女子高生・三好藍美(みよしあいみ)と染谷波(そめたになみ)。二人の間で話題にのぼるのは、いつだって同じクラスの「霧尾(きりお)くん」のこと。
『霧尾ファンクラブ』あらすじ
友人でありライバルでもある二人の日常を描く、ラブまではまだたどり着けそうにない一方通行ラブコメディー。
クラスメイトの“霧尾くん”に対する2人の女子高生・藍美と波のブッ飛びすぎな偏愛が話題沸騰のマンガ『霧尾ファンクラブ』。その作者インタビューに現れたのは、エキセントリックな登場人物からは想像もつかないほど礼儀正しく、社会人としての隙のない方でした。
実は現在も会社員として働きながら、マンガ家として活動されている“地球のお魚ぽんちゃん”先生に、『霧尾ファンクラブ』の制作秘話と作品に秘められたテーマ、そして、人が“推し”に向ける想いに対する見解と、ダブルワークを続ける理由について、深掘りしてうかがいました。
ギャグマンガ家。著作に『男子高校生とふれあう方法』『猥談バーで逢いましょう(原案・佐伯ポインティ)』『一線こせないカテキョと生徒』など。オモコロにて『サボり先輩』連載中。
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『GOLDEN LUCKY』を読んでマンガ家業へ
作品のイメージとは正反対な印象な方がいらして驚いたのですが、学校を卒業してから今に至るまで、ずっと会社員としても働いていらっしゃるとか。
はい。新卒で入った会社で働きながら漫画を描き始めて、ツイッターに漫画を上げていたら声がかかってデビューしたという流れなんですが、当時の会社は副業禁止だったんですよ。しばらくは黙ってやっていたんですけど、さすがにちょっとマズいなということで、いくつか転々としながら副業できる会社に就職して今に至る……という感じです。
副業NGと言われて会社を辞めて、じゃあ、これからはマンガ一本で食べていこう!とはならなかったんですね。
その段階では、マンガでは食っていけないだろうと思っていたんです。マンガを描き始めたのも、あくまでも“趣味”でしたし、ちょうどSNSにマンガを上げるのが流行り始めた時期だったので、良い意味でライトな感じで始めたんですよね。
逆に言えば、それでもマンガを続けたい気持ちがあったから転職したということですよね。ちなみに今の会社の方々は、ぽんちゃんさんの正体をご存知なんでしょうか?
マンガ家業をやっていることは、なんとなく知っていると思うんですけど、何を描いているかは知らないです。昔から顔出しもしてないですし、なので今回もこんな写真ですみません(笑)。
いえいえ(笑)。ちなみに、最初から描かれていたのはギャグマンガでした?
そうです。小学生のころに『浦安鉄筋家族』をクラスメイトの男子に教えてもらってから、ギャグマンガというものにハマって、いろんなギャグマンガを読んでいたんですけど、自分が描きはじめるキッカケになったのは榎本俊二先生ですね。大学生のときに榎本先生の『GOLDEN LUCKY』という4コママンガと出会い、そこから自分でも描き始めるようになったんです。
結果、転職時の予想に反して、マンガで身を立てられるレベルにまで達したということに対しては、今、どんなふうに思ってらっしゃいます?
