスに転身し、現在はフリーランスのエディターとして活躍する松井直之さん。管理職というポジションを手にしながらも、あえてフリーランスという仕事を選んだ理由は何だったのでしょうか。「フリーランスになる以上、好きなことしか仕事にしない」と話す松井さん。その言葉にこめられた想いや、仕事へのこだわりなどお聞きしました。

編プロ時代の生活は「週に一回、家に帰れれば良い」

フリーナンス

まずは松井さんのお仕事のヒストリーから聞かせてください。

もともと雑誌が好きで、大学3年のときに編集プロダクションでアルバイトを始めたのがこの業界との最初のつながりです。その会社にすごく仕事ができるフリーライターの方がいて、僕は大学を卒業してすぐにその方に弟子入りするようなかたちで仕事を始めました。

しかしライターの仕事も好きでしたが、次第に編集の仕事に面白さを感じるようになったのです。そこで、師匠が過去に在籍していた編集プロダクションを紹介していただきました。ところが、スケジュールが思い通りにならない、週に一回家に帰れれば良いというような生活が続きまして…。

そんなときに、出版社へ入社するチャンスがめぐってきたんです。当時僕はいろいろな企画を持って出版社を回って営業していたのですが、その中のある編集者に「うちに来ないか?」と声をかけていただいたんです。それがきっかけで、徳間書店の『フィールドギア(のちにベストギア』という男性向けモノ情報誌の編集部に入社することができました。25才の時のことですね。

松井さん

雑誌しか作れない。自分のキャリアに不安を抱きwebの世界へ

フリーナンス

そこからオールアバウト(web)の世界に転職した経緯は?

編集部で7年間ほど経験を積んだのですが、その間にフリーのライターやカメラマンがだんだん食えなくなってきたという話をチラホラ聞くようになったんです。当時雑誌が斜陽でどんどん休刊になり、この先どうなるか分からないという状況でした。そんな中で雑誌しか作れないという自分のキャリアに不安を抱くようになり、Web関連のキャリアをかけ合わせたいという思いで就職活動を始めました。当時は契約社員だったので、正社員になりたいという思いもありましたね。

中でもオールアバウトを選んだ理由は、周りのライターやカメラマンがオールアバウトの仕事をやっていたことや、オールアバウトは元リクルートの人達が上層部にいたので、ビジネスをマネタイズするテクニックを学べるのではないかと思ったことなどです。

松井さん

39歳で編集長に就任。しかしの3年後、退職してフリーランスに。

フリーナンス

オールアバウトでは編集長を経験なさったそうですね。

Web媒体を運営するノウハウやクライアントワークのナレッジを積み、ちょうど39歳のときに編集長を打診されて引き受けました。管理職になると全然違う世界が見えてきて、経営会議や現場のマネジメント、会社が回っていく仕組みなどを学ぶことができました。

しかし組織体制や業務フローを見直す作業や会議などが増えてきて、気が付いたら朝から夜まで会議室にいて、なんのアウトプットもしてないのにすごく疲れているという日が続いていました。このときくらいから、これまで積んだキャリアをもとに独立しようという思いが強くなり、42歳のときにオールアバウトを退職してフリーランスになりました。

松井さん

「なんとかなるよ」。背中を押してくれた妻や友人たち

フリーナンス

フリーランスになることに不安はありませんでしたか?

フリーランスでやっていこうと決意して最初にしたことは、すでにフリーランスで仕事をしている友人に相談することでした。僕は当時小学生と幼稚園の子どもが二人いたこともあり、生活が成り立つのかという点が一番気になりました。ちょうど同じくらいの年齢の子どもをもつフリーランスの友人が何人かいたので、お金のこともいろいろと聞きましたが、みんな「なんとかなるよ!」と明るく言ってくれたんですよ。

それから、超ポジティブな妻の存在も大きいですね。「あなたはフリーの方が向いているから大丈夫!」って、会社を辞めるときも背中を押してくれました。今も応援し続けてくれているので、とてもありがたいと思っています。

松井さん

フリーナンス

アウトドアライターという道を選んだ理由は?

会社を辞めてフリーになるからには好きなことしか仕事にしたくないとずっと思っていましたし、どんな業界でも何か特化したものを持つべきだと考えていました。僕の場合は、それがアウトドアだったんです。最初は「とにかくアウトドアの原稿を書かせてくれ!ギャラは安くてもいいから」と、周囲にアピールしました。すると、ありがたいことに本当にそういう仕事ばかりくるようになったんです。

ただ、楽しい仕事ばかり引き受けているわけではないですよ。アウトドア以外の編集作業なども受けていますしね。だから「書く仕事はアウトドア、書かない仕事は編集スキルを活かせるのであればなんでもやる」という風に切り分けて考えています。全ての仕事を好きなことに限定する、というわけではありません。

松井さん

フリーランスになって、家族との関わり方にも変化が

フリーナンス

フリーランスになって良かったことは?

自由な時間が増えたので、家族で過ごす時間が多くとれるようになりました。子どもはどんどん成長していくので、一緒にいられる時間はとても貴重だと思います。子どもの学校行事に参加したいときなどに、スムーズに時間調整ができるのもうれしいですね。会社員だと「ここで有休をつかうのははばかられる」とか思っていましたけど、そういったストレスがないのもフリーランスならではですよね。

松井さん

フリーナンス

現在のお仕事のスタンスを教えてください。

僕は家だと集中して仕事ができないので、今はシェアオフィスを借りてそこでデスクワークをしています。メディアのコンサルティングや新しいビジネスモデルを考える仕事もやっているので、その定例会議に向けてプランニングする時間も増えました。あとはアウトドアのロケが月に3~4回ほど入ります。土日は基本的に休みにしています。

フリーランスを続けていくためには、自分発信の事業も手がけなければと思っています。なんとなく最近は、それがメディアではないんじゃないかと思っているのですが…。自分の好きなことをやるためにも、別の土台をちゃんと作っておかないと難しい気がしています。そこは今、いろいろと考えているところです。

松井さん

フリーナンス

仕事をする上で、こだわっていることはありますか?

読者のニーズを深く知ることですね。僕はコタツ記事みたいなのはあんまり好きじゃなくて、ちゃんと取材するべきだと思っているのですが、意外とおざなりになっている人や媒体が多いと感じます。どんな人が読んでくれるのかをしっかりイメージすることで、原稿も深みが出るし写真の撮り方も変わってくる。その辺を常に意識しながらものづくりをしています。

松井さん

好きなことを仕事にするなら、自分から足を踏み入れていくべき

フリーナンス

最後に、読者にメッセージをお願いします。

好きなことを仕事にするために、副業でも、最初はお金にならなくても、自分から足を踏み入れていくことで絶対に人生が豊かになると思います。

すでにフリーランスとして働いている人はもっと好きなことにのめり込んだ方がいいし、フリーランスになりたいと思っている人は、まずそのきっかけが生まれるように自分から動いてみる。それをやって損はないし、将来の楽しみにもつながっていくはずです。

松井さん

profile

松井直之:1975年生まれ。雑誌で約10年、ウェブメディアでも10年以上に渡って活動するフリーの編集者。日本最大級の生活情報サイトAllAboutの元編集長。2017年に独立し、現在はソニーミュージックが運営する男性向けメディア「d365」のディレクター、オウンドメディアの編集ディレクター、企業のPR戦略アドバイザーなど、編集スキルを軸に活動中。得意ジャンルはモノ系全般とアウトドア。

 取材:フリーナンス編集部