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あえて、好きになってみる。みうらじゅん流「ない仕事」の作り方

みうらじゅん

“マイブーム”という言葉の生みの親であり、“ゆるキャラ”ブームの火付け役である、みうらじゅんさん。1980年に漫画家デビューして以降、時に全国の仏像を巡り、時にピンク映画について語ったりと、あまりにも多岐にわたって活躍する姿に“この人の本業って何?”と疑問に感じたことのある人も多いのではないでしょうか。

数ある著書の中でも「唯一“仕事”という言葉がタイトルに入っている本」と語る名著『「ない仕事」の作り方』を手掛かりに、その謎を深堀りさせていただきました。常に“好きになり甲斐”のあるものを探し、“好きになる努力”を惜しまず、物事の価値観を果敢に裏返さんとする生き方は、言ってみれば“マイブーム”という名の“アンチブーム”!? その多角的なものの見方は、フリーランスに限らず全ての人間が人生を楽しく生きる上での重要な指針となるに違いありません。

profile
みうらじゅん
京都市出身。1980年、武蔵野美術大学在学中に漫画家デビューし、以降“イラストレーターなど”として活躍。1997年には「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。2022年3月6日(日)まで、京都・アサヒビール大山崎山荘美術館にて「みうらじゅん マイ遺品展」開催中。
https://twitter.com/miurajun_net
http://miurajun.net/

「誤解」という魔法にかけられて

みうらじゅん

個人的見解ですが、みうらさんって世の中に新しい喜びやプレジャーを提供してくださる方……というイメージなんですよね。

逆に、それしかやり口がなかったんでしょう。そもそものデビューからして“趣味”だったもので(笑)。1980年に『ガロ』という漫画誌でデビューしたんですが、当時『ガロ』の他誌と違う一番大きな特徴が“原稿料が出ない”っていうことだったんですよね。それを了解のうえで持ち込みしてくださいと誌面にも明記されているところに、わざわざ行ったわけですから。世間的にはお金を貰えないものって“デビュー”または“仕事”って呼ばないでしょ? でも、それをデビューだと思い込んできたわけですからね。

“趣味”というのは核心を突いた言葉かも。いわば紙媒体版のYouTuberみたいなイメージもあって、だから“こういう人になりたい”と憧れられることも多いのでは?

趣味ですごく儲けてると?

正直そうですね。楽しく儲けていると思われている。

儲けたいと思っていては続けられませんよ、趣味は(笑)。それにね、僕の場合、もはやソコに“好き嫌い”とか介入してなくて、努力しなくても“好き”がアッチから飛び込んできた感覚があったのは、高校生までですから。やっぱりコッチから飛び込んで好きになることを好きになるしかないんで、趣味と言ってもかなり不純な趣味ですよね。それを“マイブーム”と呼んで、どれだけ好きになれるか実験してるみたいなもんです。最終的にやっぱ好きになれなくてやめちゃってるものもたくさん過去にはありましたしね。きっと、みなさんが知っているものって“ゆるキャラ”くらいじゃないでしょうか?

あとは仏像とか。

仏像は小学4年生からの本気の趣味でしたけどね。僕は好きになろうとする段階で必ず、それにまつわるグッズが必要なんです。だから、そういったもののために倉庫まで借りてる始末で(笑)。ま、ワイン工場のように寝かしてると言ってるんですが。そもそもブームっていうのはたくさんの人の間で話題にならなきゃ起こらないものでしょ? だからマイブームは本来おかしい言葉なんですよね。

言われてみれば、確かにそうですね。

そのおかしさもあって作ったわけで、“それないでしょ!”ってツッコミも含めてね。だから何も、他人に“推し”ているわけじゃないんです。でも、ゆるキャラみたいに誤解できるのりしろがあるものだけが、たぶん流行っていったんじゃないでしょうか?

みうらじゅん

なるほど。では、ゆるキャラの誤解って何でしょう?

“ゆる”を“可愛いもの”と誤解できたところでしょう。

確かに今のゆるキャラって完成度が高くて、全くゆるくないものも増えましたからね。

ダサイとカワイイの中間ぐらいにたぶん、“ゆる”は存在してたんだと思いますね。

あの空前の“ゆるキャラブーム”は、みうらさんにとって全くの想定外だったと。

単なるマイブームでしたから初めはね(笑)。でもね、何かそこに誤解が生じたとき、世の常識や価値観って、意外とすぐに裏返るものなんだと気づきました。だけど、マイブーム野郎としては“これは絶対に裏返らないに違いない!”と思うものを見つけたいわけです。それを、あえて好きになってみることが僕の「ない仕事」ですから。そういうもののほうが好きになり甲斐があるというか。

むしろ価値があるとされているものにいつも疑問を持っています。結局それって誰かが決めたものじゃないですか? 良いか悪いかなんて自分で試してみないとわかんないのに……って思いますよ。

私、コロナ禍前はいわゆる着ぐるみキャラの撮影会とかに趣味で行っていたんですが、そういうところに集まっている人って、皆さん異様な熱気があるんですよ。それって、ちゃんと自分で“良い”と判断できたものに熱中できているがゆえの熱気なのかもしれないと、今、お話を聞いていて思い至りました。

