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モットーは「許す、忘れる、求めない」実演販売士レジェンド松下インタビュー

モットーは「許す、忘れる、求めない」実演販売士レジェンド松下インタビュー

いかにマインドをフラットに保つか

実演販売士レジェンド松下

では、売り続けるために一番必要なものだったり、松下さんが重きを置いているのって、どんなことでしょう?

例えば水を扱うとなったら、僕は水の種類を全部調べて、 自分の売る水が他の水と何が違うのか?ということを明確にします。それがあって初めて「この水のココが良い」と言えるはずじゃないですか。お仕着せの台詞を話すならタレントさんのほうがいいわけで、じゃあ、なんでタレントさんじゃなく僕らを使ってもらえるのか?といったら、商品のバックグラウンドを知っているからなんですよね。だから新しく扱うジャンルの商品があれば、他の商品を自分でも買って、使って、研究します。

ただ、そういった研究って終わりがないですよね。商品は無数にあるし、同じ商品でもどんどん進化していきますし。

むしろ、そこにチャンスがあるんですよ。世の中にないものを作って売るとなったら確かに大変ですし、それこそ音楽を作る人みたいに0から1を生むことを、ずっとやっていかなきゃいけないですよね。でも、僕らの場合はまったく新しいものではなく、むしろ、世の中に元からあるものを少しアレンジした商品のほうが売れるので、そういう意味ではやりやすいんです。

なるほど。それまでに積み上げてきた知識が100%役に立つということですね。

そうなんです。どんどん蓄積できるんで、0から始めなくていいんですよ。どんなにヒットした商品でも、100パーセント満足のいく商品って絶対にないから、どんどん新たなバージョンを作っていけばいい。

裏を返すと、全員に買わせる必要はないんです。買う人がいれば買わない人がいるのは当たり前で、そんな商品は必要ないと言う人も絶対にいるので。その代わり「こんな悩みに困ってる人は絶対に買ったほうがいいですよ」というポイントは最初から決めておきます。そういった諦めというか、線引きが重要なんですよね。

となると、やっぱりメンタル強くないとやれない仕事のように感じます。売れない=否定されることも受け入れないといけないわけですから。

確かに売れないと落ち込みますし、すぐに結果が出る仕事ですからね。売れるか売れないかがすべてなんで、良い商品だったけど売れなかったな、じゃダメなんですよ。売れなかったときはスパッとあきらめ、その結果を次に活かしてプラスに変えていかなければいけない……という意味ではメンタルが強いのかな。気にしすぎるとメンタル病んでしまうし、実際“売らなきゃいけない”というプレッシャーで病む人も多いですよ。だから、後輩にも「気にしすぎるなよ」とは言いますし、もちろん売れたからといって自信過剰になったらダメだし。いかにマインドをフラットに保つかが、すごく大事なんですよね。反省はしても、いつまでもクヨクヨして次に引きずったら絶対にダメだから。

実演販売士レジェンド松下

そういった心構えは、1回1回の案件が勝負になりがちなフリーランスも持つべきものですよね。ちなみに、松下さんご自身の今までで最大の失敗って何でした?

初めて地上波のテレビショッピングに出たときに、店頭で実演していたやり方を、そのまま持ってきたんですね。それでガンガン売っていたんで、“どうだ、すごいだろう!”って自信満々でやったんですけど、テレビだと全景が見えるわけじゃなくカメラが映すんで、放送では全部カット。もう絶望して、そこから、じゃあ、どうやればいいんだろう?って研究して巻き返していったんです。その失敗が僕の中で一番活きてますね。

今、オフィシャルYouTubeの実演動画で、素晴らしいカメラワークを披露しているのも、その絶望の賜物ですね。仕事において心がけていらっしゃることの一つひとつが、とても参考になります。