とてもありがたいことなのですが、描くことが楽しくてずっと続けていただけなので、あまり大きな実感はないです。もちろん大変なこともたくさんあるんですけど、自分の描きたいものをずっと描ける環境にあったというのは、ラッキーだったなぁと感じますね。
それ、最高ですね。つまりは、ご自身の描きたいものと読者のニーズが合っているということで、特に『霧尾ファンクラブ』は“推し活”が注目されている今の時勢に、上手くハマったのかなと。
いえ、それが実は順番が逆で。確かに『霧尾ファンクラブ』は1巻から3巻まで、オビの宣伝文に“推し”と出てきますけど、最初は“推し”という言葉は使いたくなかったんです。もちろん私にも推しはいますし、推し文化というものが今、盛んなのはわかっているんですけど、作中で主人公の2人は実は一度も霧尾くんのことを“推し”って言ってないんですよね。
確かに! 霧尾くんは雑誌やテレビの中の推しではなく、クラスメイトですもんね。親友同士の女子2人が1人の男子を好きになるという外枠だけを見れば、普通の学園ラブコメでしかない。
そうなんです。ただ、好きな人を想っているときのトンチキ行動の面白さを描きたかったので、それって推しを愛でる人たちともニアリーだと思ってて。藍美と波の行動って推しがいる女の子たちが普段しているような、ちょっと行き過ぎた行動に近い部分もある。だったら、本気でクラスメイトに恋してる子たちだけでなく、推し文化の中にいる子たちにも共感してもらえるんじゃないか……ということで、あえて“推し”という言葉を使ったという経緯なんです。
報われなさの愛おしさ、推し活の無責任さ
いや、正解だと思います。いわゆる恋愛マンガに興味ない人でも、たいてい“推し”はいるものですから。
そうですよね(笑)。ただ、私も結構こだわりが強いので、最初は“推し”という言葉を使うことに賛成できなかったんです。別に霧尾くんは主人公たちの推しではないし、もともとラストの展開まで決めてから連載を始めた作品なので、今後、推しという範疇には収まらない感情のデカさが出てくる展開になることもわかっていましたから。だけど、編集さんだったり販売担当の方と話していくうちに、決して読者をだますわけではなく、今、流行っているキャッチーでわかりやすい表現を使うことで、読み手の間口を広げられるんじゃないかということで“推し”という言葉を大々的に使うことになったんです。
そこで編集サイドの提案に添える柔軟性が素晴らしいですね。おっしゃる通り、マンガ家さんってこだわりの強い方が多いから、どう説得されても頑として受け入れないケースも多いのに。
もちろん作品自体にこだわりはあるんですけど、そのこだわりをより良い方向に連れていってくれるという信頼が、今、一緒にやっている編集さんにあるんですよね。だから柔軟になれたんだと思います。例えば1話16ページのネームでも“ここはネタを変えたほうがいい”ではなく“こういう表現にしたら、読者に伝わりやすい”とかって、私のこだわりを否定せずに提案してくれるんですよね。
何より『霧尾ファンクラブ』という作品を立ち上げる段階で、実は1年かけてプロットを詰めたんです。その1年の間に編集さんといろんな話をしたり、キャラクターたちのことを一緒に考えたりする中で“この編集さんと一緒にやったら良い作品が作れるぞ”という確信が持てたんですね。実は作品の核心に触れる部分のアイディアを出してくれたのも編集さんですし、なので本当に絶大な信頼を置いているんです。
ラストの展開まで流れが決まっているから、1話完結型のギャグマンガとしても読める一方、随所に伏線も張られていて、話が進むごとに回収されていくという長編マンガ的な楽しみ方もできる作品になっているんですね。現時点での最新話(29話)でも、想像をひっくり返す事実が明かされて衝撃でした。
ありがとうございます。そこは驚きを与えたかったのもありますし、この作品全体を通して伝えたいことにも関連していて。あとは、「無責任さと自己犠牲」みたいなところも今後テーマになっていくと思います。
“無責任さと自己犠牲”……相反するように思えますが。
いわゆる“推し”というワードって、すごく便利な一方、相手を顧みない無責任さもありますよね。それって危ういなと思うけど、その無責任さを私は嫌いになれなくて。だって、人を好きになるってそんなものじゃないですか。勝手に好きになって、自分のことしか考えてない。だからこそ、そんな“無責任”な状況下なのにわざわざ“自分を犠牲”にする行動をとるって、かなりかわいそうだし美しいって思っちゃうんですよね(笑)。そういうイレギュラーな心情や行動にともなう “報われないことの愛おしさ”を描いていきたくて。
その“無責任さ”というのは、確かに重要なポイントのような気がします。例えば「霧尾くんのおならが爆音だったら嬉しい」とか「おしっこも飲める」という藍美の台詞がありますが、そうやって無責任に全肯定できるのも、相手との距離が遠いからであって、家族になったらそんなこと言ってられない。大好きな彼だから、結婚してもおしっこも飲める!なんて、そんなの対等な人間関係としては絶対に健全ではありませんから。
好きな人に近づいちゃったら“なんか違うな”ってなってもいいし、結婚したらもうおしっこは飲めねーよ!でもいいんですよね。高校時代に大好きだった人の顔なんて、むしろ大人になって思い出せなくても、それはそれでいい。そうやって人間は変わっていくものだからこそ、今こうして藍美と波が先のことなんか考えず、自分を疑わず、本気で好きな人を好きでいることがより愛おしく思えるんです。
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