きっとそれはね、“魔法”にかかっているんですよ。従来の価値観から外れたものにグッときたときって、たまらなく気持ちいいじゃないですか! きっとそれぞれが“私だけがわかってる”って魔法にかかってるんですよね。

“あるある”ですね(笑)。

だから魔法にかかってない人は、魔法を疑っているとも言えますよね。“夢中になる”っていうんだから、そこは夢の中なわけで、もう自分が介在してない状態ってことだと思うんです。そこまで自分を持って行くのって時間もかかるだろうし、無駄な努力もいるけど、そのぶん魔法にかかってる時間が長いんですよね。そういうものばっかりを、僕も探しているような気がするんですよ。

「ない仕事」のスタート

みうらじゅん

まさに“マイブームの魔法”ですね。その魔法の気持ちよさを知っているから、好きになるのに、より努力のいるものを探してしまう。

僕も64歳の今に至るまで怪獣好きの魔法にかかってますけど、ここが問題でね、当然、小学生のときから怪獣の中に人が入っていることは気づいてたということです。しかし、ゆるキャラも同様、それを“魂”と思い込むっていう魔法が、そこにはあるんですよね。ゆるキャラの連載を始めたとき、地方の自治団体の方に“このキャラは男の子ですか? 女の子ですか?”とか聞くと、“設定はないんで、そちらで作ってください”って言われることがよくあって、だから初期の設定はほぼこちらで作りました。

設定があるほうが、より魔法がかかると思ったからです。単なるモノではなく、そこに魂が入っていると思うと、急に有り難く感じる。日本には魂が宿るっていう考えが昔からありますからね。

なるほど。

だからゴムヘビをやたら集めてたときにもね、実はこのゴムの中にも魂は宿っていて、生き物と考えれば今、絶滅危惧種だから、“俺が保護しなきゃなんない!”っていう気持ちだったんです。別に、すごくゴムへビが好きだったわけでもないけど、それは僕の仕事だと(笑)。で、ゴムヘビハンターとして各地で活動するうちに、途中でいろいろ気づきもあってね、ゴムヘビって昔はお祭りとかの屋台店でよく見かけていたから、やっぱ神社とかお寺系なんですよね。

ヘビは神様の使いでもあり、インドではナーガっていってお釈迦様の修行中にコブラが雨風を防ぐために背後から被さったっていう逸話もある。そうなるとですよ、ゴムヘビと一緒に売られてたゴムワニも何かあるんじゃないのかと調べ出したら、やっぱりね、理由があった。ワニもクンビーラっていうガンジスを守る古代神なわけで、それが後に日本に伝来して金毘羅になったわけです。仏教圏の国の土産物屋を見てもね、やっぱりゴムヘビとゴムワニもいるわけです。

面白い!

こうしてね、どんなものにもちゃんとアイデンティティがある。そう思うとね、ますます好きになっていけるんで、そういった意味では研究も好きになる要素です。

扱ってるものがチープだから今は気がつかれてないだけで、きっと百年後は民藝と呼ばれていると思いますよ。じゃあ、なんでそんなものを買ったり、集めたり、書いたりしてるのか?って聞かれると、結局はソレしかやることがなかったからなんだけど(笑)。

『「ない仕事」の作り方』書影
「ない仕事」の作り方

というと?

それはね、『「ない仕事」の作り方』の文庫の対談でも語っていると思うんですが、僕、ちゃんと原稿料を貰ったという意味でのデビューは『ヤングマガジン』という漫画誌だったんですが、連載を始めるに当たり、糸井重里さんに相談したんです。すると糸井さんは原作者ではなく相談者という「ない仕事」で携わってあげるとおっしゃった。それで、どんなテーマの漫画がいいですかね?と聞くと、“お前が最近よく言ってる「水原弘の看板」で描くべきだ”って言ったんです。

殺虫剤とかボンカレーとかのホーロー引きの看板、70年代までは街によくありましたからね。

そうです。由美かおるさんのやつとかね。当時は既に絶滅危惧種になってたんで、気になって文章のほうではよく書いてたんですけどね。でも、何ページもある漫画が単に“あの看板おかしいよね”っていうだけではもちませんから、いろいろホーロー看板を調べたり、水原弘さんについてとかね。それがたぶん、「ない漫画」を描いた一番初めだったんじゃないかな。そこから、いろんなことと結びついていったんですよ。

つまり、今のスタイルの原点は糸井重里さんにあると。

ですね。“お前にはコレしかないでしょ”って、ハッキリ言ってくださったのは糸井さんですから。当時はまだ“漫画家として漫画らしいものを描きたい”とかって思ってたけれど、糸井さんに“お前にはコレしかない”って言われたら、きっとそうなんだろうなと(笑)。

実際、就職活動にも失敗していたし、自分の居場所を見つけようといろいろ画策もしてたんだけど、居場所は自分で作るしかないんだと教えていただいたんですね。それから“欲しい”とも言われてないのに、発信だけはマメにしてきましたよ。

自分で居場所を作っているみうらさんだから、『「ない仕事」の作り方』なんていう、パッと見“自分の手の内を明かしてしまっていいんだろうか?”と驚くような本が出せるんですよね。あくまでも“みうらさんの居場所”だから、読んだところで真似なんて誰にもできない。

読んでいただき、みなさんも自分の居場所を作ってもらえればいいかなと思ってますよ。

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