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活躍するのは、二つの相反する世界を知る人。写真家・事業家、黒田明臣の仕事論

活躍するのは、二つの相反する世界を知る人。写真家・事業家、黒田明臣の仕事論

人に仕事を任せる時は、我慢することも大切

小沢:もともとは自分が引き受けていた制作の仕事を人に任せるのって、なかなか難しいですよね。培ってきたスキルをシェアして制作チームを育てる時に、工夫していることはありますか?

黒田:それは永遠のテーマで、今も模索中なんだけど……我慢することの重要性は学びましたね。

小沢:我慢、というと?

黒田:最初は当然、任せる相手よりも自分のほうがスキルも経験もあるので、自分でやったほうが早くできますよね。自分が巻き取ったら3秒で判断できることでも、数ヶ月かけてでも自分の頭で納得してもらう必要があります。

任せた相手は失敗してしまうかもしれないし、「それなら黒田さんがやったらいいじゃないですか」ぐらい思うかもしれない。小さく転ぶことが大事とよくいうのですが、失敗しながらやらないと成長しないので、失敗を前提で成長してもらうようにしてきました。もちろん失敗といっても成果物としては当然クライアントの期待値を越えなければならないので、現場準備の手前や、アウトプットの手前ではディレクションとして質を落とさないよう相当に細かいレビューをしたり支援したりしながら鍛えるように努力はしてきました。

小沢:忍耐力、大事ですね……。

黒田:アソシエイトディレクターとして「失敗してもいいんだよ」「自分が活躍できる道を探そう」と話しながら、伴走してその人の活躍できる道を探すのを手伝う。親になったような気持ちでやってきましたが、僕にはなかなか我慢も必要なことでした。

小沢:テキストは後から編集して調整できますが、写真は撮影現場で決まる部分も多そうですしね。

黒田:そうなんです。撮影を任せるのが一番難しくて。それもあって、コミュニケーションデザインやプロジェクトマネジメントに特化したディレクションを教育することに力を入れています。

というのも、「もっとこの人に仕事が来ていてもおかしくないのに」と思うような技術のあるフォトグラファーって、既にたくさんいるんですよ。だったら、そんな人たちに活躍の場を作れるディレクターを自分の会社では増やそう。そう考えています。

一つの方法論に固執せず、やるべきポイントを見極める

小沢:今や黒田さんが経営する株式会社ヒーコは、役員含めて社員7名、業務委託で関わる人も250名弱いらっしゃいます。仕事でもたくさんの人と関わってきたかと思いますが、活躍するクリエイターに共通点ってあるんでしょうか?

黒田:ちょうど今、毎月クリエイターさんと対談する仕事があるんです。そこでいろんな人と話していても思うのは、広告業界で成功しているアートディレクターやフォトグラファーは、みんな相反する2つの世界を知っていますね。アートとビジネス、左と右、ロジックとエモーション……。

小沢:最近だと、「越境型」の人材なんて言葉もありますね。

黒田:そうそう。両方を知っているから行き来できるし、どちらかを盲信せずに中間にいることもできる。自分と対岸にいる人たちの行動原理に対して、否定せずに向き合いながら、「この人はこう考えるんだ」「でも、今回はこの考えがいいと思う」と自分の意思を持っている人が、活躍している人には多いんです。そんなバランス感覚は、クリエイターかどうか、フリーランスかどうかにかかわらず強いスキルになると思います。

小沢:そういう人には、仕事もお願いしやすいですよね。細かすぎるディレクションをしなくても、うまく調整してアウトプットしてくれる「よしなに力(りょく)」もあったりして。案件や関わる人によって、どれぐらいディレクションするかって変わってきませんか?

黒田:変わりますし、使い分けますね。やりとりする中で大丈夫そうだと思ったら完全にお任せすることもあるし、初めて仕事をする人なら細かく伝えますし。ケースバイケースでやるのが大事ですよね。

小沢:逆の立場で、黒田さんが仕事をざっくり任せられた場合に気をつけるポイントはありますか?

黒田:僕が初めて広告の仕事をしたときは、プロのフォトグラファーとして絶対に失敗できないのがわかっていたので、撮影前に僕の経験値を含めたリスクを説明したり、撮影の準備のためにしつこく質問をしたりしました。ソフトウェアエンジニアとして、設計という作業に向き合ってきたことが役に立ったところでもあります。そうすると、当時は不思議でしたがすごく信頼してもらえたんですよ。

小沢:依頼者からすると「いい写真が撮れるようにきちんと準備してくれているな」と思いますもんね。

黒田:そうやって信頼関係ができてくると、「全く違う仕事でも、しっかりやってもらえそうだな」と、他の仕事も頼んでもらいやすくなるところもあります。1つの方法論に固執せず、自分がしっかりやるべきポイントを見極める力は、依頼する側・受ける側のどちらにとっても大切だと思います。

写真を仕事にした後悔はない

小沢:わたしは未だに「会社員としてのキャリアを捨てていいのかな」と悩んだりするんですが、黒田さんは「エンジニアメインでやっておけばよかったー!」と思うことはないですか?エンジニアは今も売り手市場ですよね。

黒田:結論としては、後悔がない状態になったのでよかったなと思ってます(笑)。今も一応エンジニアリングに近いことはやっているし。そこは結構、リスクを分散しながら、自分の市場価値を上げることを考えてキャリアをコントロールしました。

それに、自分が撮影するのではなくディレクションを仕事にしたことで、技術があるフォトグラファーのための場をより多く作れるようになりました。それは、業界において価値のあることだと思っています。自分が満足できる収入のレベルもわかった今は、「この業界で働く」というゲームの中で、走っているような感覚です。

構成・佐々木優樹 撮影・高浦宏幸

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