あとは、とにかくお客さんやクライアントが何を求めていて、どうしたら幸せになるのか?というところは、とにかく意識してます。まさに今、このインタビューをしていても、常に“どんな答えが欲しいんだろう?”って考えてますよ(笑)。ただ、それはクライアントの犬になるということではなく、クライアントの売り上げを上げるためには何をすべきか?ということであって、それが僕のできることと合致すればいい。だから、自分がどこまでやれてどこからはやれないかという基準は、常に持っておくべきだと思います。やれる範囲を超えているオファーに対して「これはできません」ってちゃんと言えるようにしておかないと、結局クライアントさんに迷惑かけることになってしまいますから。

つまり、クライアントを幸せにできても、自分が不幸になってしまうような案件は断るべきで、その線引きはキチンと見極めておくべきだと。

絶対そうですね。しっかり自分がやれる範囲を決めて、その中で全力を尽くす。例えば僕の場合、講演会とかセミナー系はほとんど断ってます。みなさん「こうすれば売れます!」という正解を聞きたがるんですけど、それって人それぞれで変わってくるんですよね。店頭だとか展示会で実演販売してほしいというオファーも多いですけど、やっぱり1人で動いているので、ギャランティの多寡にかかわらず、自分自身が稼働しなくても動いていく、広がっていく案件を優先してはいます。

あと「これだけ払うからお願いします」と言われても、その金額に見合うだけの売り上げを出せないと判断した場合は、クライアントさんの不利益になるのでお断りします。「魔法のように何でも売る」みたいに言われることもありますけど、そんなわけないですからね。その商品本来の売る力を、ほんの数パーセントだか10パーセントだかを上乗せできるだけですから、そのへんはシビアに見てますよ。

ただ、売れないという判断をしたからといって、悪い商品だとは限らない。例えば、お風呂場の鏡の水垢を落としたい人って何十万、何百万、何千万という単位でいますから、そういうパイの大きいところにリーチできる商品は絶対的に売れるんですよ。逆に、日本で5人とか10人ぐらいしか悩んでいないことだと、いくら良い商品でも難しいですよね。ただ、そこにまったく踏み込んでいかないと、それこそ幅が広がっていかずに亀のように縮こまってるだけになっちゃうので、いろんな商品に挑戦していくということは意識しています。

クライアントにとって“使いやすい”存在であること

実演販売士レジェンド松下

需要は少なくても、それこそ『直記ペン』みたいに「この面白さはさすがレジェンド松下!」と言わせられたら成功なわけですし。

結局ソコなんですよね。まず、自分が売ろうとする商品のコンセプトは何なのか? それを自分が研究して理解した上で話せば、ちゃんと買い手に伝えられるし、実際に買ったあとの満足度も上がって、商品レビューも4と5ばかりのF型になるんです。だから「この商品は、こういうお困り事を持っている人には絶対に有用です」という、その商品固有の“強み”を打ち出すことが大事で、逆に「万能です! 汚れは何でも落ちます!」みたいに曖昧なことを言ってはダメ。そうすると、どうしても期待通りにならなくて不満を持つ買い手が出てきて、レビューの採点もばらけてしまうんです。

やはりコンセプトを明確にするのは重要ですよね。では“実演販売士・レジェンド松下”の他にはないコンセプトって何でしょう?

まず、意識しているのが、クライアントにとって“使いやすい”という部分ですね。なので、テレビ出演に関してはギャラを取ってません。テレビ局だって出演者は安く使いたいし、僕にとっても自分自身と商品の両方を宣伝できるというメリットが十分にあるので、じゃあ、安くていいですよと。商品の売り上げが上がれば、メーカーさんとロイヤリティ契約している僕の利益にもなりますし、この前なんて番組で舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のプレゼンまでしましたからね(笑)。もちろん自分の仕事には何の関係もないけれど、それを見て「じゃあ、ウチの商品もプレゼンしてもらおうか」と別の仕事が舞い込む可能性もあるから、そこは割り切って0円でいいですよと。おかげで起業して2年、めちゃくちゃ順調にやらせてもらってます。クライアントもどんどん増えてますね。

会社は今、どのくらいの社員数がいらっしゃるんですか? 他に実演士の方はいないとしても、例えば事務担当者とか。

……もいなくて。数字が苦手だから、経理をやってくれる方を外注でお願いしているくらいですね。社員は完全に僕1人で、マネジメントもスケジュール管理も自分でやってます。だから仕事相手へのメール返信とか、異常に早いですよ。自分1人なんで決断もすぐできますし、できないことでも「確認します」という返信はすぐします。台本や構成を作るのもチェックするのも全部スマホでやってるんで、飲んでようが何してようが即返信。それこそクライアントさんが欲しいのは、素早い返事ですからね。それができる人に仕事が集まるんです。

おっしゃる通りですね。返信の早さも“使いやすさ”の1つなので。

性格なのか、ボールは早く投げてしまいたいんですよ。自分が持っていたくないので、来たメールはその瞬間に返してます。それこそLINEでやり取りしてることも多いですし、後輩にも言うんですよ。「余計な文面を入れるな」って。スタンプで済むんだったらスタンプでいいし、それを失礼だと言うような相手とは仕事をしなくていい。多少嫌われてもいいから、効率を取るというスタンスでやってますね。だから、メールであっても、基本的には「了解しました!」で終わりです。後輩とかにも「めんどくさかったらビックリマーク50個打っとけ! それで伝わるから」って言ってますから(笑)。

実演販売士レジェンド松下

確かに「いつも大変お世話になっております」から始めて、きちんと返事しなければいけないと思いがちですけど、それで返信が遅れるなら本末転倒ですもんね。ちなみに、松下さんのモットーは“許す、忘れる、求めない”だと小耳に挟みまして、まるで夫婦円満の秘訣のようだなと思ったんですが、どういった経緯で生まれたモットーなんでしょう?

それこそ最初は妻から言われたんですよ。「許す、忘れる、求めない」って。確かに、こういう気持ちでやっていると、どの人間関係においても揉めることがないんですよね。取引先に自分の商品を真似されたときも、許してあげると次の仕事が来たりする。逆に対立すると、もう、関係が終わっちゃうんですよ。でも、この仕事っていかにいろんな情報や物を自分のところに集めるか?が大事なんで、相手がやってしまった悪事や失敗を許してあげることが自分にとってメリットになるんですね。

許すことで、自分が負けたり、損をしてしまうような気持ちにはならないんですか?

そこは、もう長い目で見るしかないですよ。許した結果、その取引先から今も仕事をもらえてますし、ちょっとしたことで揉めても何の得にもならないんで。逆に、こっちが相手に100パーセントを求めてしまうと、一緒に仕事していてもイライラしちゃうんで、とにかく求めないようにする。この程度はやってくれるだろうと予測は低く見積もっておいて、多少の失敗なんかは気にしない。その感覚を持てるようになれば仕事は上手くいきますよ、特にフリーランスの人は。

確かに。期待して求めるから、揉めるわけですもんね。

もちろん最初からその境地には行けないですし、僕もいまだに夫婦喧嘩はしますよ。でも、失敗を繰り返して成長していけるものだから、失敗の積み重ねは全部が財産になるんです。

だからフリーランスとか起業とか、みんな一回はやったほうがいいなって、自分が独立してみて実感しましたね。上手くいかないこともあるだろうけど、その経験はその後の仕事に活きるし、ダメだったらまた会社に入ればいいんだから、少しでもやりたい気持ちがあるなら絶対にやったほうがいい。1人で戦うことで、会社が利益を得る仕組みも学べるし、クライアントが求めていることも、よりわかるようになりますからね。これからは営業職とかでも、いろんな会社を跨いでフリーランスでやっていく時代になると思うので、フレキシブルに動けることは重要ですよ。

実演販売士レジェンド松下

撮影/中野賢太@_kentanakano